
迫りくるハイザック部隊! この図こそガンダムよ!
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、ザクの正統的後継機種として開発されたという設定で『Zガンダム』に登場したハイザックと、それをさらに偵察用に特化したという設定で『ガンダムZZ』に登場したアイザックのHGUCのご紹介です!
ハイザック 1/144 HGUC 012 2000年7月 1000円(機動戦士Zガンダム)

ハイザックのボックスアート。HGUCも、20世紀末のこの頃はまだ初期なので、なにげに左腕がガワラ曲げ(大河原邦男氏からきている「二次元の嘘の曲げ方」)をしている
アイザック 1/144 HGUC 096 2009年6月 1600円(機動戦士ガンダムZZ)

アイザックのボックスアート。2009年のこちらは素直に、HGUCの可動範囲でポージング。背景にはゲルググもいる辺り『ガンダムZZ』の迷走感が醸し出されている
『Zガンダム』世代直撃の筆者などの体験から言わせてもらえば、富野監督が「最初の『ガンダム』より、よほど丁寧に第1話を作ったはずなのに」と言いながら、実際の視聴者(特にメカやガンプラ好きの男子)が混乱してしまったのは、第1話でシャアがドム(リック・ディアス)に乗って出てきて、ジム(ジムⅡ)と戦う、これは理解できる。その流れでガンダムとも戦う。これもなるほどである。しかし、話が続いた先で、ザク(ハイザック)とも戦い、鹵獲したガンダム(ガンダムMK-Ⅱ)がザクと戦う構図自体は本来そうあるべきで良いのだが、アレ?なんかおかしいぞ。じゃあザクとジムは味方同士なのか?という「1stの印象が強いがゆえの思い込み」がストッパーになってしまったということだろう。

カミーユのガンダムMK-Ⅱに、次々と撃墜されていく雑魚メカのハイザックという構図
少なくとも『Zガンダム』では、百式とマラサイを、ガンダムとザクの系譜と組み込むのであれば、メッサーラが登場するまでは、新モビル・スーツは常に1stのなんらかの機体の系譜に属しており、その辺りがジョイントでもあり、足枷でもあったというのが正直な本音である。
“それ”はバンダイの皮算用も関わってくる話であり、満を持して『続・ガンダム』を商売として始めた以上、そこで出てくる新メカが、MSVに毛が生えた程度ではダメだが、かといって斬新すぎるのも「ガンダム的ではない」でダメなのだ。
その辺りの舵取りは、かなり苦心の跡が見え隠れして、伝え聞いた話によれば、初動のリック・ディアスですら「これでは『ガンダムの続編』のメカではなく『エルガイムの続編』のメカだ」という内部批判があったらしく、まぁとりあえず、「斬新なドム」を一番最初に画面に登場させつつ、「見るからにガンダム」「見るからにザク」「見るからにジム」は画面展開に並べておこうという足場作りは必要だったのだろう。

完成したHGUCハイザック
ガンプラも、既に書いてきたように『Zガンダム』初動は、“あの”『ガンダム』の続編ということで、良い意味で気合が入り過ぎていて、ガンダムMK-Ⅱ、ハイザック、リック・ディアス、ガルバルディβの4種類は、どれも1/144、1/100共に、革新的で挑戦的で、そして着実な出来栄えであった。
特に「足裏ディテール」は、初期ガンプラでも「ドムの足裏のバーニア」等、特徴的なデザインは造形に取り入れられていたが、アニメデザインどおりの足裏ディテールというのは、かつての『機動戦士ガンダム』(1979年)に倣って、1/100ガンダムMK-Ⅱが再現しており、これがガンプラでの事実上の意識的アプローチの始まりともいえた。
それを踏まえての、HGUC時代のガンプラであるが、むしろ初期のHGUCでは頑張っていた「足裏ディテール再現」が、徐々に「パーツ数を抑える代わりに、肉抜き穴が目立つ」仕様になっていくさまは、ここ数年の新作HGUC手首の「穴付き拳1パーツでライフルもサーベルも握れる仕様」と同じで、退行してしまっていると言ってよいのではないだろうか。

