武田鉄矢こそ、元祖「和製ジャッキーチェン」だった!?
今でこそ、渋い声と重厚な演技で、歴史もの、刑事もの、医療ものなど、さまざまなジャンルのドラマや映画に欠かせない俳優として活躍する武田鉄矢。しかし、30年前はなんと「和製ジャッキー・チェン」だったのだ。ジャッキー・チェンによる日本のカンフーブームにも乗っかって、この『刑事物語』シリーズは、なんと第5作まで作られた。この頃、武田鉄矢は完全に肉体派の俳優だったといえる(そんなこともないか)。
それにしても、この頃はすでに金八先生で大ブレークしていた武田鉄矢が、体を張りまくってこのシリーズをやっていたことにはある種の感慨すら覚える。なかなかのチャレンジャーぶりなのである。
とにかく、「和製ジャッキー・チェン」といえば、ウッチャンこと内村光良ではなく、武田鉄矢なのだ!

『刑事物語3 潮騒の詩』は、沢口靖子のデビュー作なのだ!
この映画のトピックの一つは沢口靖子のデビュー作ということ。沢口靖子は、1984年の第1回「東宝シンデレラ」でグランプリに選ばれ、芸能界入り。なんといっても「東宝シンデレラ」の第1回グランプリなのだから、会社挙げてのバックアップだった(『刑事物語3 潮騒の詩』のヒロインに東宝シンデレラを起用するのは既定の方針だったので、スタッフや武田鉄矢も審査に関わっていた)。
その『刑事物語3 潮騒の詩』でデビューし、映画内の挿入歌「潮騒の詩」も歌い、同年の『ゴジラ』で日本アカデミー賞新人俳優賞を獲得。まさに、シンデレラそのものだったといえる。

さらに、翌年1985年には、NHKの朝ドラ「澪つくし」のヒロイン役で一気に国民的女優となり、飛ぶ鳥どころか、ジェット機も落とす勢いだった。
たしかに、顔の美しさは同年代の女優の中でも群を抜いている。まあ、女優になるべくしてなったと言っても差し支えないのではないか。
ただし、キャリアから考えると、映画出演はさほど多くない。テレビドラマ中心になってしまっていることもあって、アカデミー賞などの毎年の賞レースとは縁のない女優ではある。
最近では、「科捜研の女」シリーズや「鉄道捜査官」シリーズで活躍。十分に存在感を示しているが、物足りない感は否めない。しかし、まあ当時は美しかった。

というわけで、『刑事物語3 潮騒の詩』
というわけで、『刑事物語』シリーズの第3弾。基本は人情刑事ドラマ。それにプラス、当時流行していたカンフーでのアクションを加味し、人気シリーズとなった。
第3作は、それまでの2作よりもコメディ要素が多くなり、さらにアクションシーンも増えた。ハンガーヌンチャクに加えて、フラフープも武器として使用した。ホッケーマスクの殺し屋との対決はなかなかの迫力だ。
<物語>
舞台は、五島列島の長崎市福江市。
情には厚いが問題行動(組織的に)が多い片山刑事の新たな赴任先は五島中央署。とはいえ、刑事らしからぬ雑用的なこともやらされる毎日を送っていた。
オープニングは、まさに和製ジャッキーの面目躍如のビルからの落下シーン。
ビルの屋上で自殺未遂の女性を救わんと説得する片山刑事こと武田鉄矢。しかし、その女性の顔を見るとオカマだったことに驚き、自分がビルから落ちることに。そのシーンはまさにジャッキー・チェンの『プロジェクトA』の時計台落下シーンを彷彿とさせた。なかなかの体当たりぶりだった。
さて、ある日、片山は殺人事件の捜査のためにやってきた警視庁捜査一課の刑事たちの案内役となる。その刑事たちは、東京で暴力団組長を射殺して逃亡中の犯人、仁科が福江市出身で、母親の元へ寄る可能性があるということで出向いて来ていた。
警視庁の刑事たちと片山が宿泊した旅館からは、仁科の母親が経営するバーが見える。片山と新米刑事木崎が客を装い、様子を見に行くが刑事であることがばれてしまう。
次の日、一人でそのバーを訪れた片山は、仁科の母親玉江から仁科の妻と娘が黒瀬で暮らしていることを教えられる。妻の名前は松村清子、民宿を経営しており、娘の名は海子というのだった。
という感じで物語は進み、この映画一番の目玉である娘海子役の沢口靖子の登場となる。その後は、仁科が射殺した組長の子分たちや仁科を狙う殺し屋が登場。片山が得意のカンフーやハンガーヌンチャクやフラフープで撃退し、仁科を死なせずに逮捕できたという話となっている。
沢口靖子の演技はなんといってもデビュー直後ということもあり、一生懸命。その天真爛漫な可愛い高校生役は好感がもてる。


