
なので、基本は一つのメカに対して、ガンプラ37年間の歴史の中からベストチョイスのオンリーワンを選び出すのが基本なのですが、用途、ギミック、バリュー、商品メジャー度によっては、複数のアイテムをシーンごとに使い分ける物もあれば、どうしても登場させたいメカなのに、ガンプラからは発売されていない物は、完成品フィギュアを用いたり、プライズやガシャポン等のアイテムを使うことでタイトロープのように頑張っております!……が!
そこはやはり大河さんも、ガンプラブームを中学生で直撃を受けた世代でありますので、昨今のディティール過多な「コレジャナイ感ガンプラ」と向き合うと、いろいろ迷ってしまうわけです。
というわけで、今回は、ガンプラ2号となる「1/100 ガンダム」を紹介しますが、当時からこの1/100 ガンダムは「合金玩具の模型化でしかない」「子ども向け仕様で全然リアルじゃない」と、鬼子扱いをされてきた不遇なアイテムなのですが……、おいちょっと待てよと(なんでここだけキムタク風やねん)。
貴方たち、とても大事なことを忘れていませんか?と。
ここは大事なことなんで、シミルボンでの論でも書きますけど、『機動戦士ガンダム』は、生まれは由緒正しく、立派な「合体スーパーロボットアニメ」なんですよ?と。
合体ロボットの合体を再現したプラモデルが、存在を否定されること自体が矛盾しているわけで。
そりゃ「コア・ファイターの変形と収納合体」は、今でもマスターグレードのガンダム等では基本仕様ではあるけれども、実は“どちらが正しかったのか?”という問題提起が、この、37年前の玩具仕様プラモデルには隠されていたのだ!
いやいや、1/100 ガンダムが隠し持っている「オンリーワン」は、まだまだそれだけじゃないんですよ? というのが、今回の紹介のメインテーマです!
ガンダム 1/100 1980年7月 700円

これが記念すべき箱絵! ちなみに箱絵どおりにはバズーカは構えられない!
確かに1/100ガンダムは、クローバー玩具準拠の仕様だし、間接可動も、足首や股間が固定であるなど、今からは考えられないほど可動性は低いが、実はその後のガンプラ展開、いや、富野監督をはじめとしたアニメ作画演出からも切り捨てられた"ガンダムというメカの、デザイン当初のアニメ設定的独自ギミック"が組み込まれているのは、後にも先にも1/100ガンダムだけなのである。

今立ち上がる機動戦士! 安彦顔のUP!
それこそが、前回も書いた「腹部での、コアブロックむき出し」なのだ。
実際のアニメ作画では、富野由悠季総監督・安彦良和アニメーションディレクターの両氏が、リアリズムの観点と整合性から廃してしまったが、当初のガンダムの「合体ロボットとしての売り」は、戦闘機のコア・ファイターが変形してコアブロックになると同時に、それがガンダムの腹部をそのまま形成し、さらにコアブロックを介して、ガンキャノン、ガンタンクの上半身、下半身と、自由に組み替えて合体パターンを9通り作れる、というものであった。デザイン的にも、主人公メカ・ガンダムの上半身の胸部と腹部で、中央の青と両サイドの赤が、共に二段組にデザインされているのは、コア・ファイターがコアブロックに変形した際に、中央が青で両サイドが赤になる色配置を前提として、デザインラインが形成されているからであり、腹部むき出し仕様も組み換え遊びも、実際の、放映当時のクローバーのパンフレットにも、その旨の紹介がしてある。

