
「行け! ファンネル!」深紅のモビル・スーツにシャアが乗る! SDサザビー
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、この連載では今まで取り上げたことがない、しかしガンプラの歴史を語る上では外すことの出来ない「SDガンダム」から、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に登場した、サザビーの紹介です!(読者氏の中で「いや、俺、SDガンダム世代じゃないから」という方も、どうか最後の『回答編』までお付き合いください! 特に、HGUCのサザビーやνガンダムを持っている方はぜひ)
(註・今回のキットのチョイス、組み立て、撮影、レビュー執筆は、2018年8月発売の、RGサザビーのリリースを知る前に書かれた物です。RGサザビーがリリースされ、今回のレビューで提起した問題の半分ほどは解決しましたが、それでもRGサザビーの仕様を見る限り、当初に提起した問題は解決していないようなのでレビュー文章も、そのまま掲載することにしました。どうかご理解を承りたく存じ上げます)
サザビー SDガンダム Gジェネレーション 02 1999年6月 400円(機動戦士ガンダム 逆襲のシャア)

パッケージアート。ゲーム『スパロボ』シリーズ等を親しんでいると、こちらの方がカッコよく感じるかもしれない
いきなり私的な話だが、大河さん今回このキットで、生まれて初めてSDガンダムのガンプラを手に取ったのだ。
ときは80年代中盤を過ぎて、『ガンダム』及びガンプラというコンテンツ、商品は広く世間に認知を得たが、そのファン、ユーザー間でも世代間格差が発生していた。
ここは細かいので読者諸兄も帰属する世代によって細分化されているだろうが、筆者の場合は、中学生という時期に最初のガンダムブームに直撃したため、ちょっと上の年齢層のモデラー諸氏が入れ込み、ガンプラブームを牽引していた「リアルスケールモデル主義」には乗り切れず、それゆえMSVまでガンプラを追いかける意気込みはなく、リアルタイムでテレビで放映されている他のロボットプラモへ移行していった。

キットの構成全て。これなら組立説明書がなくても組み立てられる
同時に、ガンダムがシリーズを重ねていくと同時に、筆者も年齢を重ねるので、徐々にハイブロウになっていく物語やガンプラにも喜んでついて行けたのだが、こと『ガンダムZZ』後半から『逆襲のシャア』への流れは、富野由悠季総監督がどう願おうとも、児童層には理解しにくい作劇と作りにくいガンプラが続いていたのも事実だった。
ガンダムは売れる。ガンダムはメジャーコンテンツだ、に間違いはないのだが、それは既に、本来「ロボット漫画」にのめり込むべき児童層に対してうまくコミットが取れなくなっていた時代になっていた。

SDサザビーの完成品。手癖で接着剤は使ったが、塗装はせずにシールだけ貼って、組立時間は10分程度
そんな中、『Zガンダム』放映中から、カプセルトイのガシャポンで商品展開が始まったのが、SDガンダムというカテゴリだった。
当時、カプセルトイは、ウルトラ怪獣やキン肉マンの超人等、どれもディフォルメされて商品(主に塩ビ製)が出来ており、それは商品の小ささを逆手に取りつつ、カプセルに収まりやすく、作り易いというのもあってお約束であったが、SDガンダムはその後ファミコンゲーム化されるなどして、武者頑駄無という戦国風や、騎士ガンダムというファンタジー(当時で言えば「ドラクエ風」)などの派生商品を生み出し、どんどん児童層のトップコンテンツ化していったのだ。

