颯爽と風のようにターフを駆け抜けたマイルの女王!ノースフライト

颯爽と風のようにターフを駆け抜けたマイルの女王!ノースフライト

みなさんは「ノースフライト」という牝馬をご存知だろうか?彼女の競争生活はわずか1年半。クラシック戦線の真っ只中にひっそりとデビューし、颯爽とターフを駆け抜けたマイルの女王。今回はそんなマイルの女王・ノースフライトをご紹介したいと思います。


期待されてなかったデビュー前

1990年4月12日、父トニービン、母シャダイフライトとの間に女の子が誕生する。のちにマイルの女王と呼ばれることになるノースフライトである。ノースフライトが生まれたのは北海道浦河町にある大北(たいほく)牧場。1935年創業の老舗牧場である。

シャダイフライトとの出会い

1965年の桜花賞馬・ハツユキや1989年のオークス馬・ライトカラーなどを生産していた大北牧場は、新たな繁殖牝馬を求めていた。そして当時の場主、3代目の斎藤敏雄は、1990年1月社台グループ主催のセリ市に参加する。

そこに上場されていたのが、ノースフライトの母・シャダイフライトである。当時母馬としては高齢の18歳であったシャダイフライトは、お腹に凱旋門賞馬・トニービンの子を宿していた。斎藤はシャダイフライトの落札に成功する。

社台グループの肝いりで導入された期待の新種牡馬・トニービンの子を受胎していたにも関わらず、高齢ということもあってか全く注目されていなかったシャダイフライトの落札価格は、わずか410万円であった。これはこのセリ市に上場されていた馬の中で最低価格だったという。

ただ、当時の社台総帥・吉田善哉だけは、「シャダイフライトを本当に売ってしまっていいのか」と従業員に何度も確認していたと言われている。

進まぬ育成

そうして生まれたノースフライトは、牡馬と見間違うほどの好馬体で、順調に成長していった。しかし、好馬体であったにもかかわらず、これが初年度であったトニービン産駒は馬産地での評判があまり良くなく、結局買い手は付かなかった。

やむを得ず牧場が所有することとなったノースフライト。その馬名の由来は、大北牧場の北(ノース)と母馬・シャダイフライトのフライトを合わせたものである。

なかなか育成の進まなかったノースフライトは、4歳の2月にようやく栗東トレーニングセンター・加藤敬二厩舎に入厩する。

その頃、クラシック戦線では初年度のトニービン産駒・ベガやウイニングチケットが大活躍していた。しかしこの時、斎藤はノースフライトの競走馬としての能力にはあまり期待しておらず、繁殖として期待していたという。

衝撃のデビュー戦

あまり期待されずに迎えたデビュー戦の舞台は、5月の新潟・芝1600m。まさにクラシック戦線の真っ只中にひっそりとデビューしたノースフライトをそれでも競馬ファンは単勝2.0倍という圧倒的1番人気に支持していた。

レースは、道中2番手を追走していたノースフライトが4コーナーを回って直線を向くと他馬が止まってみえるほどの末脚を繰り出し9馬身差の圧勝。衝撃のデビューを飾ったのである。しかしこの時はまだ全くと言っていいほど注目はされていなかった。

ベガのライバルに

迎えた2戦目は7月の小倉・芝1700mの足立山特別。この日も単勝2.0倍の1番人気に支持されたノースフライトは、鞍上に武豊を迎えていた。

レースは、道中2番手を追走し3コーナーで先頭に立つと後続に影も踏ませず、楽な手応えのまま8馬身差の圧勝。レース後武豊は、「秋にはベガのライバルになるかもしれない」と評している。

ベガとはノースフライトの同期であり、同じトニービンを父に持つ、この年の桜花賞・オークスを圧倒的勝利で制した2冠牝馬のことである。ベガの主戦であった武豊は、わずか2戦の彼女をベガのライバルになり得る存在とこの時点で認めたのである。

牝馬3冠最終戦・エリザベス女王杯へ

牝馬3冠最終戦であるエリザベス女王杯を見据えて出走した3戦目は、9月の阪神・芝2000mの秋分特別。前2戦の衝撃的な勝利と鞍上武豊の人気により、この日のノースフライトは単勝1.2倍の圧倒的1番人気に支持されていた。

しかし、レースでは最後の直線を向いてもいつもの反応はなく、生涯最低の着順となる5着に敗れてしまう。原因は、前走後に発症した発熱と蕁麻疹の影響により調整過程に狂いが生じたことであった。

エリザベス女王杯に出走するためにはもう負けられないノースフライト陣営が選んだ4戦目は、10月の東京・芝1600mの重賞・府中牝馬ステークス。前走の敗戦もあり、この日のノースフライトは単勝7.0倍の4番人気。鞍上には角田晃一を迎えていた。

レースは、スタートで出遅れるも道中3番手まで押し上げ、最後の直線で一気に突き抜けて2着馬に3/4馬身差を付けて4戦目で重賞初勝利を飾る。この勝利により、目標としていたエリザベス女王杯への出走を果たす。

この日の鞍上も前走に引き続き角田晃一。初となる2400mへの距離を不安視され、この日は5番人気にとどまった。レースは、道中中団追走から直線を向いて先頭に躍り出たが、ゴール目前で内を付いて伸びてきた9番人気のホクトベガに交わされ2着に敗れてしまう。

マイルの女王誕生!

