『ガンプラり歩き旅』その77 ~『逆襲のシャア』ヤクト・ドーガ ガンプラ40年ののターニングポイントを検証する!~

『ガンプラり歩き旅』その77 ~『逆襲のシャア』ヤクト・ドーガ ガンプラ40年ののターニングポイントを検証する!~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、メカ単位での紹介をする大好評連載。 新展開では『機動戦士Zガンダム』(1985年)『機動戦士ガンダムZZ』(1986年)『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)まで、旧キットから最新のHGUCまで、商品の発売順に、再現画像と共に網羅紹介していこうという趣向になっております!


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腕を上げて、曲げられる関節を頑張って曲げた状態

手首までが角度が変えられる仕様なのは褒めるべきかもしれないが、肘の曲がり角度90と累積すれば、ボディに対する手首の位置は160度ぐらいまで可動することは可能だが、なんとこのキット「上腕ロールが存在しない」つまり、肘を前に向かって曲げることが不可能なのである。

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両腕を、最大限可動させてつけたポーズ

なのでこの写真のように、両腕の可動領域を最大限活かしても、ゴリラがウホウホテンションをあげているか、昔懐かしの『おそ松くん』のイヤミの「シェー」のポーズにしか見えない。

そもそもバンダイ、というかポピー時代から、このメーカーは「関節可動するアクションフィギュア」の、「関節の優先順位」がおかしいのだ。
それはガンプラブーム直前のポピー時代に展開したアクションフィギュアシリーズ「ワールドヒーロー」から、この『逆襲のシャア』時期にバンダイ玩具で一番盛り上がっていた「聖闘士星矢 聖衣大系」シリーズまで変わらず、その優先順位は、まず首の回転で、次は肩の回転で、その次はなぜか「股間」で、次が「膝」そして「肩の開き」が優先で、ようやく次が「肘の可動」になるのだが、この「肘に可動」どうやら少なくとも当時のバンダイは「内側に曲がるポーズが一番絵になる」前提で商品仕様を作っていた節がある。

左側ウルトラマンタロウは70年代後半のポピー「ワールドヒーロー」右側のフィギュア素体は「聖闘士星矢 聖衣大系」シリーズから

聖衣大系のフィギュアも、上腕にロール軸はちゃんとあるが、逆に(聖衣で前腕と手の甲が繋がってる関係で)手首が前腕に対して固定であり、手首位置を前提にすると、肘は内側に曲がる以外に「カッコいいポーズ」は取れないのである。

確かにガンダムのモビル・スーツ自体、初期から特にジオン側は、ザクもグフもドムも肘関節が内側を向くようにデザイン画が描かれていて、ガンプラもその状態で飾るのがもっとも「それっぽい」ことは確かだった(逆に、肘が内側に曲がるべきパーツ形状のまま、前に曲がるアニメ独特の二次元の嘘演出を、マニアの間では大河原邦男氏にちなんで「ガワラ曲げ」と呼んでいた(笑))。
しかし、歴代ガンプラは、それこそ第1号の1/144ガンダムのように「上腕ロールがないので前にしか肘が曲がらない」仕様のものこそはあったが、1stの1/144キットは、(ゲルググみたいな)可動範囲の限界の差はあっても、少なくとも肘を前に曲げた自然なポーズはとれたはずである(前にも内側にも一切曲げる気のないジオング抜きで(笑))。

「その法則」が崩れたのは、『Zガンダム』での1/220シリーズからであり、しかし『Zガンダム』1/220シリーズは、別個にメインストリームの1/144シリーズがあればこそ、低価格帯コレクションシリーズとして「肘ロールなし。肘内側可動」仕様が許されたところはある。
上でも書いたが、確かにメカロボットの通常のデザインというものは、最小限度まで可動軸を減らして立体化しようとした場合、肘は内側に向かって関節軸が描かれていることが多かった(イマドキは発想が逆になっているデザインも多い)。しかしそれと同等に「肘関節が内側にしか曲がらないロボットメカ」など、プラモでもアニメのメカでも、そうそう存在しなかったのが80年代初頭のガンプラブームだったのだ。

