定番時代劇 大岡越前
時代劇の定番題材と言えばいくつかあって、水戸黄門、暴れん坊将軍、八丁堀、遠山の金さん、忠臣蔵そして大岡越前、といった具合であろう。
※歴史上の大岡越前(大岡忠相)については別にまとめておいたのでそちらを参考にされたし。
我々にとって馴染み深いのは〝ドラマとしての大岡越前〟
ただドラマと言っても色々あるもの。せっかく年明けにはスペシャルドラマが放映されることだし、それぞれの〝大岡越前〟についてご紹介しよう。
「大奥」(1968年)
大岡越前と言えば「ナショナル劇場 大岡越前」だ! という方もおられるだろう。なんといっても30年近く続いた大シリーズだ。
だがその前のドラマに登場する大岡越前となると……というわけで出てくるのがこちら。1968年につくられた関西テレビと東映による「大奥」である。
東映チャンネル TVドラマ『大奥(1968)』放送スタートのお知らせ | 東映[東映チャンネル]
こちら、もともとは「大奥㊙物語」として製作されたふわ~おな作品である。
R-18成人指定作品ということだが、佐久間良子、富司純子(藤純子)、岸田今日子など後の勲章対象者が揃い踏みしている。なんという豪華さか。
そして、こちらの成人指定作品から成人指定要素を抜きオカタイ時代劇としてヒットしたのが「大奥」である。
まだ女性を中心とした作品が少ない時代である。そもそも男女共同参画社会基本法が成立する30年前、男女雇用機会均等法が成立する15年以上前の作品だ。
任侠映画と並んで〝男の世界〟を描きがちな時代劇の世界。
当然、セットや衣装なんかも男性の物が多くなるわけで、逆の立場になって見れば女性用の物が少ない。
そしてつくられる女性中心の時代劇。それも〝大奥モノ〟 察しの良い方はお気づきになられたであろう――衣装が無いのである。
というわけで㊙は最終的に衣装費だけでウン千万という額になったとか。
それだけかかったということは後に「大奥」も作っておきたくなる気持ちもわかるようなわからないような……。
ところでマルヒのことは置いておくにしても「大奥」は初代徳川家康から15代徳川慶喜までキッチリ登場させている作品。
もちろん徳川吉宗の出番があり、大岡越前の出番もあるのだが、そういう事情なのでメインキャストというほどでもない。
とはいえ「大奥」より前のドラマや映画で〝大岡越前と言えば!〟という話を聞いたことがないので、テレビにおける大岡越前の活躍についてよりご存知の方がいたらご教授願いたい。
ちなみに越前を演じていたのは安井昌二氏。1956年に「ビルマの竪琴」で主役・水島上等兵を演じたその人である。

ビルマの竪琴
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ナショナル劇場「大岡越前」(1970年)
というわけで〝時代劇ドラマ大岡越前〟の代名詞「ナショナル劇場 大岡越前」である。
《ナショナル劇場》は1956年から開始された現パナソニックが提供する番組群のこと。
時間帯は毎週月曜日の20時から21時(厳密には20時54分らしい)まで。
時間が微妙に違っていたり、名前も「ナショナル ゴールデン・アワー」「ナショナルTVホール」「ナショナルカラー劇場」「ナショナルファミリー劇場」と変化しているが、基本的には〝月曜の夜のTBSでドラマや時代劇をやる枠〟である。

