
シャア=クアトロの赤い機体が率いるリック・ディアス部隊が、サイド7のグリーン・ノアに潜入するシーンから、『機動戦士Zガンダム』は始る
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、『Zガンダム』で画面に初めて登場した記念すべきリック・ディアスの、HGUC版です。
リック・ディアス 1/144 HGUC 010 2000年6月 1200円(機動戦士Zガンダム)

まずは先に発売された、初期量産型カラーのリック・ディアスのボックスアート
リック・ディアス(クアトロ専用) 1/144 HGUC 033 2002年8月 1200円(機動戦士Zガンダム)

ガンプラファンが2年も待たされた、クアトロ専用カラーのボックスアート
今回紹介するリック・ディアスは、すぐ上でも書いたように、『Zガンダム』という作品で一番最初に画面に登場したモビル・スーツだけに、様々な意味が込められている機体とデザインである。
一つは、この前番組『重戦機エルガイム』(1984年)で、新人ながらメカ・キャラ両方のデザインで抜擢され、その才能を開花させた永野護氏の、ガンダム初参戦デザインである、つまりこの時期の永野トレンドを、ガンダムにも取り入れる形になったことの証明と、ガンダムのデザインワークスが、新世界観に移るに当たって、大河原メカ観かた「翔んで」みせるという意欲の表れである。
もう一つは、このリック・ディアスというデザインが、永野氏のの灰汁強さが迷彩になっているが、そのオマージュ元は明らかにドムであり、これまでにも語ってきたように、『Zガンダム』では前半では、最初の『機動戦士ガンダム』(1979年)の各モビル・スーツのデザインを継承した新型後継機種が画面を彩り、続編であることを明確に意識させるのだが、その中でこの機体デザインは明確にドムであることを前提にした時「シャアの乗る赤いドム」という、これもかつてこの連載の『ガンプラり歩き旅』その52 ~元々は小説版から生まれた、G3ガンダムとシャア専用リック・ドム!~でも書いたように、ガンダムファンには特別な意味があり、それが初めて「永野デザインのドム」によってアニメヴィジュアル化された、しかも初の続編ガンダムで、最初に登場するという役割で。

18年前のキットだが、今の目で見ても「ドムらしさ」「永野メカらしさ」は及第点の佳作キット
この意味は大きく、また当時いかに富野監督と先鋭的ロボメカデザインファンが、永野メカのインパクトに魅入られていたかの証明でもある。
『Zガンダム』では、『エルガイム』でメカファンから好評だった「ムーバブル・フレーム」という概念をモビル・スーツに取り入れ、その設定は公式化して、他のデザイナーもそれを前提にデザインしていくことになり、その後の継続シリーズでもその概念は受け継がれる。
この辺り、如何に永野護氏が当時のカリスマでありトレンドであったかが窺い知れる。

まずは先に発売された初期量産型版を正面から。合わせ目は目立つが、色分けは優秀
それまでは、ガンダムのメカと言えば大河原邦男氏だったわけだが、『ガンダム』終了から5年の歳月が、メカビジュアル事情を動かした。
確かに初期主役のガンダムMK-Ⅱこそ、典型的な大河原メカだったが、脇を固めるモビル・スーツも、ハイザック、ガルバルディβ、ジムⅡ等の大河原系と、リック・ディアス、百式等の永野護氏系と真っ二つにイメージが別れたところから始まった。
真の主役、ゼータガンダムも、当初は永野氏が手掛ける予定もあり、デザイン画が興され、小説版の初期ハードカバー版の表紙で永野氏によって描かれるという経緯もあった。

初期量産型版のサイドビューとバックビュー。「バーニアがゴテゴテついた箱型」が主流だったバックパックが、ここで一度全否定されている
そんな永野氏による「80年代のドム」であるリック・ディアスは、永野テイストをドムに落とし込んだ的確なデザインとして出来上がっている。
永野メカというと、最近のメカしか知らないファンからは、細いというイメージしかないようだが、永野氏のライフワークでもある『ファイブスター物語(FSS)』でも、重量感のあるモーターヘッドなども散見され、このデザインもそういったラインの傑作である。