問題は「なぜ、歴代ガンダムシリーズ初のオリジナル劇場用映画版のガンプラ」で「それ」をやらかしてしまったのかだ。
確かに「デザイン至上主義からすると、上腕ロールが仕込みにくい」というヤクト・ドーガデザインの問題もあるかもしれない。
しかし『逆襲のシャア』シリーズは、劇中で登場するモビル・スーツのガンプラが全て1/144で7種発売されたが、その中でちゃんと上腕でロールする商品は、νガンダムとリ・ガズィ、ギラ・ドーガだけで、残り4種は肘が内側にしか曲がらない仕様。
デザイン上本当に仕方ないのか?と疑うのは、一番上腕ロールが仕込みやすそうなジェガンが、なぜか前腕にロールがあって、前腕はグルグル回転するんだけど、曲がる方向は内側だけという素敵な仕様であることからも、「バンダイが何か完全に間違えてる」感を理解してもらえると思う。

またこのキット、何度も書くが、デザインの立体化と色分けは比較的優秀なのだが、こと可動という点については、過去になかった優秀さを誇る部分と、過去にはあり得なかったダメさ加減を誇る部分とのハイブリッドでお送りしているのだ。

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肩の開きと開脚範囲

開脚は、このデザインのスカートを考慮すれば妥当な脚の開きが出来る。しかし肩。いくらファンネル装着バインダーが邪魔をしているからと言って、1988年にこの範囲はないだろうとツッコまざるを得ない。

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結果としての腕の可動範囲

「内側にしか曲がらない肘」と「45度も開かない肩」でポージングさせると、結局この程度が限界になる。先ほども書いたが「ゴリラが胸を叩いてテンションあげてる図」だと言われたら、もうそうとしか見えなくなってくる。
また、今「開脚について」は褒めたが、開脚姿勢を保つのは膝関節である。膝の可動範囲と保持力を確認してみよう。

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誰か救急車を! 人が仰向けになって倒れています!

いや……もうネタにでもせぇへんとやってられへんわ……。
確かに昨今のガンプラの、イマドキのインフルエンサーガンプラレビュワーさん達が、義務として確認する「片膝立ちポーズ」が、どんだけの価値やバリューがあるのかちょっと分からないんだけれども、さすがに「これはない」わ。
脛側にポリキャップの受けがあるんだけど、そこが経年劣化でヘタっているのか、基礎構造上から問題があったのか、このヤクト・ドーガ、少し油断をすると仰向けに倒れていくことこの上なし。なおかつ膝の曲がり具合なんぞを確認なんぞしようものなら……というのが上の写真の惨状の解説。うん……「膝は90度曲がります」でいいんじゃないかな……この際……。

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脛がハの字に開きます

ジェガンの前腕同様、本来腿にあって欲しかったロール軸が脛側にあるもんだから、昔から由緒正しいガンプラの素立ち姿勢の「ハの字立ち」も、股間からじゃなくいきなり膝から下がハの字になるという四次元構造なんですわ。
もう本当、このシリーズのキットを設計した人って「どうすれば接着剤無しでバラバラにならない構造に出来るか」「どう分割すれば、大まかな色分けがパーツで再現できるか」しか、考える余裕がなかったんじゃないかな。

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頭部可動は優秀

ところがどっこい、こと頭部の可動に関しては、デザイン上では動かしにくく立体化把握もし難い形状で、顎下にはパイプが伸びているにも拘わらず、上下左右に結構動く。

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頭部構造の右側からのアップ

頭部のパーツは赤と白の物で分割されていて、ボディとの接続は少し後ろへ引いたような案配で背中側に近くすることで頭部前方のクリアランスを確保。2本のパイプも。固定接続するのではなく、頭部の顎下の隙間の空いた部分に入り込んでいるだけなので、頭部の動きの邪魔をしない。
この心づかいの1/1000でも、肘に回してくれれば……(以下略)

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バックパックの作りは丁寧

上で何度も書いたが、「出渕デザインの立体再現度」だけはどのキットも優秀なんですよ、このシリーズ。
思えば当時キットって『ガンダムZZ』の頃も、ガルスJとかR・ジャジャとか、出渕氏デザインのモビル・スーツが、ガンプラ化(の、主にギミック・可動面)で割を食ってばかりだったような気がする。
どれも立体栄えするデザインなんだけどもねぇ。

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