黎明期のSDガンダムガシャポン商品。これは百式と思われる(塩ビ製)
そのブームの最初のピークである1988年に、『逆襲のシャア』と同時上映で、初のSDガンダムアニメ『機動戦士SDガンダム』が上映され、その後もOVAなどでアニメが展開。続くガンダム映画の『機動戦士ガンダムF91』(1991年)の時も『武者・騎士・コマンド SDガンダム緊急出撃』なる、タイトルを見るだけで理解できる一大ムーブメントを作り上げており、商品展開的にも、初映画版と同時に発売され始めたガンプラSDガンダムシリーズ「SDガンダム BB戦士」シリーズの売り上げが好調で、その後のテレビシリーズ『機動戦士Vガンダム』(1993年)頃には「SDガンダム世代に、どうすればリアルタイプガンプラが売れるか」が試行錯誤されるという本末転倒な状況が出来るほどであった。
しかし、大河さんからすると、もうその頃は20歳をとうに過ぎており、さすがにその年齢でSD玩具にハマることもなく(「リアルタイプガンプラも、世間様から見ればどっちも玩具だ」は禁句(笑))、かといってなにか嫌う、憎むというわけでもなく、同じガンダムを素材としながらも果てしなく自分とは縁が遠いクラスタだと受け止めて、今の今までがあったことは事実。

SDサザビーのサイドビュー。シールドの紋章などはシール
しかし、今にして思えば、筆者のような懐古厨ロボットマニアを虜にしたバンプレストのゲーム『スーパーロボット大戦』シリーズ等も、このSDガンダムブームに寄り添う形で出てきたコンテンツであり(だからスパロボシリーズでは、なぜかガンダム系のモビル・スーツだけ、アニメではなかった「瞳」が描かれていたのである)、やがてガンプラメインストリームはMG、HGUCで「かつてのガンプラ少年」達を再び呼び戻せたのであるが、SDガンダム世代も着実に年齢を重ねながらもSDガンダムのサポートをし続けた結果、1999年からは改めて、「SDガンダム GGENERATION-0」「SDガンダム GGENERATION-F」というガンプラのシリーズが2002年までかけて展開された。

SDサザビーのバックビュー。肉抜き穴が目立つとはいえ、ファンネルコンテナもプロペラントタンクもしっかり造形されている
今回紹介するSDサザビーは、そのGジェネレーションシリーズの商品No.02を選んだ。
「SDガンダム Gジェネレーション」は、No.01のνガンダムからNo.19のケンプファーまでは、1988年から展開していた最初のSDガンダムガンプラ「BB戦士」版に新規パーツを追加したものである。
ちなみにGジェネは、No.20のGアーマー付きガンダムから新規金型商品となる。
さて、本題に入ろう。
「なぜSDガンダムなのか?」
確かこの連載は、私、市川大河がシミルボンで連載している(現在休載中)『機動戦士ガンダムを読む!』で再現画像に用いるガンプラを紹介する連載枠だったはずである。
まさか『逆襲のシャア』サザビーの再現に、SDガンダム版を使う気か?
NO!
まさか、ミドルエッジの読者層がSDガンダム世代だからって、再現に使いもしないSDガンダムの紹介をして、媚を売ろうというのか?
NO!
その回答は、今回を最後まで読んでいただければ分かるだろう。
種を明かすのは簡単だが、名探偵だって事件の真相を暴くのは、たいてい最後、関係者一同を集めて「さて皆さん」と言ってからだ。
ちょっと今回は、大河さんの戯言にお付き合いください。
そしてまた、今回提示する「一つの回答例」が、実はリアルタイプ派ガンプラマニアにとって、「コロンブスの卵」的意味合いをもたらすかもしれないという前提でお読みくださいませ。

可動は、肩が回転、首が上下可動と回転をする程度。足首やファンネルコンテナなども微妙に動く
では、軽くキットの紹介を。
このSDサザビーのキット、1999年に発売された物だが、元の金型はSDガンプラ最初期の1988年のものに新規パーツのランナーを追加した物で、それゆえイマドキの「HGUC並みに色分けと可動がされているSDガンダム」とは程遠く、正直ノスタルジィの対象以上のポテンシャルはないキットである。
であれば、金型が同じであれば、1988年版のSDサザビーを買えばいいではないかという意見もあるかもしれないが、実は「それ」では「今回の目的」には使えないのである。
今回の唯一の購入条件は、1999年版新規ランナーの追加パーツにあるのだから。

