1977年の夏に全米で公開されるや、世界中で大ヒットを記録した伝説のSF映画『スター・ウォーズ』。
当時の日本でも大きな話題となり、子供たちもその一日も早い日本公開を待ち望んでいたのだが・・・。
その期待も空しく、なんと日本での公開は、ほぼ一年後の1978年の夏までズレ込むことに!
そこで日本の映画会社は、各社競争でこの空白の期間に日本版『スター・ウォーズ』を作り上げ、二匹目のドジョウを狙う作戦に出ることにしたのだった!中でも有名なのは、東映が製作し1978年4月に公開された、SF版里見八犬伝『宇宙からのメッセージ』だろう。

『宇宙からのメッセージ』ポスター
現在でも多くの映画ファンの間でカルト的な人気を誇る本作も素晴らしいのだが、更にそれよりも早く『スター・ウォーズ』全米公開と同じ1977年の12月に、あの東宝がお正月映画として堂々公開したのが、この『惑星大戦争』だ!

『惑星大戦争』DVDジャケット
今もミドルエッジ世代の記憶に残る、ドリル付き宇宙戦艦「轟天号」のカッコよさ!
そう、子供の想像力を刺激するそのデザインは、正に「お子様ホイホイ」そのものだったと言える。
しかし、当時残念ながら映画館に連れて行ってもらえなかったミドルエッジ世代の子供たちにとって、正に救いの女神となったのが、今回紹介する『惑星大戦争』のコミカライズ版だったのだ。
そこで今回は、その独自のアレンジでマニアの間でも名作の呼び声が高い、この『惑星大戦争』コミカライズ版を紹介することにしよう。
和製『スター・ウォーズ』を目指した映画『惑星大戦争』とは?
往年の東宝特撮映画の名作『海底軍艦』や『宇宙大戦争』をモチーフに、時代を越えて見事に宇宙戦艦として蘇った「轟天号」対、敵の侵略者ヨミ星人が操る「金星大魔艦」との戦いを描いたその内容は、『スター・ウォーズ』に憧れていた当時のミドルエッジ世代の子供たちの心を、完全に鷲掴みにしてしまった。

『惑星大戦争』チラシ
何しろ、宇宙戦艦なのに何故か艦首にドリル!というそのデザインは、正に当時の子供にとっては夢のデザイン!当然公開に際しての宣伝展開も、子供向けの商品に力を入れて展開されていたのだが、ミドルエッジ世代にとって懐かしいのは、何と言っても当時売られていた『惑星大戦争』のトレーディングカード入りガムだろう。

『惑星大戦争』のステッカー
実は、本家『スター・ウォーズ』のアメリカ公開時にも、子供向けの宣伝としてこうしたガムカードが販売されていた。当時この手のカードは、駄菓子屋で2枚10円で売られているのが普通だったのだが、スーパーのお菓子売場でガムと一緒に買えるとあって、当時の男の子は皆これに飛びついたのだった。
この様に、本作のヒットに賭ける東宝の熱意は凄く、本作がお正月映画として当時人気絶頂だった百恵友和の共演作である『霧の旗』との二本立てで公開されたことからも、その期待の高さが伺える。
実は子供向けの内容ながら、大人の観客にとっても後述する浅野ゆう子のボンテージファッションという見せ場が待っている本作。
果たして、子供向けのコミカライズ版ではその辺はどうアレンジされていたのだろうか?
*細かいストーリーなど、更に深く知りたい方は以下のリンクからどうぞ。
惑星大戦争 - Wikipedia
『惑星大戦争』コミカライズ版概略

掲載誌表紙
本作が掲載されたのは、「月刊少年マガジン」1978年1月号。同じく1978年1月号に掲載された『オルカ』をもって、ライバル誌「月刊少年チャンピオン」での劇画ロードショーが終了したこともあり、「月刊少年マガジン」誌上での映画コミカライズ版掲載は、これが最後の作品となっている。
本作の作者は、「月刊少年チャンピオン」誌上でも数々の名作コミカライズ作品を発表されていた、居村真二先生。後述する素晴らしすぎるアレンジにより、本作は居村先生の代表作として今も多くのファンの記憶に残っている。
『惑星大戦争』コミカライズ版内容紹介

本作の扉絵

金星からの攻撃で世界は壊滅寸前に!
1988年、地球は宇宙の侵略者ヨミ星人からの侵略を受けていた。
敵の凄まじい攻撃により、世界の主要大都市と地上の国連軍基地は壊滅状態に・・・。

宇宙戦艦轟天号出撃!

地球を旅立つ轟天号と乗組員たち!
密かに建造中だった、人類最後の希望である宇宙戦艦「轟天号」が遂に完成!
地上を襲う敵のヘルファイターを撃破し、敵の前線基地のある金星へと向かうのだった。

金星には敵の巨大戦艦が!

これが話題となった浅野ゆう子のボンデージファッション!

何とガムカードにもこの写真が!
子供心にも衝撃的だったのが、このシーン!
今から考えると、後の『ジェダイの帰還』におけるレイア姫の奴隷姿を先取りしていたとしか思えない。
ちなみにこの時着ていた黒の衣装が、実は浅野ゆう子本人の私物だった!というのは有名なエピソードだ。
さて、映画ではボンテージファッションだったこのシーンが、居村先生の手によってどうアレンジされたかというと・・・。

コミカライズ版では更に過激に!

全裸で拷問を受けるヒロイン!
このコミカライズ版では、何と敵に囚われたヒロインがどういう訳か全裸にされるというサプライズ!
しかも、そのまま電撃で拷問される衝撃の展開に続くという、当時の子供たちに映画以上の衝撃を与えた、伝説に残る名アレンジが炸裂するのだった。

敵の秘密兵器「重力砲」が轟天を直撃!

ドリルに隠された「惑星爆弾」で特攻する艦長!

敵の侵略の理由とは?
実は敵もまた彼らなりの切実な理由があって、地球を侵略したことが語られる本作のラスト。戦いによる勝利が決して手放しで喜べるものではないことを示唆して終わるラストは、正に『宇宙戦艦ヤマト』を思い出させるものとなっている。
実は、『宇宙戦艦ヤマト』の劇場版が公開されたのは、海の向こうアメリカで『スター・ウォーズ』が公開されたのと同じ、1977年の夏のことだった。『スター・ウォーズ』と『宇宙戦艦ヤマト』、この2本の公開により日本の映画興行界は、次第に若者向け作品へとそのターゲットを変えていくことになる。それに伴って、映画のコミカライズも1978年を境に雑誌連載からは撤退することになるのだが、この『惑星大戦争』コミカライズ版こそは、正にその最後の輝きだったと言えるだろう。
最後に
いかがでしたか?
とにかくライバルの東映よりも早く、しかもお正月映画として公開するためにかなりの短期間で製作された本作。
ストーリー自体は過去の東宝特撮映画を下敷きに、今から観ると全体的にこの当時ブームとなっていた『宇宙戦艦ヤマト』の影響が強いのだが、当時の子供の目には本当に魅力的なスケールの大きいSF映画に思えたものだった。
果たして、その輝きは本物だったのか?もう一度再確認するためにも、是非本作を観返して頂ければと思う。