アメリカン・ニューシネマ
傑作映画てんこ盛りのアメリカン・ニューシネマ。どれを観ても面白い!のですが、アメリカン・ニューシネマの定義ってご存じですか?
一言で言うと、1960年代後半から1970年代半ばにかけて反体制的な人間の心情を綴ったアメリカ映画ということになります。時代背景としてベトナム戦争が暗く重い影を落としているんですね。
しかし、暗く重くともバツグンに面白い作品揃いなのですよ。
因みにアメリカン・ニューシネマとは和製英語です。本国アメリカでは何と呼んでいるかというと、ひとつに「New Hollywood」というのがあります。

New Hollywood
更には「The Hollywood Renaissance」という言い方もされています。

The Hollywood Renaissance
他にも「American New Wave」と名付けられたりもしているようで、名称に関しては結構あいまいなムーブメントとなっています。
が、そんなことはどうでもよろし。面白いんですから、バツグンに。
好みによりますが、数あるアメリカン・ニューシネマの中でも1970年前後に質の高い作品が多いように思います。
ということで、1969年と1970年のアメリカン・ニューシネマ、お勧めの作品をお届けしましょう!
イージー・ライダー
最初に作られたアメリカン・ニューシネマは何か?という問いに対する明確な回答はありません。一般的には「俺たちに明日はない」「卒業」辺りからといっていいでしょう。共に1967年の作品、共に誰もが認める超の付く名作です。
アメリカン・ニューシネマは、ベトナム戦争や大学紛争、ヒッピー・ムーブメントなどの騒然とした世相を反映していて、刹那的な出来事に情熱を傾ける、もしくは反体制的な人物が体制に敢然と闘いを挑むといった内容のものが多く、その結末はどれもが悲劇的です。「アンチ・ヒーロー」「アンチ・ハッピーエンド」が特徴とされていますから、それまでのハリウッド映画とは全く逆なんですよね。
そんなアメリカン・ニューシネマの代表的な作品のひとつが「イージー・ライダー」です。

イージー・ライダー
「ブルーベルベット 」「悪魔のいけにえ2」での怪演で、変質者を演じさせたら世界一の評価を獲得した(別にしてないです)性格俳優のデニス・ホッパーが監督、脚本も務めた「イージー・ライダー」。
ピーター・フォンダ演じるキャプテン・アメリカがとてもカッコいいです。若き日のジャック・ニコルソンも見逃せません。が、やはりデニス・ホッパー。この人、最高だなと思いますね。
自由の国アメリカなんて、どこにもなかったというラスト・シーンが心に深く残ります。
これぞアメリカン・ニューシネマ。アメリカン・ニューシネマを観たぁーって気分になりますよ。
真夜中のカウボーイ
アメリカン・ニューシネマというと低予算という印象がありますが、先の1969年公開の「イージー・ライダー」こそ製作費は34万ドルですが、同じ年に公開された「真夜中のカーボーイ」の製作費は360万ドル。1968年公開の「2001年宇宙の旅」の製作費1000万ドルに比べると安いとはいえ、高額ですよねぇ。当時は1ドル360円ですしねぇ。日本映画からすれば夢のような製作費ですよ。
大作と呼べる作品ではない「真夜中のカーボーイ」でもそれだけの製作費がかかってたんですね。ジョン・ヴォイト、ダスティン・ホフマンとはいえ当時の出演料はまだ安かったでしょうし、そんな大金がどこにかかるのか分かりませんが、名作に違いありません。

