警部マクロードってどんな番組?

1970年~77年にかけて、7シーズンに渡ってアメリカNBCで放送された、クライム・サスペンスと西部劇をを足したような、痛快なアクションドラマです。
1970年にパイロット版「ミスアメリカ殺人事件」が製作され、シーズン1は60分ものの作品として放映されましたが、シーズン2以降は「NBCミステリームービー」という2時間枠で、4つの作品を月に1回ずつ放映するというものの一つとして放映されました。
因みに同枠の他の作品には、「刑事コロンボ」「署長マクミラン」「マッコイと野郎ども」などがあります。
日本では、シーズン1は『マクロード警部』としてNETテレビ(現在のテレビ朝日)で放映、シーズン2以降はNHKで放映され、かなりの人気を博しました。
アメリカでの人気も非常に高く、放送終了から12年も経った1989年には、『The Return of Sam MacCloud』(帰ってきた警部マクロード)が製作放映されています。
ストーリー
ニューメキシコ州タオスから、ニューヨーク市警に研修でやって来た警部マクロードが、大都会の最新の捜査方法や、官僚的なルールを完全に無視し、独自の野性味溢れる型破りな捜査方法で、ニューヨーク市警や周囲の常識的な偉いさんを巻き込みながら、事件を解決に導くという、痛快ポリスアクションです。
シリーズ開始当初は人の心理の裏を描いた、ペーソス感のある、大人しめなエピソードが多かったのですが、マクロードのキャラが立つにつれ、次第に西部劇的で、コミカルなアクション度合いが増して行きます。

カウボーイハットにシープスキンのコート、ウェスタンブーツに45口径のマグナムという出で立ちで、犯人を追って、駐車中の路線バスや消防車を拝借したり、セントラルパークやマンハッタンの街中を馬に乗って駆け回るという、現在観ても画的なインパクトの大きい作品になっています。

ニューヨーク市警の組織捜査では、証拠の有無、命令系統の徹底が絶対的。また古参の刑事は、容疑者の職業や前歴によって判断しがち。
でもマクロードは違います。容疑者が犯行を否認すれば、人を信じ、自分の推理や洞察を信じ、命令指揮系統にお構いなく、独自の捜査で事件を追います。
しかもその根拠が、ほとんど勘。
刑事としての読みと言えば、もう少し聞こえが良いでしょうか。
しかし馬やコヨーテ、ガラガラヘビを友人として育った、西部男の勘はひと味違います。事件の本質や真犯人を見極める力は、ほとんど本能と言ってもいいでしょう。破天荒な行動力と相まって、長期間に渡って人々に愛されるシリーズになりました。
ドラマの舞台もニューヨークに留まらず、ニューメキシコやテネシー、コロラド、ハワイなど、アメリカ全土に渡る他、ロンドン、パリ、モスクワ、シドニー、メキシコなど、世界各国を股にかけての活躍です。
しかもどこへ行っても西部男は西部男。マクロードらしさを発揮して、各国の関係者を困惑させながら大暴れする様が、痛快かつ明快で、視聴者の高い支持を得たのです。
キャスト
サム・マクロード警部:デニス・ウィーバー

ニューメキシコ州タオスから研修のためニューヨーク市警に配属された警部。(実際は保安官補)そもそもは、ニューヨークに証人を護送中に逃げられ、そこで出くわした殺人事件を勝手に捜査して解決に導いたのがきっかけ。(パイロット版・ミスアメリカ殺人事件)
都会の慣習やルールよりも自分のやり方を重視。人情に厚いお人好しで、誰が相手でもハッキリものを言い、ユーモアに溢れ、女性には優しいジェントルマン。
デニス・ウィーバーは、シリーズ開始当初40代半ば。並外れた運動神経の持ち主で、馬に乗るのはもちろん、カーチェイスも、馬車の屋根の上での殴り合いも、高層ビル屋上での格闘も、ヘリコプターでの宙吊り移動も、スタントマンを使うことなく、全て自分で演じたそうです。
1959年名作ドラマ「ガンスモーク」でエミー賞を受賞。スティーヴン・スピルバーグの監督デビュー作「激突」の主演でも有名ですね。

デニス・ウィーバーはマクロードについて、こう語っています。
ピーター・B・クリフォード刑事部長:J.D.キャノン

ニューヨーク市警の官僚的な捜査官で、マクロードの直属の上司で、実は一番の理解者。マクロードの破天荒な振る舞いに対して、ニューヨーク市長や市警本部長から小言を言われるので、マクロードには常にガミガミ言うハメに。しかし全く言う事を聞かないマクロードにカンカンになる、という件のやり取りが、ドラマの人気の一つにもなっています。
J.D.キャノンは「暴力脱獄」や「逃亡者」でも知られていますが、マクロードについて「これほど夢中になれるドラマに出会った事はない」と、熱く語っていたそうです。
ジョー・ブロードハースト刑事:テリー・カーター

ニューヨーク市警所属の黒人刑事。保守的で真面目な若手のホープという位置づけですが、マクロードと相棒を組んだ結果、騒動に巻き込まれ、失態を晒す事もしばしば。
テリー・カーターは「宇宙空母ギャラクティカ」などで知られていますね。
クリス・コフリン:ダイアナ・マルドー

マクロードの彼女。コラムニストでニューヨーク警察本部長のいとこ。自立心の強い都会のレディーです。
ダイアナ・マルドーは、「新スタートレック」や「LAロー七人の弁護士」などで知られています。

映画『マンハッタン無宿』との関係
1968年製作、ドン・シーゲル監督、ハーマン・ミラー脚本、クリント・イーストウッド主演の映画『マンハッタン無宿』という映画がありました。

クリント・イーストウッド演じる、アリゾナ州のクーガン保安官がニューヨークに派遣され、ニューヨーク市警の官僚主義と戦いながら、独自の手法で犯人を追い詰めていくという、大都会のロンサムカウボーイもの。
実はこの『マンハッタン無宿』が、『警部マクロード』誕生の大きな鍵になっているのです。
クリント・イーストウッドのニヒルでクールなキャラクターは、後にドン・シーゲル監督の『ダーティーハリー』へと昇華され、大都会のカウボーイという設定は、脚本家ハーマン・ミラーの製作指揮のもと、『警部マクロード』へと二分化していくのです。

ニヒル&クールでワイルドさを極めたダーティーハリーに対し、陽気でお人好しで人情に厚いマクロードの対比は、1つの映画から生み出されたものとして、興味深いですね。

ハーマン・ミラーの長年の推敲によって生み出されたマクロードというキャラクターが、デニス・ウィーバーの役への惚れ込みによって、より人間味を深めたことで、シリーズが長期に渡って人気を博し、成功を納めた要因となったのでしょう。

大都会とカウボーイという対比の面白さだけではなく、ウィーバーやキャノンら、出演者達の情熱が、40年以上経った現在観ても色褪せずに、面白い作品に仕上がっている理由なのかもしれませんね。