年末の阪神牝馬特別を1番人気で快勝し、重賞2勝目を挙げたノースフライトは、明け5歳の初戦を1月の阪神・芝1600mの京都牝馬特別とする。この年は京都競馬場が改修工事のため、阪神競馬場での開催となっていた。

レースは、終始危なげなく、2着馬に6馬身差を付けての快勝。レース後、鞍上の武豊と調教師の加藤は共にノースフライトがマイラーであると認め、このレース以後マイル路線を歩むこととなる。

続くマイラーズカップもレコードで快勝したノースフライトは、春の最大目標をGI・安田記念に定める。安田記念の鞍上は、当日1番人気となったスキーパラダイスに武豊が騎乗したため、エリザベス女王杯でも騎乗した角田晃一に乗り替わりとなった。

前年から国際競走となった安田記念。対する外国勢もスキーパラダイスをはじめとする実績馬が揃った。そんな中ノースフライトの人気は5番人気。

レースはスタートで出遅れ、道中は後方を追走。1000m通過が56秒9というかなりのハイペースの中、ノースフライトは最終コーナーで先団に取りつくと、直線残り200m付近で先頭に立つ。そのまま2着のトーワダーリンに2馬身半の差を付けて優勝。初のGI制覇となった。マイルの女王誕生の瞬間である。

ライバル・サクラバクシンオー

ノースフライトを語る上で忘れてはならないのが、短距離王・サクラバクシンオーの存在である。サクラバクシンオーとの対戦は3度。初めての対戦は、GI・安田記念であった。ここではご存知の通りノースフライトが優勝し、サクラバクシンオーは4着に敗れている。

続く対戦は、ノースフライトにとって安田記念後の秋初戦となる、スワンステークス。京都競馬場の改修工事により阪神の芝1400mで行われたこのレースはノースフライトにとって生涯最短距離のレースとなる。

レースは、道中の追走にやや手間取り、馬群をうまく捌けなかったノースフライトが最後の直線で追い込むも前を行くサクラバクシンオーを捉え切れず、1馬身1/4差の2着に敗れてしまう。

続いて迎えた3戦目は、GI・マイルチャンピオンシップ。京都の芝1600mで行われたこのレースでノースフライトは単勝1.7倍の1番人気に支持される。2番人気には単勝3.3倍でサクラバクシンオーが続く。この2頭の人気が他馬を引き離しており、レースは2頭の一騎討ちムードとなっていた。

レースでは、サクラバクシンオーが道中3番手を進み、ノースフライトはその直後につけ、バクシンオーをマークする形で進む。最終コーナーを回り直線入口でバクシンオーが先頭に立つも、直線半ばでノースフライトが捉えてバクシンオーに1馬身半差を付けて優勝。見事GI2勝目を飾る。

このレースでノースフライトはマイルの女王の座を不動のものとする。しかし、彼女はこのレースを最後にターフを去る。繁殖牝馬として北海道に戻ったのである。生涯成績は11戦8勝。うちマイル戦においては、5戦5勝と負けなしでまさにマイルの女王であった。

結局サクラバクシンオーとの対戦成績は、3戦してノースフライトの2勝1敗。短距離王・サクラバクシンオーにもマイルでは負けなかった。サクラバクシンオーを管理していた調教師・境勝太郎はノースフライトについてこう語っている「1400mのスワンステークスでバクシンオーが勝ったのは、距離適性の差ではない。ノースフライトの状態が完全だったかどうかだ。もしあの馬が完調で出てきていたら例え1200mでも勝てたかどうか」と。

受け継がれる血

引退後、繁殖牝馬として北海道に戻ったノースフライトは、2009年までに10頭の子を出産している。その産駒の中には、後に種牡馬となり、GI馬・ビートブラックを輩出した、ミスキャストの名前もある。8番仔に当たるハウオリは、繁殖牝馬となり、キロハナやハナレイムーンなどを産み、その血は脈々と受け継がれるている。

そんなノースフライトは、2011年の不受胎を最後に繁殖牝馬を引退。大北牧場で功労馬として余生を過ごしていたが、2018年1月22日、心不全のためこの世を去った。28歳であった。

まとめ

わずか1年半の競走生活でターフを去ったノースフライト。あまりにも短い競走生活のため、人々の彼女に対する印象は少し薄いかもしれない。だが、我々は颯爽とターフを駆け抜けた彼女の名前を決して忘れることはないだろう。なぜなら彼女は今でもマイルの女王なのだから。

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