大島渚
日本を代表する映画監督のひとりである大島渚。60年代に「青春残酷物語」「忍者武芸帳」「絞死刑」「新宿泥棒日記」など多くの話題作を作り出し、世界でも認められた映画監督です。

大島渚
その大島渚が世界的に広く知られるようになったのは、やはり1976年公開の「愛のコリーダ」でしょう。

愛のコリーダ
「愛のコリーダ」が日本初のハードコア・ポルノとして余りにも注目されたことで、次作「愛の亡霊」は陰に隠れてしまっていますが、実はこれが素晴らしい作品なんです。
愛の亡霊
1978年公開の「愛の亡霊」も、「愛のコリーダ」同様にフランス資本の日仏合作映画です。仏題は「L'Empire de la passion」で、「情熱の帝国」という意味です。
因みに愛のコリーダは、仏題が「 L'Empire des sens」で、「官能の帝国」です。

Empire of Passion
物語自体は複雑なものではありません。寡婦と愛人と殺した夫の亡霊との明治時代の農村を舞台に繰り広げられる奇妙な三角関係です。
復員兵の豊次と26歳も歳の離れた人妻のせきは関係を持つようになります。2人の仲を断ち切れないせきは、豊次と共謀して夫の儀三郎を殺害したのですが、やがて儀三郎の亡霊が夜毎現れ彼らを苦しめるようになるといった内容です。
主な登場人物は3人です。

藤竜也 吉行和子
「愛のコリーダ」に続き主役の田中豊次を藤竜也が、人妻の塚田せきを吉行和子が熱演しています。

藤竜也 吉行和子
見どころは2人の狂おしい絡みですね。

Empire of Passion
カメラワークが素晴らしく、非常に艶めかしいのです。

Empire of Passion
構図も美しいです。

藤竜也 吉行和子
愛を突き詰めると狂気が宿るのかもしれませんね。
エロチックなシーンですが、せきを独占したい豊次は、その証に陰毛を剃らせたりします。そして殺人へ。。。
藤竜也演じる豊次よりも26歳年上という設定だった吉行和子は当時43歳。ハードコア作品への出演に周囲は猛反対だったそうです。

Empire of Passion
いや、それにしても吉行和子は映画の内容同様に実年齢よりも若く見え美しいです。

Empire of Passion
しかし、まぁ、圧倒的な存在感を見せつけるのは、塚田儀三郎を演じる田村高廣です。雰囲気があり過ぎます。

田村高廣
田村高廣は、あの二枚目俳優 田村正和の実のお兄さんですね。

Empire of Passion
ところで、「愛の亡霊」は小林正樹監督の1964年公開の映画「怪談」と同じスタッフ(製作代表:若槻繁、撮影:宮島義勇、音楽:武満徹、美術:戸田重昌、編集:浦岡敬一)で制作されています。
カンヌ国際映画祭
「愛のコリーダ」は認知度が高く、大島渚の代表作として語られることの多い作品ですが、評価としては「愛の亡霊」の方が高いのです。
アカデミー賞(外国語映画部門)こそ候補から漏れたものの、第31回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞しています。
当時は、なかなか熱狂的でした。

愛の亡霊
また、武満 徹が担当した音楽は、「燃える秋」とあわせて、第2回 日本アカデミー賞の音楽賞を受賞しています。
本作も同様なのですが、名作をなかなか観ることが出来なくなってきている昨今。毎年多くの作品が生まれていることを考えると仕方のないことかもしれませんが、いつでも手軽に観ることが出来る環境が欲しいものです。