友とつかんだGIタイトル、グランプリホース・シルクジャスティス

友とつかんだGIタイトル、グランプリホース・シルクジャスティス

シルクジャスティス、日本ダービーを怒涛の末脚で追い込むもわずかに届かず2着。しかし、その年の有馬記念でエアグルーヴ、マーベラスサンデーを破って見事グランプリホースに輝いた馬です。彼はとても個性的な馬で同い年の親友とも呼べる調教パートナーがいました。今回はそんなシルクジャスティスをご紹介します。


7戦目の初勝利

シルクジャスティスは父・プライアンズタイム、母・ユーワメルドの間に1994年3月18日、北海道新冠の早田牧場で産まれました。早田牧場といえば3冠馬・ナリタブライアンを生産した牧場です。奇しくもそのナリタブライアンが3冠馬となる年にナリタブライアンと同じブライアンズタイムを父に持つ馬として誕生しました。

シルクジャスティスはナリタブライアンと同じく栗東・大久保正陽厩舎に入厩します。デビュー戦は1996年10月12日。京都競馬場の芝1200m戦でした。生産が早田牧場、厩舎が大久保厩舎でナリタブライアンと同じく父がブライアンズタイム。更に鞍上に武豊を迎えたシルクジャスティスはこの日3番人気の支持を受けます。

しかし、レースでは何の見せ場もないまま12頭立ての11着に敗れてしまいます。次走からダートのレースに矛先を変えますが、勝利にはなかなか手が届かず6戦続けて敗れてしまいます。続いて迎えた7戦目。阪神競馬場のダート1800mで行われたこのレースでシルクジャスティスは単勝1.4倍という圧倒的1番人気に支持されました。鞍上は新馬戦以来の騎乗となる武豊。

レースは1番人気の支持に応えて快勝。7戦目にしてようやく初勝利を納めました。既に3月も半ばを過ぎクラシックレースはもう目前に迫っていました。この時点でシルクジャスティスが年末の有馬記念を勝つなどとは誰も予想していなかったでしょう。


暴れん坊と甘えん坊

厩舎関係者によるとシルクジャスティスはとても気性が荒かったと言います。一度暴れると手が付けられなかったそうです。人間のいうことを全く聞かず、人間をなめきっていたようです。調教でもなかなか走る気を見せず、馬体もなかなか絞れませんでした。

この時期大久保厩舎にはもう1頭ブライアンズタイムの産駒がいました。シルクジャスティスと同い年のエリモダンディーです。エリモダンディーは牡馬でありながらとても小柄な馬でした。入厩当初の馬体重はわずか370キロ。しかし性格はとても人懐っこく甘えん坊ですぐに厩舎の人気者になったといいます。

そんな正反対とも思える2頭はとても仲が良かったといいます。エリモダンディーは小柄で他馬に威嚇されていじめられることがよくありました。エリモダンディーはただ怯えているだけでしたが、そんな時シルクジャスティスがどこからともなく現れて、エリモダンディーを威嚇していた馬を逆に威嚇して追い払ったそうです。それをきっかけにエリモダンディーはいつもシルクジャスティスの後ろをついて回るようになりました。暴れん坊と甘えん坊との間に友情が芽生えた瞬間でした。

西の秘密兵器

日本ダービーの前になるとよく聞かれるフレーズがあります。それがこの「西の秘密兵器」です。皐月賞に出走しておらず、関西のダービートライアルレースなどを勝って一躍ダービー馬候補に踊り出た馬によく付けられるフレーズです。

シルクジャスティスは未勝利戦を勝利後、連闘でG3の毎日杯に挑み、皐月賞出走を目指しましたが、結果は3着に終わり皐月賞出走は断念。続く若草ステークスを快勝したシルクジャスティスは日本ダービー出走を目指してG3の京都4歳特別に挑みます。

レースは単勝3.3倍で1番人気の支持を受けたシルクジャスティスが、直線2番人気のプレミアムサンダーとの壮絶な叩き合いを制し見事に重賞初勝利を挙げました。このレースから鞍上は藤田伸二に乗り替わっており、以後引退するまで藤田伸二がシルクジャスティスの手綱を取ることになります。シルクジャスティスはこのレースの勝利により「西の秘密兵器」として一躍ダービー馬候補に躍り出ました。

俺の馬が一番強い

第64回日本ダービー。シルクジャスティスは単勝6.2倍の3番人気でレースを迎えます。このレースには親友のエリモダンディーも単勝8番人気で出走していました。レースは皐月賞馬のサニーブライアンが淡々とスローペースで逃げる展開に。シルクジャスティスは最後の直線勝負に賭け道中は後方を追走。

最後の直線、鞍上の藤田伸二は「俺の馬が一番強い」と信じ、自信を持って追い出しました。しかし、なかなか逃げるサニーブライアンとの差は詰まりません。上がり最速34.2秒の末脚を繰り出し猛然と追い込みましたが1馬身差まで詰め寄ったところがゴール。わずかに届かず2着に敗れてしまいます。

