1991年の映画『大誘拐』第15回日本アカデミー賞・優秀作品賞を受賞した名作
1991年に公開された『大誘拐 RAINBOW KIDS』(だいゆうかい レインボー・キッズ)。
1978年に推理作家・天藤真が発表した推理小説を映画化したもの。82歳の小柄な老婆が国家権力とマスコミを手玉に取り100億円を略取した痛快な大事件を描いている。
1979年、第32回日本推理作家協会賞を受賞。週刊文春ミステリーベスト10の20世紀国内部門第1位。

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監督・脚本は「日本のいちばん長い日」(1967年)や「肉弾」(1968年)、「座頭市と用心棒」(1970年)、「ブルークリスマス」(1978年)の岡本喜八が務めた。この映画でも長年コンビを組んだ作曲家・佐藤勝の音楽が用いられている。
同作は第15回日本アカデミー賞・優秀作品賞を受賞している。
また、劇中において隣村の娘・邦子役で出演する岡本真実は岡本喜八の娘である。岡本真実は他にも岡本作品である「ジャズ大名」(1986年)、「助太刀屋助六」(2002年)にも出演している。

映画「日本のいちばん長い日」
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映画「座頭市と用心棒」
他にも柳川とし子(※刀自)役に、30代から数多くの老け役を演じた「日本一のおばあちゃん女優」の北林谷栄が出演し、三人組の誘拐犯を次第に自身のペースに引き込む、絶妙でいてユーモラスな演技を披露した。
その誘拐犯のリーダー・戸並健次役として若き日の風間トオル、誘拐犯を追い詰めていく敏腕和歌山県警本部長・井狩大五郎役に緒形拳が出演。
※刀自(とじ)とは中年以上の婦人を尊敬して呼ぶ語。劇中でも井狩が刀自を分からない部下を怒鳴りつけるシーンがあった。

風間トオル / ただひとつの「さよなら」

書籍「緒形拳を追いかけて」
さらに脇を固める俳優陣では、仮面ライダーシリーズの死神博士や「たけし・逸見の平成教育委員会」の生徒役で知られる天本英世、当時「帝都物語」で人気俳優の仲間入りをしていた嶋田久作、ザ・タイガース、PYGのベーシストで独特な演技をみせる岸部一徳なども顔を並べた。
なお、山藤章二と景山民夫は友情出演している(終盤、柳川家前のマスコミのシーン)。
あらすじ(ネタばれあり)
大誘拐 RAINBOW KIDS - 作品情報・映画レビュー -KINENOTE(キネノート)

左から三宅平太(西川弘志)、戸並健次(風間トオル)、秋葉正義(内田勝康)
大誘拐 RAINBOW KIDS | 映画-Movie Walker
そして、身代金の受け渡し日になった。全世界へ生中継され、各国の記者が日本で情報を得ようと奮闘し、柳川家もてんやわんやの状況に。こうした大騒ぎの中で、刀自率いる誘拐グループは、井狩ら警察を見事騙す事に成功。百億は誘拐犯に渡り、事件は終わった。
三人組はそれぞれの道を歩んでいく。その後、柳川家に戻り日常を過ごす刀自の前に、井狩が姿を現わし、刀自と事件を語り合う。その直前、刀自の傍には健次の姿が見える。
健次は宮大工を行う職人として柳川家に潜り込んでいたのだ。そして、健次が修理していたお社の中に百億が眠っている事に井狩は気付かないのだった。
喜劇のヒロイン?北林谷栄
誘拐された際も毅然とした態度を取り、まんまと誘拐犯達を手玉に取る刀自として、ユニークな役を演じた北林谷栄(きたばやし たにえ)。その女優人生を振り返る。
1936年、新協劇団へ入団し築地小劇場の「どん底」ナスチャ役で同劇団での初舞台を踏み注目を集め、1947年、宇野重吉や滝沢修らと民衆芸術劇場を設立。
映画デビューは1937年公開の成瀬巳喜男監督の「禍福」。黒澤明監督の「醜聞」では志村喬演じる老弁護士の妻を演じるなど好演する。
市川崑監督の「ビルマの竪琴」には、1956年版と1985年版の両作に出演している。
若い頃から老け役が多く、30代後半で、既に老女役は北林という名称を獲得し、日本を代表するおばあちゃん役者として広く知られた。特に田舎の農村・漁村・山村で生活するおばあさんを演じる事が多かった。
本人が東京銀座の生まれという事もあり、口跡爽やかな江戸っ子(「鬼平犯科帳」第1シーズン第13話「笹やのお熊」1989年)・東京っ子(「銀座わが町」1973年) も演じた。
1989年にドラマ撮影のため滞在していたアメリカ・オレゴン州で脳動脈瘤破裂で倒れ、一時は生死すら危ぶまれたが大手術とリハビリが功を奏し、翌1990年に舞台で復帰している。
1991年公開だったこの『大誘拐』で可愛らしくも転んでもタダでは起きない強かで得体の知れない老ヒロイン ・柳川とし子刀自を演じ日本アカデミー賞・最優秀主演女優賞を受賞し、健在振りを示した。
2000年代に入ってからは身体の衰えから女優業はセーブするも、2002年公開の「阿弥陀堂だより」では、主演を務めたのが劇団民芸創設時からの盟友だった故・宇野重吉の息子寺尾聰である事から出演を快諾し、阿弥陀堂を守る老女を演じ、日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞を受賞した。
2010年4月27日午後8時40分、肺炎のため東京都世田谷区の病院で死去(永眠)した。
小説との違い
原作小説では、柳川本家の屋敷の所在地は「和歌山県津ノ谷村」という架空の村だったが、映画では実在する「和歌山県龍神村」に変更されている。ただし原作小説でも、津ノ谷村の立地は現実での龍神村かその近辺であるような描写はされている。
ちなみに映画では、舞台となった和歌山の地元独立局であるテレビ和歌山が撮影協力し、局内やスタジオ、テレビ中継車が随所に登場した。

大誘拐 (角川文庫)
作品データ
監督・脚本:岡本喜八
原作:天藤真
音楽:佐藤勝
撮影:岸本正広
編集:鈴木晄、川島章正
配給:東宝
公開:1991年1月15日
上映時間:120分
配給収入:5.5億円
誘拐されて立場が弱者である筈の刀自が、なぜか気概を持って井狩に挑んでいく様子がコミカルに描かれた『大誘拐』 。風間トオルのドジな役柄もほっこり出来る良作となっていた。