『ガンプラり歩き旅』その42 ~スペースコロニーのガンプラ!? いえいえ、これは「スペースセツルメント」です!~

『ガンプラり歩き旅』その42 ~スペースコロニーのガンプラ!? いえいえ、これは「スペースセツルメント」です!~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、今改めて当時のキットから現代キットまで発売年代順に、メカ単位での紹介をする大好評連載の第42回は、バンダイのガンプラではなく、第三メーカーWaveのSFキットを紹介!


『機動戦士ガンダム』冒頭の、この角度のスペース・コロニーがイメージに焼き付いているファンは多いはず!

私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。

今回紹介するのは、ガンプラでは長年商品化が待望されつつもかなえられることがなかった「スペース・コロニー」を「ガンダムの商品ではない」アプローチでかなえた、Waveのインディーズプラモデル『スペース・セツルメント』の紹介です!

スペース・コロニー ノンスケール Wave スペースセツルメント 2015年2月 3600円

ボックスアート。確かに『ガンダム』シリーズの1シーンにも見えると同時に、SF小説の表紙や、SF洋画のポスターのようにも見える。

ガンダムブランドの王、ガンプラも、商品ジャンルとなってから40年近く経過すると、系列会社のプライズ商品なども含めると、その商品点数は膨大な数となり、概ね『機動戦士ガンダム』(1979年)本編に登場した立体物は「マ・クベの壺」だの「アムロは少年の頃に気に入っていた木彫り人形」だの「酸素欠乏症にかかったテム・レイの究極回路」だの、出オチにしか見えないネタまで含めて、およそ思いつく範囲では、全て商品化されつくしたようにも思える。

これがWaveの「スペースセツルメント」の完成状態

しかし、たとえモビル・スーツが、映像作品に登場しないMSVまで商品化されようとも、ガンプラをメタ的に扱った漫画やアニメのモビル・スーツまでガンプラ化されようとも、「決して商品化されることがない」「しかし、商品化を思いつくことはとても容易であり、なおかつ確実に売れると分かっているはず」の商品カテゴリというのが、幾つか散見されることも有名である。

この画像を見れば、誰だって永井一郎氏のナレーションが耳に蘇える!

一つは「ガンダム登場キャラの、アクションフィギュア」である。
この商品カテゴリは、ほんの少しだけ、バンプレストがプライズで、北米バンダイがアメリカで、それぞれ商品化したことはあるが、figmaやリアル・アクション・ヒーローズなど、37年前には考えられなかったほどに、メジャーからマイナーまで、各社がアニメや特撮のアクションフィギュアを展開する中、他ならぬバンダイも、S.H.Figuartsという商品ジャンルを抱えて、版権王国のバンダイらしく、『仮面ライダー』『ウルトラマン』『戦隊シリーズ』などの特撮物から、『ドラゴンボール』『キン肉マン』などのアクションアニメから『プリキュア』『アイカツ』などの美少女アニメから、最近では『バットマン』『アイアンマン』などの洋画から、ミッキーマスなどディズニーや、果てはブルース・リーなどの実在俳優から実在格闘家まで、幅広く展開しているブランドがあるのだが、なぜか歴代ガンダムシリーズのキャラクターの「アクションフィギュア版」S.H.Figuartsは、(『機動武闘伝Gガンダム』(1994年)の主人公と師匠のみ商品化)シリーズ展開されていないのだ。

確かに「ロボットアニメの主人公はあくまでロボットであり、キャラはそのパイロットでしかなく、主人公ではない」と言えばそれまでなのだが、今のこのアクションフィギュア全盛のご時世で、シャアやアムロのアクションフィギュアが商品化されないという理由としては、ちょっと弱すぎやしませんか?と。

確かにガンダムシリーズに限らず、特にサンライズ・富野監督作品の登場人物達は、アクションフィギュア商品化されていないのが現状だけれども、ちょっと視野を広げてみると、『装甲騎兵ボトムズ』(1983年)の主人公・?キリコ・キュービィーは、やはり「ロボット物の主人公でパイロット」なのに、ここ30年間で数社からアクションフィギュアで商品化されたし、バンダイでもマクロスシリーズの新作である『マクロスΔ』(2016年)の美少女キャラたちなどは、ちゃっかりS.H.Figuartsでシリーズ展開されているのだ。