大岡越前 第1部
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おなじみのシーン
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主演は加藤剛。2001年紫綬褒章、2008年旭日小綬章の対象になるなど素晴らしい功績を残した方だが今年の半ばに惜しまれつつも亡くなった。
重要な脇役としては、まず「人生劇場」「姿三四郎」でおなじみの竹脇無我がいる。
千春役の土田早苗さんは「トラック野郎・望郷一番星」にも出ていた人で、「大江戸捜査網」の〝稲妻お竜〟をやっていたりもした。
《水戸黄門》の助さん、格さん、黄門様を経験している現在唯一の役者、里見浩太朗も〝政吉〟役でレギュラー。当時は〝里見浩太郎〟という名義だった。郎の字が異なっている。
水戸黄門繋がりで言うと〝すっとびの辰三〟役の高橋元太郎。彼は助さんや格さんとは異なり、約30年も〝うっかり八兵衛〟を演じ続けた。
吉宗役の山口崇さんも「大岡越前」で30年間吉宗役をやった。
レギュラーではあるが主役ではないので〝「天下御免」の平賀源内〟と言ったほうがピンとくる人がいるかもしれない。
加藤治子さんもいる。〝大岡妙〟役。これは忠相(越前)の実母役ということ。
そこまで出番が多かったわけではないが、加藤さんは「ハウルの動く城」の〝サリマン先生〟や「魔女の宅急便」の〝老婦人〟など声優としても活躍しているので若い人もけっこう知っている。
〝老婦人〟というのは、ニシンのパイを焼いてキキに配達を依頼するおばさまのこと。ジブリアニメにありがちな〝ストーリーにはあまり関与しないが印象的なサブキャラクター〟だ。

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加藤治子は「寺内貫太郎一家」で寺内里子役もやっている
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上にあげたのは第1部から登場しているキャスト、言うなれば初期メンバーというものである。
「大岡越前」は第15部(!)とスペシャルが存在しているのでキャスト、キャラクターもしばしば動いている。
例えば第4部の〝相良俊輔〟役は三浦友和。山口百恵の配偶者であったり忌野清志郎の友人であったりするが本人はしっかりした俳優。
第6部には〝新三郎〟として西郷輝彦さんが登場。
西郷輝彦と言えば橋幸夫、舟木一夫とあわせて《御三家》と呼ばれていた。その後に郷ひろみ、西城秀樹、野口五郎からなる《新御三家》が誕生(?)している。
ところで西郷輝彦は1947年生まれ。近い時期に活躍していた〝あおい輝彦〟は1948年生まれでひとつ違いということになる。あおい輝彦さんは元祖〝ジャニーズ〟のメンバー。

西郷輝彦
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8部には同心として〝蕪木兵助〟が登場するが、これを演じているのは森田健作氏。
2009年、2013年、2017年の千葉県知事選挙で当選しているので間もなく知事歴が10年となる。
11部には〝千夏〟役で川島なお美が登場。
実は広島国際学院大学で客員教授をしていたことがある。
12部には《小料理屋たぬき》の板前〝丁の目の半次〟として左とん平が登場。
《小料理屋たぬき》では彼が登場する前に板前兼忠相配下の〝三次〟(松山英太郎)を亡くしており、その二代目といった感じの役柄である。登場してから一度江戸を追放されてるはずなのだが、どうやって戻ってきたのかが思い出せない……。
左とん平は「ヘイ・ユー!」や「とん平のヘイ・ユウ・ブルース」で知られる俳優。今年の2月に80歳で亡くなった。
小松政夫が演じる〝赤垣伝兵衛〟はユニークな存在で、「江戸を斬る」「翔んでる!平賀源内」でも同じキャスト、同じキャラクターとして登場する(「江戸を斬る」では色川伝兵衛、「翔んでる!平賀源内」では赤垣平助となっているので名前は違う)。スターシステムと言えばそうか。
小松政夫は師匠格の植木等との逸話に気持ちの良いものが多い。
西岡徳馬の〝片平弥平次〟はいい人物なのだが、それだけに出番がちょっと少なかった印象がある。
西岡徳馬の活躍は時代劇はもちろん大河ドラマ、現代ドラマと幅広い。個人的には「暴れん坊将軍」で尾張大納言をやっていたことが印象深いが、有名どころかと言われるとこれも微妙である。

とん平のヘイ・ユウ・ブルース
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14部になると後半も後半、中村獅童など現在もまだバリバリの人も出演している。
役名は〝子吉〟だが、子役などではなくれっきとした(?)十手持ちだ。
また14部では1回だけ森繁久彌が登場している。
1996年のことだから文化勲章から約6年後のことであった。

