はじめに
長くアメリカに住んでいる知人が、近年日本でも定着しつつあるハロウィンについて「日本のハロウィンは、グロさが足りない」と申しておりました。もっとおどろおどろしく、気持ち悪いものでなければ、真のハロウィンとは言えない、と。
そんなホラー大好きなアメリカ人をも恐怖のどん底に突き落とす、アメリカが誇る怪奇派レスラー。それが、ジ・アンダーテイカーです。1984年にプロレスデビューし、実にキャリア30年以上を誇る大ベテラン。未だその人気は衰えることを知りません。彼の何がそれほど人々を惹きつけるのでしょうか?

ジ・アンダーテイカー
ジ・アンダーテイカー 再臨!!|そうそう当たるものではない
「アンダーテイカー」とは?
世界最大の超メジャープロレス団体、WWEでは、下記のようにアンダーテイカーを紹介しています。
最大級の賛辞でその功績を称えているのもさることながら、単純に、その規格外の体格にも驚かされます。190cm越えのレスラーがゴロゴロいるWWEでも、208cmというその身長は驚異です。
プロレスデビューは1984年。いくつかの団体を渡り歩いたのち、WWF(現・WWE)と契約。そして1990年、アンダーテイカーが誕生します。
「墓堀人」誕生
「アンダーテイカー」(undertaker)とは「葬儀屋」という意味ですが、彼の場合は、直訳の「墓堀人」が日本語訳及びニックネームとして当てられます。
プロレスでは「ギミック」と呼ばれるこうした設定は、しばしば持て余されて不徹底に終わることがありますが、アンダーテイカーは違いました。様々なギミックが付け加えられながらも、徹底してそれらを守り続けているのです。例えば、こんなギミックが存在しました。
・出身地はデスバレー(死の谷)※本当の出身地はアメリカ・テキサス州ヒューストンです。
・マネジャーが持つ骨壺から発するパワーがないと活躍できない
・雷を落とすことができる
・対戦相手に幻覚を見せることができる
・母の不貞により異父弟が生まれたことに激怒し、自宅に放火。その火事で母は死亡、弟は重度の火傷を負った
ちなみに、この「放火が原因で火傷を負った異父弟」は「ケイン」の名でマットに登場し、兄と抗争を繰り広げることになります。

アンダーテイカー&ケインの「破壊兄弟」
燃やされても埋められても何度でも甦る!
「墓堀人」というギミックゆえ、アンダーテイカーの闘いには常にホラーな展開が待ち構えています。例えば、棺桶を使った闘い。

リング脇にこんな棺桶が用意されます。
アンダーテイカー|WWEを徐々に好きになってゆく
棺桶だけではありません。1998年には、先述の弟・ケインやストーンコールド・スティーブ・オースチンとの抗争では、こんなこともありました。
しかしながら、たとえ棺桶ごと燃やされても、生き埋めにされても、必ず復活するのがアンダーテイカーです。その数、少なくとも5回以上。生き埋めにされた場所に落雷があった後、土の中から手がボコッと突き出るような場面もありました。
ギミックに留まらないその能力
これまで、キャラクター面を主にお伝えして参りましたが、ジ・アンダーテイカーというレスラーを語る上で欠かせないのが、208cmの巨体に見合わぬ優れた身体能力です。まずはこの技。

オールドスクール
ジ・アンダーテイカー - Wikipedia
150kg近い体でトップロープの上を軽々と渡り歩きます。
ちなみに、アンダーテイカーを敬愛し、アメリカでも活躍した日本人レスラー・新崎人生は、この技を「拝み渡り」という名で使用しています。

ツームストン・パイルドライバー
フェニックススプラッシュ ジ・アンダーテイカーvs白死
「ツームストン」(tombstone)はズバリ「墓石」。確かに、相手の体が墓石のようにマットに突き刺さっています……。

チョークスラム
ジ・アンダーテイカー: シュンの日記
この高さから、このままマットに叩きつけられるわけです。アンダーテイカーの代表的なフィニッシュホールドといえるでしょう。
そして、相手をフォールする時の形相が、こちらです。

子どもの頃にうっかり見てしまったら、夢にうなされそうな恐ろしさです。
決め台詞
WWEのスーパースターには、必ず決め台詞が存在します。例えば、かつて大旋風を巻き起こし、現在は俳優として活躍するザ・ロック(ドウェイン・ジョンソン)の場合、
"If you smell what The Rock is cookin'!"(ロック様の妙技を味わうがいい!)
もちろん、アンダーテイカーにもあります。例えば、
"Rest in peace"(安らかに眠れ)
よく追悼メッセージに用いられるフレーズですが、アンダーテイカーは、相手を葬る時に使います。
"Try me, I'll make you famous!"(かかって来い、お前を有名にしてやる!)
絶対的な自信に裏打ちされた台詞ともいえます。
WWEは日本でもテレビ放映されていますが、こうした決め台詞は、さほど英語が得意でなくても分かるくらい、ゆっくり発音してくれます。そしてWWEのレスラー(及び登場人物)は総じて分かりやすい英語でマイクアピールをしますので、英語の勉強がてらに聞いてみてはいかがでしょうか。
突然のキャラクター変更
そんなアンダーテイカーですが、一時期、ガラリとキャラクターを変更したことがありました。その名も「アメリカン・バッド・アス」。いわゆる「アメリカの不良オヤジ」です。

バンダナを頭に巻き、ごついバイクを乗り回す、それまでの「墓堀人」からはかけ離れた姿に困惑するファンも多くいましたが、この「アメリカン・バッド・アス」キャラ、一部のファンの間では今でも根強い人気を誇っています。ちなみに、本人曰く、この姿は自身のプライベートに近いそうです。
この時代、彼がよく使っていた決め台詞は、
"This is my yard!"(ここは俺の庭だ!)
これは、後に「墓堀人」として甦った後にも多用されています。
レッスルマニア不敗神話
長年WWEのスーパースターとして君臨するアンダーテイカーを「伝説のレスラー」たらしめている1つとして数えられるのが、「レッスルマニア不敗神話」です。
まず、「レッスルマニア」について。

日本語では「祭典」と訳されるように、アメリカンプロレスの世界においては、年に一度の大一番なのです。
アンダーテイカーは1991年の初出場以来、実に21大会において勝利を重ね続けました。いつしか、その勝利は「不敗神話」となります。
しかし、2014年、ついにその神話が終わる時がやってきます。レッスルマニア、記念すべき30回目の大会のことでした。対戦相手は、ブロック・レスナー。プロレスと総合格闘技の世界を股にかけて活躍するスーパースターです。

20140407 - レッスルマニア30の墓掘り人 - yamablog
おわりに
プロレスには、スポーツとエンターテインメントの要素が複雑に入り混じっています。その中でもギミックは欠かせない要素といえます。ギミックは時に「八百長」などと揶揄される要因となることもありますが、「実は分かってはいるけれども、あえてその『体(てい)』で見てみる」という楽しみ方もプロレスの魅力の一つではないでしょうか。
ジ・アンダーテイカーはその徹底したギミックで一世を風靡しましたが、それを支えていたのはレスラーとしての確かな技量であったことは間違いありません。現在はスポット参戦が多くなっているアンダーテイカーですが、これからも世界中を震撼させる活躍を期待したいものです。
