「日本のカレーライス」の歴史
インド料理のカレーは、インドを植民地支配していたイギリスに伝わり、明治維新の頃に欧風カレーとして日本に伝えられた。欧風カレーのルーツは、ブリティッシュカレーだったのだ。
インドカレーは多数のスパイスを配合して作られる。イギリスは、このスパイスの調合を省いた混合スパイス「C&Bカレーパウダー」を発売。このカレー粉は日本にも輸出されていた。
日本初の国産カレー粉は、1905年(明治38年) に大和屋(現在のハチ食品より、「蜂カレー」が発売される。大正12年には日賀志屋(現在のエスビー食品)が「カレー粉」を発売。1926年(大正15年)に浦上商店(現在のハウス食品)が缶入り粉末カレー「ホームカレー」を発売。その2年後に紙箱入り「ハウスカレー」を発売した。
※現在、ハチ食品のカレールウやレトルトカレーは、オンラインショップ、各地のスーパー、業務スーパー購入できる。
カレー粉からカレールウへ
それまでのカレーは、カレー粉・小麦粉・油を使って炒めとろみを付けていたが、カレー粉、小麦粉、油脂、スパイスなどを調理した粉末や固形にした「カレールウ」の登場で家庭でも簡単にカレーが作れるようになった。
1945年オリエンタルカレー
1945(昭和20)年11月、愛知県名古屋の会社オリエンタルが、日本初の粉末タイプのカレールウ「即席カレー」(5皿分で35円)の販売を開始。昭和28(1953年)年から昭和45年(1970年)まで後部がステージになる宣伝カー使い全国まわり駅前や団地などで、マジックや腹話術を披露したり、風船を配ったりしてカレーの街頭宣伝をした。
昭和37(1962年)年には、特製マースチャツネを別添した『マースカレー』を発売、超ロングセラーとなり現在も売れ続けている。
■オリエンタルカレーCM「オリエンタル即席カレー」 - YouTube
1950年「キンケイミルクカレー」
1950年(昭和25年)キンケイ(金鶏商会。現在の平和食品工業)から固形のカレールウ「キンケイミルクカレー」発売された。よく売れたことで明治製菓からオファーがあり、同じ商品を『明治ミルクカレー』(1個50円)という名称で販売した。このカレールウは、石鹸に似た形状でだったので、石鹸と間違えて使った人もいたとか。
3年後の昭和28年に明治製菓は、「明治キンケイ」ブランドでカレー事業を開始する。
昭和43年にキンケイ食品の造っていたキンケイブランドのカレーは総てなくなり、明治ブランドに統一された。
1959年「ヱスビーモナカカレー」
1959年(昭和34年) ヱスビーから最中の中に粉末タイプのカレールウを入れた「ヱスビーモナカカレー」発売された(1個5皿分で35円)。とろみを出すために最中の皮にもち米を使ったユニークな「モナカカレー」のテレビCMには若りし頃の立川談志が、S&Bのロゴ入りコック帽をかぶって登場している。
インスタントカレールウ(固形即席カレー)の登場
鍋にそのまま入れれば溶けるプレート状にのインスタントカレールウの登場で、カレーライスは誰でも簡単につくれる家庭料理として普及した。
1960年「ハウス印度カレー」
1960年(昭和35年)「株式会社ハウスカレー浦上商店」から「ハウス食品工業株式会社」に社名変更したハウス食品は、初の固形ルウタイプ商品「印度カレー」を発売。(1箱130g8皿分で50円)インドから直輸入した20種類のスパイスと小麦粉にミルク、チーズ、バターを加えてチョコレート状の即席カレーを作った。また「印度カレー」には、昭和の栄養強化食品として、ビタミンB1・B2が添加してあった。
ハウス食品といえば、家で作るプリンやゼリーの素を販売する会社思っていたが、元々はカレーを作っていたということにびっくりした。
1960年「グリコワンタッチカレー」
1960年(昭和35年)に江崎グリコが「ワンタッチカレー」を発売。子役を起用したテレビCMは、家で食べるカレーを身近なものにした。赤色パッケージは、あまくち。からくちの黄色パッケージは1年遅れて61年に発売。6枚入り(30円)と10枚入り(50円)
「ワンタッチ」のネーミングは、それまでの固形即席カレーは固く包丁などで削りながら調理していたが「ワンタッチカレー」は板チョコのよう形状のプレートで、そのまま鍋に入れても溶けるようにしたという。グリコは「ワンタッチカレー」テレビCMに、松田聖子、榊原郁恵などを起用していたが、1990年(平成2年)で終売した。
グリコ ワンタッチカレー - YouTube
1963年「バーモントカレー」
1963年(昭和38年)ハウス食品から、リンゴとハチミツの甘さで子どもも食べられるカレーといういうコンセプトで「バーモントカレー」(120グラム入り60円)が発売される。マイルドな辛さのカレーは、店頭での試食宣伝活動やテレビCMの効果もあり大ヒットした。なんとその初期のCMには当時17歳の売れっ子歌手いしだあゆみ(1965年 - 1968年)や、ピンキーとキラーズ(1969年 - 1970年)が起用されていたのだ。
