ロボットアニメ新奇時代 〜ダグラム登場時の状況
機動戦士ガンダムの成功以来—、
—といっても、のちにカルトな人気を得る作品がスタートレック然りヤマト然りそうであるように、
ガンダムもまずは名古屋などの一部地方で放映され振るわず終了となったあとに、一部マニアから火が付き、広い人気を獲得したのですが、、
まあとにかくガンダムの成功以来、ロボットアニメ、とくにアニメ制作会社サンライズの作品は、いかに新奇なことをやるかがファンの側でも製作側でも勝負になっていた時期を迎えていたのでした。
ガンダムは、飽くまで戦争ものであって、だからはっきりとした善悪の別はなく、単純に主人公の側が全面的に正義で敵が絶対的に悪というわけではなく、
戦争ものだから、主人公が乗るロボットもいち兵器のいち機体にすぎず、「量産型」なる兵器的概念をはっきり打ち出した点や、
単独では大気圏を突破することも(ガンダムは非常時の対応としてなんとか大気圏突入は可能ではあるのですが)、空を飛ぶこともできず、
いくら主人公ロボットが強いからといって、飽くまで戦争ですから彼独り一機で敵を全滅させるようなことはない—
いまの方からみたら、だからそれがなに?と思われるようなことかも知れませんが、筆者たち当時の子ども視聴者は多大なショックを受け、そこにいままでアニメには見なかった「リアル」を見つけたのでした(((( ;゚Д゚)))ガーン
ガンダムに続いた伝説巨人イデオンの主人公ロボットはなんと“遺跡”(!( ̄□ ̄;)
単純に科学的機械的に動くのではなく、未知の力「イデ」によって導かれ、
ストーリーや人間関係も愛憎乱れる、とても子どもに見せるものとは思えない暗いもので、
ガンダムの登場時以上に冷遇され打ち切りとなり、映画版に見送られたその結末は当時の筆者ら子どもを唖然させるものでした(最高の賛辞のつもりです!^^;)、、
前置きが長くなりましたが、そのあとを継いだサンライズのロボットアニメが「太陽の牙ダグラム」でした。1981年(昭和56年)10月23日から1983年(同58年)3月25日までテレビ東京で全75話放送(第19話までが毎金曜18:00 - 18:30、第20話以降は同17:55 - 18:25)。原作、監督は高橋良輔。
掟破りロボットアニメの挑戦者、「太陽の牙ダグラム」登場
よりミリタリー色の強い「コンバットアーマー」

ガンダムのロボットアニメとしての最大の発明は、主人公らの機体に「ロボット」という呼称を決して使わずに、「モビルスーツ」なる劇中のみで使われる新たな呼称をつくりだしたことにあります。
現実世界で考えるとそうですよね。一般人が乗る自動車にしろ軍隊の戦車にしろ航空機にしろ、「機械」とか「メカ」とかは決して呼ばず、「車」「戦車」「航空機」といった個別の呼称で呼びますものね。いまでもガンダムなどには全く興味がない女性なぞが「そのロボットがさあ、、」などと発言しては、「ロボットじゃない!モビルスーツ!!」などと子どもらもしくは子どもを失わないオッサンらに厳しく注意されたりしますね、、f^^;
、、というわけで、ダグラムにおけるその呼称は「コンバットアーマー」、略称「CBアーマー」となっています。
そして、ゲリラが独自開発したダグラム以外、
敵側の兵器会社が製造した量産CBアーマーは、「ソルティックH8ラウンドフェイサー」のように、「ソルティック社が製造したH8という型式の通称「ラウンドフェイサー」と呼ばれる機体」といったように、現実の軍事兵器と同じ名付け方が適用されています。

そして、ガンダムよりさらにミリタリー色を強めた結果、
CBアーマーは、
・飛べない(ガンダムは飛べないといっても飛翔に近いようなジャンプを見せたが、CBアーマーは、ほんとうにジャンプ程度しかできず、専用のヘリコプター式機体で空輸するしかない。もしくは、CBアーマー用のハンググライダーを使用する)
・顔にあたる部分がコクピットになっており、現実の航空機やヘリコプターがそうであるようにキャノピーになっている
・主人公機のダグラムなどは違うが、頭にあたる部分がない種類の機体、戦車に4本足が付いた形の機体などがあり、「ひとがた」とはかぎらない
などといった特徴が設けられ、
もちろんそのデザイン自体も、ミリタリー色が強いものとなっています(メカニックデザインはガンダムと同じ大河原邦男氏)。


アニメ雑誌に批判の声
さて、そんなメカ面でもキャラクターやストーリー面でも(これに関してはまた後ほどふれます)新進の気風を受け継いだダグラムでしたが、批判と戸惑いにも晒されました。
筆者は当時別のアニメ誌を購読していたせいか、下記に引用しました「『アニメック』誌による批判」というのには覚えがありませんでしたが、そういった声があったことには覚えがあります。