であれば、ことガンダムのキャラがアクションフィギュア化されないのは、「それなりの理由があって」と、邪推するしかないのも本音。
だって、シャアだってアムロだって、ブライトさんやスレッガーさんだって売れるだろう。
漢ガンダムファンなら、ランバ・ラルや黒い三連星を求めるだろうし、ギレンを演説のポーズで立たせておいてもいい。
むしろ、ヘルメットで顔が分からない、ジオン一般兵のノーマルスーツのフィギュアだって(アクションフィギュアであれば)需要があると思う
美少女でなきゃあかんというのでも、セイラさんをはじめとして、フォウ、エマ、エルピー・プル、リリーナ、カテジナ様と、ガンダムシリーズでフィギュア化すべき美少女は少なくないはずだ(今挙げた例は主観です(笑))。

ところがバンダイはこれをしない。なぜだ!?
……と、ギレン演説的にアジテーションしたところで、そろそろ本題に入らないとみんながこのページをすっ飛ばすので、そろそろ今回のアイテムのご紹介に入りたいと思います。

『機動戦士ガンダム』第1話冒頭より。サイド7に今向かう、ジオンのザク3機!

今回紹介するのは、上で挙げた「なぜかガンダムで商品化されない二種類」のもう一つ「スペース・コロニー」の“事実上の”精密プラモデルキットなのである。

さぁややこしいぞ。

まずは、『ガンダム』が制作放映された70年代後半という世相の、著作権や意匠意識というものを辿ってみれば、特にその時代、多くのパロディ漫画が幅を利かせていたことからも、おおらかだったことが分かる。
例えば『ガンダム』のビーム・サーベルとほぼ同じ光刀身剣の、レーザー・ブレードという武装が、東映が1982年から制作放映開始した『宇宙刑事ギャバン』をはじめとするメタルヒーローシリーズに登場するが、これらは共に、1977年に制作され、翌年日本で公開された『スター・ウォーズ』のライト・セイバーを拝借したものであることは、今更説明する必要もないぐらいに有名である。

反対の角度から。スタンドと本体は金属シャフトで繋がれている

そういった、デザインや設定の諸々を、既存の外交映画等から借りてくるパターンは60年代から健在であったが、『ガンダム』のスペース・コロニーの場合は、「作品」から借りてくるのではなく、学術的な研究成果から借りてきてしまったのだ。
正確には、スペース・コロニーという名称、そして代表的な(『ガンダム』内で描かれた)シリンダー型コロニー(余談だが、シリンダー型ではなく、スタンフォード・トーラス型スペース・コロニーは、先述した『宇宙刑事ギャバン』第1話でも登場した)のデザインや用途、機能、大まかな物理設定概念などは、アメリカ、プリンストン大学のジェラード・K・オニール博士によって1969年に提唱され、1974年にアメリカ、ニューヨークタイムズに掲載されたことで、広く認知されたというのが背景にある。

『機動戦士ガンダム』後半。サイド6を脱出するホワイトベース

そう、スペース・コロニーは、『ガンダム』世界の根幹に関わる重要な設定ではあるが、その発想そのものは、『ガンダム』のオリジナルではなかったのだ。
なので、スペース・コロニー自体は既存のフィクション作品のメカデザインではないが、逆に何かの作品やプロダクションに著作権が帰属するデザインや概念ではないため、これまでに、多くの(日本のSFやアニメでは、その殆どは『ガンダム』以降の影響下ではあるが)映像、文学作品に登場している。
有名なところでは、『2001年宇宙の旅』(1968年)序盤に登場する円形宇宙ステーションも、ある種のスタンフォード・トーラス型スペース・コロニーであるとする見方もある。

それを追ってすぐさま展開する、ジオンコンスコン准将のリック・ドム部隊と、その背景のサイド6のスペース・コロニー群

そういった諸事情を考えれば、確かにスペース・コロニーは、『ガンダム』が生み出した設定やメカではないのだから、迂闊に独占して模型商品化することは許されないような気もするが、逆を言えば何かの作品の著作権が発生しているわけでもないので、どの模型メーカーが商品化しても、構わないような気もする。
それはバンダイのみならず、タミヤでもフジミでも、海外のイタレリでも良いわけだが、なぜだろう、外国メーカーはともかく、国内メーカーであれば簡単な手続きだけで、『ガンダム』のメイン世界観メカを模型化出来るというのに、『ガンダム』ブーム以降30年間以上も、どこからもこのスペース・コロニーを商品化するというメーカーは現れなかった。

シリンダーも、川(ガラス)はクリアパーツで作られていて内部が見える構造になっている

バンダイも、それこそ80年代のガンプラブーム時に『サイド7』の模型化の企画とモックアップを参考発表したが、結果それは発売されず、むしろ『伝説巨神イデオン』での、アオシマの「1/20000 バイラル・ジン」に“超特大サイズアニメメカスケールプラモデル”伝説の座を、文字通り奪われた形になった。

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