森繁久彌
森繁久彌 - Wikipedia
1998年に第15部が作成された後ナショナル劇場の《大岡越前》は一区切りついていたが、2006年にナショナル劇場50周年特別企画のスペシャルドラマとして復活している。キャストは基本的に本編と同じ(多少の入れ違いはある)で、「この話の後、越前は南町奉行から寺社奉行になった」という物語になっている。事実上の最終回であろう。
NHK「大岡越前」(2013年)
先述のナショナル劇場「大岡越前」はTBS、こちらの「大岡越前」はタイトルこそ同じもののNHKなので別物――と思いきや実は後継作品である。
というのも、どちらも制作会社が同じ《C.A.L》
C.A.Lは基本的に時代劇(それこそ「大岡越前」や「水戸黄門」など)をつくっている株式会社だが、他に「ゼロの焦点」「ナースマン」「ぼんくら」などもつくっている。
もちろん完全な後継作品というわけではなく、近い話や似た話をべつのキャストでおおくりするいわゆる《リメイク》である。
……というような関係なのでTBS版の主人公、加藤剛が重要な脇役として登場するなどの〝サービス〟的要素もある。

スペシャル時代劇 大岡越前
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主演として大岡忠相役についているのは〝少年隊〟の東山紀之。
少年隊は2015年にデビュー30周年を迎えており、2018年現在も活動中。それらに絡んで「少年隊がお奉行に……?」というコメントもあったようだが立派に演じきっており、作中では加藤剛(NHK大岡越前の主役)をお白州で裁く――ということもやったようだ。
なお、
という記述もある。これについてはノーコメントでいかせてもらおう。
他にも高橋長英、寺島進、越前の父親・大岡忠高役に津川雅彦など実力派が顔を並べている。
徳川吉宗役は平岡大。過去に忠相に捕まって裁かれた話や、岡っ引きの態度に怒り岡っ引き廃止を言い出すエピソードもしっかり存在している。
NHK版には毎回ゲストキャラクターが登場するという楽しみがある。
時代劇にはエピソードにおけるサブキャラクターに特殊なゲストを呼ぶのは一種の恒例だが(個人的には「陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~」に出ていた武藤敬司が印象深い)、大岡越前はシリーズものなので出演者と作品の関係がおもしろい。
具体的に言うと1期の2話には左とん平、薗田正美が出演しているし、3話には杉田かおるがいる。7話には西岡徳馬。彼らはNHK版の出演者。
その流れで、というわけではないが、8話には井上和香、2期9話に中村玉緒、2017年のスペシャルにはブラザートム(!)といったゲストが参加している。
2017年のスペシャルは加藤剛が出演した回でもある。

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さてNHK「大岡越前」であるが、2013年に1期をやった後、2014年に2期「大岡越前2」、2016年に3期「大岡越前3」、2017年の新春時代劇スペシャルをはさみ2018年に「大岡越前4」を放送している。
……で、その文脈で出てくるのか今回の2019年新春時代劇《大岡越前スペシャル~親子をつなぐ名裁き~》となるわけである。
これについては別記まとめているのでそちらを参照していただきたい。
「炎の奉行 大岡越前守」(1997年)
次の作品紹介に移ろう。
1997年の年始に放送されたのは「炎の奉行 大岡越前守」である。
これは現在の《新春ワイド時代劇》にあたる枠なので、20年前の《大岡越前スペシャル》というとらえかたもできるかもしれない。
ただし局はNHKでもTBSでもなくテレビ東京である。そして製作は松竹。

炎の奉行 大岡越前守
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《炎の奉行》はまずストーリーが豪華であることを特筆しておきたい。
構成は全6部からなり、1部と2部で赤穂浪士の討ち入り事件をとりあげる。いわゆる忠臣蔵だ(越前はどうやって絡んだのだろうか)。
4部には絵島生島事件、5部では雲霧仁左衛門の登場、そして最後の6部では天一坊事件が扱われている。江戸の大事件のバーゲンセールというやつである。
主演は12代目市川團十郎。特別出演に中村勘九郎がいたりもする。
注目しておきたいのは津川雅彦、西岡徳馬、左とん平といったメンバーがこちらでも出演していることあたりか。

