『ガンプラり歩き旅』その42 ~スペースコロニーのガンプラ!? いえいえ、これは「スペースセツルメント」です!~

『ガンプラり歩き旅』その42 ~スペースコロニーのガンプラ!? いえいえ、これは「スペースセツルメント」です!~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、今改めて当時のキットから現代キットまで発売年代順に、メカ単位での紹介をする大好評連載の第42回は、バンダイのガンプラではなく、第三メーカーWaveのSFキットを紹介!


第1ドッキング・ベイの形状は『ガンダム』世界のスペース・コロニーとは異なってデザインされている

そこではきっと何かの事情があるのだろう。90年代末のフィギュアバブルの波の中で、『ガンダム』からは、上記したマ・クベの壺をはじめ、ありとあらゆる立体物が商品化されたが、スペース・コロニーそのものが商品化されたのは、あくまで「コロニー落とし」という現象そのものをジオラマミニチュア化させたデスクトップアクセサリーぐらいか。

こちらは、設置スタンドに繋がれた第2ドッキング・ベイ

あえてバンダイが出さない商品を、ライバルであるアオシマやタミヤが手を出すのもどこか不自然だし、不自然を指摘するなら、さすがに2000年代になってまで、バンダイが一度も商品化していないことすらおかしいと、ファンの誰もが気づいていた2010年代。
ガレージキットメーカーとしては老舗に入り、他社より抜きん出て早く、インディーズメーカーでありながらインジェクションプラモデルを発売し始めた実績のあるWaveが、2015年突如『スペース・セツルメント』なる商品を、インジェクションプラスチックスナップフィットキットという、まるでガンプラへの当てこすりのような仕様で、第三メーカーながら発売し始めて、話題を一気にさらった。

宇宙を背景に、ホワイトベースと共に写ると、見事に世界観に調和してくれる

ここでまず重要なことは、この商品はあくまで「オニール計画からの延長上にある、スペース・コロニーを模型商品化したものである」という前提であって、決して「ガンダムのメカニクスのプラモデル化、いわゆるガンプラではない」ということ。
なので、細かいことを言い出してしまえば、「ガンプラを紹介する」触れ込みのこの『ガンプラり歩き旅』連載では、本来であれば扱えない商品のはずなのだが、まぁその辺りは皆さんどうか、ゆるく見守っていただけるとありがたいということで……。

農業・水産の回転プラントも形は異なるが回転可能

Waveがプラモデルで売り出した『スペース・セツルメント』は、由緒正しいオニール型コロニーで、しかも模型化に当たってのデザイン、それも細部までをもみっちりと、『ガンダム』でもSF考証に当たったスタジオ・ぬえの筆頭メンバーで、他の『ガンダム』シリーズや『マクロス』シリーズや、富野監督作品では『聖戦士ダンバイン』(1983年)等でメカデザインを担当した宮武一貴氏が、徹底した考証でデザインを行っていて、商品にもそれらのデザイン画稿を満載したブックレットが、組み立て説明書とは別個に付属するという、まるで「この商品は『ガンダム』に便乗しようとする気は一切ありません」を、真正面からアピールするかのような本気度で模型化された。

この角度から見るコロニー外壁は、『機動戦士ガンダムF91』(1991年)等で印象深い

ちなみに、商品名称が「スペース・コロニー」ではなく「スペース・セツルメント」なのは、英語圏では「コロニー」が植民地を意味するため、差別的な意味を含むとされて、欧米で「格差や人種を越えた下層社会の共同生活事業」を意味する「セツルメント(Settlement )」という名称が用いられることになったわけであり、この辺りは姑息な名前変えによるアリバイ商法というよりは、バンダイが「スペース・コロニー」という名前の商品を発売できない理由が推察できるようで興味深い。

しかし、この「スペース・セツルメント」なる模型。
いざ買って、組み立てて(パーツ数は少なくスナップフィットだが、ある種ガレージキットでもあるので、実際の作業では、パーツの合い等を確認しながら接着組み立てをお勧めする)みると、いろいろ納得の部分が分かってくる。

