「kj」と「Zeebra」
まずは一般的にも知名度が高いと思われるDragon Ashのkj(降谷建志)とZeebraのビーフをご紹介!
元々はkjがZeebraをリスペクトしていたことから関係が始まった両者。1999年にはDragon Ashの楽曲「Grateful Days」へZeebraを迎え、あの有名なリリック「俺は東京生まれHIPHOP育ち 悪そうな奴は大体友達」が生まれました。同曲は90万枚のヒットとなり、Dragon Ashにとって最大の売上を記録しています。

シングル「Grateful Days」
楽曲を制作する程に良好な関係であった両者でしたが、次第に関係が悪化していきます。その理由はkjの”Zeebra化”。
kjを中心とするDragon Ash自体がヒップホップにより傾倒していったのもあり、楽曲やステージ上でみせるkjのがなり声やライミングが、Zeebraを意識し過ぎるあまりほぼパクリといった印象を与えてしまったのです。
そして、Zeebraは所属するグループKGDR(キングギドラ)の2002年発売のアルバム「最終兵器」内にて「公開処刑 feat.BOY-KEN」という楽曲を発表します。

アルバム「最終兵器」
この楽曲の中でZeebraは、kjへのDisであることを表明した上で、「おめえのグレートフルデイズも今日まで」「声パクリ そしてフローパクリ ステージでの振る舞いも超パクリ」と強烈に批判し罵っています。
『その後』
その後、kjからはヒップホップの流儀であるアンサーソングによる回答はなく、沈黙を保つ姿勢をみせることでこれ以上の騒動へと発展することはありませんでした。
しかし、2003年に発売された雑誌「ロッキング・オン」では、kjがZeebraの「公開処刑」に触れ、「初めてあの曲の噂を聞いてから毎日考えてる。考えなかった日は一日もない。多分俺はずーっと引きずったまま生きてくんだと思う」とコメントを残しています。また、当該楽曲が支持されている点にも言及し「言われた本人はそれは嫌ですけど、耐え難いですけど。買う人がいるという事は評価を受けてるって事」ともコメントしています。
さらに別の取材時には、音楽を止めるか、続けるか悩み抜いたとも語っています。
Zeebraのツイート
また、Zeebraも2008年に出版された自伝「ZEEBRA自伝 HIPHOP LOVE」にてkjとのビーフについて言及しています。「公開処刑」の制作は「ライオンが自分の子を谷底に突き落とす、みたいな感覚」「いい加減気づけよ」との意図があったそう。
上記のツイートのように、時折kj(おそらくケンジはkjかと思われる)に触れる投稿をしていて、Zeebraとしては過去の出来事として消化されているようです。
なお、現在のところ公の場で二人の競演を見る機会はありませんが、2020年5月に放送された「氣志團」のボーカル・綾小路翔がMCを務めた音楽特番「STAY HOME, STAY STRONG~音楽で日本を元気に!~」(フジテレビ系)にて、出演者が発表際にkjとZeebraの名前がありファンを大いに喜ばせたことがあります。
しかし、実際には二人の競演は無く、それぞれが楽曲を披露して番組出演を終えています。まさかの「Grateful Days」の歌唱に期待を膨らませたファンも多く、放送終了後は残念、観たかったとのコメントが溢れました。今後、奇跡の競演はあるのか、注視していきたいと思います。
「Zeebra」と「DEV LARGE」
続いてはZeebraとBUDDHA BRANDのD.LことDEV LARGEとのビーフについてご紹介します。
OZROSAURUSが1997年に発表した楽曲「狩人の唄」にフィーチャリングで参加していたZeebraのリリックがきっかけとなったビーフ。ラップの内容がDEV LARGEをDisっていると、DEV LARGEの反感を買ってしまったのです。DEV LARGEは1998年にDJ HAZIMEとSUIKENと組み「カモ狩り(COMIN' AT CHA BABY PT.2)」を発表しています。

「狩人の唄」

「DJ HAZIME MIXTAPE VOL 2」
同曲でのDEV LARGEのリリック「所詮どの道 草食動物 肉食動物に食われるのがルール」でDEV LARGE節を炸裂させています。草食動物はジブラの名前の元にもなっているゼブラ(しまうま)を指しており、さらに肉食動物はDEV LARGEの別名である「大峠雷音(おおとうげライオン)」を用いて対比関係を作り出しています。
DJ HAZIMEのミックステープへの収録でしたが、DEV LARGEによるアンサーソングということで、非常に注目度の高い楽曲となりました。
『その後』
日本語ラップ界の重鎮同士のビーフに発展すると思われたこの一件ですが、後にZeebraが「狩人の唄」はDEV LARGEをDisったものではない、DEV LARGEは大切な友人であると発言し、当事者同士の誤解は解かれ、和解に至っています。
その後はNBAの2000年シーズンのNIKEキャンペーンの為に制作された楽曲「Player's Delight」で、ZeebraとDev Large、Twigyによるマイクリレーを披露するなど、友好な関係を維持していたようです。
しかし、この時にDev LargeはZeebraとKGDR(キングギドラ)で活動するK Dub Shineに対して不信感を持ったとされています。それはこの後にご紹介するビーフにて説明いたします。