<キャスト&スタッフ>
片山元・・・武田鉄矢/松村清子(旅館・主人)・・・星由里子/
松村海子(清子の娘)・・・沢口靖子/警視庁・木崎刑事・・・佐藤佑介/
九十九巡査 ・・・金田龍之介/修・・・三田明/
五島中央署・大室刑事・・・木之元亮/暴力団員・・・ウガンダ・トラ/
五島中央署署長・・・ハナ肇/仁科高志(清子の夫)・・・夏木陽介/
五島市役所観光係長・・・ 関口宏(友情出演)
原作:片山蒼(武田鉄矢)
脚本:ちゃき克彰、武田鉄矢、黒井和男
監督:杉村六郎
音楽:佐藤健 歌:吉田拓郎、沢口靖子

ちなみに、『刑事物語3 潮騒の詩』公開の1984年はこんな年だった!
まずは、やはりヒット曲から!
1位 もしも明日が…。 わらべ 97.0万
2位 ワインレッドの心 安全地帯 69.6万
3位 Rock'n Rouge 松田聖子 67.4万
4位 涙のリクエスト チェッカーズ 66.8万
5位 哀しくてジェラシー チェッカーズ 65.8万
6位 十戒 中森明菜 60.9万
7位 娘よ 芦屋雁之助 58.1万
8位 星屑のステージ チェッカーズ 57.6万
9位 北ウイング 中森明菜 56.8万
10位 サザン・ウインド 中森明菜 54.4万
チェッカーズと中森明菜が3曲ずつベストテンにランクイン。日本レコード大賞は、五木ひろしの「長良川艶歌」だった。
ちなみに、この年は安全地帯がブレークした年。名曲「ワインレッドの心」は今聴いても素晴らしい。最近じゃ、すっかり歌超上手いおじさんとして君臨している玉置浩二の若かりし日の歌をどうぞ。
そして、年間アルバムの1位はなんと洋楽。マイケル・ジャクソンの「スリラー」だった。日本でも海外のミュージックビデオが大量に放送されていた時代。
では、マイケルジャクソンの「スリラー」をどうぞ。
映画興行収入は、邦画1位は、薬師丸ひろ子主演の『里美八犬伝』、洋画1位は『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』だった。『刑事物語3 潮騒の詩』は9位に入っている。
世相的には、グリコ・森永事件があり、福沢諭吉や夏目漱石の新札が発行されたり、日本が世界一の長寿国になった。旧ソ連・東欧圏の選手が出場しなかったロサンゼルス・オリンピックで、日本もそこそこ盛り上がり、柔道、体操、レスリングなど、いわゆるお家芸的種目で金メダルを獲得した。
森末慎二(体操男子鉄棒)/具志堅幸司(体操男子つり輪、個人総合)
細川伸二(柔道男子60kg以下級)/松岡義之(柔道男子65kg以下級)
蒲池猛夫(ライフル射撃男子ラピッドファイアピストル)
宮原厚次(レスリンググレコローマン52kg級)/富山英明(レスリングフリースタイル57kg級)
斉藤仁(柔道男子95kg超級)/山下泰裕(柔道男子無差別級)
そして、もっとも印象的だったのは、マラソンのスイスのアンデルセン選手だった。酷暑の中で、熱中症になりながらの執念のゴールには、誰もが感動した。そのシーンをぜひ! ちなみに、増田明美は途中棄権している。
『刑事物語』シリーズをちらっと確認!
『刑事物語』シリーズは全部で5作。『刑事物語3 潮騒の詩』の沢口靖子をはじめ、ゲスト女優の中には、「えっ、あの人が!?」という、なかなかびっくりする人もいる。さらに、特別出演などで今でいう大物たちの出演もある。ちらっと確認しておこう!
シリーズ第1作には、高倉健が特別出演!!
『刑事物語2 りんごの詩』には、タモリが友情出演!
『刑事物語 くろしおの詩』には主題歌も歌った吉田拓郎が!

『刑事物語5 やまびこの詩』は、賀来千香子と鈴木保奈美の映画デビュー作という貴重作品!

武田鉄矢という不思議な俳優
1972年に海援隊で歌手デビューし、「母に捧げるバラード」のヒットで第25回紅白歌合戦に出場。その後、高倉健主演の映画『幸福の黄色いハンカチ』で俳優としても認められ、以来、人気俳優として印象に残る作品に出続けてきた。じつは、その出演作の多さや人気作への出演という経歴から、大物俳優と言われてもいいのだが、武田鉄矢は、なんだかそんな感じじゃない不思議な人である。歌手、俳優、コメンテーター、脚本家、作詞家なと、さまざまなことを器用にこなしてしまうからかもしれない。とはいえ、個人的にはその演技はもっと評価されていいような気がするが、どうなのだろうか。ということで、印象的な活動の数々をご紹介。
「母に捧げるバラード」海援隊(1973年)
『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)
『幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬』(1986年)

「3年B組金八先生」シリーズ(1979~2011年)
「101回目のプロポーズ」(1991年)
『プロゴルファー織部金次郎』シリーズ(1993~1998年)

「ストロベリーナイト」
