『ムー実話怪談「恐」選集』

ムー実話怪談「恐」選集
「ムー」より自信満々の招待状が届いた。
数あるオカルトコンテンツのなかで何故か長く定着し界隈に根強いファンを持つ「ムー」。
もはやその存在自体が軽いミステリな気がするのだが、今回は昨今話題になる事が多い科学、疑似科学方面ではなく《怪談》分野からのアプローチ。
怪談には「それが嘘であっても怖い」「本当にありそう」という独特の楽しみ方がある。
それも新進気鋭の怪談を集めたのではなく、過去の投稿を含めた総集編である。怪談史としても意味のある1冊になっていそうだ。
怪談師・吉田悠軌の選定と解説で浮かぶ「恐怖の系譜」
怪談と恐怖の形は時代の影響を受けている。
今どき妖怪ネタで怖がらせるのはなかなか難しく、またトイレの花子さんやテケテケといったあたりもだいぶ色褪せている感がある。
一方で「周囲にいるちょっと奇妙な人」風な話は真偽を問わず人気を集めているようだ。
このあたりの傾向と統計とかに触れてあるとなかなか嬉しいのだが、果たして?
もちろん「ムー」節も忘れていない
でました「ムー」名物のイニシャル人物!
「ムー」と言えばイニシャル、イニシャルと言えば「ムー」でしょう(言い過ぎか?)
果たしてこの人物は実在するのか。いったい何を語るのか。そしてその真偽やいかに。
……しかしもう「ムーにおいて30年間怪談を受け付けてきた人」という存在がおもしろいのがずるい。そういう設定でひとつふたつくらいは怪談がひっぱれそうなものです。
「30年間同じ仕事をしている雑誌編集者」より「30年間同じ仕事をしているムー編集者」の方が急にアヤしさが出る、というのはちょっと贔屓し過ぎでしょうか。
商品概要

目次

吉田悠軌

裏表紙
ムー・スーパーミステリー・ブックス『ムー実話怪談「恐」選集』
選者:吉田悠軌
定価:本体900円+税
発売日:2018年7月20日(金)
判型:新書判/256ページ
電子版:あり
ISBN:978-4-05-406658-8
発行所:(株)学研プラス
「ムー」公式ウェブ:http://gakkenmu.jp/
【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4054066585/
・楽天ブックス https://books.rakuten.co.jp/rb/15517435/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1106892173
・学研出版サイト https://hon.gakken.jp/book/1340665800
・honto https://honto.jp/netstore/pd-book_29109235.html
トピックス 怪談よもやま話
都市伝説
1970年代の怪談から話をスタートしよう。
古来、怪談と言えば妖怪や鬼や幽霊など《超常》の存在が活躍しがちだったが、この時代になると《日常》的な存在が目立ち始める。
現代の怪談としてご紹介しておきたいのは「口裂け女」である。

学校の怪談
学校の怪談 | 動画 | Amazonビデオ
街中を歩いているとマスクをした女性が現れ「わたし、きれい?」と訊いてくる。
「きれい」と返したところマスクを外すではないか。見ると、なんと口が裂けている――
というのが簡単なあらすじだろうか。「わたし、きれい?」に対して否定的なことを言うと持っていた凶器で殺される、というパターンもよく聞く。
日本全国どこででもありそうな話だが、その出典は《1978年の岐阜県》とかなり限定されている。
というのもこの話が岐阜県の新聞に載っているからであり、それから時を経て週刊誌に登場。この頃にはテレビにも取りあげられたのだろう、様々な目撃談が各地で発生し、警察の出動沙汰も数回起こっている。
結果、この話に影響を受けた(?)という女性が口裂け女の真似をして刃物を持ってうろつき、銃刀法違反で逮捕された――というオチのような逸話も存在している。
もっともこの逮捕については伝説から派生したオチではなく、実際に起こった案件だったとのことである。
死体洗いのアルバイト
もうひとつ現代的な怪談を紹介しておこう。こちらも都市伝説としては比較的メジャーな《死体洗いのアルバイト》である。
しかし都市伝説ではあっても、怪談かと言われるとちょっと微妙かもしれない。
内容としても誰か被害者が発生したというわけでもなく、ただ「薬剤のプールに入った死体を管理する仕事がある」という程度のものである。
そういう抽象的な話だから時期や場所などが特定されているわけでもない。一応、医学系の大学が舞台になりがちなようではあるが。
さてこの話、出典があるという説が存在している。大江健三郎「死者の奢り」である。

死者の奢り・飼育
死者の奢り・飼育 (新潮文庫) | 大江 健三郎 |本 | 通販 | Amazon
「死者の奢り」は1957年の作品。芥川賞候補にもなっている。
舞台は大学の医学部で、主人公は薬剤付けになっている死体を別の水槽に移すというアルバイトに臨む――という話である。
もちろんテーマは怪談ではなく、堕胎しようか迷っている女学生が出てきたり、結局仕事が無意味なものに終わりそうであったりと純文学的な色が濃い。
とはいえ《死体を扱う》《死体が入っている薬剤の水槽》《大学の医学部》《アルバイト》という要素が一致しているということ、そして「死者の奢り」の知名度が《知っている人は知っているが知らない人はまったく知らない》という絶妙な位置にいる事から、「死体洗いのアルバイト」伝説と「死者の奢り」には強い結びつきがあるのだろうという説には賛成したい。
生き人形
さて話題を怪談に戻すために、我らが怪談王稲川淳二先生のご紹介をいたしましょう。
元々テレビタレント、俳優として活動していた稲川淳二は、1986年のオールナイトフジで「生き人形」を披露します。

生き人形
Amazon.co.jp: 稲川淳二Presents 生き人形 [VHS]: 稲川淳二: ビデオ
稲川はある日、高速道路で少女人形を目にした。そして後日、友人から人形を使った舞台の出演を依頼されるのだが、その人形というのが高速道路で見かけたあの少女人形にそっくりだったのである。
嫌な予感に襲われる稲川。実際、舞台前、舞台中、そして舞台後まで人形に関わった人々は次々と不幸と遭遇していくのである。
そんななかで稲川は気づく。関係者はみんな右手に怪我をしている。そして少女人形の右手にも傷がついているのであった。
……という感じのあらすじです。かなり簡略化しています。
それまでリアクション芸人のような事もしていた稲川先生ですが、この時期をきっかけに急激に《怪談の人》としての存在感を上げていきます。
ちなみにwikiには「生き人形」の余談のようなものが紹介されていまして、
>>編集部のミスにより当初40ページだった予定が30ページにまで内容を削除される
こわすぎる(迫真)