甲斐バンド
甲斐バンドは「バス通り」でデビューし、2枚目のシングル「裏切りの街角」がヒットした後、11枚目のシングル「HERO(ヒーローになる時、それは今)」でブレイクするまで3年ほどセールス的に低迷していました。
ヒット曲に恵まれなかったわけですが、その間のシングルは結構地味でもあるんですよね。
が、悪い曲ではない!ただ地味だし暗い。そして重い。いや、重苦しい。詩だけ見ると最悪の人生を謳ってるものばかり。が、悪い曲ではない!
なにゆえ甲斐バンドの曲は暗く重いのかというと、基本失恋ソングだからですね。しかも、ただの失恋ではなくって、もう絶望って感じ。人生から見捨てられた男の詩。立ち直れる予感のかけらもないです。
が、そこんところが素晴らしく、ハマってしまうとたまらんわけで、後年多くのファンを獲得したのですよ。
そんな甲斐バンドの低迷期のシングルを聴きなおしてみましょう。
ダニーボーイに耳をふさいで
1975年6月にリリースされた2ndシングル「裏切りの街角」は売上枚数75万枚、オリコン最高7位と大ヒットしました。この路線で突っ走ればヒット曲を連発出来たのかもしれないです。
が、続く3rdシングル「かりそめのスウィング」、4thシングル「ダニーボーイに耳をふさいで」と立て続けにリリースしたものの2匹目のドジョウは狙わないということで、かなり印象の異なる楽曲を敢えて続けたことで売り上げは低迷することに…
しかしですよ、これがなんともイイ曲なんですよねぇ。

ダニーボーイに耳をふさいで
「かりそめのスウィング」にしろ「ダニーボーイに耳をふさいで」にしろダークというかウェットというか、いっそ陰湿といってもいいかもしれん歌詞になっています。モチロンそこがイイわけで私も大好きです。
が、当時これはキツかった。もっとパァーとした曲であれば波に乗れたのではないかという気がします。
「かりそめのスウィング」はオリコン最高44位、「ダニーボーイに耳をふさいで」は同85位です。共にメロディはキャッチーですし、いい曲なんですよねぇ。甲斐バンドはきっと「なんでこの曲が売れないんだ?!」と思ったことでしょう。
男と女のいる舗道
甲斐バンド3作目のオリジナル・アルバム「ガラスの動物園」からの先行シングル「男と女のいる舗道」を1976年8月にリリース。「ダニーボーイに耳をふさいで」に次ぐ5thシングルですね。
歌詞としては相変わらず暗いというか、単なる失恋ソングではなく、なんというか、もっと厳しい現実を描いています。それが甲斐バンドの美意識なのでしょうが、重苦しいと感じる要因でもありますね。
但し、この「男と女のいる舗道」は曲調が明るい!爽やかといってもいいほどです。

男と女のいる舗道
アルバムタイトルの「ガラスの動物園」とは、おそらくテネシー・ウィリアムズによる同盟の戯曲からとられたのでしょう。そして「男と女のいる舗道」は、ゴダールの映画「女と男のいる舗道」から拝借されたものと思われます。
その「男と女のいる舗道」はオリコン最高76位。カップリングの「東京の一夜」も両A面扱いだけあって実にイイ曲なんですけどね。
それにしても甲斐バンドはタイトルを付けるのが上手いですよねぇ。どれもシャレてます。
2ndアルバム「英雄と悪漢」に収録されている「ポップコーンをほおばって」(これもシャレてる!)という曲の中に「映画を観るならフランス映画さ」という歌詞がでてくるのですが、「男と女のいる舗道」はまさしくって感じで、当時どのようなフランス映画を甲斐よしひろが観ていたのかが伺い知れますね。
テレフォン・ノイローゼ
当時の地方の若者にはフランス映画を観る機会などほとんどなかった。「タワーリングインフェルノ」や「大地震」といったアメリカ映画しか見ていない者には「ポップコーンをほおばって」だの「男と女のいる舗道」といったタイトルは思いつかないし、そんなセンスは到底ない!
1976年12月にリリースされた6thシングル「テレフォン・ノイローゼ」も同様だ。なんてシャレたタイトルなんでしょう。