『ガンダム』世界のコロニーとは、ミラーの開く方向が逆ではある

完成した「スペース・セツルメント」は、ドッキングゲート含め全長20cm程で、商品的にはノンスケール扱いではあるが、ガンダム世界での標準コロニーの設定を基にするのであれば、1/150000辺りといったところであろうか。
キット構成は単純だが、コロニー内部の大地や外部ミラー内側にはシールが貼られる仕様で、それらとクリアパーツが相まって、みんながずっと『ガンダム』で見てきた「あのスペース・コロニー」が、確かに精密リアルなキットとして手にできるというのは感動モノである。

「あえて」既存の『ガンダム』のスペース・コロニーとは印象を変えようとしたのか、リング状のプラント部の形状や数を大幅に変更していたり、ドッキング・ベイも、『ガンダム』標準のお馴染みの形から逸脱してみたりしている。
『ガンダム』のスペース・コロニーとの最大の違いは、回転プラントの軸の位置と、放射状ミラーの開く方向との関係性だが、実は筆者も作り終わってから気づいたのだが、この方向の関係性はキットをカスタムすることなく、パーツの組み合わせ手順を少し変えるだけで、簡単に『ガンダム』のスペース・コロニーと同じシルエットにすることが出来る(もっとも理論上は、このキットの位置関係の方が正しいのだが)。

ミラーのディテール表現はシールだが、幾何学模様が「いかにも」感を誘う

多分、さらにそこそこ気合と手間をかけて改造してやれば、相応に『ガンダム』のスペース・コロニーに近い物に仕上がるとは思うが、筆者は今回はストレートに組み上げた。
付属のシールも使ったが、彩度の高い色味が全体の印象の邪魔をするのと、貼るのが面倒なので、農業・水産プラントのクリア部分のシールだけは貼らなかった。
後は、表面のディテールに墨入れをしたのみ。
表面ディテールやドッキング・ベイの立体構造などに墨入れをしていると、いかにもな宮武一貴氏独特のラインに、ついついにんまりしてしまい、ちょっと『さよならジュピター』(1984年)の「TOKYOⅢ」のプラモデル化を夢見てしまったり。

『ガンダム』本編のデザインとは異なるが、宮武テイスト全開の絶妙ドッキング・ベイデザイン

キットは、一応ミラーと本体が回転して、多少の印象を変えることが出来るが、付属のスタンドに金属シャフトで接続する仕様なので、まぁ固定ディスプレイモデルと思った方がいいだろう(もっとも、このキットを手にしてブンドドをする人もまずいないだろうが(笑))。

こうして正面から見ると、「ガンダムの世界」が目前に広がってくるかのようである

パーツの合いが緩い、プラスチックが柔らかく脆いので、細い軸や加工には向いていない、パーツ数が極端に少ないのに高価い(と思う人もいるだろう)、等々の不満もあちこちで聞こえるが、どっこい、こっちは30年以上も待ち焦がれた商品なのだ。その程度の不満で伸びた手が引っ込む道理もない。

逆に、ミラーやシリンダー内部のシールの質感なども丁寧で、少ないパーツ数で、これだけ宮武イズムを立体再現できていれば満点ではないだろうか?
『ガンダム』世界でもコロニーごとに個体差はあるので、腕に覚えがある人は、このキットをベースにして、サイド7に拘って改造するもよし、クラッシュモデルに近い方向でテキサス・コロニーを作るもよし、懐に余裕がある人は、2個買って密閉型コロニーを作り(パーツの構造上、それが可能)、サイド3やソーラ・レイ、『機動戦士Zガンダム』(1985年)クライマックスのコロニーレーザーなんかを作ってみることも面白いかもしれない。

キットカスタムではなく画像加工ではあるが、こんな感じでテキサス・コロニーの気分を出すことは可能だ

さて、残す興味は、冒頭でも書いた「ガンダムキャラのアクションフィギュア」であるが、2017年のホビー系ショーでの参考出品で、ノーマルスーツのみでのフィギュア商品展開は参考出品はされたみたいだが……実際はどうなりますことやら。

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