「バーモントカレー」のCMを見て、カレーの中にリンゴとハチミツが、そのまま入っていると思った子供は私だけだろうか。
cm 昭和40年 ハウスバーモントカレー - YouTube
1964年「特製ヱスビーカレー」
1964年(昭和39年)エスビー食品が発売した「特製ヱスビーカレー」。キャッチコピー「インド人もびっくり!」というフレーズのテレビCMで注目を浴びた。このCMに登場してびっくりしているインド人は、本当のインド人ではなく、インド人に扮した芦屋雁之助だった。ターバンを巻いているのでシーク教徒の設定なのだろうか。とにかく、「特製ヱスビーカレー」の美味しさは、インド人もびっくりして飛び上がるほどだとアピールした。
SB - YouTube
1966年「ゴールデンカレー」
1966年(昭和41年)エスビー食品は、大人向けの高級カレー「ゴールデン」を投入した。高級感溢れる金色のパッケージの「ゴールデンカレー」は、当時50円(5~6人前)程度が相場のカレールウのなかで、二倍の1箱100円価格だった。特長は、30数種類ものスパイスを調合した、大人向けの豊かな香りと味わい。キャッチコピーは「さらっとしたカレーを召し上がれ」。一流レストランの味が家庭でも作れることをアピールした。テレビCMは、パリで撮影した。女優の佐久間良子が外人さんにカレーを給仕しながら、一緒に食べる映像と「素晴らしい日本のお友達を紹介した気分になりました」という洒落たフレーズが印象的だ。イギリスから伝わり日本で生まれた「ゴールデンカレー」をフランスのパリで紹介するという設定なのか。
1968年「ジャワカレー」
1968年(昭和43年)ハウス食品は、大人向けのカレー「ジャワカレー」(ルウカレー)を発売した。ジャワカレーのジャワはインドネシアのジャワ島からきている。爽快な辛さと刺激のある味わいは青い海と島と太陽を連想させる。キャッチコピーは「南の香り・爽快な刺激、大人のカレー”ジャワ”」ワイルドな印象だ。芸能人夫婦CMでおなじみのジャワカレーCMに初めて出演した夫婦は、伊丹十三と宮本信子。「ハウスジャワカレーを食べる。うまいとほめる。」「お前もこっちで一緒に食べなさいなどと言う。女房よろこぶ」現在では問題になりそうなフレーズだが、昭和の時代をを感じる若かりし頃の伊丹十三と可愛い宮本信子の映像を見るとほのぼのとしてしまう。
ところで、このCM動画の39秒のところに切ったニンニクとピーマンが映り込んでいるが、カレーにピーマンをいれるのだろうか。それとも、まな板の飾り?
伊丹十三&宮本信子 ハウスジャワカレー - YouTube
心に残るカレーのCMと芸能人
カレー業界の御三家とも言える、ハウス食品、エスビー食品、江崎グリコは、カレールウ販売当初から商戦を繰り広げてきた。他社商品との差別化を図るためにテレビCMでカレーブランドのイメージを確立してきた。そのCMの中で特にカレーと深い関係があったのは、西城秀樹と千葉真一、野際陽子ではないだろうか
西城秀樹とハウスバーモントカレー
西城秀樹は、バーモントカレーの爆発的な売上及びカレーライスも普及に一番貢献したタレントだと思う。1973年(昭和48年)から1985年(60年)まで13年にわたり「バーモントカレー」のCMに出演した。歌手デビューした1年後の18歳から31歳までだ。その間に『情熱の嵐』がヒット。『激しい恋』や『傷だらけのローラ』もヒットを飛ばし、西城秀樹もバーモントカレーと同じように歌手として大成功を収めた。
「ヒデキ、感激!」などのキャッチコピーは有名だ。そして「♪ハウスバーモントカレーだよ〜♪」の歌い出しの音色は年とともに円熟していった。
西城秀樹は、2018年5月16日に63歳で亡くなった。ヒデキのバーモントカレーCM全シーリーズの映像を是非見てみたい。
西城秀樹 ハウスバーモントカレー - YouTube
西城以降、ハウスは、少年隊の東山紀之、TOKIOの長瀬智也、KinKi Kidsの堂本光一。堂本剛などのジャニーズの若手タレントや野球のイチロー、サッカーの小野伸二といったアスリートも起用している。
千葉真一・野際陽子
♪ハウスジャワカレー♪のイメージが強い千葉真一・野際陽子は、1976年~1982年までの8年間つづけてCMに出演していた。おしどり夫婦として有名だったが、1993年に熟年離婚。ジャワカレー夫婦の離婚は衝撃的なものだった。昭和のスタイリッシュなカップル野際陽子は、2017年6月13日に81歳で亡くなり、千葉真一もまた、コロナ禍の2021年8月19日に82歳に亡くなった。
野際陽子さんを偲んで - YouTube
そして、ジャワカレーのCM江口洋介・森高千里夫妻、岩城滉一・結城アンナ夫妻などへと引き継がれていった。