貴乃花  決して曲げず 貫き通したチカラビト SUMODO

貴乃花 決して曲げず 貫き通したチカラビト SUMODO

千代の富士、小錦、武蔵丸、朝青龍、兄、若乃花、数々の名勝負。宮沢りえとの破談、兄との確執、洗脳騒動、母親の不倫など数々のスキャンダル。小泉純一郎に「「痛みに耐えてよく頑張った!感動した!」」といわせた武蔵丸戦とその後のケガとの戦い。中卒でプロの相撲の世界に入った貴乃花は、嵐のような人生を職人的なプロフェッショナリティーで、ガンコに、一途に、真っ直ぐに進んでいった。


後の貴乃花、花田光司は、田中角栄が首相となり、ミュンヘンオリンピックが開催された1972年の8月11日に生まれた。
父親は、初代貴ノ花(花田満)
母親は、元女優の藤田憲子(現:紀子)
兄は、前年1月に生まれた勝(現:虎上)
このとき父親の初代貴ノ花は22歳。
貴乃花が生まれた1ヵ月後、9月場所の千秋楽でライバルで親友の輪島に熱戦の末に敗れたものの、場所後、大関に昇進。
3年後には横綱の北の湖に勝って初優勝を果たした。
体重110kg前後と力士としては細身の体で巨漢力士とわたり合う姿は「角界のプリンス」と呼ばれ、絶大な人気を誇った。

初代貴ノ花の師匠は、実兄の初代若乃花(花田勝治)
横綱として一時代を築き、「仏壇返し」は豪快に決め、「土俵の鬼」といわれた。
現役引退後は二子山部屋の師匠となった。
初代若乃花は7人兄弟の長兄、初代貴ノ花は末弟で年齢は22歳も離れていた。
末弟が入門を志願したとき、長兄は猛反対。
最後は兄弟の縁を切ることを条件に認め、入門後は徹底的に厳しく接した。
初代貴ノ花は、親方だけでなく兄弟子たちからも凄まじいかわいがりやしごきを受けた。
その体には刺し傷の跡さえあったという。

大相撲は、本場所と地方巡業があって

1月、初場所、両国国技館(東京)
3月、春場所、大阪府立体育会館
5月、夏場所、両国国技館
7月、名古屋場所、愛知県体育館
9月、秋場所、両国国技館
11月、九州場所、福岡国際センター

と奇数月に本場所が行われ、1回の場所の期間は15日間。
東京で行われる場所は部屋から通うことができるが、大阪、名古屋、九州場所では開幕半月前には現地入り。
また偶数月には全国各地で1日限りの地方巡業が行われる。
だから力士は1年の半分を東京以外で過ごす。
初代貴ノ花も家にいる時間は少なかった。
現役時代の父親を、兄の勝は寝そべったり、駈けずりまわったりしながらみていたが、弟の光司はテレビの前で正座してみていたという。

初代貴ノ花は、息子たちに「力士になれ」とは1度もいわなかった。
それどころか兄弟を、1学年1クラスの進学校、私立東京文化(現:新渡戸文化)小学校に入れた。
そのとき光司が1番仲がよかった友達は東大教授の息子だったという。
1981年1月、初代貴ノ花が引退。
ケガを重ねながら小さな体で土俵に上がり続け、大関在位50場所はダントツの最長記録。
しかし最強の称号は手に入らなかった。
ひたすら相撲に打ち込む父親をみて、いつか横綱になると信じていた8歳の光司は、悔し涙を流した。
「俺が力士になってお父さんの代わりに大関の上にいってやる」

引退して1年後、初代貴ノ花は兄の二子山部屋から独立し、中野区に藤島部屋を興し、藤島親方となった。
それに伴い、兄弟も引越し。
新しい家は、4階建てのビルで、1階が稽古場、2階が弟子が暮らす大部屋、3、4階が花田家の自宅。
このときテレビ取材が入り、後のバナナマン日村のモノマネの元ネタとなった。


兄弟は桃園第三小学校に転校。
小5の勝、小3の光司は「わんぱく相撲」に出た。
わんぱく相撲は、23区の小学校の3~6年生が、低学年の部、高学年の部にわかれて行う個人トーナメント戦。
まず各区で予選大会が行われた後、23区代表選抜選手権が行われる。
10歳にして100kgを超え「肉丸くん」と呼ばれていた勝は杉並区大会を優勝。
8歳の光司は負けてしまったが、次の年、杉並区大会、本大会と勝ち上がって「わんぱく横綱」になった。

また光司はドラマ「あばれはっちゃく」への出演依頼を受けたこともあった。
元女優の母親はかなりノリ気だったが、父親は断固反対、本人も断固拒否した。

←まわし

わんぱく相撲での活躍をみた明大付中野中学の相撲部監督、武井美男が、兄弟をスカウト。
2人は時期を前後させて同校に進学。
全国大会で何度も優勝している相撲部に入り、四股、鉄砲、すり足、まわしの切り方など初めて本格的に相撲を学び、明大付高校や明治大学ともよく稽古した。
明大付中野高校の夜学には、ジャニーズ事務所所属のタレントなど多くの芸能人が通っていて、練習が終わった後、彼らが楽しそうにやっているの横目にみながらクタクタの体で帰っていった。

光司は中3のとき、団体戦では全国大会で優勝しながら、個人戦は予選負け。
負けるはずのない相手に緊張して負けてしまった。
自分の精神的な弱さを痛感した光司は、中3の12月、
「中学を卒業したら藤島部屋に入門させてください」
と父親に志願。
明大付中野高校に進んでいた17歳の若乃花も、高校を中退して入門することを志願。
藤島親方は
「1週間考えさせてくれ」
と即答を避け、藤田憲子は
「早過ぎる」
と泣いて反対。
やがて藤島親方は、光司に
「入門は認める。
だがお前は外に出す」
と告げた。
兄は自分がみて、弟はどこか他の部屋に預けるということだったが、話を聞いた二子山親方(初代若乃花、花田勝治)に
「我が子を外に出すなんてダメだ」
と反対され、結局、兄弟2人で藤島部屋入門が決まった。

兄弟は、早速、稽古場に下りて参加するようになったが、この時点で17歳の勝はすごい足腰をしていて、15歳の光司もすでに握力が95kgもあって、序の口力士で兄弟に勝てる者はおらず、当時、三段目だった悟道力も羽目板に叩きつけられた。
「この頃から貴乃花(光司)は大きい相撲だったけど、若乃花(勝)はゴツゴツして痛かった(笑)
でも2人ともとにかく強かった」
(悟道力)
力士は、その力量と成績で「番付」され、給与や待遇が違ってくる。
番付には階層があって、上から

幕内
(入れるのは42人。
上から「横綱」「大関」「関脇」「小結」「前頭」)

十両
(「関取」と呼ばれ1人前と認められる。
髪は大銀杏、紋付の羽織と袴、白い足袋に雪駄)

幕下
(髪はちょんまげ、着物・羽織、黒い足袋と雪駄)

三段目
(髪はちょんまげ、着物・羽織、素足に雪駄)

序二段
(髪はちょんまげ、着物・羽織、素足に下駄)

序ノ口
(髪はちょんまげ、着物しか着れず、素足に下駄)

となり、さらにこの下には番付に入れない力士たちがいる。
このように大相撲は横綱を頂点とするピラミッド社会。
体重無差別の大相撲は、体重階級制の格闘技のようにたくさんのチャンピオンがいない。
横綱が頂点で最強となる。

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