テレビの合体を再現!1

テレビの合体を再現!2

テレビの合体を再現!3

テレビの合体を再現!4

テレビの合体を再現!5
まぁ、上半身と下半身の組み替えは、今でもよくある「玩具展開だけのお遊びギミック」だったとしても、当時は演出やコンテ、作画時に徹底しきれていなかったのか、ガンダムの上半身(Aパーツ)が胸の段までしかなくて、コア・ファイターが変形したコアブロックを挟んで下半身(Bパーツ)と合体する時に、コアブロックそのものが、ガンダムの腹部を形成するという演出が随所に見られる。
確かに、シリーズ後半や、劇場版での新作画箇所では、ガンダムのAパーツはそのまますっぽりコアブロックを包む形でかぶせられる「Aパーツかぶせ式」で最終的に、イマドキのガンプラなどでも仕様が統一されていくことになるのだが、クローバーや大河原邦男氏の初期ビジョンでは、コアブロックがそのままガンダムの腹部になる視覚効果が、合体ロボットとしてのガンダムの売りになるはずであったと思われる。
二次元の嘘?
そこはそれ、さすがに戦闘機のコックピットが腹部でむき出しになっていることのリアリティ的欠落もある上で、クローバー玩具や1/100ガンダムも、コアブロックの先端処理を「二次元と三次元の違い」でごまかすしかなかった以上は、現代のガンプラの驚異的技術力をもってしても、「コアブロックむき出し腹部式」でなおかつ、合体後のシルエットがアニメどおりにさせることは不可能に近いので、そういった諸々で、今では「なかった設定」にされている「コアブロックむき出し腹部式」だが、実は、ここが「コアブロックむき出し腹部式」であったという前提を持たないと、後のGアーマー(こちらもそもそもは、クローバーサイドの1979年クリスマス商戦用の追加商品企画から来ている代物)での、GブルやGブルイージーといった形態の再現に無理があるのだ。
実際ガンプラ路線が、完全リアル志向へ移行した後に発売された1/144 Gアーマー(1981年9月)や、近年HGUCで発売された1/144 Gアーマー(2004年)などは、Gブル形態時に追加パーツをAパーツ腰にかぶせることで、なんとか辻褄を合わせるしかなくなっている。
かように、Gアーマーに関しては、ネット各所やWikipediaに記載されているような「設定に矛盾がある」のではなく、そもそもガンダム自体のAパーツとコアブロックが、「コアブロックむき出し腹部式」だったという前提に戻れば、そちらの方では整合性は、実はあるデザインなのである(でなければ、クローバーの技術で玩具化は当時不可能だったはずである)。
実際、アニメ版の作画でも、ガンダムのAパーツとBパーツとコアブロックの物理的関係は、カットやシーン、テレビ版と劇場版などで、ケースバイケースで表現が変わっているのである(画像参照)。

アニメテレビ版での、コアブロックの分割描写
ガンダムの"足の裏の正解"
また、さらに一つ付け加えておくならば、36年の歴史の中での、数多あるRX-78ガンダムプラモデルの中でも、TVアニメシリーズ時に描かれた足裏設定図を再現しているのはプラモの旧1/100だけなのである。

ガンダム 足の裏

ガンダム 足の裏2
武装豊富なスーパーロボット! ガンダム!
さらに言うなれば、1/100 ガンダムのプレイバリューの高さは、豊富な武器にも表れている。
ガンダム基本装備の、ビームライフルとビームサーベルが付属することは当たり前。

ビームサーベルを振り上げる!

こうして並べると豊富な1/100 ガンダムの武器装備。

ガンダムと言えばこのビームライフル!

うーん、何度見ても誘導灯だ(笑)もしくはパトレイバーの電磁警棒
1/144 ガンダムでは数か月後の「1/144 武器セット」まで待たなければいけなかったバズーカも、1/100ではディフォルトで標準装備! ……まぁ、バズーカのグリップとは違う位置にダボ(拳の穴に差し込むピン)があって、グリップでバズーカを握れない辺りはご愛敬だけど。

バズーカは、劇中ではこのカラーリングの物と、ミディアムブルー一色の物とが混在していた
それに、なんといってもこのキットのツボは、本編では登場しなかった謎のミサイルランチャー! しかもトイプラモっぽく、スプリングによる弾丸発射ギミックまでついているぞ!

なんかしらないけど、すごいろけっとほうだ!

