神様も楽しんだギャグ漫画
漫画「ドン・ドラキュラ」は、手塚治虫の少年誌への返り咲きにして代表作となった「ブラック・ジャック」を受けての、少年チャンピオン連載第2弾です(ブラック・ジャックは不定期連載として並走しています)。
漫画の神様といえど、再び少年誌でヒットを飛ばせるか不安ななかからのスタートだったブラック・ジャックに比べ、今作では既にブラック・ジャックやマガジンでの「三つ目がとおる」の好評があっての状況、手塚氏自身も楽しく描いていたといいます。
とはいえ、「二番煎じをほかの雑誌に載せたがる」なんて、安直な漫画家とは違うんだといった、常に現場第一線で手を抜かない神様の姿勢と、ブラック・ジャックへの愛着も見えるではありませんか^^

ドラキュラはつらいよ、、
第1話「ドラキュラ登場」
ドン・ドラキュラと娘チョコラは、なぜか日本(東京・練馬)に住む吸血鬼の親子。今夜は新宿に“おいしいものをたべに”行く約束。歯磨きで牙の手入れ、マネキンを相手に予行演習をしますが、浮いた歯があって調子が悪い。
チョコラが学校から帰ってくると、美人の血を飲み連れて行ってやると伯爵。娘には「学校じゃ他人の血を飲んじゃいかんぞ」と教えています。
と、そこに闖入者、、!


降り立って歩き出す伯爵ですが、映画館では「ゾンビ」の看板に怯え、「ドラキュラの作法」と目的の女性の高層マンションを階段で上がるもののへばって宗旨替えでエレベーターに、いざと臨めばベッドに横たわる女性は夜食にギョーザを食べていて、散々な目に、、
口臭が消えればと潜んでいると、女性は出かけます。つけていると彼女はひき逃げにあってしまいます。
駆けつけた救急車の隊員(手塚氏です!^^)に無理矢理、彼女への輸血をさせられる伯爵、、吸血鬼が血を吸いそこなって、逆に取られるなんて、、^^;
チョコラはコウモリに変身してひき逃げ犯を追跡。いま人気ナンバーワンの男性アイドルがひき逃げ犯の正体でした。彼の血をたっぷり吸ってチョコラが帰宅すると、ほうぼうの体で帰り着いた伯爵が。
「ごめんね おとうさん あたしだけおなかいっぱいで…」「気にしなくてもよいぞ…」「お台所にインスタントのおうどんならあるけど」「やせてもかれてもわたしは伯爵だ!うどんなど食わん!」
「おとうさん あたし美人?」「あー美人だよ なぜ」
「あたしの血を吸って/首かんでいいわよ」と自分の首を差し出すチョコラ、、
「バカ…いくらなんでもドラキュラがドラキュラの血を吸うなんて聞いたことがあるかい…」。愛し子を抱き寄せる伯爵。
二人それぞれの棺桶で眠りにつきますが、空腹で寝られない伯爵。ひとりこっそり起きだして、台所でわびしくカップうどんをすするのでした、、T.T

さんざんなドラキュラ
作者の手塚氏が言うように、伯爵は吸血鬼とはいえ、「お人好し、オッチョコチョイ」のドン・ドラキュラ、、「やたらと権威をふりまきたがる」といっても空回り、チョコラにも厳しい父たらんとしますが、やはり愛娘にはいまひとつ弱い、、^^
詐欺商法の連中の方が“吸血鬼”だ、とチョコラに焚き付けられ、彼らを命がけで叩きのめし、結果人助けになったり(第1巻第2話)
故郷トランシルヴェニアを産油国でないと軽んじられ、タンカーを強奪。しかし空で、貧しい国にあげることになったり(同第4話)
トンネル事故で一緒に閉じ込められた暴漢から奪ったダイヤを、金に困って一家心中しようとしてた家族に与えたり(第3巻第1話)、、人助けをしてしまうことも多々^^
とうぜん吸血鬼ですから、十字架、ニンニク、水には弱い。とりわけ日光を浴びると灰になって“死んで”しまいます。
伝来の秘法にて、その灰を棺桶に、血やニカワと入れて混ぜ合わせ、ふたをしてカップ麺のように3分待つと、蘇るのですが、、