「Player's Delight」
「DEV LARGE」と「K Dub Shine」
2004年に起こったDEV LARGEとK Dub Shineのビーフ。インターネット上に突如、DEV LARGEと思わしき人物がK Dub ShineをDisった楽曲「Ultimate Love Song」を公開します。
あえてラヴソングというキーワードを皮肉としてタイトルに盛り込み、さらにアメリカのヒップホップにおいて著名なDisソングである「New York, New York」のトラックを引用している点も、より批判の強度を感じさせました。

「MUSIC」
Amazon | MUSIC | D.L, DEV LARGE, D.L, M.Blackmon, J.Prister | J-POP | ミュージック
DEV LARGEがDisソングを制作するに至った原因として、2004年にK Dub Shineが発売したアルバム「理由」が大きく関わっています。
同作の発売にあたり受けたインタビューで「バイリンガルでやろうとしてるヤツ、とにかく歌に何か英語のフレーズを入れりゃカッコ良いと思ってるヤツらに向かってダッセーなーって言ってる」と、英語と日本語を駆使するバイリンガルラッパーを否定したK Dub Shine。
これに反応したのが元祖バイリンガルラッパーでもあり、若い頃のアメリカ時代からK Dub Shineと親交のあったDEV LARGEでした。

「理由 SPECIAL EDITION」
雑誌の発売から間もなく制作され、公開された「Ultimate Love Song」。曲に入るまでの導入部では、K Dub Shineとのこれまでの関係性を語りながら、「嘘で固めたクソパブリックイメージをひっぺがえす」「完全な個人攻撃 お前ひとりを狙い撃ちだ」とK Dub Shineへの信頼性の欠如などを、語気を荒めた強い口調で訴えています。
そして、前項「ZeebraとDEV LARGE」で「カモ狩り」制作時に起きたK Dub Shineへの不信感も発言しています。「いつも善意の第三者のフリをしていた」「ジブラとのあの曲の時も、ヒデ(Zeebraのこと)なら言いかねないと担がれた」とまくし立てるDEV LARGE。
「あの時は人を見抜く目を俺が持ってなかったからしょうがねえよ。」と自戒しつつ、終始K Dub ShineへのDisを展開。9分にも及ぶ楽曲はネット上で大いに盛り上がることとなりました。
公開当時、クレジットが不明でDEV LARGEによる楽曲かその真偽が疑われていましたが、後日DEV LARGEがラジオ出演時に同曲を放送したことで、ラップをしているのがDEV LARGE本人であることが発覚します。
すると、同曲の発表から約10日後にK DUB SHINEからのアンサーソング「1 THREE SOME」が公開されます。DEV LARGEを「パラノイア」と罵り、アメリカのラッパーKRSワンとネリーのビーフで用いられたあいうえお作文的手法を取り入れるなど、完成度の高い楽曲でした。
すると、DEV LARGEは再びアンサーソング「前略ケイダブ様」を公開。K DUB SHINEに対して「10日も掛けてあんなもんか」と批判します。その後はK DUB SHINEからの返答はなく、事態は次第に沈静化していくことなりました。
K DUB SHINEはアルバム「理由」に収録された楽曲「来たぜ」で、初めてBUDDHA BRANDの面々と会ったアメリカでの様子を想起させるリリック「そんとき初めて出会ったブッダ バトルは俺が完全に食った」とラップしていて、これに対してDEV LARGEはK DUB SHINEではなく、Zeebraのスキルにヤラれたと主張しています。
『その後』
2015年5月4日にDEV LARGEは亡くなってしまいますが、2013年にDEV LARGEとK Dub Shineは和解しています。
そのきっかけは代々木上原で二人がバッタリと会ったこと。何が二人を引き寄せたのか、久しぶりに会話を交わし、お互いにビーフの一件を水に流そうと握手をしたそうです。そして、その翌日に開催された、同年7月に脳内出血のため逝去したMAKI THE MAGIC(キエるマキュウ)の追悼イベントに、K Dub ShineがDEV LARGEを誘います。
すると当日、DEV LARGEはCQとステージに上がり、日本語ラップのクラシックであるBUDDHA BRAND「人間発電所」を披露しています。
DEV LARGEが亡くなったことが分かると、K Dub Shineは公式発表の前でしたが堪らずツイートで追悼をしています。「長年の友人であり、ライバルでもあり、同志でもあった世界に誇る日本のヒップホッパー」と最大級の賛辞をささげ、故人を偲んでいます。
「K Dub Shine」と「般若」
2005年に発売された般若のアルバム「根こそぎ」に収録されている「サンクチュアリ」で、K Dub ShineをDisるリリックがあり話題となりました。
「K Dub Shine 何かあったら言ってネ アーイ」「超人気者の渋谷のドン 家まで迎えに行くからよ」と、普段から渋谷のドンを自称し、何かあったらすぐオレに言えとのパンチラインで知られるK Dub Shineの発言を抽出し、イヤミ全開のリリックに落とし込んでいます。