クローバーの合金玩具の真似をさせて肩に担がせてみたけど、担げないんですよプラモだと……
確かに、クローバーの合金玩具でも装備されていた"謎の肩のロケットランチャー"だが、考えてみれば当初の準備デザイン段階か、玩具化検討段階ではアリだった武装だったわけで、同じような例としては、ガンキャノンのスプレーミサイルランチャーや、ガンダムのスーパーナパームなど、どちらも劇中では登場しなかったのに、イマドキのガンダムフィギュアやガンプラでは、オマケとしてついてくる場合も少なくない。
だったら、この謎ミサイルランチャーも、あと、クローバーDX合金ガンダムが手にしていた巨大な謎斧! アレも装備させるべきだったかと!(なんでも、アレにはアレでオマージュがあって、近年のガンダムのフルアーマー・ユニコーンガンダム(とクシャトリヤ)の武装、ハイパー・ビーム・ジャベリンは、この謎斧がモデルだとか)。

こちらがクローバーのDX合体合金玩具。
というか、謎ミサイルランチャー。持ち手用のダボがまったくガンダムの拳の穴のサイズに合わず、今回の撮影では肩での装備などは両面テープで貼る始末!
結局なにがしたかったんだ、謎のミサイルランチャー!
それでも、付属してくるコア・ファイターなどは、今ではガンダムの合体は「かぶせ式」が公式になってしまったので、戦闘機としては小さすぎる設定になってしまったが、この「腹部形成式」だと、それなりのサイズで、完全変形とはいかないけれど、かなり完成度が高いギミックで遊べるのだ!

キット付属のコア・ファイター。
当時の模型としてのガンプラ水準
1/100 ガンダムは、当時はバンダイなりに、ユーザーの出方を見る側面と、クローバー合金玩具の廉価版を目指した側面を併せ持つ商品だったのので、その出来は確かにスケールモデルとしては中途半端感は否めないが、組み立て説明書が1/144のカラー印刷とは違って、むしろスケールモデル風のモノクロ印刷だったり、それでもランナーパーツが、必死に赤と白だけでも色分けしておこうとか、当時のバンダイの「ガンプラはどこを向かうべきか」への迷いが垣間見えて本当に面白い。

1/100 ガンダムの組み立て説明書。

パーツ一覧。
このキットへのネガティヴな反応として「股間と足首の可動がー」と残念がったユーザーの声ばかりが、ほとんど当時の多数派だったという印象操作が今ではなされているが、ガンプラ、ベストメカコレクションシリーズ以前のロボットプラモは、そもそも股間だの足首だのどころか、肩と首が回転するギミックしかなく、ゼンマイか電池でのろのろズコズコ歩くプライバリュー仕様が当たり前だった時代なので、当時はそんなネガティヴ反応は(ガンプラブームが過熱するまでは)あまり聞こえてはいなかったのが、当時のガンプラ者の主観印象である。
ちなみに、悪評が高かったのならば売れないのが資本主義の原理原則のはずだが、実はガンプラ発売開始以降のおよそ10年間で、一番の売り上げ個数を誇ったのは、もちろん主役ガンダムの1/144ではあったのだが、では、一番の売り上げ金額を誇ったのはどのガンプラかと調べてみると、意外や意外、栄えある第一位はこの、1/100 ガンダムであったりする!
そう、決して1/100 ガンダムは、みにくいアヒルの子のような、不遇な存在ではなかったのだ!(この辺の、細かい検証や売り上げ数や金額のの確認などは、近いうちにシミルボンの連載で特集します!)。
結果、1/100 ガンダムというプラモデルは、今回記述した様々な要素やプレイバリューから、「マスターグレード以降では黒歴史化されてしまった、RX-78ガンダムの、アニメ版での"真の姿"」が、各種仕様やプレイバリューから伺える名作キットになっている。
膝から下が可動しない分、膝から足首までのラインが、唯一安彦画調でツライチになって奇麗な曲面を描いていたり、コア・ファイターにちゃんとライディング・ギアが付属していたり、侮れないんだよ。初期のガンプラは!
……ということで『ガンプラり歩き旅』次回へ続きます!
次回は一気に2つのキットの紹介、量産型ムサイと、1/144 シャア専用ザクと1/144 シャア専用ザクだ!(……いや、それ、3つじゃね?)
市川大河公式サイト