HGUC ハイザックのサイドビューとバックビュー
さて。
2000年に、『Zガンダム』登場のモビル・スーツとしては、キュベレイ、百式、リック・ディアスに続いてHGUCからリリースされたハイザック。
出来としては、それなり、時代なり、この時期なりの平均点。
プロポーションは悪くなく、当時は設定に忠実だと思えていた旧1/144が、頭部(というか上半身全体)が大きく脚部(というか腰部から下の下半身)が華奢で、結果的に損なっていた安定感を、HGUC版は絶妙なバランスで再構成している。

正面から見たHGUC ハイザック
『Zガンダム』におけるハイザックのデザイン論とHGUC版の評価を並行して進めていくことになるが、まぁハイザック自体、誰がどうみても「新型ザク」であることは間違いない。
ハイザックで目立つ、ゴテゴテで大きめのバックパックや、両脚ふくらはぎ両サイドのスラスター等は、これは明確に、『Zガンダム』放映前に起きていた「MSVブーム」で、その中心にいてMSVの象徴だった「MS-06R ザクⅡ」からの影響がフィードバックされていると言い切ってもよいだろう(だから若いガンダム世代たちよ。おじさん達にとって「ザクⅡ」とは、旧ザクからカウントしたノーマルザクを指すのではなく、こちらの06Rの方を思い浮かべるのだよ)。

「高機動型ザク」などを思わせるメカメカしく大きいバックパック

ジョニー・ライデンもシン・マツナガも(誰だよそいつら)。黒い三連星も乗ったとされる06RザクⅡの脛に似たスラスターつき脚部
この辺り、これまでの連載でも書いてきたが、『Zガンダム』は「MSVまでガンプラを追いかけてくれたヘビーユーザーの満足度」と「新規顧客の開拓」を両立しなければいけないビジネスビジョンであったことが明確に分かり、ハイザックは明らかに前者を対象にデザイン、模型化がされている。
いうなれば「ザクそのまま」に、「連邦っぽい胸ダクトとシールド」を装備させて「06Rの人気要素」を組み込み、後は「それっぽくパイプを増やした」のがハイザックであると言える。

頭部などはザクそのまま。いかに「ガンダムブーム」のガンプラ的実態が「ザクブーム」であったかを裏付ける
現代の「遅れてきたガンプラファン」が「なんでMSVはこんなにザクのバリエーションが多いんだ?」と不思議がっていたが、ガンダムブームはガンプラブームとほぼイコールであり、ガンプラブームの中心に座していたのは、主役のガンダムではなく、敵雑魚のザクであったことを知る者は、今やもうおっさん世代しか残っていないのも事実。
しかし、このハイザック。デザイン段階で「やらかし」てしまったのだ。
模型化とメカデザインがまだ完全な連動が出来ていなかった『Zガンダム』の時代。
ハイザックは、ザクをブラッシュアップする際に、上腕をうねるパイプの接続先を、肩アーマーの内側、もっと正確に言及すると「肩接続部のボディ内部」から生えているように設定してしまったのだ。

『Zガンダム』放映当時のハイザックの設定画。上腕部パイプの立体構造に注目
『Zガンダム』モビル・スーツ辺りから、ガンプラでは「アニメ設定を馬鹿正直に立体化すると、可動軸が仕込まれているのに可動しない現象が起きる」ことは、旧キットのZガンダムや百式の回でも説明したが、ハイザックの場合はとにかく「上腕パイプが腕のロールと前方回転を妨げる」に集約されており、旧キットの1/100等ではパイプに軟質素材を採用したが、それでも上腕の可動範囲は「ひねる」程度が限界であった。

コロンブスの卵的発想で処理された上腕パイプ
かねてから「HGUCは、可動のために元デザインを変更することもある」と解説してきたが、このハイザックの上腕パイプも、HGUC版ではパイプの装着場所を、上腕ブロック真下にずらすことで、まずは腕全体の回転可動が確保され、その上で、肘関節ロールを前腕側に設けることで、肘がどの方向でも曲げられる自由さを持つようになった。
これは称賛されるべきデザイン改善であり、そう考えるとつくづく『逆襲のシャア』の旧キットヤクト・ドーガなどは(略)
その上で、色分けもそこそこ、可動もそこそこな時代なりのHGUC版である。