「根こそぎ」
同曲ではKREVA、DEV LARGEにも言及する箇所があり、数多くのビーフで知られる般若らしい一曲となっています。
また、2007年に発売された韻踏合組合のHIDADDYによるフリースタイルセッション集DVD「ヒダディー ひとり旅」に般若が登場します。渋谷の路上で攻撃的なスタイルの即興ラップを披露する般若。そこでK Dub Shineを揶揄するシーンがあり、2年が経過してもなお批判的な意見を持っていることが伺えます。

「ヒダディー ひとり旅」
Amazon.co.jp | ヒダディー ひとり旅 [DVD] DVD・ブルーレイ - HIDADDY, HIDADDY
『その後』
2015年のZEEBRA主催のヒップホップフェス「SUMMER BOMB」に、般若とK Dub Shineが揃って出演します。そこで般若はDisソングではなく、K Dub Shineへ宛てた詩の朗読を行います。一見Dis風の内容でしたが、全体にユーモアが散りばめられたイジリに近いものでした。
また、K Dub Shineはフェス前に般若が出演することを知り、やや冗談ぽくフェスへの参加を見送る旨をツイートするなど、かつての緊張感を伴ったビーフとは異なるオトナのお遊びといった印象を与えています。
なお、「SUMMER BOMB」の直前には般若とRHYMESTERの宇多丸とのビーフが勃発していました。しかもRHYMESTERも同フェスに出演することが決まっており、スペースシャワーTVのトークコーナー「第三会議室」で宇多丸と長年共演しているK Dub Shineは、身近なラッパーが標的にされたことを面白がっていた様子。こうした点からもフェスではシリアスな展開にならなかった理由を推測することができます。
「般若」と「宇多丸」
前項「K Dub Shineと般若」でも触れたように、般若はRHYMESTERの宇多丸ともビーフを起こしています。
事の発端は、2015年に公開された品川ヒロシが監督・脚本を務めた映画「Zアイランド」。出演する般若が、宇多丸がトークを担当するラジオ番組「ウィークエンドシャッフル」の映画評論コーナーで同作が取り上げられなかったことに対して物申したことから。

「Zアイランド」
宇多丸が数々の映画評論をしているのであれば、きちんと同作も評論対象に入れろと「おい 宇多丸 このハゲ」と冒頭から展開される強烈なDisソングを自身のブログで公開した般若。
それに対して、普段はアンサーソングを返すことの少ない宇多丸も、般若をラッパーとしてリスペクトしていることもあり、番組内でアカペラのフリースタイルラップ(実際には事前に1時間程で書き上げたラップ)を披露しています。そのラップの中で映画のブルーレイが発売されたら購入して評論をすると公約しました。
『その後』
「Zアイランド」のブルーレイの発売後、宇多丸は公約を守りしっかりと評論を行っています。
当時流行していたゾンビものだった同作。ジャンルとして成立していることから定番の型があり、安心して見られる部分があったと述べる一方で、映画監督・品川ヒロシの技量の限界もみえた映画でもあったと辛口で論じています。
脚本の構成が雑であり、序盤の話運びも鈍くさく、ゾンビが現れるシーンに効果的な演出が出来ていなかったなど、辛辣な意見を並べたてる宇多丸。さらに品川の過去作を観た経験から、唯一期待していたアクションや格闘演出にも完全なるダメ出しを行い、終始駄作である点を強調し、評論を終えています。
「RHYMESTER」と「THA BLUE HERB」
2001年に発売されたRHYMESTERのシングル「ウワサの真相 featuring F.O.H」。この中でMummy-Dのリリック「知ったかぶったブスとカスどもが有り難がるミスターアブストラクト」「そしてお前は神になった途端に人気は下火になった」が、THA BLUE HERBを批判しているとされ、THA BLUE HERBのラッパー・BOSS THE MCがアンサーソングを返したことで話題となりました。

