世紀の番狂わせでタイソンを倒した男、ジェームス"バスター"ダグラスの悲劇と現在

世紀の番狂わせでタイソンを倒した男、ジェームス"バスター"ダグラスの悲劇と現在

1990年2月11日、東京ドーム。史上最強と言われていた世界ヘビー級チャンピオン、マイク・タイソンを倒してボクシング史上最大の番狂わせを起こしたジェームス"バスター"ダグラス。マイク・タイソン敗北の理由や正規の誤審と言われたロングカウント事件、最強を倒したのに最強と呼ばれなかった悲しき男の運命について紹介。


最強のヘビー級ボクサーと言われたタイソンを倒して、一夜にして『最強』の称号を手にするかと思われたダグラス。
しかし、勝利したその日から彼の悲劇は始まっていた。

疑惑のロングカウントを巡って、タイソン陣営のドン・キングはWBCとWBAの関係者を呼びつけ、さらに記者会見を開き「8Rのダグラスのダウンで勝負は決まっていたから、10Rのタイソンのダウンは無効だ」と訴えた。
WBCはレフェリーがタイムキーパーからカウントを引き継がなかったとして、ダグラスの王者認定を一時保留にし、レフェリーのオクタビオ・メイランもミスを認めた。

また、マイク・タイソンも「結果に不平を言ったり、文句を垂れたりはしない。だが俺はKOされる前に相手をKOしていた。世界チャンピオンでいたい。みんなそれを求めている」とコメントした。

こうした流れによって、ダグラスの勝利は祝われることなく『疑惑の王者』とされてしまう。
あのタイソンに真っ向から挑み、そしてKOしたのは事実であるにも関わらず、その実力さえ疑われてしまった。

このロングカウント判定は法廷に持ち込まれ、最終的に「試合におけるレフェリーの裁定は最も重要だ」と判断され、ダグラスの王座獲得が認められた。

しかし、数ヶ月法廷闘争に明け暮れたダグラスは防衛戦の準備ができず、モチベーションも損なわれてしまっていた。

初防衛戦でイベンダー・ホリフィールドに敗れ王座陥落。そして引退。

1990年10月25日。
当初タイソンの防衛相手として予定されていたランキング1位、イベンダー・ホリフィールドとの指名試合を行う。

試合会場に立っていたのはタイソン戦とは別人のようなジェームス・ダグラスであった。
タイソン戦から約8か月で体重は大きく増加し、引き締まっていた肉体はたるみを帯びていた。

ホリフィールドはアマ時代にロス五輪で銅メダルを獲得。
プロ入りし手始めにクルーザー級を統一し、満を持してのヘビー級タイトルへ挑戦であった。

体重増で動きにキレのないダグラスは、1Rからホリフィールドにスピードで圧倒される。
タイソン戦で見せた積極的な姿勢もなく、攻め込まれるシーンが目立つ。

そして、迎えた3R。
劣勢を感じたダグラスが大振りのアッパーを振り上げた隙を、試合巧者ホリフィールドは見逃さなかった。
後ろに下がりながら躱すと矢のような右ストレート。
この一発でダグラスはダウン、タイソンの剛打を何度も何度も耐えた男は起き上がることができなかった。

この敗戦によって、「結局、ダグラスはまぐれでタイソンに勝っただけ」とダグラスの実力を評価する声は聞かれなくなった。
失意のダグラスは引退を表明。

『タイソンを倒した男』として臨んだこの防衛戦でのファイトマネーは2,400万ドル(約30億円)にも跳ね上がっており、巨万の富を既に手にしていたダグラスは「もう戦い続ける必要はない」と語ったという。

引退後、自堕落な生活で死にかけて復帰を決意

元々、メンタルの弱さを抱えていたダグラス。
働かなくても十分な富を築いた引退後は過食症とうつ病、さらにアルコール依存に。

体重は180kgを超え、血糖値に至っては800を超えた。
重度の糖尿病で1994年には昏睡状態に陥ったこともあった。

迫りくる死を体感したダグラスは、減量するため、そして人生をやり直すためにボクシングへの復帰を決意。
体重を110kg程度まで落として1996年6月22日、6年ぶりに現役復帰を果たした。

その後も、『タイソンを倒した男』の実力を見せ、復帰から6連勝を記録。
タイソンも服役を終えて1996年に復帰しており、再びタイソンvsダグラスの試合が組まれる可能性もあった。
この再戦について後年ダグラスは「体重を落として健康的な人生を歩もうと思っていただけで、タイソン戦は考えていなかった。」と語っている。

1998年6月25日、マイナー団体ながらIBAの世界タイトル戦に挑んだ。

IBAのタイトル戦に敗れたダグラスは、その後2試合を行いどちらも1RKOで勝利。
まだまだ、やれるところを感じさせたが1999年引退した。

前年に弟が事件で射殺され、彼を育てトレーナーとしても支え続けた父ビリーがこの年の10月に癌で亡くなったことが影響しているのではないかと推測されている。
(ダグラスのもう一人の弟も1981年に別の事件で射殺されている。)

ジョージ・フォアマンのように世界王座復帰とはならなかったが、ダグラスは「この復帰があったからその後の人生をポジティブに歩める様になった。復帰して良かったと思っている。」と振り返っている。


【ジェームス"バスター"ダグラス通算成績】
46試合 38勝(25KO)6敗1引き分け1無効試合

現在のジェームス"バスター"ダグラス

タイソンを倒し『バスター(破壊者)』の愛称で呼ばれたダグラスは現在、故郷のオハイオ州コロンバスで若いボクサーを訓練している。
息子のケビンとアーティもそこでダグラスからボクシングの手ほどきを受けている。

かつて父ビリーがジェームスにそうしてくれたように愛のある指導を行い、苦悩する時があっても「必ず良い日が来るよ」と自らが経験した栄光や挫折と共に伝えているという。

「私は素晴らしい時間を過ごしている。ここで彼らは私を愛し、私は彼らを愛し、人生を楽しんでいる。」とダグラスはインタビューに幸せそうな笑顔で語っている。

史上最強ボクサーと謳われたマイク・タイソンを倒しながらも、実力を評価されることなくリングを去った悲運のチャンピオン、ジェームス"バスター"ダグラス。
彼自身が獲得し得なかった『最強』の称号を、いつしか彼の息子や教え子が獲得するのかもしれない。

ちなみに…

マイク・タイソンとは数年前にボクシングのイベントで再会したが、法廷まで持ち込まれたロングカウント事件のわだかまりは完全には解けておらず、ほとんど会話が無かったという。

マイク・タイソン、ジェームス・ダグラス サイン入りグローブ

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