『幸運児』とは?
『幸運児』は、藤子-F-不二雄さんによるSF短編マンガ。早川書房が偶数月に発行しているサイエンス・フィクション専門誌『S-Fマガジン』にて1976年4月号に掲載され、1988年には中央公論社が出版したコミック『藤子-F-不二雄SF全短篇』の第3巻に収録されました。
1991年には『藤子-F-不二雄のSF(すこしふしぎ)短編シアター』の第5巻としてOVA化も実現しています。
OVA版『幸運児』
当時、発売されたLD・VHSビデオには『おれ、夕子』も同時収録されていて、お得感のある商品となっています。今回の記事では、こちらOVA版『幸運児』の内容を中心に振り返っていきたいと思います。
OVA版『幸運児』の本編動画・ストーリー
親友のよし子が出産したことを聞き、急いで産婦人科に駆けつけたヨーコ。ところが病室ではよし子が浮かない表情をしており、ヨーコは驚きの事情を知ることになります。
父親のタケ坊とは子供を生む・生まないで揉めたことで疎遠となり、それきり顔も合わせていないといいます。そのため、赤ちゃんが着ている服は全て病院からの借り物なのだそうで、そのうえ、多摩川の土手で産気づいていたところを救急搬送されてきたようです。
よし子が産気づいた多摩川の土手という場所に違和感を覚えたヨーコ。そのことを改めて問いただすと、金銭面や子供を育てていけるか不安になってしまい、実は自殺するつもりだったと打ち明けます。しかし、生まれてきた赤ちゃんの顔をみて思い直したとも。
事情を知ったヨーコは全面的によし子に協力すると約束します。丁度そのとき、産婦人科の開業医・三宅先生が病室をやってきて、二人に、生まれてきた赤ちゃんが病院開業以来1000人目だということで、退院までの入院費用を全て無料にすると言うではありませんか。
その後も信じられないような幸運は次々と続き…
OVA版『幸運児』の魅力とは?
作品タイトルからは…
こちらを思い浮かべてしまうOVA版『幸運児』。
しかし、内容的にはそういったヒーロー的なものでもないし、意外とユーザー評価の低さが目立ちます。
確かに明確なメッセージ性を訴えかけてくるものでもありませんし、本編は僅か10分ほどの短編物語でドラマチックな展開があるわけでもないです。個人的には、視聴者側のセンスを問われる作品だと思います。
少しそこを紐解いていくと、ひょっとしたら生まれてこなかったかもしれない赤ちゃんや母親の存在は社会風刺のひとつなのではないでしょうか。望まぬ妊娠をしてしまい、結果的に不幸な事件が起きてしまうケースも現実には少なくありません。
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まさに『幸運児』にも当てはまる内容ですが、幸運という要素を入れることによって酷い現実の印象を意図的に薄めているように思えます。
それこそが藤子-F-不二雄さんが『幸運児』に込めた想いだと思いますが、皆さんはどのように受け止められますか?『幸運児』ほどではないにしても、私たちがこうして生きていられる現実も幸運なことだといえますよね。
OVA版『幸運児』のまとめ
10分ほどの短編のため、確かにストーリー展開は起伏に乏しく、一般的なユーザー評価も厳しめのOVA版『幸運児』。そのままご覧になるだけでは、面白みやメッセージ性は伝わってこないかもしれませんが、少し掘り下げてみたり、角度を変えてみると印象も変わってくるのではないでしょうか。
記事に掲載した魅力については、個人的なレビューといった意味合いが強いので、それこそ視聴者それぞれ感想も異なるでしょう。記事内には本編動画を掲載していますので、この機会にご覧になって、その面白さをぜひご自身の目で確かめてみてくださいね。