「ウワサの真相 featuring F.O.H」
THA BLUE HERBといえば、90年代後半に東京中心であった日本語ラップ業界において、地元の北海道から音と言葉を鳴らし続け、無骨かつ儚いヒップホップを表現していた稀有なグループでした。
東京のラッパーに対抗心を燃やし、それを楽曲やライブでのパフォーマンスに昇華することで、唯一無二の存在として認識されていた彼ら。さらにトラックメイカーのO.N.Oが作り出すトラックは従来のヒップホップとは異なり、様々なジャンルの音楽性を内包したものでした。まさに形容しがたいアブストラクト(抽象的)なグループであり、彼らのファンをして宗教的とすら言われるまでになっていました。
おそらくですが、Mummy-Dはそんな彼らをよくわからない存在、純粋なヒップホップではないと揶揄したのではないでしょうか。

「Sell Our Soul」
Amazon | Sell Our Soul | THA BLUE HERB | J-POP | ミュージック
そんな彼らですが、1995年から1998年まで放送されていたYOU THE ROCK★のラジオ番組「HIPHOP NIGHT FLIGHT」の音源投稿コーナーにて思わぬ形で邂逅しています。
YOU THE ROCK★やMummy-Dが一般応募により集められた日本語ラップの音源を紹介し批評していくこのコーナーで、THA BLUE HERBは「悪の華」の音源を送り、見事放送される権利を獲得します。同曲はステレオタイプなギャングスタラップや明るく軽快なラップとは一線を画すとても暗い曲調でしたが、YOU THE ROCK★をはじめスタジオ内は手放しで称賛状態となります。
Mummy-Dによると放送前に自宅へ突然音源が送りつけられたようで、同曲だけでなく他の曲の秀逸さも褒め称え、期待を込めて「マジ北海道のB-BOY、皆にシャウトアウト(ここではエールを送るの意)しとくよ」と発言しています。
こうして高く評価をしていたMummy-Dでしたが、後に前述のようにTHA BLUE HERBに対してDisを仕掛けるに至ります。その理由や意図は今も不明ですが、BOSS THE MCは雑誌のインタビューで、自分達の目指すアートとRHYMESTERやYOU THE ROCK★は違うといったニュアンスの発言をしています。
それを踏まえると「ウワサの真相 featuring F.O.H」内でMummy-Dによるリリック「おまえのゲージュツとやらに幸あれ」もインタビューを意識しての内容に聴こえてしまいます。
一方で、THA BLUE HERB側のアンサーソングとしては、アルバム「SELL OUR SOUL」内の2曲で反応しています。特にアルバム1曲目の「Shine On You Crazy Diamond」では「アブストラクトじゃない HIPHOPだ誰がTOPか それにこだわった勝負だ」「日本語RAPじゃない 日本の北のHIPHOPだ」と、Mummy-Dによる「アブストラクト」というある種のカテゴライズを真っ向から否定しています。
『その後』
「Shine On You Crazy Diamond」以降、楽曲でのビーフはありませんでしたが、2010年2月にRHYMESTERの宇多丸が自身のラジオ番組で「今やバイトしないで食っていけてるラッパーはBOSS THE MCくらいのもんですからね」と発言したことで、BOSS THE MCはTHA BLUE HERBの公式サイトで「褒められてんのか、からかわれてんのか、負け惜しんでんのか、誰を代弁してんのか、俺には分からなかったが、俺にも言い分があった。おいおい、笑えねえ冗談だぜ。簡単に、知った口でこの10数年を言い切ってくれんなよ。何をいまさら。」と宇多丸の発言に対する感想を述べています。
さらに公の場所での発言に波紋が生じることをお互いに理解したうえで、誤解が生まれることも承知しているニュアンスの発言をして一定の理解を示しています。また、「今回の彼等のライムスターの新曲(「ONCE AGAIN」のこと)は熱かった。」ともコメントし、音楽家として評価している旨もコメントしています。

