「Zアイランド」
宇多丸が数々の映画評論をしているのであれば、きちんと同作も評論対象に入れろと「おい 宇多丸 このハゲ」と冒頭から展開される強烈なDisソングを自身のブログで公開した般若。
それに対して、普段はアンサーソングを返すことの少ない宇多丸も、般若をラッパーとしてリスペクトしていることもあり、番組内でアカペラのフリースタイルラップ(実際には事前に1時間程で書き上げたラップ)を披露しています。そのラップの中で映画のブルーレイが発売されたら購入して評論をすると公約しました。
『その後』
「Zアイランド」のブルーレイの発売後、宇多丸は公約を守りしっかりと評論を行っています。
当時流行していたゾンビものだった同作。ジャンルとして成立していることから定番の型があり、安心して見られる部分があったと述べる一方で、映画監督・品川ヒロシの技量の限界もみえた映画でもあったと辛口で論じています。
脚本の構成が雑であり、序盤の話運びも鈍くさく、ゾンビが現れるシーンに効果的な演出が出来ていなかったなど、辛辣な意見を並べたてる宇多丸。さらに品川の過去作を観た経験から、唯一期待していたアクションや格闘演出にも完全なるダメ出しを行い、終始駄作である点を強調し、評論を終えています。
「RHYMESTER」と「THA BLUE HERB」
2001年に発売されたRHYMESTERのシングル「ウワサの真相 featuring F.O.H」。この中でMummy-Dのリリック「知ったかぶったブスとカスどもが有り難がるミスターアブストラクト」「そしてお前は神になった途端に人気は下火になった」が、THA BLUE HERBを批判しているとされ、THA BLUE HERBのラッパー・BOSS THE MCがアンサーソングを返したことで話題となりました。
「ウワサの真相 featuring F.O.H」
THA BLUE HERBといえば、90年代後半に東京中心であった日本語ラップ業界において、地元の北海道から音と言葉を鳴らし続け、無骨かつ儚いヒップホップを表現していた稀有なグループでした。
東京のラッパーに対抗心を燃やし、それを楽曲やライブでのパフォーマンスに昇華することで、唯一無二の存在として認識されていた彼ら。さらにトラックメイカーのO.N.Oが作り出すトラックは従来のヒップホップとは異なり、様々なジャンルの音楽性を内包したものでした。まさに形容しがたいアブストラクト(抽象的)なグループであり、彼らのファンをして宗教的とすら言われるまでになっていました。
おそらくですが、Mummy-Dはそんな彼らをよくわからない存在、純粋なヒップホップではないと揶揄したのではないでしょうか。
「Sell Our Soul」
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そんな彼らですが、1995年から1998年まで放送されていたYOU THE ROCK★のラジオ番組「HIPHOP NIGHT FLIGHT」の音源投稿コーナーにて思わぬ形で邂逅しています。
YOU THE ROCK★やMummy-Dが一般応募により集められた日本語ラップの音源を紹介し批評していくこのコーナーで、THA BLUE HERBは「悪の華」の音源を送り、見事放送される権利を獲得します。同曲はステレオタイプなギャングスタラップや明るく軽快なラップとは一線を画すとても暗い曲調でしたが、YOU THE ROCK★をはじめスタジオ内は手放しで称賛状態となります。
Mummy-Dによると放送前に自宅へ突然音源が送りつけられたようで、同曲だけでなく他の曲の秀逸さも褒め称え、期待を込めて「マジ北海道のB-BOY、皆にシャウトアウト(ここではエールを送るの意)しとくよ」と発言しています。
こうして高く評価をしていたMummy-Dでしたが、後に前述のようにTHA BLUE HERBに対してDisを仕掛けるに至ります。その理由や意図は今も不明ですが、BOSS THE MCは雑誌のインタビューで、自分達の目指すアートとRHYMESTERやYOU THE ROCK★は違うといったニュアンスの発言をしています。
それを踏まえると「ウワサの真相 featuring F.O.H」内でMummy-Dによるリリック「おまえのゲージュツとやらに幸あれ」もインタビューを意識しての内容に聴こえてしまいます。
一方で、THA BLUE HERB側のアンサーソングとしては、アルバム「SELL OUR SOUL」内の2曲で反応しています。特にアルバム1曲目の「Shine On You Crazy Diamond」では「アブストラクトじゃない HIPHOPだ誰がTOPか それにこだわった勝負だ」「日本語RAPじゃない 日本の北のHIPHOPだ」と、Mummy-Dによる「アブストラクト」というある種のカテゴライズを真っ向から否定しています。
『その後』
「Shine On You Crazy Diamond」以降、楽曲でのビーフはありませんでしたが、2010年2月にRHYMESTERの宇多丸が自身のラジオ番組で「今やバイトしないで食っていけてるラッパーはBOSS THE MCくらいのもんですからね」と発言したことで、BOSS THE MCはTHA BLUE HERBの公式サイトで「褒められてんのか、からかわれてんのか、負け惜しんでんのか、誰を代弁してんのか、俺には分からなかったが、俺にも言い分があった。おいおい、笑えねえ冗談だぜ。簡単に、知った口でこの10数年を言い切ってくれんなよ。何をいまさら。」と宇多丸の発言に対する感想を述べています。