真夜中のカーボーイ
ハリー・ニルソンが歌う主題歌「うわさの男」がこれまた素晴らしいです。多くのミュージシャンがカバーしている名曲ですが、このバージョンは映画の雰囲気ピッタリですよ。
因みに主題歌の依頼はボブ・ディランにもあったようで、その時準備されたのが「レイ・レディ・レイ」です。これまた名曲ですが、なんとディラン締め切りに間に合わなくて主題歌の話はボツになったのだとか。ディラン、流石ですね。やる男です。
「真夜中のカーボーイ」もまたアメリカン・ニューシネマを代表する作品で、第42回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞を受賞しています。
実は「真夜中のカーボーイ」は当時は成人映画だったんです。成人映画がアカデミー賞を受賞した唯一の作品にもなっています。
ひとりぼっちの青春
日本では知る人ぞ知る映画といった感じの「ひとりぼっちの青春」。これまた多くの人に観て頂きたい大傑作なんです。監督は後の「追憶」、「トッツィー」、「愛と哀しみの果て」といった作品で更に評価を高めることになるシドニー・ポラック。主演は余りにも美しいジェーン・フォンダだ!典型的なアメリカン・ニューシネマといっていい作品です。
タイトルがまたいいですね。原題とは大きく異なりますが、いいタイトルですよ。

ひとりぼっちの青春
賞金を求めてただただマラソンダンスを行うという、漫画「カイジ」に通じるような狂気としか言いようのない、でもって虚無でもあるという、なんともやるせない物語です。
映画のマラソンダンスとは、見世物になりながら1時間50分踊って(走って)は10分休憩を昼夜ぶっ通しで続けるという過酷な催しです。なんですが、こうした催しは実際にアメリカで行われていたというから驚きですね。
それにしてもラストシーンは余りにも重く悲しい。ジェーン・フォンダが美しいだけに尚更ですね。
1969年を代表するアメリカン・ニューシネマには他にサム・ペキンパー監督の「ワイルドバンチ」やジョージ・ロイ・ヒル監督の「明日に向って撃て!」といった優れた作品もあります。
M★A★S★H マッシュ
1970年になると、これまたアメリカン・ニューシネマを代表する1本「M★A★S★H マッシュ」が公開されます。
この作品はアメリカン・ニューシネマの中でもちょっと毛色が違うんですよね。コメディです。野戦病院(朝鮮戦争)の人々を描いたブラックコメディーなんです。

M★A★S★H マッシュ
朝鮮戦争の野戦病院に、人手不足から二人の医師が補充された。ところがこの医師たち、軍規を無視してやりたい放題。いかつい女性将校をからかうのに夢中になってしまう……。
https://movies.yahoo.co.jp/movie/22188/story/解説・あらすじ - M★A★S★H マッシュ - 作品 - Yahoo!映画
戦争を笑い飛ばしてやろうという反体制映画ですね。
MASHとは、Mobile Army Surgical Hospitalの略で、陸軍移動外科病院という意味です。
日本人にはこのユーモアはよくわからんのではないかとも思うのですが、アメリカ人にはたまらんようです。世界的にも大変評価され、カンヌ国際映画祭パルム・ドールやアカデミー脚色賞を受賞しています。
いちご白書
「いちご白書」と聞いて映画ではなくバンバンを思い浮かべるそこの貴方、そうです!これが「いつか君と行った映画」です。アメリカン・ニューシネマの決定打と言っていいかもの作品です。
学生闘争を描いたフィクション映画で、実にアメリカン・ニューシネマなテーマを持った作品といえます。

いちご白書
「いちご白書」には、主題歌の「サークル・ゲーム」をはじめ、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング「ヘルプレス」「僕達の家」、ニール・ヤング「ローナー」などなど名曲が多数使われています。中でも圧倒的なのがジョン・レノンというか、プラスティック・オノ・バンドの「平和を我等に」ですね。ジョンの曲が見事に時代とリンクしていたことがよく分かります。
この映画の製作者はアーウィン・ウィンクラーです。日本ではあまり知られていないかもしれませんが、彼は後にシルヴェスター・スタローン主演の「ロッキーシリーズ」をプロデュースし大成功を収めています。
1970年には他にアーサー・ペン監督の「小さな巨人」、ボブ・ラフェルソン監督の「ファイブ・イージー・ピーセス」などこれまたアメリカン・ニューシネマの歴史に名を残す作品が公開されています。
しかし、改めて考えてみると、アメリカン・ニューシネマを代表する作品は、今日ではアメリカを代表する作品となっています。
まだ観たことのない作品があれば、是非とも鑑賞してみてください。どの作品も間違いありませんから!