宍戸 錠
日活ニューフェイスの第1期生。トレードマークの豊頬手術を受けたのが翌年の1956年。愛称「エースのジョー」。言わずと知れた宍戸錠です。因みにこの愛称は宍戸錠自身がトランプ好きだったことに由来するのだそうですよ。

宍戸 錠
テレビに映画に大活躍した宍戸錠ですが、最高なのはやはりエースのジョーとして愛された日活時代でしょう。この時期の作品にはカルトにしておくには惜しい、観ていないと人生損をする名作が多いんですよ。
渡り鳥シリーズ
エースのジョーといえばタフでハードボイルドな役柄という印象が強いわけですが、そのイメージで忘れてはならない俳優がもう一人。マイトガイこと小林旭ですね。
その小林旭の大ヒット「渡り鳥シリーズ」で宍戸錠は強烈な個性を放って光り輝いています。
シリーズ第一弾は豊頬手術から3年、1959年に公開された「ギターを持った渡り鳥」です。

ギターを持った渡り鳥
ポスターを見て頂けるとお分かりのように2大スターの競演とはいかず、この作品での宍戸錠の扱いは小さい。但し役名は「殺し屋ジョージ」だ。イカシテます!
宍戸錠は渡り鳥シリーズ6本に出演しています。
「ギターを持った渡り鳥」の殺し屋ジョージの他に、「赤い夕陽の渡り鳥」のハジキの政吉、「大草原の渡り鳥」のハートの政、「波濤を越える渡り鳥」のラオスの虎といった役名にはノックアウトされてしましますね。
抜き射ちの竜
宍戸錠を語る際に渡り鳥シリーズと並んで外すことのできないシリーズが拳銃無頼帖シリーズです。
ここでの主役はトニーこと赤木圭一郎。

拳銃無頼帖 抜き射ちの竜
宍戸錠の役名はコルトの銀。シリーズが変わっても役柄、役名は継続!流石ですねぇ。
シリーズは4作品あり、「拳銃無頼帖 不敵に笑う男」と「拳銃無頼帖 明日なき男」ではコルトの謙を演じています。どんなことがあってもコルトは外せないってことですね。
このシリーズは2作品リメイクされているのですが、宍戸錠は「抜き射ちの竜 拳銃の歌」でコルトのジョー、「拳銃無頼帖 流れ者の群れ」では暗闇の銀次郎というしぶい役名を付けられて登場しています。
因みに、渡り鳥シリーズで5作品、拳銃無頼帖シリーズで2作品ヒロインを演じている浅丘ルリ子。この時期のカワイイとも言えるし美しいとも言える浅丘ルリ子は最高ですね。一見の価値ありですよ。引っ張りだこだったのも良く分かります。
探偵事務所23 くたばれ悪党ども
流れ者シリーズの後の「ろくでなし稼業」をはじめとする稼業シリーズから宍戸錠はいよいよ主役をはるようになります。「メキシコ無宿」「抜き射ち風来坊」「危いことなら銭になる」などなど、もういちいちタイトルがカッコいいです。
映画全盛期だったとはいえ、この時期の宍戸錠は年間10本近くも出演しています。まさに出ずっぱり。
その多忙な時期に探偵事務所23シリーズというのがありますね。

探偵事務所23 くたばれ悪党ども
探偵事務所23 くたばれ悪党ども | 映画 | 日活
これ、何がスゴイかって宍戸錠は撃って殴るだけじゃ物足りないとばかりに、唄うは踊るは八面六臂の大活躍。キテレツ、いえいえエンターテナーとはまさにこのことか!白眉ですわぁ。
監督は鈴木清順、言わずと知れた巨匠です!この時期は宍戸錠だけではなく鈴木清順もまた「野獣の青春」「悪太郎」「関東無宿」などなど充実した作品を量産している時期です。
が、本作は当時の鈴木作品の中でも若干毛色が違ったものになっているようです。
探偵事務所23シリーズとしてもう1本「探偵事務所23 銭と女に弱い男」というのが公開されていますが監督は柳瀬観に代わっています。
野獣の青春
「探偵事務所23 くたばれ悪党ども」と同年、宍戸錠を主役に据えて鈴木清順監督が撮った傑作映画「野獣の青春」。これは「探偵事務所23 くたばれ悪党ども」とは違って本格ハードボイルド・アクション映画となっています。

