制作したのは「株式会社スタジオぴえろ」
制作したのは「株式会社ぴえろ」、当時の社名は「株式会社スタジオぴえろ」です。
株式会社としては1980年からNHKで放送された、これも懐かしい「ニルスの不思議な旅」から始まるのですが、その前に演出スタジオ(個人契約のアニメ演出家たちが共同で借りていたスタジオと思われます)として存在していたようです。
同社はその翌年の「うる星やつら」でアニメファンの間で熱狂的な人気を博し、以降1987年「きまぐれオレンジ☆ロード」、1992年「幽☆遊☆白書」などを制作していきます。
期待が高すぎた「魔法のステージファンシーララ」
「魔法のステージファンシーララ(以下、ララと略します)」は最初から期待が高く、そのハードルも否応なく高くなってしまった、ある意味不幸な作品でした。
「ララ」はそんな「株式会社ぴえろ」の「創立20周年記念作品」になります。
期待が高くなるのも当然ですよね。
そしてさらに、「ぴえろ魔法少女シリーズ開始15周年記念作品」でもあります。
これまでに前4作が作られているのですが、
1983年「魔法の天使クリィミーマミ」
1984年「魔法の妖精ペルシャ」
1985年「魔法のスターマジカルエミ」
1986年「魔法のアイドルパステルユーミ」
そして「ララ」になります。1988年に制作ですから、じつに12年ぶりです。
これはもう、期待が高くなってもしょうがないですね。
ちなみに「魔法少女シリーズ」とは、主人公は小学生の女の子で、生まれつき魔法の力は持たないというのが基本です。別な世界からきた妖精などと暮らしながら、もらった魔法のアイテムで変身します。変身したあとはアイドルなどになり、女の子の変身願望を叶えるという作風だと言えます。
ストーリー
小学3年生の女の子である篠原みほは、妖精であるピグとモグに出会い、魔法のペンとスケッチブックを受け取ります。魔法の力で15歳の姿に変身したみほは、ファッションモデルとしてスカウトされ、ララとしてデビューすることになります。
「魔法少女シリーズ」としては「魔法の力で変身したみほが芸能プロダクションにスカウトされて、ララとしての芸能活動と、小学校での生活という二つの生活の中で様々な体験をして成長する」という、わりと定番なストーリーと言えるでしょう。
原案はふたつ?
「ララ」の原案となったとされているのは、1986年からキャラクター文具などのメーカーであるセイカと提携して制作していた「魔法のデザイナーファッションララ」と「魔法のステージアイドルココ」だそうです。
前者の主人公は、デザイナー志望の少女ミホが。夢の国から現れた妖精ピグとモグか魔法のペンをもらいます。それでタイトル通りの「魔法のデザイナーファッションララ」に変身するというもの。
後者は制作中止になってしまった幻の企画。
このふたつが合体して「ララ」になったようです。
ようです、という言い方をしてしまったのは、ぴえろの公式ホームページにも記述はいっさいないからです。
どうも権利問題が絡んだ、大人の事情によるもののようですが……。
決まったコスチュームがない!
みほは妖精から、魔法のペンとスケッチブックをもらうのですが、これはペンでスケッチブックに描いたものを出現させることができます。
なので大人の姿になったララは、自分で出現させた服を着ます。
これがどういうことかと言うと。
今までの魔法少女たちは、魔法を使って変身するシーンがあり、毎回同じコスチュームに変身していました。繰り返してこのシーンを使うので、専門用語では変身バンクと呼びます。見所なので作画にも気合が入っているシーンです。
それなのに「ララ」にはいちおう変身バンクはあるものの、毎回違う衣装なので、完全には繰り返して使うことができないのです。「魔法少女シリーズ」の見せ場なのに!
子供にとって、同じコスチュームというのは重要です。このキャラクターはこの姿というパターンがないと、絵にも描けません。商品として人形だって出しづらいのです。
「ララ」はそういう意味でも、今までの路線とは少し違っていたのでした。
かれーなるせーちょー!
