平成の幕開けを象徴する、タイマーズによる『FM東京事件』とは?
皆さんは『FM東京事件』をご存じでしょうか?1989年10月13日にフジテレビ系列で放送された音楽番組「ヒットスタジオR&N」内にて、ザ・タイマーズというロックバンドがラジオ局「FM東京(現・TOKYO FM)」を罵倒する内容の演奏を行い、その中で放送禁止用語が用いられたことから、音楽業界に激震が走った事件です。この記事では、事件が起こった背景やその顛末などについて特集したいと思います。
こちらがタイマーズの面々。

「ザ・タイマーズ」とは?
ザ・タイマーズとは、80年代後半に結成されたロックバンド。忌野清志郎にそっくりな“ZERRY”なる人物を中心に、1989年10月にシングル「デイ・ドリーム・ビリーバー」で東芝EMIよりデビューを飾りました。同曲はエースコック「スーパーカップ」のCMに起用され、オリコン最高位2位を記録するヒットに。また、土木作業員や学生運動の活動家のような井出達で、「あこがれの北朝鮮」「牛肉オレンジ」など、当時の世相を反映させた楽曲を披露することも多々ありました。
タイマーズの楽曲が使用されたエースコックのCM。
事件前夜、くすぶる鬱憤。
タイマーズの中心メンバーであったZERRYですが、彼の作る歌詞にはセンシティブな内容が多く、「村八分」「裸のラリーズ」などのメンバーであった友人・山口冨士夫と共作した楽曲である、ティアドロップス「谷間のうた」がFM東京及びFM仙台で放送禁止に。また、タイマーズの楽曲「土木作業員ブルース」も同様に放送禁止となってしまいました。そういったラジオ局との軋轢があり、タイマーズのメンバーは徐々に鬱憤が溜まっていくこととなります。
放送禁止処分となった「谷間のうた」
1989年10月13日、ついに事件発生!!
そして、ラジオ局に対する不満が頂点に達したZERRY及びタイマーズ。1989年10月13日に、事件は起こりました。タイマーズがフジテレビ系「ヒットスタジオR&N」に出演した際、リハーサルでは「タイマーズのテーマ~偽善者~デイ・ドリーム・ビリーバー~」の流れで予定曲目を組んでいたものの、本番では2曲目の「偽善者」に入るところで、予定に無かった謎の楽曲の演奏を急にスタート。その曲の歌詞では、FM東京を名指しして「腐ったラジオ」「最低のラジオ」「政治家の手先」と罵倒し、極めつけとして「お〇んこ野郎」と、堂々の放送禁止用語で締めくくってしまいました。このパフォーマンスには、司会を務めていた古舘伊知郎をはじめ出演者・スタッフ全員があっけにとられる事態に。なおこの曲を終えると、3曲目として「デイ・ドリーム・ビリーバー」を何事もなかったかのように演奏しています。
ZERRYによる魂の叫びは必見!!
言いたいことを言い切った彼ら…その後の処分は?
FM東京、更には言いたいことの言えない現代社会に対して「おま〇こ野郎」と言い放ったタイマーズ。当然ながらただでは済まされず、タイマーズはフジテレビへの3年間の出入り禁止を言い渡され、さらに所属していた東芝EMIも、当時発売直前だった松任谷由実の新作アルバム「LOVE WARS」の収録楽曲がFM東京で放送されなくなるというペナルティを受けることとなりました。

後年になってZERRYは、当時の騒動について関係者から怒られることを覚悟していたものの、「実はテレビ局は大喜びだった」「プロデューサーはニコニコだった」と、苦情がかなりあった一方で、その反響の大きさに関係者の反応は案外悪くなかった旨を述懐しています。またタイマーズのメンバーも、「ドラムを叩きながら、現場がわたわたしているのを見ているのは楽しかった(PAH・ドラムス)」「テレビカメラの向こうに、いろんな人が走り回ってるのが見えた。あんな光景は見たことなかった(TOPPI・ギター)」と、騒動については概ね良い経験だったと受け止めている模様。

騒動に巻き込まれた、出演者の現在!!
「ヒットスタジオR&N」1989年10月13日放送分の出演者ですが、司会は古舘伊知郎とGWINKOが務めていたほか、他のアーティストとして永井真理子らが出演していました。ある意味、騒動に巻き込まれたと言える彼ら。現在の動向について軽くご紹介したいと思います。
古舘伊知郎
当時、フリーのアナウンサーとしてプロレス実況などでも活躍していた古舘伊知郎。2004年から2015年にかけてテレビ朝日系「報道ステーション」の司会を務めたのち、現在は母校である立教大学の客員教授やYouTubeでの動画配信など、多岐に渡る活動を行っています。また、当時の騒動について「(曲を急遽)差し替えられて半分ムカつきもしたが、アッパレというのもあった」と、ZERRYの生き様に感服する部分もあった模様です。
GWINKO
安室奈美恵やSPEEDなどを輩出した沖縄アクターズスクールの1期生として有名な歌手・GWINKO。90年代前半からは故郷である沖縄に活動拠点を移し、現在は喜納昌吉とのユニット「KINA&GWINKO WORLDCHAMPLOO」として歌手活動を行っています。
永井真理子
たまたま出演日が重なり、「おま〇こ野郎」発言を目の当たりすることになってしまった永井真理子。その後「ミラクル・ガール」「ZUTTO」などでブレイクし、2017年にはデビュー30周年記念のミニアルバム「Life is beautiful」を発表。現在も音楽活動を継続しているほか、ツイッターなどでファンと交流している模様です。
現在であれば、到底考えられない『FM東京事件』。当時としても問題は多々あったものの、ZERRYの“そっくりさん”であった忌野清志郎が2009年に死去するまで、第一線で活躍し続けることができたことを鑑みると、当時の社会のおおらかさを感じ取ることが出来ます。平成が終わり、令和の時代となった現在。『FM東京事件』を凌駕する、テレビ発の騒動が起こることは今後あるのでしょうか?注目しておきたいところです!
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