
『男鹿和雄さん』ってどんな人?

熊野筆:筆の里工房〜展示情報〜
アニメの背景美術って何?
背景美術の仕事は、アニメーションの中に登場する風景や室内など、背景画を描くものです。
監督の思い描く世界で、キャラクターが自由に動き回れるよう、動きもイメージしながらその場所を絵として具体化していく作業です。
美術監督になると、作品の具体的な世界観を決める「美術設定」、世界観のイメージを絵で表現した「美術ボード」を描く仕事を任されるようになります。
また、たくさんのスタッフから上がってくる背景に統一感をもたせるように、統括する責任者になります。
男鹿さんが描かれたジブリ映画の背景画をご覧ください。

『となりのトトロ』 トトロの住む穴へ続くトンネル


『もののけ姫』 シシ神の森

『ハウルの動く城』 ハウルの秘密の草原

『千と千尋の神隠し』 シャクナゲの庭

『紅の豚』 ポルコの隠れ家 洞窟の入り江
ジブリとの出会いは偶然だった

『幻魔大戦』背景画
当時ジブリでは、『火垂るの墓』と『となりのトトロ』を同時期に制作することが決まっていました。そのため、ジブリスタッフも半分に分かれて作業しなければなりません。
しかし、宮崎駿監督が信頼する美術監督の山本二三さんは、『火垂るの墓』の方を引き受けており、『となりのトトロ』のために、新しく美術監督を探す必要が出てきたのでした。
そこで宮崎さんは山本さんに相談し、「この人がいいんじゃないか」と推薦されたのが男鹿さんでした。
そこで全く面識のなかった男鹿さんに、電話をかけ、参加を呼び掛けたのです。
「宮さんの最大の特徴は、『自分の信頼する人の友達は信頼できる』と思っていることです。」
DVD『ジブリの絵職人 男鹿和雄展 トトロの森を描いた人。』ウォルトディズニースタジオ ホームエンターテイメント 鈴木敏夫プロデューサー インタビューより引用
『となりのトトロ』で宮崎監督から求められたもの


絵の背景にある優しい人柄
男鹿さんは背景画に、今まで以上に心配りをするようになりました。
例えば、メイがトトロの住処へ通じる穴を見つけ、トンネルを転げ落ちるシーンです。
ここではそのトンネルの出口に、たくさんの花や雑草が描かれています。
漠然と描かれているのではなく、幼いメイがシナリオの通り地面に転がり落ちても、怪我をしないようにと、意識して柔らかくふわふわした地面になるように描いたのだそうです。
まるで本当の人間の子役の子どもにするような配慮ですね。
そうした優しい配慮は、見ている私たちにも安心感を与えてくれるのだと思います。
穴ぼこから転がり落ちたメイ。となりのトトロのGIF画像 [GIFMAGAZINE]
サツキとメイの家


サツキとメイの家|愛・地球博記念公園(モリコロパーク)
高畑勲監督からのラブコール『おもひでぽろぽろ』

「メイが迷子になって、里山の風景がどんどん夕方になっていく、その積み重ねが素晴らしかった。トトロでの、男鹿さんの仕事の占める比重は大きいなと」
DVD『ジブリの絵職人 男鹿和雄展 トトロの森を描いた人。』ウォルトディズニースタジオ ホームエンターテイメント 高畑勲監督 インタビューより引用
鈴木プロデューサーの言葉を借りれば、「北の人(東北出身の人)と南の人の描く絵は空気が違う。北の人の絵は空気が澄んでいる。高畑さんは空気の澄んだ絵が好き」なのだそうです。
高畑監督からの依頼を受け、次の仕事は『おもひでぽろぽろ』の美術監督になりました。
高畑監督は、宮崎監督とは全く違うやり方で映画を作っていきました。
宮崎監督の下では、監督自身が自分で絵コンテまで描いてイメージを伝えてくるので、背景美術の人はそれを元に背景を起こすやりかたでした。
しかし高畑監督の場合は、自分では全く絵を描きません。そのため何度も話し合いを重ね、ロケハンに出かけ、同じイメージを共有する事から仕事が始まっていきました。
リアリティーあふれる山形の背景美術




『おもひでぽろぽろ』は、その背景美術において、細部にまでこだわってリアルに描き込まれていることが高い評価を得ました。
ところが男鹿さん自身は「描き込み過ぎた」と反省したそうです。
こうして常に妥協せず、次の高みを求めているところが「ジブリの絵職人」と呼ばれる所以なのかもしれません。
『もののけ姫』森を描く・空気を描く
1997年に公開された『もののけ姫』では、前代未聞の「5人の美術監督」が起用されました。
もちろん男鹿さんもそのひとりです。
鈴木プロデューサーによると、作中の舞台が北から西へ移動していくお話なので、「エミシの村」「たたらば」「シシ神の森」など、担当するところは美術監督の出身地で選んだのだそうです。
「自分の生まれた地域、育った地域の空気こそ、その人が一番表現できる」という理由でした。
秋田出身の男鹿さんが、ブナの原生林に覆われたエミシの里山を担当しました。
そしてそれを描くために、ひとり白神山地に取材に出かけたのだそうです。

白神山地
男鹿和雄の名言 厳選集|名言DB リーダーたちの名言集

朝霧の沸き立つ山々
男鹿さん自身の背景
ここまで男鹿さんの描く背景美術の世界を見てきましたが、最後に、男鹿さん自身の背景にふれる絵本について紹介したいと思います。
アニメーションの背景を手掛ける方はたくさんいますが、男鹿さんの描く絵にはなぜか、懐かしさややすらぎを覚え、惹かれるものがあります。
なぜなのでしょう。
それについて、日本美術史家で、東京大学・多摩美術大学名誉教授 辻 惟雄(つじ のぶお)さんがこう述べられています。
『秋田、遊びの風景』

カジカ釣り、タケノコ掘り、どじょうすくい、キノコ採り、田んぼの野球、模型飛行機。
運動会のお弁当、なべっこ遠足、夏の食卓、毛鉤釣り、川遊び、干し餅。
その内容は多岐にわたっていて、読んでいると本当に気持ちが温かくなってきます。

男鹿和雄出版記念 秋田、遊びの風景展

道の駅 駅長のぶつぶつモノローグ[ミチノエキは未知の駅] : 2013年10月27日