「ララ」は、みほからララに魔法で変身します。
この時の呪文が、「時の記憶に思いを込めて、今、ファンシーララに華麗なる成長ー!」というものです。
ちなみに過去のシリーズの呪文は、
「魔法の天使クリィミーマミ」は「パンプルピンプルパムポップン、ピンプルパンプルパムポップン!」。
「魔法の妖精ペルシャ」は「ペルッコラブリン、クルクルリンクル!」。
「魔法のスターマジカルエミ」は「パラリン、リリカル、パラポラ、マジカルー」。
「魔法のアイドルパステルユーミ」は「パステル、ポップル、ポッピンパ」。
いかに「ララ」が今までと違うか、一目瞭然だと思います。
第8話「ちび猫リルと魔法の秘密」
そんな今までの「魔法少女シリーズ」とはどうも違う「ララ」なのですが、忘れられないのがその第8話です。
コンパクトをなくしてしまったみほは、魔法でそれを出現させます。服以外でもいいんだ、とCDを出してみたりカメラを出してみたり。
そして猫が欲しかったみほは、それも出現させます。最初はただの猫の置物だったのに、なぜか次の日には生きた本物の猫になっていました。
名前をリルに決め、首輪をつけてあげて、両親に内緒で可愛がるみほ。お風呂に入れてあげたり、ドライヤーで乾かしてあげたりします。
ところがリルは、家の外に逃げてしまうのでした。
名前を呼びながら、必死にリルを探すみほ。
雷が鳴り、ついには雨が降り始めます。
そして泣き崩れたところで、やっとリルが現れるのでした。
抱き締めるみほ。両親に言い、きちんと飼ってあげようと決意します。
夜、みほのベッドに上がってくるリル。
それを愛おしそうに見つめるみほ。
ララとしての仕事のあと「はやく家に帰ってリルにごはんをあげなきゃ!」。
急いで家に帰るみほ。
しかしララからみほに戻ったときに、今までの魔法もすべて消えてしまっていたのでした。
消えるコンパクト。
消えるCD、カメラ。
そして首輪を残してリルも……。
家に帰ってきたみほ。
「ただいまー。リルー?」
ドアを開けた音で、ばっさりアニメは終わり。
えええ!?
確かにみほが泣くシーンは見たくないけど、そこから回復する、元気を取り戻すシーンまで描いてこそ、子供向けアニメなんじゃないの?
後味がとっても悪すぎるよ!
あまりにも今までと違う作風
そんな「ララ」なのですが、私が今までの「魔法少女シリーズ」と決定的に違うと思うのは、魔法によって「別な誰か」ではなく、「未来の自分」に変身するところだと思うのです。
綺麗なララは、未来の自分。これは少女たちに夢を与えることができたのだろうか、と思ってしまうのです。
「魔法少女シリーズ」というのは、平凡な自分からの変身、平凡な日常からの変身、言うなれば「みにくいアヒルの子」が魔法によって美しい白鳥になるという幻想の物語。魔法がない現実のこの世界では、アヒルの子は結局アヒルになるしかありません。そんな少女たちに一時の夢を見せるのが「魔法シリーズ」の仕事だと私は思っているのです。
それなのにララは、将来は白鳥になる、と約束されているのですから、どうにも勝手が違うのです。
それでも最後は素晴らしい!
結局「ララ」は視聴率も振るわず、当初予定していた52話の半分、26話で終了してしまいました。やはり今までとあまりにも違うのが、受けなかったのでしょうか。
それでも!最後のシーンは素晴らしいし、感動的だったことを私は強く主張したいと思います。終わり良ければすべて良し。
もうララに変身することもできないみほ。
街を歩いていると、ララの専任スタイリストであったコミさんに出会います。
コミさんはみほに「お風呂に入ると解けてしまう魔法」をかけてあげます。それはヘアメイク。
そしてコミさんは言うのです。
「君、ララだよね。ヘアメイクしてたらわかった。だってララのことは、ぼくが一番良く知ってたんだから。
笑ってごらん、みほ。あと何年かしたら君は、本物のララになれるんだよ」
そしてみほは、鏡を見て笑うのです。
なりたいものに自分はなれるのだ、という将来への自信を手に入れて。
「ララ」は、主人公であるみほの成長物語としては、絶対に悪くはないと、私は思うのでした。