野獣の青春
野獣の青春|MOVIE WALKER PRESS
元刑事で風来坊という設定で水野錠次という名前こそ付けられていますが、ジョーです。
野獣の青春かぁ、いったいどんな青春なんだ~!青春と呼ぶには余りにも危険な香りがする。そんな青春はご免だ~!と思いますよね。恋にうつつを抜かし、だらけ切った70年代の青春とは全く違う青春が確かにここにはある!というわけです。
拳銃は俺のパスポート
拳銃と書いてコルトと呼ぶ。コルトは宍戸錠の代名詞。「拳銃は俺のパスポート」は宍戸錠にとって最高傑作といっていいでしょう。
宍戸錠の役柄は殺し屋であってもユーモラスなものが多いのですが、本作ではコミカルな演技を一切封印し、ストイックな役柄に徹しています。それが素晴らしい。緊張感が漲ってますよ。
まぁ、コミカルな宍戸錠が好きという意見も分からないではないですけどね。

拳銃は俺のパスポート
なんと脚本執筆に4日、撮影には20日という超短期間で製作された、やっつけ仕事のような作品でありながら、これは素晴らしい出来栄えです。
もっとも当時の日活B級活劇映画の多くは低予算で過密スケジュールというのは普通のことだったそうですけどね。
それにしても全編これハードボイルド!緊張感、躍動感はハンパなく独特の魅力を備えた作品で、後年カルトな傑作として評価が高まったのも頷けます。
宍戸錠自身、本作が「もっとも好きな出演作品」と語っています。
ラストの決闘シーンのガンアクションをはじめ、多くのアクションのアイデアを宍戸錠は提案し採用されているそうですので、思い入れが強いのも頷けますね。
殺しの烙印
「殺しの烙印」、おそらく宍戸錠主演で最大の問題作はこの作品でしょう。とは言っても、この作品、宍戸錠が問題なのではありません。監督ですね、問題なのは。
鈴木清順監督は、この作品によって日活をクビになり、以降10年間も映画界から干されることになっています。なぜ、そんなことになったのかと言えば、これはもう見て頂くしかないのですが、この作品やたらとシュールです。日活の意向とかけ離れて、やりたいことをやりすぎちゃったのです。当時の日活社長が「わけのわからない映画を作ってもらっては困る」と激怒したというのも頷けます。
もっとも、だからこそ面白い作品が出来たというところが映画の難しいところですね。
現在では日本に限らずクエンティン・タランティーノ監督やジョン・ウー監督などをはじめ、世界中に多くのファンを持つ「殺しの烙印」。鈴木清順監督の独特の世界観は宍戸錠を抜きにしては成り立ちませんよ。

殺しの烙印
日活の経営陣が大激怒したとはいえ、「殺しの烙印」は当時の批評家や若い映画ファンには熱狂的に支持されたといいます。ナイス感性。
内容的には前半ギャビン・ライアルの小説「深夜プラス1」を、次いでリチャード・スタークの小説「悪党パーカー/人狩り」をベースにしている感じですね。しかし、それ以降はもう独自の訳の分からない世界に突入していくんです。
それにしても「殺し屋の世界ランキング」というアイディアは秀逸ですよね。
宍戸錠は1967年には「殺しの烙印」「拳銃は俺のパスポート」以外に「燃える雲」「七人の野獣」「みな殺しの拳銃」「紅の流れ星」「七人の野獣 血の宣言」「君は恋人」「赤木圭一郎は生きている 激流に生きる男」「東京市街戦」「黄金の野郎ども」に出ているんですよ。なんと11本。エースのジョー八面六臂の大活躍ですねぇ。
70年代に入ると「ハレンチ学園」「谷岡ヤスジのメッタメタガキ道講座」やテレビ「巨泉×前武ゲバゲバ90分!」などコミカルな役を精力的にこなすようになり、殺し屋役からは離れていくことになります。時代の流れでしょうけど、ちょっと残念ですねぇ。