肩の開き角度と、首の上下可動
可動領域と色分けに関しては、勝負すべき当時キットはむしろ1/100版であり、この2点においては、実はHGUC版は、地味に当時1/100キット版に負けている。
HGUCでは、肩は60度ほどしか開かず、首の上下可動も当時1/100とは引き分け。

肘の曲がり角度
肘も90度いかず、ここも当時1/100版とは引き分け。色分けや「パイプは軟質素材」も、どちらもほぼ引き分けで、むしろ手首などは、旧1/100だと5本指すべてが独立可動する仕様になっていたりなど、当時の初動の気合の入り方が伺える。

脚部の前後開脚

脚部の左右開脚
下半身の方も、HGUCもまだスタートして2年目なので、それなりといったところか。
特に膝は、二重関節構造になっているので、作るときに期待はしたのだが、いざ完成してみると凡庸な可動範囲で終わっていた。
もっとも、ハイザック自体が、それほど派手なヒロイズム的ポージングをするメカではないので、大河さん自身はこの程度の可動範囲で充分だと思っている。
付属オプションは、ザクマシンガンとシールドだけ。
ヒート・ホークとかビーム・サーベルといった格闘戦用武装はついてないので要注意。というか、徹底的にローコストに走り過ぎなキットではある(笑)
付属シールも、モノアイ関係しかフォローしていないので、シールドの連邦紋章十字マークは、モデラーが塗装するか無視するかになっている。

シールドは基部で回転できるが、少しサイズが小さい……?
今回は、再現画像に出演させるに当たって、バックパックの2枚のウィング(?)先端を、量産型ザクカラーの薄いグリーンで、また『ガンダム』時代のザクマシンガンとの一番の変更点であるスコープ周り部分をモンザレッドで、それぞれ部分塗装したのみ。

ザクマシンガンを両手持ちで構えるハイザック!
マシンガン本体の色も、アニメだともっと濃いグレーなのだが、今回は作業量はほどほどに。
ハイザック好きであれば、ぜひとも一度は旧1/100キットを組んでみることをお勧めする。
「アニメ(当時)用にクリンナップされた高機動型ザクⅡ」への機体が込められた、ガンプラ史でも屈指の名キットと言い切れるからである。
さて、お次は「頭にレドームのっけたハイザック」の、アイザックのHGUCの紹介である。

完成した(脚部に欠損パーツあり)HGUC アイザック
このアイザック、どう見ても「頭に円盤を乗せた、青いハイザック」でしかないのだが、一応こちらは『Zガンダム』の機体ではなく、翌年の続編『ガンダムZZ』の第30話 31話『青の部隊』から登場した、旧ジオン残党みたいな「青の部隊」所属のモビルスーツ。劇中では砂漠戦で、『ガンダムZZ』の主人公・ジュドーのZガンダムと戦った。

頭のレドームがこれみよがしに後方に伸びているサイドビュー
実はこのアイザックは、シミルボンの「『機動戦士ガンダム』を読む!」での『ガンダムZZ』再現画像では、当初は出すつもりはなかった。
今から2年ほど前に、とある企画のプレゼン用に、既存のガンプラのパーツの寄せ集めで、オリジナルのロボットの立体見本をでっち上げる必要があって、その時「ハイザックの両脚の脛のスラスター」が欲しくて、ヤフオクで、パチ素組数百円で出品されていたコイツを「あぁ脚のスラスターだけなら同じだし」で手に入れて、脚部スラスターだけ取り外して放置しておいた物だからだ。

ハイザックとは、また違ったデザイン感覚で高機動型ザクっぽさを狙ったバックパックのバックビュー
なので本来であれば、これは今やただのジャンクであるので、再現画像でなら下半身を写さないアングルでのみ使えばいいが、さすがにこっちの連載で紹介するのはどうかとためらわれたので、折衷をとって「ハイザックの項で、オマケで紹介」と相成った次第。
モノは、威風堂々とした「ハイザックの金型流用キット」であり、新造の頭部とレドーム、両肩アーマーのパーツ分割は素晴らしい仕上がりを見せているが、その他は全部ハイザックと同じ仕様なので、「こんなマイナーなモビル・スーツまで商品化した」ことの意義の他は、どうしても賛否両論を呼んでしまう仕様で成り立っている。

