三浦知良 15歳でブラジルへ 近所カズはキングカズになった 「ビッグになってやろうみたいな気持ちが自然と湧き出てきた。日本ではそういう格差が少ないからね」

三浦知良 15歳でブラジルへ 近所カズはキングカズになった 「ビッグになってやろうみたいな気持ちが自然と湧き出てきた。日本ではそういう格差が少ないからね」

息子が「お前の親父、キングなんていわれてるけど補欠なんだろう?」なんていわれることもあるらしい。そういうとき大事なことは一生懸命頑張ることなんだって思う価値観を身につけて欲しい。


城内FC ダメだよ、チームプレーばっかりしてちゃ。 最後は自分で勝負しなくちゃ。

「自分自身の原点は城内FCにある」
三浦知良は、伯父の納谷義郎が監督を務める城内FC(http://shizuokagoal.com/jonai/)に入った
高校サッカーでは
「全国で勝つより静岡予選を突破するほうが難しい」
といわれ、
「日本のブラジル」
の異名を持つ静岡県だが、その中でも納谷義郎はトップクラスの指導者である。
一見、ヤクザみたいで言葉づかいもそれっぽいが、1978年のアルゼンチン大会から毎回ワールドカップを現地にいき生で観戦するなど、サッカーに対する情熱と意識は非常に高く
「サッカーとはこうだ」
「それははこうだ」
と明確でブレない。
また
「ブラジルでは個人技で敵を抜いていくんだ」
「ボールをとられるまでドリブルしろ。
1対1で負けるな」
「理想のサッカーは相手11人を全員ドリブルで抜いてゴールすることだ」
と通常の少年サッカーと違い、徹底して個人技を磨くことを教える。
三浦知良は、城内FCには小学1年生からブラジルに渡る直前の中学3年生まで所属した。
小学校1年のときから学校にはリフティングをしながら通い、近所の人たちから
「あの子は、いつか交通事故に遭う」
と噂されたが最後まで無事故で通した。
城内FCの練習は開放的で楽しく、失敗してもとがめられなかったが、パスに逃げたときだけ怒られた。
「ダメだよ、チームプレーばっかりしてちゃ。
最後は自分で勝負しなくちゃ。
俺はね、とにかく勝負している奴が好きなんだよ」
(納谷義郎)

キングファーザー&マザー

父:納谷宣雄は、サッカー選手として国体に出場した経験を持ち、日本初のサッカー専門のスポーツ用品店を経営していた。
1976年4月6日、三浦知良が9歳のときに覚せい剤取締法違反の疑い逮捕された。
『納谷から覚せい剤を買っていた盛岡市内の元暴力団員の自供から、納谷が韓国で覚せい剤を大量に買い込んで国内の暴力団員などに売りさばいていた事実がわかり、盛岡署員らが内偵を進めていた。
(中略)
納谷は、5年間は何度でも使える数次旅券を所持し、これまでに十数回も韓国へ渡っていることなどから、覚せい剤を買い入れるブローカーをしていたとみられ、同県警、同署では7日から納谷の覚せい剤密売ルートなどを追求する』
(静岡新聞)
皮革製品の安い韓国でボールを製造し、輸入していたため
『サッカーボールの中に覚せい剤を忍ばせ運んだ可能性もある』
ともいわれたが韓国でのボール製造、輸入と逮捕は無関係だった。
納谷宣雄は当時のことを聞かれると
『俺は捕まっても口を割らなかった』
と話す豪快な人だった。
1978年7月8日、再び麻薬取締法違反で逮捕。
1979年2月、懲役1年10月の実刑判決を食らった。
出所後、納谷宣雄はブラジルに移住。
ブラジルサッカーの映像権販売、日本人のブラジルに留学斡旋というサッカー好きらしいビジネスを始めた。
やがて外貨法関連で逮捕され留置場の中で殺し屋とも仲良くなった。
「俺を敵にすれば殺し屋がくるぞ」

母:三浦由子は夫の2度目の逮捕後、離婚し同じ町内、元の家から数百m離れた場所(静岡県静岡市葵区安東1丁目1-4)に「もんじゃや」をオープン。
知良は三浦性となった。
「変わった親子関係と思う人もいるかもしれないけど、自分のことだから、何が普通なのかよくわからないんだよね。
勉強やれっていわれた記憶もまったくない。
とにかくサッカーをやれる環境だけはずっと与えてくれた」