12代目市川團十郎
市川團十郎 (12代目) - Wikipedia
「名奉行! 大岡越前」(2005年)
名奉行!大岡越前|365日時代劇だけを放送する唯一のチャンネル時代劇専門チャンネル
比較的近年のドラマなので軽く触れるにとどめよう。
2005年に1部が、2006年に2部が放送されたテレビ朝日の時代劇である。
テレビ朝日だからか《大岡越前の一代記を数シリーズに渡ってお届け!》というよりかは《名奉行大岡越前のエピソードを毎週お届け》といった印象がある。つまり1話完結型。
TBS版、NHK版ではけっこうな割合で史実の大岡越前(いわゆる大岡政談や吉宗との関係など)が物語に登場するが、《名奉行!》はそうでもない。
……ので、歴史と関わるダイナミックさで言うといまいちかもしれないが江戸の市井を描く安定感は抜群である。だって〝脚本に藤井邦夫がいる〟から。
主演は北大路欣也。1943年生まれのひとなので、この時は60歳を過ぎたところか。
越前が町奉行として活躍していたのは1717年から1736年までで、年齢にすると30歳から50歳の間ということになる。
年齢としてはひとまわり下の役ということになるが、時代劇はカツラを使うので年齢の印象がだいぶ変わる。
何より北大路欣也当人が若いのである。動きはきびきびしており台詞もはっきりしている。特にテレ朝版の《大岡越前》は〝わりと町をふらふらしている、仕事もできるが親しみやすいお奉行さん〟といった風ではなく〝人の心をよく理解してくれる、奉行所のトップ〟という雰囲気が強い。具体的に言うと裃をつけたりした堅い服装が似合うのである。これが北大路欣也によく似合う。
もちろん作品全体が堅いわけではない。越前が全体的に引き締まっているので、サブキャラクターやゲストがあっけらかんとしていることが多いのである。
ただあまりに間抜けすぎると空気が軽すぎてコメディになってしまう。すると越前が浮く。
この問題の解決にあたってはは脚本の腕が光っていた。
解決方法は簡単、〝武士の登場を少なくする〟のである。
これをすることによって基本的には町人の明るい、騒がしい物語を描きながら、不都合が発生した時に越前を始めとする同心達が活躍して手際良く解決していく。そして江戸はまた日常に戻る――。
似たような武士の扱い方は「八丁堀の七人」あたりでも見受けられるかもしれない。
《名奉行!》は暴れん坊将軍などと同じ、本来の江戸時代劇の《ヒーロー》を扱った作品だった。

若い頃の北大路欣也
北大路欣也 - Wikipedia
「暴れん坊将軍」(1978年~)
さて。「名奉行! 大岡越前」が大岡越前時代劇という話題のシメであるならば、この話はデザートにあたる。
誰もがご存知「暴れん坊将軍」である。声に出してタイトルを読んだだけであの音楽が聴こえてきそうだ。

暴れん坊将軍
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「暴れん坊将軍」の主役と言えば将軍・徳川吉宗であり松平健である。
当たり前だが大岡越前は脇役。だが脇役だと侮ってはならない。
初代暴れん坊将軍――つまり「吉宗評判記 暴れん坊将軍」の第1話から登場してくる大岡越前は、その後もシリーズを通してかなりの頻度で登場してくる。もちろん登場しない回を数える方が圧倒的に楽なほどに。
さて前述の「ナショナル劇場 大岡越前」はシリーズ通算で400話ちょいである。
一方で「暴れん坊将軍」はシリーズ通算で約830話。
むちゃくちゃな話だが〝より多く大岡越前を見たい場合、選ぶべき番組は「暴れん坊将軍」である〟
だんだんなんの話をしているのかよくわからなくなってきた。
「暴れん坊将軍」で大岡越前を演じているのは大きくふたり。
ひとりは横内正。
暴れん坊将軍において600回以上大岡越前を演じている。界隈風に言うならプロ越前というところか。
もうひとりは田村亮。
《ロンドンブーツ1号2号》にまったく同じ名前の人物がいるが、あちらは芸名も本名も田村亮。越前の方は名義こそ田村亮だが本名は別にある。
このふたり、実は家が近くにあり荷物が誤配送されたこともあるようだ。
「暴れん坊将軍」には重要な脇役が複数人いて、特筆すべきなのが〝じい〟と大岡越前である。
オープニングやタイトルを見忘れていきなり本編が始まったとしても、じいと越前、そして御庭番を演じているのが誰かを見れば何シリーズかは見極めることができるはずだ。それくらい重要な役どころである。