親友のエリモダンディーは、最後の直線シルクジャスティスと同じく、上り最速34.2秒の末脚を繰り出して8番人気ながら4着に食い込みました。

もどかしい状況

ダービー2着後休養していたシルクジャスティスが選んだ秋初戦は、菊花賞トライアルのG2・神戸新聞杯。単勝4.1倍の3番人気の支持を受けたレースでしたが、見せ場もなく8着に敗れてしまいます。陣営は菊花賞前にもう1戦する決断をし、菊花賞トライアルの京都新聞杯ではなく、あえて古馬との対戦となるG2・京都大賞典を選択します。

G1を2勝しているダンスパートナーに次ぐ2番人気で迎えたこのレース。シルクジャスティスは道中最後方からゴール前でダンスパートナーをクビ差交わして見事重賞2勝目を挙げます。迎えた大一番、3冠レース最後の菊花賞では単勝2.7倍と堂々の1番人気に支持されます。親友のエリモダンディーもこの菊花賞に出走し、5番人気の支持を受けていました。

レースでは道中中団を進んだシルクジャスティスでしたが、直線ではなかなか馬群を捌けず、最後はいつも通り猛烈に追い込むもわずかに届かず5着に敗れてしまいます。またしてもG1タイトルに手が届かなかったシルクジャスティス。G1を勝てるだけの能力がありながらあと少しのところで勝ちきれないこの状況に陣営ももどかしさを感じていました。

親友との併せ馬と男の決意

大久保調教師も何とかこの状況を打破したいと考え、ある決断をします。シルクジャスティスは調教嫌いでいつも手を抜いてしまう不真面目な馬でした。それに対して親友でもあるエリモダンディーは素直で騎手の指示にも従順、とても真面目な馬でした。この2頭の併せ馬で稽古をしようと決めたのです。

それ以来シルクジャスティスとエリモダンディーはいつも併せ馬で調教するようになりました。調教ですぐに手を抜こうとするシルクジャスティスもエリモダンディーが隣で真面目に走る様子を見てそれにつられて真面目に走るようになりました。こうして2頭はお互いに切磋琢磨していきます。

まず結果を出したのはエリモダンディーでした。菊花賞敗戦後に出走したG3・京阪杯で単勝4番人気ながら武豊を背に見事重賞初勝利を飾ったのです。一方シルクジャスティスは、菊花賞敗戦後に出走したジャパンカップで菊花賞と同じようなレースをしてまたしても5着に敗れてしまいます。

同じようなレースが続き、ファンやマスコミの間から鞍上の藤田伸二に非難の声が上がりました。しかしそれでも調教師の大久保正陽は藤田伸二を起用し続けました。暮れの大一番、有馬記念を前に藤田伸二は悩み抜いた末に決意して大久保正陽にこう言いました「今回ダメなら、クビにして下さい」と。

友とつかんだG1タイトル

鞍上の藤田伸二が悲壮な決意を持って臨んだ有馬記念。シルクジャスティスは単勝8.1倍の4番人気でレースを迎えることとなりました。レースはいつも通り道中中団から後方を追走していたシルクジャスティスは最後の直線、馬群を縫うようにして先に抜け出した人気のエアグルーヴとマーベラスサンデーに襲い掛かります。

そして2頭をわずかアタマ差交わしたところがゴールでした。遂にシルクジャスティスがG1タイトルを獲得した瞬間でした。レース後戻ってきた鞍上の藤田伸二は、自分を信じて起用し続けてくれた調教師の大久保正陽を前にして涙をこぼしたと言います。また、この勝利はシルクジャスティスが親友のエリモダンディーと切磋琢磨してつかんだ勝利だとも言えました。

友との別れ、そして友の元へ

ついにグランプリホースとなったシルクジャスティスでしたが、有馬記念の勝利以後、レースで勝利を挙げることはありませんでした。一方、親友のエリモダンディーは年明け初戦の京都金杯を2着した後迎えたG2・日経新春杯を単勝2.6倍の2番人気で見事快勝。重賞2勝目を挙げました。

しかし、レース後に故障が判明。全治9か月の重症でした。そんなエリモダンディーを更に悲劇が襲います。ケガの療養をしていた1998年2月、腸捻転を起こしてこの世を去ってしまったのです。突然の友との別れにシルクジャスティスは気が抜けたようになってしまいます。

結局その悲しみから立ち直れぬまま、2000年5月のG2・金鯱賞11着を最後に引退することになります。引退後は種牡馬となりましたが、中山大障害を制したバシケーンが出たくらいで目立った活躍馬を輩出できず、2010年に種牡馬を引退しました。

その後余生を送っていた新ひだか町の畠山牧場で2019年6月3日、老衰によりこの世を去りました。25歳でした。今頃はきっと大好きな親友のエリモダンディーと草原を駆け回っているに違いありません。

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