クアトロ版の正面。やはりこちらの方が立体構造が分かりやすい
縦横に十字が入ったモノアイは、この時期の永野モビル・スーツの特徴で、また上腕から前腕へかけてのシルエットやラインは、そのまま百式にも受け継がれる。
その上で「ボディに埋まっている首」「モノアイを囲むカバー」「重量感と安定感を出す、末広がりの足」「量産機の色が黒」「主武装がバズーカ」等々、ドムの記号性をしっかり掬い取って完成したデザインだけに、放映当時のガンプラでも(それこそシャアが乗る、というのもあってか)1/144 1/100共に赤いリック・ディアスがキット化され、どちらもすこぶる出来が良かった。

クアトロ版のサイドビューとバックビュー。翌年にはバインダーを巨大化した「シュツルム・ディアス」が永野氏によってデザインされ、HGUCでもキット化された
ガンプラを売るのがガンダムのビジネスだとするならば、『Zガンダム』初動のバンダイの、ガンプラへの気合の入り方は並々ならぬものがあり、ガンダムMK-Ⅱ、ハイザック、ガルバルディβ、そしてこのリック・ディアスのキットは、可動範囲こそ現代のHGUCやMGにはかなわないものの、劇中ギミックの再現や、軟質チューブやポリキャップなどの新素材で再現されたディテール等で、MSVよりもさらに新時代のガンプラを提示してみせた。

背部バインダー周り。既存のモビル・スーツのバックパックとは全く異なる
特にリック・ディアスの場合、メカニカルな特徴である「背中のバインダーが稼働する」「背中のビームピストルが、背部に装着した状態でも可動して、さらに取り外せて手に持てる」「クレイバズーカが背中のウェポンラックにホールドできる」等々、およそHGUCで再現しているギミックの殆どが、旧キット1/144でも再現されており、可動箇所、可動範囲、色分け以外のギミックでHGUCで初再現されたのは、頭部バルカンファランクスの展開ぐらい。それすらも、旧1/144キットでは、コンパチで固定ではあるがしっかり再現をしていた。

背部ラックには、クレイバズーカもマウントできるのを再現
なので、HGUC化においても、旧キットにはなかったバリューというのがなかなか決め手がなかったからなのか、まずは初期量産型の「黒い方」が、2000年の6月に発売。確かにただの色違いとはいえど、黒いリック・ディアスが正式にガンプラ1/144のラインナップに入るのは初めてのことである。
リック・ディアスは、ガンプラビジネスとの連携か、量産型が黒いのは初期だけで、シャア=クワトロが百式に乗り換えてからは、「大尉の色は人気ですから」という身も蓋もない台詞が劇中に出てきて、一般兵も全てが赤い機体に統一されたという流れがある。

潜入したグリーン・ノアで、ジムⅡ部隊と戦闘になる第1話より
なのでもちろんHGUC時代のファンも、それほど待たなくてもいずれ色替えの赤い方も、販売されるだろうということは完全に想定の範囲内であり、余程の目立ちたがり屋か、ネタに走った好事家以外は、黒い量産型をわざわざ赤く塗るという真似はしないで、赤版を待っていたものだった。

初期量産型発売から、クアトロカラー版発売まで、ファンは2年待たされた
結局クワトロ版リック・ディアスHGUCは2008年8月まで2年待たされて発売となり、そこでようやくファンの溜飲が下がった。
HGUCが「わざと量産型から先に出して、シャア専用は後から出す」は、ズゴックでもやっていたが、あちらも量産型が1999年11月、シャア専用が2001年2月と一年3か月待たされたが、リック・ディアスの場合は少し待たせ過ぎだったかもしれない(笑)