複雑で“リアル”な政治劇
さて、ロボットアニメの側面、メカのことばかり書いてきましたが、ここらで物語の最初の方のあらすじや登場人物たちを足早にご紹介しましょう。
なんだかはっきりすっきりしない現実の政治の世界に近いようなおハナシです。
その複雑で“リアル”な感じも新奇の試みですが、
なにより主人公がゲリラ側、しかも敵は権謀術数の政治家である父親だというところが、なんとも新しくて暗いハナシですね。
しかも現実に近いようなおハナシですから、この父親を倒しさえすれば万事万々歳といくというものでもありません。同じ引用先の後半を紹介いたしますね。
全面正義の側の主人公が、敵方のボスを倒して、視聴者の気分スッキリ、はっきり万事解決!
というようなものとは逆の極にあるようなハナシになっております、、^^;
とてもスッキリはっきりした結末があるとは思えませんね、、ラストに関してはまたあとでふれるとして、
遅ればせながら登場人物たちをご紹介しますね。
苦悩の登場人物たち

主人公 クリン・カシム
一部繰り返しになりますが、引用しますと、
経緯もさることながら、彼しか乗る者も慣れた者もいないから彼がダグラムに乗る、というリクツですね。
地味なヒロイン デイジー・オーセル

彼女はクリンを追ってデロイア星にやってきますが、すぐに彼と再会出来て彼とずっと行動をともにするわけではありません。
クリンの設定といい、彼女といい、アニメというより、西洋の古典文学のような造詣とおハナシですね。
もちろんほかも渋い、登場人物たち

(「大人は去り、若者は立ち上がる—」てコピーが裏テーマを示していますね。ダグラムは、父親ら大人を乗り越えようとするクリンたち若者の成長譚でもありますね)
その他の登場人物たちももちろん地味です(褒め言葉^^)。
いままでご紹介したあらすじにも一部出てきましたが、、
クリンが参加するゲリラグループ「太陽の牙」のリーダーは、地球でクリンと知り合った元暴走族のロッキー・アンドル。そのメンバーは、ロッキーの幼馴染みの女性キャナリー・ドネットほか、チコ・ビエンテ、ナナシ、ビリー・ボール、ジョルジュ・ジュールダン。
上の画像でジョルジュ以外は露出の多い格好なんで分かりやすいかと思います。クリン以外は皆デロイア人です。
ドナン・カシムは、クリンの父親にして、連邦評議会議長。デロイアを自治州に押し込め、独立を阻止する画策の首謀者。
ヘルムート・J・ラコックはドナンの補佐官だが、病に倒れたドナンに成り代わりデロイアの実質支配を目論む。
現実のなかに若者たちは真実を見つけたか
さて、地球連邦に対してデロイア独立を目指すゲリラ戦が展開されるなか、連邦軍のデロイア人兵たちも蜂起して反乱軍となり加わり、デロイア人民解放政府が樹立されます。
しかし前述のようにドナンに代わってデロイア抑圧の指揮を執るラコックは、元ゲリラの情報屋を介して解放政府の和平派と接触、和平協定を結び、実質的なデロイア支配を手中にまさに収めんとします。これによってクリンたちゲリラはデロイア新政府から鎮圧される側になってしまい事態は一転、独立政府とは名ばかりの全面戦争の様相となりかけます。
しかし、見返りの要求に応じなかったラコックが情報屋に射殺されてしまったことにより、この事態は避けられ、武装解除でダグラムを引き渡すことを嫌ったクリンたちは、自らダグラムに火を放ち武器を廃棄します。
荒野に朽ち果てたダグラムの姿—
ご紹介してませんでしたが、ダグラム第1話でこのシーンは既に示されていて、こういった結末は最初から予感されていたものでした。
独立運動は、クリンたちの戦闘と殆ど関係のないところ、大人たちの汚い陰謀術数で動き、いちおうは独立の結末を迎えたのでした。
などと、関連本に表現されていたとも言われています。
以上、複雑な背景に地味なおハナシ、主人公たちの活躍と直接関係しない、すっきりもはっきりもしない結末と、批判もあった「太陽の牙ダグラム」ですが、
ここまでお付き合いいただき、また作品を観ていただいて、どうでしたでしょうか?
しかしとにもかくにも、打ち切りにも遭わず、一年半の放送を乗り切りきちんとドラマを描き切った「太陽の牙ダグラム」。
筆者はその後のサンライズの系譜に繋がっていく、現在のロボットアニメの豊かさに貢献した作品だと思うのですが—。