試しに上から見てみると、すがすがしいまでに「円盤しか見えない」
印象的な頭部の円盤(レドーム?)は、当時の空気を知っていると「アルアルネタ」な典型的バリエーションメカデザインであり、『超時空要塞マクロス』(1982年)から『機甲戦記ドラグナー』(1987年)まで、リアルロボット系の作品で、手っ取り早く、しかも理路整然とメカの頭数を増やしたいときに、定番で配置された「偵察情報収集型メカロボット」のお約束的アレンジであった。

再現画像より。「青の部隊」というからには、編隊を組むゲルググもブルーカラーである
元々『ガンダムZZ』の中期のモビル・スーツは、当時のバンダイの台所事情のおかげで、既存のキットの金型流用を前提とした物や、MSV版キットの箱だけ変えた再販みたいなものを新商品と言い切る商法が迷走していた頃。

主にパーツ変更箇所が集中している上半身。パーツ分割等は元のハイザックよりも進化していることは事実
それが「歴史は繰り返す」で再現されたのが、HGUCであって、この時期、同じ『ガンダムZZ』の金型流用前提デザインの、リック・ディアスのマイナーバリエーションのシュツルムディアスと同時期に、このアイザックがなぜか発売された。
確かに、シュツルム・ディアスは永野護氏デザイン、このアイザックは、まだメジャーになる前のカトキハジメ氏の初期デザインというバリューがあるにはあるが、メカ単体の人気や知名度で考えると、わざわざどちらもキット化するほどのことはないレベル(今ならプレバン送りになるだろう程度)。

再現画像より。一応カトキ氏デザインだが、扱いは完全にドライセンの露払い(もしくは御供)
だが、このアイザックの、HGUCキットナンバーが098という辺りが謎を解くカギで、要するに発売が迫っていたHG ユニコーンガンダムを100のキリ番にするために、強制繰り上げのためにでっち上げられたキットであるともいえる。

ハイザックとアイザック。この時期のモビル・スーツをコレクションコンプリートするには欠かせないバイプレイヤーではある
そんな理由ででっち上げられたバリエーションキットだけに、元のランナー構成からは、色配置概念の違うアイザックのカラーリングが再現できるわけもなく、この際だから、アイザックで変えられた色の処はとことんアイザック準拠で成型してしまえとバンダイが大英断(笑)をしてしまったところ、ザクマシンガンも指も肘と膝の関節も、全てが水色という、清々しいありさまになってしまいました。
元々キットの成型色分けが、胸のダクトの赤以外は、水色と青の二色しかないので、色情報量が足りないことおびただしいので、さすがのジャンクキットでも、画面に出す以上はこれではどうかと思ったので、指と肘関節とマシンガンだけはファントムグレーで塗装した。
さてさて。ご好評につき84回の連載期間を頂いた『ガンプラり歩き旅』ですが、ミドルエッジのリニューアルや新境地へのフロンティアを以て、今回で最終回です。
まだまだ本当は連載は続けたかった!
Zガンダム、ガンダムZZ、νガンダムの主役がまだだったじゃないか!
RX-78 ガンダムの時と同じく、「歴代全てのZガンダムを1/144で並べる」スペシャル企画はどうなるんだ!?
しかし、1ライターにとって、それらは動かせるものではありません。
数少ないとは思いますが、仮にこのコーナーのファンの方がいて、この続きを楽しみたい、ぜひ続かせてやってくれという方がおられましたら、是非、ミドルエッジまでご一報をくださいませ!
また、業界関係者、webコラム編集の皆さんからの、続投、再掲、連載再開のオファーも随時受け付けております!
『ガンプラり歩き旅』連載は勝利だった。全国のガンダムオタク、モデラー、ガンプラファンの皆さん、我々の趣味道は決して終わったのではなく、あらためて『ガンプラり歩き旅』が、再びwebコンテンツから配信を行う日まで、 この配信を中止します!
市川大河公式サイト