手塚の描く戦闘少女〜 漫画「プライム・ローズ」

手塚の描く戦闘少女〜 漫画「プライム・ローズ」

手塚治虫の漫画「プライム・ローズ」、ご存知でしょうか?硬軟両面で時代を映した作品といえるかも知れません—


第1巻、表紙

手塚ロリ?

手塚氏の同誌連載としては「七色いんこ」の次となる作品です。
女性主人公、それも露出の多いコスチュームの少女の主人公は、当時のいわゆるロリコンブームの影響ともいわれますが、同年新年号から連載開始された同誌の「あんどろトリオ」が突出しているくらいで、ほかに一般漫画誌のかぎりは目立ったものは見当りません。しかし、同年はのちにロリコン二大誌と言われた「レモンピープル」と「漫画ブリッコ」(ただしこちらのロリコン路線化は翌年から)の創刊の年でもあり、同人誌の抗争まで耳に入れていたと言われる手塚氏の精通ぶりから考えて、そういった影響によるものではないとは言いきれないし、直接の影響関係をともかくとすれば、そういった時代を反映したものであるとは言えるかも知れません。

いつの時代か どの場所か

〈いつの時代かも どの場所かも わからない〉として物語は始まります。
強大な国家グロマンが軍事力でククリットを打ち負かし支配権を握り、16年が経ったところから物語は始まります。

今作の主人公。
ククリットの上流階級タチ家の娘。
行動的ではっきりものを言う性格。スウォードプレイというスポーツのクラブ活動に参加しており、1巻表紙などの姿はそのコスチューム姿。

エミヤ・タチ

エミヤのボーイフレンド。エミヤは彼と結婚するつもりと言うが、タロは二人の身分の違いから行く末を案じている。タロのような身分のものにはやがて強制労働への徴用もあるのだ。
身分違いの交際をエミヤの父に嫌がられ、まだ対象年齢ではないのに強制労働に徴用されてしまう。

タロ

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グロマンから送られたククリットの総督
パーティーでのダンスの相手をエミヤにきつく断られ、嫌われている。
強制労働のコロニーにタロを救いに来たエミヤを案内するが、
タロは脱走。二人が駆けつけるのが間に合わず、タロは目の前で殺される。
「殿下ッ きっとあんた殺してやるわ 覚えてらっしゃい!!」

ピラール

数奇な出自

父とピラールそれぞれから聞かされ、エミヤは自分とピラールの数奇な出自を知ります。
グロマンのククリット支配がなったとき、両国の王室は“平和”の証として生まれたばかりの第三王子と第三王女を人質として交換したのです。それがエミヤとピラールだったのです。つまりエミヤはククリットの人間でありながらグロマン人。ピラールはグロマンの人間でありながらククリット人というわけです。

また、タロが徴用されてしまった日、エミヤは浮浪者のようなナリの、しかし眼光鋭い不思議な老人に出逢っていました。彼はエミヤに、彼女がグロマン人であること、グロマン人の身体は危険に際して硬化するなど強靭であることを教えます。
その彼の手引きで、彼女は当局に業界を追放された、かつての有名漫画家を訪ねます。
漫画家はグロマンがククリットに行った侵略と虐殺を作品に描いたため、当局に追われているのです。学校の教科書は侵略を「解放」で「悪者退治」、虐殺を「平和のためのほんのチョットした犠牲」と教えているのでした。
二人が話しているところに、グロマンの殺し屋たちが乗り込んできます。高層ビルから突き落とされ漫画家は殺されますが、身体を硬化したエミヤは助かります。
それから、エミヤは友人の紹介で偶然、教科書出版社の人間と知り合います。彼はエミヤがククリットの味方のグロマン人であることを知ると、彼女に教科書をつくっているコンピューターの破壊を懇願します。一旦は断ったエミヤでしたが、虐殺の現場の廃虚を見せられ、また彼がそのたった3人の生き残りの一人だと知り、コンピューターの破壊を決行します。

師との修業

エミヤが教科書コンピューターを破壊したことを知ったピラールは証拠を抹消させます。そして罪を見逃す代わりにエミヤに自分の元に来るよう迫ります。抗って部屋に火を放ったエミヤは、老人の手助けで逃亡。ククリット王国の果て、荒廃地の住処に彼女を連れた彼は、ジンバと名乗り、自分を師として学ぶように告げます。

貴族の令嬢としてなに不自由なく我がまま放題に育ったエミヤを、ジンバは鍛え直す。
剣もスポーツではなく、生き残るための術として。
彼は盗み出したグロマン王の印璽を隠しており、エミヤに彼女のほんとうの父のことを教える。代々のグロマン王は宇宙の悪魔に忠誠を誓い不可思議な能力をグロマン人に受けてきたが、エミヤの父十七代グロマン王はそれが滅びの道だと悟り、ククリットとの平和を築こうとした。ところが側近のゴールダは王と王妃を殺害し、自分が十八代の王となるとククリットを侵略したのだという。
エミヤはジンバこそが、ほんとうは自分の父ではないのかと問うが、彼は否定する。

ジンバ

別れ、そして石になったエミヤ

ピラールはエミヤを追って荒廃地に単独やって来ますが、搭乗機を失い帰れなくなってしまいます。やがてピラールの兄キリコが追っ手としてやってきます。ジンバと剣で戦い、ジンバを倒すキリコ。命が尽きるなかで、ジンバは自分が十七代王、エミヤの父であることを明かします。捕えられるところをエミヤは“石”に硬質化します。そして、通常はしばらくで解けてしまう硬質化が、いつまでも解けずエミヤは石像のようにピラールの総督邸に安置されることになります。
—そして、一年の月日が経ちます。