チョコラの生活
チョコラはふつうの人間の夜間中学、高田馬場の「松谷中学」に通っています。

伯爵は、宇宙人や円盤を荒唐無稽のでたらめ、SFをあんなものは寝言と嫌う、現実主義者(?)でノブヒコとは折りが合わず、、おまけにノブヒコが、ドラキュラやオオカミ男の方がずっと作り話で、迷信だと言うので、激怒!
、、でもチョコラに泣きつかれて、人間だけれども例外で招待も許すし、SF研に寄付までさせられてしまいます、、^^
日の光を浴びて伯爵が灰となって飛散してしまったときには、残った指からチョコラがクローンとして蘇らせ(!)、伯爵はバカにしているSFに(?)命を救われたこともあります。
その後、ノブヒコは転校で昼間の中学に。日曜の昼間なら東京に出て来れるというので、チョコラはクリームやら合羽やら試して陽の光を浴びては灰に、、イゴールに復活させてもらったものの、〈ノブヒコくんと海へ行って まっ黒に日焼けするからだにきっとなるわ きっと…きっと…〉 夢はあきらめていません、、f^^;
哀しみのカーミラ
ある日、学校帰りのチョコラを待ち受けて、少女雑誌のグラビアに出ないかと声をかけてくる女性がいました。
実は彼女は、伯爵の元妻、チョコラの母カーミラだったのです。

チョコラを探し出し奪い返しに来たカーミラ。根城の島で人間を殺し続けてきた彼女に、チョコラは「大きらい」と言い放ちますが、生きていくためにほんのわずかを殺した自分に比べ、人間の方がずっと残忍な人殺しだと説きます。
雨のなか手が出なかった伯爵ですが、油紙を見つけてこれでミイラ男ばりの格好でカーミラに襲いかかり、「百年くらいは足腰たたん」ほど血を吸い取ります。娘の顔を名残惜しく見送るカーミラ。
欠陥航空機で大勢が死んだニュースを聞きながら、チョコラは母の言葉を思い返しています、、
仲良く喧嘩しな? 〜十年来の宿敵

伯爵の居所を追ってきた教授は、吸血鬼の気配を嗅ぎ付け、チョコラのいる夜間中学に教師として赴任します。
彼女からたどって伯爵のところへ潜入した教授ですが、持病のいぼ痔が出て、伯爵の棺を汚してしまいます、、^^; 「この棺はなドラキュラ家が五百年間使ってきたユイショある棺桶だぞっ きれいにして返せーっ」と泣き出す伯爵に、「わかったわかった洗うよ/消毒するってば」と伯爵家の庭で棺を一所懸命洗う教授なのでした、、^^
ドラキュラはさよならも言わずに、、
最終話
浮いていた歯が痛んで悩まされている伯爵。嫌がるのをチョコラが無理矢理、歯医者に連れて行きます。美人の女医に一目で入れ込んでしまった伯爵、勝手に再婚も考える浮かれよう。ところがこの女医さんが人違いがきっかけで密輸組織の連中に攫われてしまいます。
助けにあらわれ暴漢をのした伯爵でしたが、水をかぶって意識を失い、半年後ようやく目覚めます、、
すでに女医さんは結婚して処女ではなく人妻に。
新婚の食卓を窓から眺める親娘コウモリ、、「チョコラおかあさんがほしくないか…」「ううん今はおとうさんだけで十分よ」。かなしげに飛び去る、二匹のコウモリ。
これが最終話「ジョーズ・オブ・ドラキュラ」です。
哀しき“難民”の視線
第1巻の「はじめに」として手塚氏は、
と述べていますが、突然の中断というのは、いわゆる打ち切りなのでしょうか?(それにしても、ちゃんと(?)第1話の歯の話が回収されてますね^^)、、今回、調べてみてもその理由は探し出せませんでした、、
伯爵らが「難民」であるということに関しては、手塚氏がいうように故国を去らざるを得なかった事情は具体的に描かれることがありませんでしたが、その故郷喪失者の哀しみ、吸血鬼という異人の立ち位置は、今作の随所に見え隠れしてきました。
また、それは「人間」という“邦人”、多数者への異議申し立てでもありました。
自らの古式ゆかしいスタイルを貫こうとするも、空回りで時代に嘲られるような伯爵の姿、
夜しか生きれない我が身の不条理に怒り、昼間の日のもとでボーイフレンドノブヒコとの闊歩を夢見るチョコラ、
赤ちゃん虎は殺処分しようとし、誤って赤ちゃんパンダも殺してしまうと嘆く人間たちへの、チョコラの憤り、
故国を人間たちに追われた半魚人たちへの伯爵の同類哀れむ姿(難民に冷淡な日本、、)、
「戦争はかっこいい」という人間の子どもたちに他国に蹂躙され続けてきた故国ルーマニアの苦渋の歴史を教えるチョコラ、、
ドタバタギャグの一方で、他の手塚作品同様、今作にもは人間の残忍、日本の冷淡、そのなかで生きる異邦人の哀しみを潜ませてあるのでした。
気軽に愉しんで、あるいはまた上記指摘しましたような隠し味も味わいながら、いかがでしょうか「ドン・ドラキュラ」。筆者はオススメです^^