テレフォン・ノイローゼ
3rdアルバム「ガラスの動物園」からシングルカットされた「テレフォン・ノイローゼ」は間違いなく名曲だと思うのですが、この曲もまた陰りがある。そのためなのか何なのか、オリコン115位ですわぁ。。。名曲なのにねぇ。
「テレフォン・ノイローゼ」は失恋ソングではないです。男は女の事が大好きで、片想いってわけではない。2人は付き合ってる。なのにこの陰り具合はなんだ!?
しかし、そう、そこがイイ。これぞ甲斐バンド、これでこそのロック!
ところで、一般的な評価が低いように思える「男と女のいる舗道」「テレフォン・ノイローゼ」を収録した3rdアルバム「ガラスの動物園」は名盤だと思うのですがねぇ。
そばかすの天使
1977年5月にオリコンチャート最高69位ながらライブの定番曲となる「氷のくちびる」をリリースした後、8thシングルとなる「そばかすの天使」が1977年9月に出ました。
「そばかすの天使」、これもまぁ、なんというか地味です。オリコンで61位。まぁ、妥当なところでしょう。
しかし、ここで注目すべきはB面の方。これまたライブのオープニング曲として定番となる「きんぽうげ」がカップリングされているんです。
ところで「きんぽうげ」と言われても何のことやらピンときませんが、馬の足形(うまのあしがた)という別名をもつ野草のことです。と言われてもピンとこないですよね。

そばかすの天使
なにゆえこのタイトルが付いたのか分かりませんが、ザ・ローリングストーンズの「Honky Tonk Women」を思わせるイントロがカッコいい「きんぽうげ」。まさしく何かが始まるという雰囲気でライブのオープニングにピッタリです!
「そばかすの天使」も「きんぽうげ」も、更には「氷のくちびる」までもが、4thアルバム「この夜にさよなら」に収録されています。このアルバム、ファンに人気が高いのも頷けます。
LADY
「手の中にあふれそうな愛を突然手に入れた時、僕はただ悲しみにくれる」という「なんで?」と思わずにいられない歌詞から始まるた甲斐バンドの記念すべき10枚目のシングル「LADY」。
何となくアメリカのバンド、カーズの「シェイク・イット・アップ」を連想させるジャケットで登場です。
「長い雨もすさぶ風も外は続きそう。だけど心の中のアンブレラもうたたんでいいんだろう」という分かるような分からない、やっぱり「なんで?」と思わずにいられない煮え切らない問題作「LADY」。オリコン94位も納得といえます。

LADY
難解な歌です。歌詞を読み返すと失恋ソングってわけでもなさそうなんですよね。いったいここに出てくる男とレディはどうなってるんだ?と気になってしょうがなくなる曲ではあります。
「LADY」は甲斐バンドの5作目のオリジナル・アルバム「誘惑」の先行シングルとしてリリースされました。このアルバム、「LADY」の他に名曲「翼あるもの」が収録されていることもあってか、甲斐バンドの最高傑作に挙げる方が多いアルバムだそうです。
ほんとに?そうなの?「LADY」の印象が強すぎるのかアルバム全体が地味というか、なんとなく煮え切らない、もしくは煮え過ぎた感じのアルバムだなぁと感じてしまうんですけどねぇ。
当時の甲斐よしひろ は相当悩んでいたのではないか?いつになく重い歌詞が並んだ「誘惑」。…ホント重いなぁ。アルバムの最後を飾るのが「LADY」というのも、なんとも重い。聴き終わって爽快感が微塵もない。そんなアルバム、そんなシングル「LADY」。
そしてこの後、陰鬱なムードを全て吹き飛ばすように1978年12月20日にリリースされるのが11枚目のシングル「HERO(ヒーローになる時、それは今)」です。甲斐バンドの夜明けはちかい!