近所カズ

三浦知良は、サッカー同様、遊びも1日も休まなかった。
近所の子に
「もんじゃや集合!」
と電話して集合。
3分経っても来ないと
「まだか?」
と催促の電話。
野球では、ピッチャーのときは江川卓、バッターなら篠塚和典など巨人の選手になり切った。
テープで音楽を流して口パクで大好きシャネルズを歌う「マネルズ」を結成し、もんじゃやでコンサート。
ルパンごっこは、おもちゃのワルサーP38に赤いジャケットでルパン、そして次元、五エ門、銭形になり切って、静岡けんみんテレビの全フロアを使い、銭形役が鬼となる鬼ごっこだった。
野球部に入った城内FCの仲間がいた。
三浦知良は外野で球拾いをしている仲間の周りをドリブルでグルグル回り囁いた。
「お前のいる場所はそっちじゃなくてこっちだぞ」
耐え切れず1週間で野球を辞めた仲間はサッカーに戻ったが、現在でも三浦知良にいろいろな場所で連れていかれたとき
「幼馴染で野球部のテッちゃんです」
と紹介されている。
僕にとってカズさんは「キングカズ」である前に「近所カズ」なんです。
カズさんは今でもチームの後輩、友人、その他いろいろな人を連れているところは昔を変わりませんね。
面倒見がよいというかわがままというかさみしがり屋というか・・・
みんなカズさんからの「集合!」の一言で集まっちゃうんですよね」
(テッちゃんこと松永哲佳)

進路希望「ブラジルでプロサッカー選手になる」

中学3年生のとき、ブラジルに行く以外考えていなかった三浦知良は、進路希望調査票に
「第一希望 ブラジルでプロサッカー選手になる」
と書き、担任の海野実に
「ふざけるな!」
と激怒された。
「当時、日本でプロスポーツといえば野球、ゴルフであり、サッカーのプロなど知らなかった。
勉強嫌いで授業中は居眠りばかり。
帰りの会を抜け出しサッカー練習に出かけるカズに困ったやつだと思っていたが、卒業後、ブラジルにいったときケガだけはしないようにと祈っていた。
私の話の最中に教室の中央でカズが投げ上げたサッカーボールをゴミ箱に捨てた私に向かって叫んだカズの言葉は
『何をするんだ。
サッカーボールは僕の命だ』
私も負けじと胸倉をつかんで廊下に引っ張り出した。
ブラジルから帰国したカズの報道番組へビデオ出演依頼が舞い込んできた。
『生出演するカズさんには内緒ですよ』と。
その折、テレビ局のスタッフに託したカズの中学時代の学級だよりの最後のページに「俺の負けだ」と書き添えた。
中学3年時の進路希望調査票に「ブラジルでサッカー選手になる」と書いてきたカズを職員室で怒鳴りつけ追い返した私の負けです。
テレビ出演後、スタジオからかかってきたカズの電話にビックリ。
『先生、負けだなんていわないでくださいよ』
泣けるセリフでした」
(海野実)

15歳で単身ブラジルに

1982年、静岡学園高校を8カ月で中退。
15歳で単身ブラジルに乗り込んだ。
誰もがブラジルでプロのサッカー選手になるのは無理だろうと思っていた。
「ブラジルでプロになるなんて100%無理だっていわれた。
でも俺は成功するとかしないとか、まったく考えていなかった。
俺自身にとっても勝負だったから。
考えるよりやらなきゃしょうがないだろって感じだった。
知良がどうなるかより日本のサッカーがブラジルで通用するか、俺の教えたことが本場で通用するか、そっちのほうが大事だった。
ブラジルに対する挑戦だったんだよな」
(納谷義郎)
ブラジルはサッカーの国だった。
ワールドカップ大会中、ブラジル代表の試合がある日は仕事が休みになり、ブラジル代表が点を入れると街中で花火が鳴り、試合後は国旗を持って車に乗って振り回された。
裕福な家で育ってサッカー選手を目指す子供は少なく、サッカーは貧しい子供たちがストリートでやるものだった。
そこで目立てばクラブにスカウトされ、小学生でも交通費やボールやスパイクがもらえた。
サッカーは生活のため、お金を稼ぐ手段だった。
ブラジルではまずCAジュベントスのユースに所属し、2年目にECキンゼ・デ・ノヴェンブロのユースへ移籍。
やはり困難は多かった。
家族や友人から離れて生活し、練習場には誰よりも早く行き、全体練習の後も独りで練習し、誰よりも遅く帰った。
他の選手とのコミュニケーションや監督に指示を理解するためにも学校に通ってポルトガル語を学ばなければならなかった。
選手同士の競争は激しく、困難を乗り越えるために強い意志でひたすら練習を重ねた。
3年目には夢を諦め日本に帰ることを本気で考えていた。
ブラジルには自分よりもはるかに才能がある人間がたくさんいて、それでもプロになれずドロップアウトしていく人間もたくさんいた。
「言葉や食事の違いなんて何ともない。
悩みのすべては試合に出られないことだった」
ある日、公園にいくとサッカーをしている少年たちがいた。
中には裸足の子や片足がない子もいて、ボールも古い汚いものだったが、みんな楽しそうにそれを追っていた。
(自分には両足もスパイクも、きれいなボールもある。
何を贅沢なことをいっているんだ)
(逃げて日本に帰るようなことはしたくない)
三浦知良は思い止まり、挑戦を継続した。
同年8月、キンゼ・デ・ジャウーの一員として日本へ行き、中山雅史や武田修宏らがいた静岡高校選抜と対戦。
中学生だった川口能活もサイン会で初めて三浦知良と出会った。
ブラジルに帰国後、サンパウロ州選手権タッサ・サンパウロ(U-21)に日本人として初出場した。

キング・ペレ O Rei do futebol 比類なきサッカーの王様

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