さらに公の場所での発言に波紋が生じることをお互いに理解したうえで、誤解が生まれることも承知しているニュアンスの発言をして一定の理解を示しています。また、「今回の彼等のライムスターの新曲(「ONCE AGAIN」のこと)は熱かった。」ともコメントし、音楽家として評価している旨もコメントしています。
「ONCE AGAIN」
2010年当時、すでにお互いにベテランであった両グループ。このまま”犬猿の仲”という関係性が続くのかと思われた同年6月に事態は一転します。
共に福岡でツアーがあったRHYMESTERとTHA BLUE HERBが、共通のヒップホップ仲間による仲介を得て、宇多丸とDJ JIN、そしてBOSS THE MCによる鼎談が行われ、あっという間にそれまでの誤解が解かれ、和解に至っています。
後日、BOSS THE MCも公式サイトで「いろいろあった。この何年。話そう。で、話して、笑ってさ、最高の時間だったよ。」と感謝を込めて文章を綴っています。
2016年に開催されたSUNSET LIVEで共に出演した両グループ。その際にそれまでほぼ面識の無かったというMummy-DとBOSS THE MCがついに顔を合わせています。
さらに2019年にはTHA BLUE HERBにとって7年ぶりの5枚目のアルバム「THA BLUE HERB」発売日に、BOSS THE MCが宇多丸のラジオ番組に生電話出演をしています。また、同アルバム内の楽曲「TRAINING DAYS」では、RHYMESTERの楽曲の一部がサンプリングされているなど、両者の雪解けを感じるエピソードとなっています。
「THA BLUE HERB」と「TOKONA-X」
2002年に発売されたTHA BLUE HERBのシングル「A SWEET LITTLE DIS」。曲内のリリック「XXX DISとONE LOVEで本音100で堂々と闘うぜ」部分が、名古屋のラッパー・TOKONA-Xの腕に彫られたタトゥーを指しているとされ、TOKONA-XがDisソング「EQUIS.EX.X (feat. TOKONA-X)」が発表される事態となります。
当時接点の少なかった両者にはDisる理由はなく、すぐさまTOKONA-Xの勘違いであることが判明します。偶然勘違いを生んでしまったのですが、THA BLUE HERBからのアンサーソングが無かったこともあり、様々な憶測がファンの間で飛び交うこととなります。
豪快な人柄に加えて、 THUG(サグ、ならず者の意)なラップや風貌で多くのファンを魅了していたTOKONA-X。一方でリリシストでもあるBOSS THE MCは対照的な存在。
そうしたことから、一見ガラの悪く見えるTOKONA-Xに対して、BOSS THE MCが土下座して謝ったといったガセネタが大真面目に受け取られるなど、情報が錯そうします。
しかし、「EQUIS.EX.X (feat. TOKONA-X)」の発売から数か月後、BOSS THE MCはなんとTOKONA-Xと共に「ILLMARIACHI」で活動するDJ刃頭との共作「野良犬」を発表します。
同曲でTOKONA-Xに対してDisではなく「紹介するぜ オレの五分の兄弟分 PEACE TO ILLな街 尾張 MARIACHI」と愛のある回答を行っています。リリックは明らかにDJ刃頭のみならず、TOKONA-Xを意識したものであり、発表のタイミングを鑑みても実に慎重に言葉を選んでいるのが分かります。
お互いに”対東京”の構図を描きながら、自身の地元からそれぞれのスタイルでのし上がっていった両者。本来はリスペクトこそしても、いがみ合う関係では無かったはずで、前述したDEV LARGEの「カモ狩り(COMIN' AT CHA BABY PT.2)」同様にささいな勘違いが大きなすれ違いを生んでしまったようです。
『その後』
2004年にTOKONA-Xが亡くなった後は、BOSS THE MCがライブ中に「TOKONA-X REST IN PEACE」と発するなどしています。
また、2016年にはTOKONA-Xの盟友であったDJ RYOのアルバムに、BOSS THE MCが参加することに。楽曲はなんと生前のTOKONA-Xの声を活かした内容で、タイトルは「TOKONA-X『OUTRO feat. ILL-BOSSTINO』」。
抒情的なメロディに乗せて、BOSS THE MCによる「俺等はDISから始まった」「終わりから始まるってこともある 実はそこからが本番 死後のロマン」「すべてのラッパー お前から学ぶのさ」と終始、故人への敬意を感じるリリックが並び、そこにTOKONA-Xの豪快なラップが融合した尊い一曲に仕上がっています。
また、同年にBOSS THE MCは公式サイトで「このまま墓場まで持っていこうと思っていたが、この機会に憶えている全てを話そう。」として、ビーフ当時の真実を赤裸々に語っています。そこではビーフ後にもお互いのライブへ足を運んでいたことやTOKONA-Xが亡くなった1ヶ月後に線香をあげに行ったことなどが綴られています。
そして、ビーフ当時を振り返り「相変わらず巷では悪意を伴った作り話が騒いでいた。俺は土下座なんかしちゃいない。」とも語っており、BOSS THE MCも深く傷ついていた様子が伝わってくる文章となっています。
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