百鬼夜行シリーズとは?
第二次世界大戦後の日本を舞台としている推理小説群。作者は京極夏彦。
シリーズを通して共通の登場人物が多くおり、解決パートでは古本屋にして陰陽師の京極堂(中禅寺秋彦)が《憑き物落とし》をする。
そのことから《京極堂シリーズ》という通り名もあるが、公式は《百鬼夜行シリーズ》と呼ぶことを望んでいる気配がちらほら。

京極夏彦
Amazon.co.jp: 京極 夏彦:作品一覧、著者略歴
「百鬼夜行」「百器徒然袋」「今昔続百鬼」などが番外編として登場しているのだが、このシリーズ、ナンバリングされていない上に表紙のデザインが似通っているのでまぎらわしいことこの上ない。
いったいどれが本編でどれが番外編? と困っていらっしゃる方もおられるようなので、百鬼夜行シリーズの《本編》とも言うべき長編9作品をまとめてみました。
姑獲鳥の夏(1994年)
1952年、夏。
つまらない小説ばかり書いている《三文文士》の関口はある病院にまつわる噂を耳にした。なんでもそこにいる娘はある奇怪な特徴を持っているらしい。そして彼女の旦那であり関口の旧制高校の先輩である牧は、密室から姿を消したのだという。
関口は《京極堂》を訪れ尋ねる。
「二十箇月もの間子供を身籠っていることができると思うかい?」
それに対して京極堂の主、中禅寺秋彦はいつものような仏頂面で答える。
「この世には不思議な事など何もないのだよ、関口君」

姑獲鳥の夏
文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫) | 京極 夏彦 |本 | 通販 | Amazon
《百鬼夜行シリーズ》第1作にして京極夏彦デビュー作。
彼は講談社への持ち込みという形でこの作品を世に出しましたが、のちにそれが制度化されて誕生したのが《メフィスト賞》。メフィスト賞は以降、森博嗣、清涼院流水、舞城王太郎、西尾維新、辻村深月など独特な人たちをデビューさせています。
デザイナーも兼ねる京極夏彦の作品は舞台設定、登場人物の容姿設定も細かく安定しているのが特徴。そのせいもあってかメディアミックスが盛んであり、《文庫版で630ページを読むのはむずかしい》という人のため(?)に「姑獲鳥の夏」も漫画が存在しています。

姑獲鳥の夏(1)
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魍魎の匣(1995年)
1952年、夏。
東京警視庁捜査一課巡査部長の木場は仕事帰りに駅での異変に巻きこまれる。なんでも少女がひとり列車に轢かれたらしいが、その場にいた唯一の目撃者も14歳の少女であり、動揺のせいでまともに聞き取りができる状態ではなかった。木場の夜は長くなりそうである。
一方、病院での体験を小説に書きあげた関口は雑誌記者の鳥口、京極堂の妹の中禅寺敦子とともに《武蔵野連続バラバラ殺人事件》を追いかけていた。そして道に迷い、《匣》のような建物を発見する。
そこは、列車に轢かれた少女が収容されている病院であった。
関口が出会った新進気鋭の作家久保俊公、じわじわと広がっている新興宗教《御筥様》、武蔵野連続バラバラ殺人事件、《匣》のような建物――これらの話を聞きた京極堂の《憑き物落とし》が始まる。

魍魎の匣
文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫) | 京極 夏彦 |本 | 通販 | Amazon
シリーズ第2作品目にして《最高傑作》の呼び声高い名物作品。第49回日本推理作家協会賞受賞作。
文庫版だと1060ページ。別名《レンガ》。
こちらも漫画が存在しています。

魍魎の匣(1)
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実はアニメ化もされています。京極作品は1952年という時代背景のせいか骨太な映画になったりしがちなのですが、アニメのキャラクターデザインはCLAMPが担当。
「カードキャプターさくら」の人たちなのでちょっと雰囲気が……と心配なさる方も多いのですが、ハイビジョンアニメとして非常に多彩な効果・演出がふんだんに使われています。
全13話なのでカットされているシーンも多いのですが、なにやら秀逸なまとめ方をされているようで原作ファンも納得の出来とのこと。

魍魎の匣
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狂骨の夢(1995年)

狂骨の夢
文庫版 狂骨の夢 (講談社文庫) | 京極 夏彦 |本 | 通販 | Amazon
「姑獲鳥の夏」では関口、「魍魎の匣」では木場の出番が多めなのに対し、3作目「狂骨の夢」では釣り堀の主、伊佐間が登場します。
シリーズ3作目というものは前2作との関わりや設定の問題から鬼門と呼ばれているのですが、《狂骨》はそれを感じさせません。
漫画版もあります。

