猿岩石 決して白い雲のように生きていなかった有吉弘行 &フラッとついていった森脇和成

猿岩石 決して白い雲のように生きていなかった有吉弘行 &フラッとついていった森脇和成

広島で生まれた有吉弘行は、高校卒業直前にテレビの規格に応募し、オール巨人の弟子になった。数ヵ月間、数々の失敗を繰り返した上、兄弟子を殴って謹慎処分に。処分中、無断で広島に帰り、同級生の森脇和成を誘って上京し、太田プロ入り。あるときはヒマラマ山脈を登り、あるときはガンジス川を渡り、あるときはゴビ砂漠を超える旅に出るのであった。


自称、
「太田プロの真珠」
「広島が生んだ快男児」
の有吉弘行は、1974年5月31日、広島県安芸郡熊野町出身。
熊野町は、広島市から東南へ12km、広島県西部に位置し、江戸時代から「筆の都」として栄え、「熊野筆」は、メイクブラシなどにもアレンジされて世界から認められるジャパンブランド。
家族は、父、母、4歳年下の弟の4人で、小学生の頃からお笑好きだった有吉は、足の裏をくすぐられるのも好きで弟にくすぐらせていた。
「ドリフターズもみてたし、THE MANZAIとかも観てた。
本当に漫才師になりたくて・・・
それしか頭になかったんだよね」
(有吉)

相方、森脇和成との出会いは小1。
転校生で友達がいなかった森脇が、休憩時間、図工の時間でもないのに紙粘土で像を作成する有吉に遭遇。
「その作品をみまして、ホレてしまったんですね、僕は」
(森脇)
その作品とは、当時流行っていたアニメ「ガンダム」の体にリアルな豚の顔をつけたもの。
森脇は
「伝授してくれっ」
てことでいい寄り、それからずっと一緒にいるようになった。

有吉は
「俺は小学校5年から女を切らしてない」
と豪語し、森脇は
「僕が狙った女の子は、常にこいつのことが好きだったんですよ」
という。
中学生になると一緒に野球部に入ったが、2人とも、とにかく女の子からモテたかったという。
有吉は
「1人で出来るし、手っ取り早く落語家になっちゃえ」
と思い、親に
「落語家になりたい」
と打ち明けたが
「高校だけいって」
と逆に頼まれ、進学。
高校ではプロレスが好きだったので柔道部に入り、クラスで漫談をやったりして笑わせていた。
原付バイクを新車で買って、本屋の前停めていて盗まれたことがあった。
後日、森脇の家にいくと自分のバイクがあって、しかも黒からピンク色になっていて
「知らなかった、間違えた」
という森脇と初めてケンカした。

有吉は、高校3年生になると吉本興業の経営する専門学校、「吉本総合芸能学院」の入学手続きをして面接も受けた。
通称「NSC」は、New Star Creation(ニュー・スター・クリエーション)の略で、直訳すれば「新しいスターの創造」
広島の田舎でそんな大それたことを考えていた有吉は、卒業を目前に控えた1992年12月、深夜番組「EXテレビ」内の企画「公開弟子審査会」に応募。
テレビカメラに映されながらの公開面接では、上岡龍太郎、西川のりお、島田紳助、オール巨人を目の前にした、まだ18歳の怖いもの知らずでふてぶてしい態度で取り続け、合格。
大阪の高校生 (同級生)、堀之内裕史と共に、43歳のオール巨人に弟子になることが決まった。
1993年春、大阪に住んでいた堀之内はすぐにオール巨人の家に通う「通い弟子」生活を始められたが、広島にいた有吉は、数週間遅れたため、弟弟子となった。

オール巨人は、かつて師匠の岡八郎に「完璧な弟子」といわれた。
まず弟子の仕事に専念するためにアルバイトをしないでいいよう、貯金をしてから弟子入り。
「滋賀県で営業がある」
と聞けば、原付バイクにまたがり、滋賀県まで走って道や会場を下見。
そんなオール巨人が、
「弟子は人から預かるものだから自分の子供だと思っている」
といって愛を持って、かつ厳しく接っしてくるのでたまらない。
気が利いてほとんどヘマをしない堀之内に比べ、有吉は怒られてばかりだった。
最初に厳しく指導されたのが広島弁。
広島しゃべりが出る度、オール巨人に
「アカン」
といわれた。
ナマると怒られ、黙っていても怒られるという状況に
「えっ・・」
「・・・・えっ・・・」
と緊張して話せなくなることもしばしばだった。
「もう委縮しちゃって何もいえないし、ただただ緊張してる。
なんでコイツ怖がってんだよって思ってらっしゃただろうし」
(有吉弘行)