未来の日本人

話が錯綜するのを避けるため、いくつかを省いてエミヤの物語の流れを追ってきましたが、エミヤがコロニーに潜入した際、脱走者監視に雇われている、グロマンでもククリットでもないという男、タンバラ・ガイと出会っていました。どうしてもタロを救いにいくというエミヤを、彼は途中まで送ってやったのです。
そしてそのあと、ピラールにスパイの嫌疑をかけられた彼は、“弟子”のブーボーとともに、強制労働のもっとも過酷な地区に送られたのです、、

ガイが強制労働送りとなりエミヤが石像と化した一年後、突然、荒廃地に爆発とともに現れた少年。彼はほんの小さな不思議なカプセルで川を凍らせるなど、グロマンやククリットの科学を超えた存在に見える。
—彼の名は胆原文烈(ブンレツ)。

タンバラ・ガイは、彼の兄、胆原凱。
ガイはタイムパトロールの一員。千葉の九十九里浜とアメリカのダラスがまちごと一万年後の未来に飛ばされた事件を追っていた。

ブンレツは帰らない兄を追って、養成学校の1年生でありながら、無断無免許でタイムマシンを使い、先ほどこの時代に到着したのだが、タイムマシンは失ってしまったのである。

ブンレツとタンバラ・ガイ

ブンレツはエミヤのものだった馬とともに、ククリットを目指しますが、賊に襲われ、その拠点へと出向きます。すると、そのボスはガイだったのでした。
ガイはコロニーに送られたククリット人の反抗地下組織のリーダーとなっていたのでした。
そしてブンレツは、一万年後に飛ばされたまちの真実を聞かされます。ククリットは九十九里浜の日本人の「成れの果て」だったのです。“日本人同胞”のためにガイはコロニーのククリット人たちを率いて施設を占拠。ついでブンレツとともにククリットのまちに潜入し、石像と化したエミヤを奪取。ククリットの印璽を近づけることで、一年間石のままだったエミヤを元の姿に戻します。

悪魔の掌のうえ、愚かな人類

石像のエミヤを救い出す際にグロマンに捕まってしまったブンレツは、しかしエミヤの姿をした“悪魔”に助け出されます。悪魔はブンレツにことの発端を教えます。
アメリカとソ連が睨み合い世界中が戦争をしていたころ、破滅兵器を載せたある国の軍事衛星が落下します。二つに割れた軍事衛星は九十九里浜とダラスに落ち、核分裂のショックで二つのまちはタイムスリップしたのでした。それはこの悪魔がやったことだというのです。
「二つの国を戦わせたかったからよ/どこでもよかったの 二つの人間たちを選んでどっか別の場所へもってきて…/おたがいにケンカするかどうかみたかったの」〈ちょうどカブト虫を二匹木からはがしてもってきて机の上で戦わせたりするでしょう?〉「地球の人間って二つかけあわすと すぐケンカするから おもしろいの/適当に二つ 一万年先へもってきてみたの そしたらやっぱり戦いだしたわ」
プログラムに予定外のことはできないのでブンレツが邪魔だという悪魔は、タイムマシンで立ち去るよう忠告しますが、彼が頑としてガイのもとに戻ると言うので仕方なくそうさせます。

復讐の王女

ブンレツはガイのもとに戻り、自分では歩けないほど傷を負っていたガイも、ブーボーの助けを借り蜂起したククリット市民と合流、一方、エミヤもコロニーに向けられたグロマンを殲滅し総督邸へ。キリコと剣で対峙し、彼を殺します。囚われているピラールも殺すというエミヤを、ガイは止めます。
解放の喜びに沸くククリットですが、グロマン本国からゴールダの大軍が向かっていました。エミヤは、全滅覚悟で伝染病を散蒔いて大量のグロマン人を道連れにしようとします。
復讐に駆られるエミヤと多くの人々を救うため、ガイはピラールの協力を求めます。タイムマシンでこの発端の軍事衛星をとめようというのです。ブンレツとエミヤの馬と、彼らはタイムマシンで旅立ちます。軍事衛星の国籍を確認すると、その生産工場に乗り込み衛生を破壊します。タイムマシンに残され、さらに50年前へと飛ばされたブンレツ以外は爆破を成し遂げ死んでしまいます。
軍事衛星の落下も二つのまちのタイムスリップもククリットもグロマンもなかった世界—〈新しい九十九里浜 新しいダラス 新しいエミヤ…〉
ブンレツは飛ばされた“現代”で九十九里浜を訪ね、偶然路上でエミヤに会います。ダラスから交換留学生でやってきた和装の「新しいエミヤ」です。もちろんブンレツのことなど知りません。
「…もしかしたらいつかね…ガイという青年に会うかもしれないよ/そしたら たぶん愛しあうかもしれないよ そのガイってのが…/いいやなんでもない/バイバーイ/しあわせになーッ」

手塚、もし現代に生きなば、、

以上が「プライム・ローズ」の物語のあらましです。
タロ、ガイ、ピラール、ほかにも教科書出版社のロイ、、エミヤと関わる男は誰もがエミヤに恋を抱きエミヤもまた惹かれてしまいます。そして全員が命を落とすという、ファム・ファタールものみたいな、、いや女主人公だから違いますかね、一種のビルドゥングスロマン?違うかなあ、石化から還ったエミヤは王女の風格だけれども「昔の性格がなおって」ないし、結局は復讐の虜となってしまうし、、火の鳥に描かれたような人間の業の深さを見ますね。
そしてなにより、当時の冷戦でなお「戦争」をやめない人類への猛烈な批判です。翻ってこのテロとアベの現代、これを描いている漫画家たちは、、どうでしょう—。
手塚、もし現代に生きなば、、

最終巻、第4巻の表紙

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