Gジェネ版新規ランナー
「なぜ?」への回答を一度そらしてキットの解説に戻ろう。
このキットは、さすが児童層を対象にしただけあって、可動も色分けも殆どない代わりに、パーツ数も少なく、これなら小学生低学年児童でも楽に組み立てられる。
この時期、スナップフィットへ向かっていた『逆襲のシャア』リアルガンプラが、組立にドライバーまで持ち出さなければいけなかった事と比較すると好対照である。
可動箇所は、両肩の回転と脚部一括でのハの字回転の他は、首が回転しながら多少上下に振れる程度。

顔の作りは割とリアルで、面構成もアニメ設定に近い
その他のギミックとしては、背部のファンネルポッドやプロペラントタンクが上下するだけ。
ジオン紋章マークやモノアイ周りは必要最小限はシール補完。
そういう意味では良い意味で駄玩具であるといえた。
しかし、箱の中には、80年代後期のガンプラに封入されてるとは信じがたいマテリアル、「スプリング」の姿が……。

ス……スプリング……?
実はこのキット、元のシリーズが「BB戦士」と謡ったように、当時のBB弾によるサバイバルゲームのブームを受けて、BB弾がライフルから発射できるギミックがついていて、それがメインの「遊び方」であり、そのためのスプリングであった。
しかし、20世紀も終わりを告げようとする頃には、時代は変わり、子どもに持たせる玩具にBB弾は危ないという話になった結果、バンダイはBB弾の代わりに「いろいろなもの」をライフルから発射させられる仕様にカスタマイズしたのである。

ライフルの組立途中。物凄い既視感を伴ったこの昭和っぽさ
しかし、そもそも「ビームを発射するライフル」で、スプリングで何を発射しようというのか?
その素朴な疑問を前に、以前この連載でガンプラを押し退けて連載が続いたアオシマの遺伝子が受け継がれるのである。
まず、オプション一覧を見てみよう。

ずらっと並んだオプション一覧
上の写真で、グレーのパーツが旧BB戦士時代からの流用で、赤いパーツがGジェネ版で新規追加されたオプションである。

斧とファンネルと……なに?
こちらがBB戦士時代からのパーツ。ツッコミはまだもうちょっと待って!

斧とビーム・サーベルと……なに?
こちらがGジェネ新規追加パーツ。いや、だからツッコむから! 大河さんちゃんとツッコむから!

完成したビーム・ライフル(あ、サザビーの場合は「ビームショットライフル」ですね)
さて、この「スプリングが仕込まれたビーム・ライフル」は、先端に発射パーツを差し込んで、レバーを押して発射するという、まさに70年代感覚の素敵レトロギミックが売りであり、しかもそれを20世紀も終わろうというタイミングでさらに活かそうとバンダイが頑張った結果、すごいことが起きてしまったのである!

ライフルを構えたサザビー
まずは「ビーム・トマホークが多すぎる」って、いや、そこじゃねぇ!
うん、「そこ」もさすがにどうかと思うよ?
確かに旧BB戦士時代のビーム・トマホークが小さすぎるから、改めて大きいのを持たせようと、で、わざわざ古いパーツを除去するのもなんだっていうんで、新旧被っちゃったっていうのは、まぁ良いとは思うんだ。
ちなみに、赤い新規パーツの中で、大小のビーム・トマホークとビーム・サーベルは、ライフルから発射するアイテムではなく、ライフルの代わりに直接右手に握らせるアイテムなんだけど……球体状の物はなんだって、それはだから、回答編で!

新規ランナーのビーム・トマホーク(大)を握ったサザビー
確かに、旧BB戦士版付属のビーム・トマホークはライフルから発射するものしかないので、手に直接握らせるには小さすぎる。サザビーは白兵戦にも特化していたので、ビーム兵器の多彩な変化を揃えるのも一興ではある。

通常のビーム・サーベルを握ったサザビー
なので、あえて普通のビーム・サーベルもあってよいし、どうせだったらクライマックスの二刀流グルグル回しを再現するために2本付けて欲しかったところ。