クレイバズーカを手にしたクアトロ専用リック・ディアス
キットの出来の方は「『Zガンダム』のモビル・スーツ1/144 HGUC化」としては、最新のバーザムやガルバルディβとは情報量からして時代差まで感じさせるが、それでもアニメ版にあったディテールやライン取りは一つ残さず拾っている佳作キット。
特に、可動させるのにデザイン概念上、もっとも苦戦を強いられたであろう「箱型の肩アーマー」も、肩の受け側の軸にポリキャップで独立して接続する構造なので、腕がスムーズに横に水平まで上げることが出来る。

キットの腕は水平にまで上がる。上がった隙間から見えるディテールにも注目
心憎いのは、そうして腕を水平に上げた時に、せり上がった肩アーマーの内側で見えてしまう、肩の受け側の軸にも、いかにもムーバブル・フレームといったニュアンスのディテールが入れられているところだろう。

腕の可動範囲。肘の曲がりは少し今の目で見ると浅いか
肘曲げ、膝曲げは、共に90度に若干届かない角度で収まっているが、フロントスカートが可動するので、脚を前に向かって踏み出すことができる、頭部が回転するなど可動箇所はもちろん旧キットより増えており、色分けも、大きく残念な前腕前面を除けばほぼ完璧。

脚の前後開脚可動範囲。こちらも時代なりだが、フロントスカートが可動するので、脚を前に踏み出せる意義は大きかった
大きくて十字モールドの入ったドーム状の物アイはクリアパーツ。オプションは、旧キット同様に、ビームピストル、クレイバズーカ共に、手に持たせることも、背中のラックに掛けることも可能で、バインダーももちろんポリキャップで可動する。

クリアパーツのドーム状モノアイが効果的な頭部
ビーム・サーベルは柄パーツとグリーンのクリアパーツで構成されていて、柄パーツは設定どおり、背面腰に装着することができる。

ビーム・サーベルを構えたリック・ディアス
デザイン上、どうしてもクレイバズーカが構えにくくなってしまっているが、元々人気があった機体だけに、そろそろREVIVEやVer.2やRGで出し直されるのではないだろうか?

クレイバズーカを構えたリック・ディアス。後部のマガジンがデザイン上どうしても干渉してしまう
ここ数年、地味に『Zガンダム』のモビル・スーツはHGUC化が続いているので、早ければこの記事が掲載される頃には、リファイン版の告知が出ているのかもしれない。

背中のビーム・ピストルも手に構えさせられる
さて塗装。
このキット、基本的にはパーツ状態での色分けが完璧なのだが、前腕前面のパーツが、パイプの色を優先してブルーグレーで構成されてしまっていてそこだけ妙に気になってしまう。

旧キットでは不可能だった頭部バルカンファランクスのギミックも可動で再現
なので、肘の内側はモンザレッドで追加塗装した。
他は、腰脇アーマーのパイプを、ミディアムブルーとニュートラルグレーを足した色で塗装、後は肩の三面の凹四角部を艶消し黒で、メイン武装のクレイバズーカをファントムグレーで塗装した程度(クレイバズーカの色は、今回の紹介で黒版が手にしている物が成型色。本体はどんどん、合わせ目が出ない構造になったり、色分けも完璧になっていくのに、武器パーツだけはいつまで経ってもモナカ貼り合わせ構造で、初期は色も蔑ろにされていたのはHGUCのお約束)。

初期量産型版のクレイバズーカの色が、クアトロ専用と同じ成型色
全ガンダムファン、そしてアニメ界が待望していた『新作ガンダム』冒頭を飾る形で、小説版のシンボルだった「シャアの赤いドム」が、新進気鋭のデザイナーのリファインで登場する。

潜入捜査だけであったはずが、やむなく戦闘に突入する。『ガンダム』を踏まえた『Zガンダム』の始まり
『Zガンダム』とは、そういう始まり方をしたアニメであった。
市川大河公式サイト