逃亡者とはどんなドラマ?

1963年から1967年にかけて、アメリカABC放送で放映された、テレビ史上に残る、大ヒットドラマ。4シーズンに渡って全120話が放映され、最高視聴率を記録した最終回は
なんと50%!
主人公の悲哀とハラハラの展開が、全米の視聴者の心をわし掴みにしました。
日本では1964年から放送され、こちらも最高視聴率31.8%を記録。
世界中の人々を虜にし、50年以上経った現在でも、繰り返し再放送され、リメイク版やスピンオフの作品も、数多く制作されています。
シーズン1から3までは全編モノクロ作品。シーズン4からカラーになります。
ストーリー
アメリカ・インディアナ州の小さな町の医師、リチャード・キンブルは自宅に帰ると妻の死体を発見。自宅付近で不審な片腕のない男を目撃したが証明できず、キンブル医師は妻殺しの犯人として逮捕され、死刑を宣告されます。
しかし護送中に列車の脱線事故に遭い、隙きをみて脱走。逃亡者となります。

髪の色を変え、名前を偽り、素性を隠しながら、全米各地を転々とします。追っ手の気配を気にし、常に後ろを振り返りながら、自らの潔白を証明するため、事件当夜に見た、片腕の男を探して彷徨います。
警察はキンブル医師を全国に指名手配をして、追い詰め、捕えようとします。

警察の追っ手を逃れながら、慣れない暮らしをしながら、妻殺しの真犯人を探して見果てぬ旅を続けるという、サスペンスとペーソスに溢れた物語です。

ヒューマンドラマ
逃亡中でもお金を稼がなくては食べていけません。指名手配されてますから、医師の仕事にはもちろん就けません。身分証明を厳密に求められない、工場や農場や市場などの作業員、清掃員などの、いわゆるブルーカラーの仕事が多くなります。
しかしキンブルは元々お医者さんですから、いつも周囲に馴染めずに浮いてしまいます。そんな不器用で実直な様子が、キンブルというキャラクターの魅力なのですが、何だか怪しい奴という印象を周囲の人に与えてしまって、再び逃げ出す、というのが「逃亡者」の基本パターンになってます。

またキンブル医師は、自分の立場が危ういのに、困っている人を見捨てておけないという、ヒューマニズム溢れる性分の持ち主なので、トラブルに巻き込まれながらも人助けをし、怪我や病気で治療が必要な人には、的確な処置をし、結果素性がバレ、また見果てぬ旅に出る、という事もしばしばです。
「妻殺しの犯人のリチャード・キンブル」とバレた後、周囲の人の反応も様々です。
すぐに通報する人、人殺しに慄き怯える人が多いのですが、中には指名手配犯とわかった後も、キンブルの人柄に理解を示し、潔白を信じ、今後の無事を祈ってくれる人にも出会えます。

そんな時の「人生捨てたもんじゃない」感と、心が通じた嬉しさと感謝を、伝えたいんだけど大っぴらには表現できず、人のありがたみを噛み締めながら、再び旅に出るキンブルの姿が、なんとも印象的です。
実は「逃亡者」はクライム・サスペンスと言うよりは、困難で過酷な運命の中でも、僅かな希望を持って真っ直ぐに生き続けるという、ヒューマンドラマなのです。
キャスト
リチャード・キンブル医師:デビッド・ジャンセン

誠実で不器用で正義感のある人柄。無口ではにかんだ様子、常にうつむき加減に追っ手に注意を払う様子、ジャケットの襟を立ててスーツケースひとつ持って長距離バスに乗り込む様子が、本当に逃亡者然としていて、見事に役にハマってます。
リチャード・キンブル=デビッド・ジャンセンという図式が、あまりにも出来すぎてしまって、役者としてのジャンセン自身には、却って不幸な一面もあったのかもしれません。
ジャンセンは1966年、キンブル役によりゴールデングローブ賞を受賞しています。
ジェラード警部:バリー・モース

キンブルの情報があれば、アメリカ中どこへでも飛んで行きます。そのキンブルを捕えようとする執念たるや、凄まじく、獲物を狙う鷹のような眼力は、凄みがあって、恐ろしくもあります。
しかし長年キンブルを追う内に、キンブルの人柄には理解を示し、妻殺しの容疑以外の面では、キンブルを庇う一面も。
最終回では、追い詰めたキンブルに、真犯人を暴き出すチャンスを、1日だけ与えます。
リメイク&スピンオフ作品も
冤罪の無実の主人公が、警察の追っ手を逃れながら真犯人を探し出す、というフォーマットは根強い人気のあるものなので、「逃亡者」は度々リメイクされています。
映画版:逃亡者
1993年製作
主演:ハリソン・フォード、トミー・リー・ジョーンズ

舞台を90年代のシカゴに移した、クライム・サスペンス、アクションの側面がクローズアップされた作品。わかりやすく楽しめる作品で、大ヒットしました。
テレビドラマ版:新・逃亡者
2000年製作
主演:ティモシー・デイリー、ミケルティ・ウィリアムソン

現代に舞台を移し、情報公開番組などを利用して逃亡者を追い詰める展開なども披露するも、シーズン1のみで終了。事件も未解決で、結果として意味不明なエンディングに。
日本版:逃亡者 RUNAWAY
2004年製作
主演:江口洋介、阿部寛

主人公の職業を医師から保護監察官に変更してリメイク。主人公に子供がいたり、CGを多用するなど、映像的にも印象に残る意欲作でしたが、豪華キャストを集めた割には、視聴率は普通でした。
追跡者
1998年製作
主演:トミー・リー・ジョーンズ

ハリソン・フォードの映画版のスピンオフ作品で、ジェラード警部が主人公。
キンブル医師は出てこない、ジェラード警部のその後の物語ですが、ジェラード目線で逃亡犯を追う、という事を楽しめる作品です。
テレビドラマ黎明期の金字塔
リメイク版以降の作品は、ストーリー展開やアクションを楽しむものが多いですが、本編の「逃亡者」は、サスペンスの形を纏っていますが、人間の心の強さと弱さ、人の温かさと世知辛さを通して、人としての生きる道を描いたヒューマンな作品です。
50年以上前の人々を熱狂させ、現代でも根強い人気を誇る、テレビドラマ黎明期の傑作を、もう一度振り返って見てみませんか?
繊細で哀愁漂うキンブルの姿に、内なる自分を投影してみれば、より味わい深く、楽しめるかもしれません。