「ONCE AGAIN」
2010年当時、すでにお互いにベテランであった両グループ。このまま”犬猿の仲”という関係性が続くのかと思われた同年6月に事態は一転します。
共に福岡でツアーがあったRHYMESTERとTHA BLUE HERBが、共通のヒップホップ仲間による仲介を得て、宇多丸とDJ JIN、そしてBOSS THE MCによる鼎談が行われ、あっという間にそれまでの誤解が解かれ、和解に至っています。
後日、BOSS THE MCも公式サイトで「いろいろあった。この何年。話そう。で、話して、笑ってさ、最高の時間だったよ。」と感謝を込めて文章を綴っています。
2016年に開催されたSUNSET LIVEで共に出演した両グループ。その際にそれまでほぼ面識の無かったというMummy-DとBOSS THE MCがついに顔を合わせています。
さらに2019年にはTHA BLUE HERBにとって7年ぶりの5枚目のアルバム「THA BLUE HERB」発売日に、BOSS THE MCが宇多丸のラジオ番組に生電話出演をしています。また、同アルバム内の楽曲「TRAINING DAYS」では、RHYMESTERの楽曲の一部がサンプリングされているなど、両者の雪解けを感じるエピソードとなっています。
「THA BLUE HERB」と「TOKONA-X」
2002年に発売されたTHA BLUE HERBのシングル「A SWEET LITTLE DIS」。曲内のリリック「XXX DISとONE LOVEで本音100で堂々と闘うぜ」部分が、名古屋のラッパー・TOKONA-Xの腕に彫られたタトゥーを指しているとされ、TOKONA-XがDisソング「EQUIS.EX.X (feat. TOKONA-X)」が発表される事態となります。
当時接点の少なかった両者にはDisる理由はなく、すぐさまTOKONA-Xの勘違いであることが判明します。偶然勘違いを生んでしまったのですが、THA BLUE HERBからのアンサーソングが無かったこともあり、様々な憶測がファンの間で飛び交うこととなります。
豪快な人柄に加えて、 THUG(サグ、ならず者の意)なラップや風貌で多くのファンを魅了していたTOKONA-X。一方でリリシストでもあるBOSS THE MCは対照的な存在。
そうしたことから、一見ガラの悪く見えるTOKONA-Xに対して、BOSS THE MCが土下座して謝ったといったガセネタが大真面目に受け取られるなど、情報が錯そうします。
しかし、「EQUIS.EX.X (feat. TOKONA-X)」の発売から数か月後、BOSS THE MCはなんとTOKONA-Xと共に「ILLMARIACHI」で活動するDJ刃頭との共作「野良犬」を発表します。
同曲でTOKONA-Xに対してDisではなく「紹介するぜ オレの五分の兄弟分 PEACE TO ILLな街 尾張 MARIACHI」と愛のある回答を行っています。リリックは明らかにDJ刃頭のみならず、TOKONA-Xを意識したものであり、発表のタイミングを鑑みても実に慎重に言葉を選んでいるのが分かります。
お互いに”対東京”の構図を描きながら、自身の地元からそれぞれのスタイルでのし上がっていった両者。本来はリスペクトこそしても、いがみ合う関係では無かったはずで、前述したDEV LARGEの「カモ狩り(COMIN' AT CHA BABY PT.2)」同様にささいな勘違いが大きなすれ違いを生んでしまったようです。
『その後』
2004年にTOKONA-Xが亡くなった後は、BOSS THE MCがライブ中に「TOKONA-X REST IN PEACE」と発するなどしています。
また、2016年にはTOKONA-Xの盟友であったDJ RYOのアルバムに、BOSS THE MCが参加することに。楽曲はなんと生前のTOKONA-Xの声を活かした内容で、タイトルは「TOKONA-X『OUTRO feat. ILL-BOSSTINO』」。
抒情的なメロディに乗せて、BOSS THE MCによる「俺等はDISから始まった」「終わりから始まるってこともある 実はそこからが本番 死後のロマン」「すべてのラッパー お前から学ぶのさ」と終始、故人への敬意を感じるリリックが並び、そこにTOKONA-Xの豪快なラップが融合した尊い一曲に仕上がっています。
また、同年にBOSS THE MCは公式サイトで「このまま墓場まで持っていこうと思っていたが、この機会に憶えている全てを話そう。」として、ビーフ当時の真実を赤裸々に語っています。そこではビーフ後にもお互いのライブへ足を運んでいたことやTOKONA-Xが亡くなった1ヶ月後に線香をあげに行ったことなどが綴られています。
そして、ビーフ当時を振り返り「相変わらず巷では悪意を伴った作り話が騒いでいた。俺は土下座なんかしちゃいない。」とも語っており、BOSS THE MCも深く傷ついていた様子が伝わってくる文章となっています。
ビーフ盛りだくさんの動画はコチラから!!
オススメの記事
黒船の如く現れたブッダブランド!名曲『人間発電所』は日本語ラップのクラシックに! - Middle Edge(ミドルエッジ)
女性アーティスト「ACO」 Dragon Ashのミリオンセラー「Grateful Days」での客演が鮮烈だった! - Middle Edge(ミドルエッジ)