師匠の舞台衣装を車のトランクに積むとき、急いでいて投げてしまったとき、オール巨人は、バックミラー越しでその瞬間を見逃さず
「投げるな」
すさまじいプレッシャーを感じ続ける有吉は、楽屋で師匠のスーツをハンガーにかけるとき、前後を間違えてしまう。
ハンガーの湾曲した部分が前にきて、胸が張り出す形になり、再び怒られてしまった。
するといつも漫才で、肩を触られると
「でい!! (怒り肩)」
胸を触られると
「ポロッポー!! (鳩胸)」
背中を触られたら
「ニャーォ!! (猫背)」
とやっているオール阪神は
「いつも俺がネタするから、相方にも鳩胸させたかったんやろな」
とフォローしてくれた。

別の日、有吉は、オール巨人のスーツを丸めてゴミを捨てるようにロッカーに入れた。
「俺がロッカーのカギを閉めて、開けるんだから絶対にバレない」
と思っていたが、オール巨人に
「おい、ちょっとロッカーのカギ貸してくれ」
といわれ、撃沈。
「なんやコレ」
と怒られた。
その後も靴を左右逆に置いて
「足、曲がるわ」
靴ベラを、持ち手ではなく頭の方を師匠に向けて差し出して
「お前は靴まで履かてくれるんかい 」
オール巨人が舞台に上がるときと下がるとき、弟子はおしぼりを渡さなくてはならなかったが、有吉はおしぼりを自分の洗濯ものと一緒に洗っていたので
「お前のおしぼりはクサいねん」
エレベーターに先に入って「開」ではなく「閉」を押して、扉でオール巨人を挟んでしまったり、ペーパードライバーなのに
「運転できます」
とウソをついて、オール巨人のBMWの運転席に座り、「R」を「Run」だと思ってアクセルを踏んで豪快にバックしてぶつけてしまったり、車の中でオール巨人に
「クサい」
といわれたのでみてみると靴の裏に犬のフンが
「ベットリついていた」

「本当にダメ。
本当に気が利かないんだよね。
もう1人の弟子は上手にやるんだ。
気が利くんだ。
同じ18歳でも僕は全然、気が利かない。
どうしてこんなに気がきかないかなっていうくらい気が利かない。
人の気持ちがわからない」
有吉が兄弟子にコンプレックスを抱く一方、堀之内裕史は弟弟子に嫉妬していた。
「有吉はコビを売ったり、オベンチャラをいうタイプではない。
それなのに不思議と先輩にも師匠方にもかわいがられる。
だから嫌いでしたね」
次第に貧乏クジを引かされているような気持ちになった堀之内は、有吉とほとんど口をきかなくなった。
そして事件が起きた。
ある日、兄弟弟子は昼食を食べるために「餃子の王将」に入った。
食べ終わった後、レジが混んでいたため、堀之内は有吉に自分の分も一緒に精算しておいてくれと頼んだ。
もちろん後で払うつもりだったが、
「オゴッてくれ」
といわれたと勘違いした有吉は露骨に不服そうな顔をして、レジを済ませた後、
「表に出ろ」
といった。
人気のないところに連れて行かれた堀之内は、いきなり殴られ、歯が1本折れた。
堀之内が
「僕も殴らせろ」
といったためケンカは継続。
これを知ったオール巨人は激怒。
「暴力を振るうような奴はイラン」
といって2人を謹慎処分にした。

堀之内は、1週間ぐらい謝り続け、なんとか許してもらった。
有吉も、頭を丸めて毎日放送まで謝りにいったが
「勝手に坊主にするな、アホ。
ワシがやらせたって思われるやろ」
その後も、仕事場や自宅までオール巨人を追ったが、仕事で失敗した堀之内が
「坊主にしろ」
といわれ頭を丸めたり、バスケ部の練習をサボった巨人の息子が罰として頭を丸めたり、周囲も次々と坊主になっていくのを目撃し
「少年院みたいだな」
と思った。

最終的にオール巨人に
「お前は愛がない。
お前は俺のことを好きやない。
そやろ?」
といわれ、図星すぎて答えられなかった有吉は、謹慎中の身のまま無断で広島に帰ってしまった。
こうして大阪での内弟子生活はは8ヵ月で終わった。
オール巨人からしてみれば、なにもいわずに消えた有吉のことを
「逃げた」
と思っていたが、3年後のある日、テレビで「猿岩石」という名前で外国をヒッチハイクしているのをみてビックリした。
「何の連絡もなかったので驚きました。
帰国後すぐ、有吉くんは僕の楽屋に来て、土下座して謝りました。
なぜかそのとき相方の子(森脇和成)も一緒に謝ってて。
僕は
『これで正式に破門や。
お前もツラかったんやろ』
と声をかけさせてもらいました」

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