新規ランナーのビーム・トマホーク(小)を握ったサザビー
アックス(斧)という意味ではこっちの方がそれっぽい形とも言える。
さて、ここからは、70年代アオシマテイスト炸裂の「こんなもんライフルから発射すんなや!」を見て頂きたい。
まずはビーム・トマホーク。

「飛ぶトマホーク」ってゲッターロボみたいだよね
ふーむ。思っていたほどには悪くない。銃剣みたいで、そういう目で見ればカッコいいよ。ただ……それ……普通、飛ばすか?
そして、お次はファンネル。

「遠距離の敵めがけて、ライフルでファンネルを射出する」って、リアルガンダム系でも出来そうな設定です
「ファンネル本体をライフルで飛ばす」という発想自体が、いきなり突き抜けてるが、これはこれで、バレルと繋がったスプレッサーかサイレンサーみたいで、見た目は悪くない。
というか、ひっそり革新的なのは、スケールはともかく、ガンプラで「羽根が展開したファンネル」が正式なバンダイのキットでパーツ化されたのは、実はこれが初めてなのである。MGやHGUCでヤクト・ドーガやサザビーがリファインされるまでは、これが唯一の「展開ファンネル」のガンプラパーツだった。
さて……ここからが問題(しかも大問題)なのだが……。
とりあえず見てもらおう。

拳……? だよね?
うん、見た目には、70年代、いや80年代でも散見された、典型的な「ロケットパンチ」だ。
『マジンガーZ』(1972年)と、その商品化の超合金マジンガーZで一躍世間の脚光を浴び、一時期は合金玩具などでは、拳が飛ばない仕様のロボットであっても、いや仮面ライダー等のヒーローであっても、合金玩具化される時は義務であるかのように装備された「ロケットパンチ」だ。児童向け玩具のパーツとしては、なんら珍しい代物でもないし、むしろありきたりとさえ言える。
しかし、しかしだ。
改めて冷静に考えてみると、このキット、手首は既に腕と一体化して存在している。
「手に持った銃から発射される手」……。
なんか哲学か冗談みたいな図にしかならないような気がするのは大河さんだけなのか?

ロケットパンチ! ライフル装填完了! 発射準備よし!
こうか!? こうなのか!?
いや、おかしいだろ! おかしいよね!?
っていうか、「しょせんロボットだから、マシーンだから、ダダッダ」って割り切ればいいんだろうけど、手に持ったライフルの先端に拳が突き刺さってるって、それ人間で考えたらこれ普通にホラーだろ!
これ開発担当は「スプリングでロボットが飛ばす物っていったら、やっぱパンチでしょ」とか、何も考えないで7秒で決めただろ!
お前は「ポケットパワー」でスーパーロボットの中から出てきたカプセルに、レコードや顕微鏡を入れた、80年代初頭のアオシマと全く同じ知能レベルだ!
怖ぇよ! 普通にこの図、怖いよ!
……さて。残るは……。

ボール……? サザビーのきん〇ま?
はいはーい! みなさーん、ちゅうもぉーく!
「これ何?」「ただの赤いボール?」はい、そこ私語を慎むようにぃ!
これはですね、皆さんも『逆襲のシャア』の本編を観た人なら言われれば思い出すでしょうけど、物語クライマックス、大人げないシャアとアムロがモビル・スーツで殴り合った挙句、その殴り合いに負けたサザビーの頭部から転がり出てきた、コクピットの脱出ポッドなんですよー。
え?「そうは見えない」?「そうかもしれないけど、別の物かもしれない」?
いやいや、組立説明書にも、ちゃんと書いてあるんですよ。「脱出ポッド」って。

ここまできっぱり言い切られたら「はぁ、脱出ポッドなんですね」しかリアクションできない
え?「それがどうした」?「なんでそんなものが付属してんだよ」?
まぁとりあえず、これをライフルに取り付けてみましょう。

