The Texas Chain Saw Massacre
ホラー映画の最高峰といえば、1974年公開の「悪魔のいけにえ」です。原題は「The Texas Chain Saw Massacre」で日本公開当初は「テキサス自動のこぎり大虐殺」と訳されています。チェーンソーという言葉がまだ一般的ではなかったことなどから原題を無視して邦題は「悪魔のいけにえ」としたのでしょう。
もう、バッチリです。それに、いくらなんでも映画のタイトルとして「テキサス自動のこぎり大虐殺」ではあんまりですものね。
因みにこの映画の主人公はエド・ゲインという実在の人物をモデルにしています。エド・ゲインをモデルとした映画は他にも1960年のアルフレッド・ヒッチコックの名作「サイコ」や、1991年公開の「羊たちの沈黙」などがあります。

悪魔のいけにえ
「悪魔のいけにえ」の監督はトビー・フーパー。それまでに短編映画はいくつか取っていましたが、「悪魔のいけにえ」が実質的な監督デビュー作です。

トビー・フーパー
「悪魔のいけにえ」の成功によって、その後は「ポルターガイスト」や「スペースバンパイア」など話題の作品を手掛ける人気監督となりますが、どの作品にも一貫した美意識があり、とても個性の強い監督です。
とはいえ、「悪魔のいけにえ」は特出しており、他のホラー映画と比べても異質も異質、それでいて大傑作です。
この映画はその後に作られた多くのホラー映画に多大なる影響を与えていますが、「悪魔のいけにえ」を超える映画はいまだに出ていないと断言できます!
製作費は約4000万円と低予算で作られていますが、予算の少ない分をアイデアと情熱で補っており、その完成度と芸術性の高さからマスターフィルムはニューヨーク近代美術館に永久保存されているほどの名画となっています。
さぁ、それでは「悪魔のいけにえ」の狂気の世界にご案内します!
Cast
出演者が全員狂ってるとしか言いようのない「悪魔のいけにえ」の中にあって、強烈なインパクトを与えるのが、チェーンソーを振り回す殺人鬼のレザーフェイスです。演じるのはガンナー・ハンセン。彼は身長が193センチもありますから、それだけでも迫力がありますね。

レザーフェイス
設定は、4人兄弟(内2人は双子)の4男で、梅毒を患い、しかも先天性の皮膚病の為に人の皮を剥いで作ったマスクをいつも付けています。更には発達障害があり、精神年齢は8才児程度という、何もここまでという設定になっています。もう、この設定だけでも異常さが伝わってきますね。
更に2人のお兄さんが、これまた異常としかいえません!

長男ドレイトン
長男を演じるのは、ジム・シードーです。特別なことはやっていないのですが、笑顔が怖い!演技力なのか素なのか分かりませんが、それほど自然(これが重要です)に、狂気そのものの笑顔を見せてくれます。
笑っただけでこれほど背筋を凍り付かせるとは、映画史上初ではないでしょうか?!

次男ヒッチハイカー
そして次男です。ヒッチハイカーとして冒頭から登場してきます。何が起こったのか、何が起ころうとしているのか全く予測がつかない、ホラー映画としては最高の出だしをエドウィン・ニールが素晴らしい演技力で表現しています。
「つかみはOK」とはまさにこのことですね。
不幸にしてこの映画のヒロインとなってしまったのが、マリリン・バーンズ演じるサリー・ハーデスティです。

サリー・ハーデスティ
ヒロインと言えば聞こえはいいですが、もう、悲惨というか災難と言うか、いえ、そういった言葉ではとても言い表せません。被害者であるヒロインも異常と思えるほどです。
「悪魔のいけにえ」は、スプラッター映画とは違います。チェーンソーが凶器として出てきますが、それほど血が出るわけではありません。殺人のシーンが怖いのではなく、異常としか言いようのないムードがたまらなく怖いのです。
加害者は勿論ですが、被害者も含め登場人物全員が何か変なのです。全員が異常に思えてくるところがまた怖いんですね。
Story
5人の男女が墓荒らしが頻発しているテキサス州に帰郷を兼ねて墓の無事を確認するためにやってきます。その道中でヒッチハイクをしていた男を車に乗せたことから物語は始まります。
その男は、いきなりナイフで自分の手を切り裂き、暴れだすなどの異常な行動を起こします。
なんとかヒッチハイカーは追い出したのですが、その後、ガス欠となってしまいガソリンを分けてもらうために一軒の家を訪ねます。ところがこの家には殺人鬼が住んでいたというわけです。
理由もなく一人また一人とレザーフェイスによって殺されていくのです。しかも白昼に堂々とです。これが夜であれば映画的な効果ということもあり恐怖映画として納得できるのですが、昼間に行われる殺人ということで異常さが際立ちます。
もう怖いというよりも狂気、狂っているとしか言いようがありません。見事な演出です!
しかし、逃げ回っているうちに夜になります。友達は全員殺され1人だけになったヒロインのサリーは必死で走り、ガソリンスタンドへ逃げ込み助けを求めます。
やっと一息つけたと観客がホッとする瞬間ですね。ところが、このガソリンスタンドの店主がおかしいのです。何かヘンなのです。もう、何か異常を感じる笑い方をするのですね。そうです。この店主は殺人一家の長男です。
つかまったサリーは、殺人一家の家に連れ去られてしまいます。そして悪夢としか言いようのない食事会が始まるのです。目の前には、ガソリンスタンドの店主以外にレザーフェイスもヒッチハイカーも居ます。更にはミイラのようになっている彼らの親まで。

トラウマになってしまいそうな食事のシーンですが、それだけ演出が素晴らしいのです。ヒロインの恐怖を表現する目玉の極端なアップ。それに不協和音というか、雑音といってもよいような効果音がこれまた極端に大きく飛び出してきます。

隙を見てサリーは脱出し、半狂乱になりながらも偶然通りかかったトラックに乗せてもらい間一髪のところ助かります。
夕日をバックにチェーンソーを振り回しながらダンスを踊るレザーフェイス。何も解決することなく、何も示されないまま映画はパッと終わります。
通常映画撮影は35mmフィルムで行われていましたが、「悪魔のいけにえ」は予算がなかったため16mmフィルムで撮影し、スクリーンサイズに拡大してありました。このため画質が荒れていたのですが、最近のソフトはデジタル・リマスターされており画質が格段に良くなっています。
しかし、画質が悪かったこともこの映画の効果を高めていた要因のひとつだったのではないかと思えてまりません。