狂骨の夢(1)
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なんか堂々と表紙になっていますが、京極堂さんだいぶ登場回数減っていたような
鉄鼠の檻(1996年)
文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫) | 京極 夏彦 |本 | 通販 | Amazon

鉄鼠の檻
文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫) | 京極 夏彦 |本 | 通販 | Amazon
文庫版で1376ページ。着々と太っています。
百鬼夜行シリーズのひとつの魅力に《ヒロイン》があるのですが、この作品は禅寺が舞台なので必然的に女性の出番が少ないです。だからこそ《山中駆ける振袖の童女》の異様さが際立ちますが。
この作品は漫画版がまだありません。というのも、
とのこと。
絡新婦の理(1996年)
聖ベルナール女学院にとびかう《悪魔》の噂。
ソレは願えば人殺しでも行う。
ソレには僕(しもべ)が存在している。
ソレは《蜘蛛》と呼ばれている。
一方、釣り堀の主である伊佐間と骨董屋の今川は《織作家》を訪れていた。女系家族の織作家には紫、茜、葵、碧からなる四姉妹がおり、うち碧は聖ベルナール女学院の2年生。茜の婿は聖ベルナール女学院の理事長であった。
《蜘蛛の巣屋敷》とあだ名される織作家と聖ベルナール女学院の《蜘蛛》を、京極堂は退治することができるのか。

絡新婦の理
文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫) | 京極 夏彦 |本 | 通販 | Amazon
2作ぶりの女学院もの。文庫版で1408ページ。絶好調。
個人的にはシリーズのなかでも屈指の作品かなと思っています。「魍魎の匣」と迷いますが、織作家の姉妹たちがたいへん魅力的。
これも漫画が存在しています。

絡新婦の理(1)
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塗仏の宴 宴の支度(1998年)
中禅寺敦子が連れ去られた!
頼り榎木津と木場は行方不明。関口が役立たずなのはいつも通りとしてもなんと逮捕までされてしまう。
自称郷土史家、流浪の物書きの堂島静軒は言う。
「世の中には不思議でないものなどないんですよ。ここに私がいることも、そこにあなたがいることも、不思議と云えば皆不思議だ」

塗仏の宴 宴の支度
文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫) | 京極 夏彦 |本 | 通販 | Amazon
ダイエットに成功しました。文庫版で994ページです。
《絡新婦》が百鬼夜行シリーズのひとつの集大成に感じられるのは、《塗仏》が特殊な展開だからかもしれません。
それぞれの章で登場人物ががらりと変わる短編的な構造。厚さの割には読みやすい、という評判があります。

塗仏の宴 宴の始末
文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫) | 京極 夏彦 |本 | 通販 | Amazon
いわゆる解決編。
文庫版で1088ページです。あわせると2082ページ。ダイエットとはなんだったのか。
陰摩羅鬼の瑕(2003年)
《鳥の館》の主、由良昂允は今までに4度ほど新婦を失くしている。それも全て新婚初夜かその翌日のことであった。
5度目の婚礼に際し、婚約者・奥貫薫子の警護に駆り出されたのが《薔薇十字探偵社》の榎木津礼二郎。しかし彼は発熱に襲われてしまう。急遽呼ばれた関口の助けを借りつつ鳥の館に着いた榎木津は、到着早々叫んだ。
「おお、そこに人殺しが居る!」

陰摩羅鬼の瑕
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個性的な登場人物が多い百鬼夜行シリーズのなかでも、由良昂允は生まれてから今まで一度も館を出たことがないという変わり者。
なぜか横溝正史とかも登場します。
邪魅の雫(2006年)

邪魅の雫
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商品紹介には書かれていないのですが、さらっと《榎木津の縁談》とかいうとんでもなことが書かれています。
最初講談社は2005年発売と言っていたのですが、これは作者すら知らない事実だったので結局延期されて2006年の発売となりました。
ページ数は1330。「わりとふつうかな」と感じてしまった人がいらっしゃったら毒されています。へたな文庫本の10倍近い数字です。
《百鬼夜行シリーズ》本編はひとまずこれしまいです。
シリーズとしても後に刊行されたのは2012年の「百鬼夜行――陽」が最後でありますが、京極夏彦はまだまだ活躍中の人です。そろそろまた《京極堂》の憑き物落としを見られるかもしれません。