シャア総帥発射準備完了! 目標補足!
怖ぇええええ! さっきのとは全く違う意味で怖ぇええ!
なにこのサザビーぃいい! よりによってライフルで、手前ぇが所属するネオジオンの総帥、一番偉い人が入ってるポッドを撃ち出す気まんまんだよ! これでガンダムを殺る気だよ! むしろ、シャアそのものをぶつけてガンダムごとアムロを殺し、自分が天下を取りに行くとか、なんか「ロボットが自我を持って、自分たちを使役させていた人間を裏切り、罠にはめて抹殺して、世界をロボットの天下にする」っていう、古臭いSFのプロットみたいな図だよ!
このサザビーの目は、どっちへ向けて撃ち出しても総帥は死ぬし、運よくガンダムを撃墜できればシャア総帥とアムロを道連れで殺せて一挙両得とか考えてる目だよ! 上の猟奇的ロケットパンチもダメだけど、この人工知能覚醒人類皆殺し下克上SFみたいな構図も、幼い子どもに持たせる玩具の仕様じゃねぇだろう!
なに考えてんだ、バンダイ!

先生! あきらかに、どう見ても弾丸とちゃうもんも混ざっておりますが!?
「弾丸の発射方法」って、二万歩譲ってファンネルやトマホークを発射してもよいけど、拳や脱出ポッドを弾丸扱いしたらあかんやろ!
っていうか、弾丸にされる(そして中からは絶対抵抗出来ない)ネオジオンの総帥って……。
『回答編』
さて皆さん。
今回手にした、SDガンダム Gジェネレーション版サザビーの紹介は終わりました。
謎は解けましたか?
まだ分かりませんか?
「そもそもSDガンダム世代じゃない」「再現画像のためにガンプラを揃えてる」筈の大河さんが、どうしてこの、劇中のサザビーとは似ても似つかぬ、しかもトンデモ兵器を揃えたSDサザビーを購入したのか。
その答えはまさに「脱出ポッド」だったのです。
上でも書いたように、『逆襲のシャア』クライマックス、νガンダムのパンチを顔面にくらいまくったサザビーは、殴られた勢いで、頭部に収納されていた脱出ポッドが、シャアを乗せたまま射出されます。

『逆襲のシャア』劇中より。サザビー頭部から射出される脱出ポッド
それをすかさずνガンダムがキャッチ。抵抗どころか身動きできない状態でポッドに閉じ込められたままのシャアと、そのポッドを手にしたνガンダムが、地球へ落下しようとするアクシズに向かいます。

『逆襲のシャア』劇中より。νガンダムが両手で抱えてこの大きさ。ジオングの頭の中だってもうチョイ小さい気が……
その時、νガンダムはサザビーの脱出ポッドを手にしたままで、ここも当然再現の上では重要なシーンになるのですが……。

『逆襲のシャア』劇中より。うーん。いきなり脱出ポッドのサイズが、少し小さく変化してるような気が……
実はこのシーン、よくある「二次元の嘘」なのです。
よく観てください、2枚目の写真を。サザビーの脱出ポッドをνガンダムが両手で抱えています。サザビーの頭部はνガンダムと同等程度の大きさだったはずで、画像のポッドの大きさでは、あきらかに頭の中に入り切らないのです。
ここでバンダイ、ガンプラは、未来永劫解決することが不可能なジレンマのはざまで苦しみます。
アニメの設定に忠実に、頭部に収まる大きさでサザビーの脱出ポッドを作って、頭部着脱可能ギミック優先にすると、取り出した脱出ポッドがνガンダムの指でつまめる程度の大きさにしかなりません。
逆に、νガンダムが両手で抱える大きさで脱出ポッドを作ると、今度はそれを収納すべきサザビーの頭部が「小顔・脚長」のイマドキスタイリッシュを無視してしまい、むしろ、それこそSDかってぐらいに頭部だけが大きくなってしまいます。
なので、今現在発売されている1/100 MG版、及び1/144 RG版では、「脱出ポッドが頭部に収まっている」のではなく、「脱出ポッドを核にして、頭部の各装甲が張り付いている」構造にアレンジして素知らぬ顔を決め込んでいますが、MGやRGの構造だと劇中画像1枚目のようにはポッドは脱出できません。
さぁバンダイは困りました。大河さんも困りました。

