アポロの歌
どんなに愛し合っても結ばれない運命。ツライ。というか、重い。しかし、よくよく考えてみれば主人公はかわいそうなものですよ。
5つの物語は全て夢です。夢から覚めると主人公の前に女神がいました。いましたが、女神は主人公を許さず、再び愛の試練を与え、それは永久に繰り返されることになるのでした。
「アポロの歌」は性愛をテーマにした物語ですからねぇ。当時としては当然の対応だったのでしょうが、神奈川県で有害図書に指定されました。
やけっぱちのマリア(1970年)
時代背景もあると思うんですよ。1970年といえば学園紛争の時代ですからね。手塚治虫自身も語っていますが、それらを反映して「アポロの歌」は暗い作品となっています。神奈川県で有害図書に指定されるほどお色気シーン満載なのに、それでも暗く重い。その点、同じお色気系で同じ年に発表された「やけっぱちのマリア」はちょっと違います。なんせ、学園恋愛ドタバタナンセンスコメディですから。
ただ、週刊少年チャンピオンは、「やけっぱちのマリア」を掲載したことで福岡県の児童福祉審議会から有害図書の指定を受けました。
やけっぱちのマリア
ダッチワイフがヒロインというのは、おそらく日本漫画史上初。そうとう問題あったでしょうね。しかし、「やけっぱちのマリア」のプロットは現代でも十分通用するものです。
なんと言っても学園ラブコメ、ヒロインが異形の美少女、ライバルヒロインがツンデレのスケバン、ギャグ満載の性表現、そして最後に現れる美少女との三角関係。2012年にラジオドラマになったのも頷けます。
やけっぱちのマリア
1960年代末から1970年代にかけて、手塚治虫にとっての「冬の時代」は日本の漫画界の過渡期でもあったのです。それまで追い求めてきた自分の漫画観が否定されるというつらい時期。「やけっぱちのマリア」は、そんな憤りと疑問から、タイトル通り「やけっぱち」な気分で描いた作品だったのだそうです。
エロチックでありながらも、それを風刺するようにもなっています。そして、唐突とも思えるラストは、主人公の、ほろ苦く、どこか懐かしい青春っといった切ない余韻を残します。
虫プロダクション
明るくハチャメチャな「やけっぱちのマリア」でしたが、基本的にこの時期の手塚作品はやはり重い。そして暗いのです。
この時期の他の代表作といえば、「人間昆虫記」が挙げられます。
人間昆虫記
う~、「人間昆虫記」かぁ。。。タイトルからして只事ではないですよね。ハッピーな感じが1ミリもない。まぁ、それはそれとして、更にこの時期の代表的作品が「サロメの唇」です。
サロメの唇
サロメの唇|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL
「性器で話す異人の遊女」って。エロチック通り越してませんか?!
ところで、手塚治虫はアニメが作りたくて、その資金稼ぎの為に漫画家になったと語っているほど、アニメ愛が強いヒトなんです。1961年にアニメーション専門プロダクションである株式会社虫プロダクションと、その子会社の虫プロ商事をたちあげ、「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」など手塚作品を主にアニメ化しているのですが、代表的な作品となると。1969年から制作が開始された「アニメラマ三部作」でしょう。
第一作「千夜一夜物語」、第二作「クレオパトラ」、第三作「哀しみのベラドンナ」からなるアニメラマ三部作です。
「冬の時代」にふさわしく(?)、1973年に虫プロ商事と虫プロダクションが相次いで倒産してしまい、当時45歳の手塚治虫は巨額の負債を背負うことになります。会社は倒産、作品はヒットしないと、もう、散々ですね。
しかし、「冬の時代」はここまで。同年11月から週刊少年チャンピオンにて大傑作「ブラック・ジャック」の連載が開始され、永いトンネルを抜け出ることになります!
見事に復活した手塚治虫は、その後も「三つ目がとおる」、「七色いんこ」、「ドン・ドラキュラ」などなどヒット作を連発し、最後の栄光に満ちた15年間を突っ走るのでした。