キット自体の出来は、児童層向けとしての良いバランスで構成されているSDサザビー
最終的にバンダイがHGUCで決め込んだ判断は「脱出ポッドの存在自体をガン無視」でした。
HGUC版サザビー頭部は、モノアイ可動ギミックに決め撃ちして、脱出ポッドは存在にすら触れられませんでした。
賢明な判断だったでしょう。例えオプションでも付属させていたら、頭部に収納できなければ文句を言われ、νガンダムに持たせたときに小さければ文句を言われ、どちらにせよ濃いマニアに吊るし上げられて散々な目にあったに違いありません。
要するに、アニメ制作当時の「二次元の嘘」が壁となって、サザビーをスケールキットで再現する時には、脱出ポッドの着脱ギミックは再現不可能なのです。
そして矛盾から逃げる道を選んだバンダイのおかげで、今現在「1/144 サザビーのアニメ設定どおりに収納される脱出ポッド」はどこにも商品が存在しないのです。

HGUCのνガンダムとサザビーと、この脱出ポッドとの比較
そこで大河さんはこれを見つけるまでは、クライマックスの再現での脱出ポッドには、それっぽい球体素材を「見立て」で使うというのも選択肢でした。
幸いにも脱出ポッドは基本的には余計なディテールのない球体ですし、あとはパネルラインが彫られているだけですから、写真や画像の角度や加工で誤魔化せれば御の字です。
しかし。
あったのです。
正確には「1/144 サザビーの頭部に入る脱出ポッド」ではなく、あくまで「1/144 νガンダム」が「手に持って程よい大きさ」の「サザビーの脱出ポッド」のガンプラパーツが、ここにあったのです。

試しに、HGUCサザビー頭部のカバーの中に乗せてみる。既にオーバースケール
確かにSDガンダムシリーズはノンスケールですし、そもそもスケールを問う性格の模型ではないです。しかし、もとからこっちの目的は「二次元の嘘」を再現する横車押しですし、なにより「その辺にあった球体素材」ではなく「正規ガンプラのパーツ」であるということはポイントが高いです。
写す角度さえ間違えなければ、ポッド表面のディテールも初めから正確に入っています。これぞまさに「1/144 サザビー脱出ポッド」と言えるのではないでしょうか?

しかし、先ほどの劇中場面を再現させようと思うと、νガンダムが両手で抱えるというほどの大きさではないことも見て分かるとおり
ガンプラだけではなく、バンダイはたまに「こういう仕掛け」を広い商品枠で配置します。
一時期の「装着変身」の平成仮面ライダーとサイズが合うバイクが、正規バンダイの商品内にはなく、系列会社のバンプレストのプライズ商品で出てきたバイクがサイズがぴったりだったとか。現在ウルトラマンシリーズの可動フィギュアはフィギュアーツがメインですが、2013年まで売られていたウルトラ怪獣シリーズのソフビは、宇宙人相手だとウルトラACTがサイズが合いますが、怪獣相手だと今のフィギュアーツがちょうどサイズが合うとか。

「たかが石ころ一つ、νガンダムで押し出してやる!」の名シーン再現も、この脱出ポッドがあればこそ
このGジェネ版サザビーの脱出ポッドも、企画した側はあくまでネタ的な、お遊び的な発想でパーツ化されたのかもしれませんが、「リアルタイプスケールガンプラ」が抱えて解消できない矛盾を、「SDガンプラ」が補完すると考えると、断絶感のあったリアル派とSD派の間に、見えない絆のようなものさえ感じられます。
広大なガンプラの歴史と商品点数です。
探せば他にも、リアルとSDを繋ぐアイテムが見つかるのかもしれません。
(追記・今回の記事本編は、RG サザビーの仕様が発表された8/8以前に執筆されました。なのでこの記事が掲載される時点では「1/144 サザビーの脱出ポッドはガンプラ化されていない」は上書き修正されるべきですが、仮に「サザビー本体はHGUC版で満足だから、脱出ポッドのためだけに5千円近くも出したくない」という方の参考になれば幸いです)
市川大河公式サイト