
シャングリラという名の、ジャンクのコロニーの中で、今まさにビーム・サーベルを振り上げるガルスJ!
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、『ガンダムZZ』事実上の第1話で登場した敵モビル・スーツ、言われて見ればいろいろジオンっぽい、ガルスJの登場です。
ガルスJ 1/144 002 1986年5月 700円(機動戦士ガンダムZZ)

1/144 ガルスJのボックスアート。背景にはガンプラ同時発売のガザDも描かれている
前回に続いて『機動戦士ガンダムZZ』(1986年)から、近年のHGUCではリメイクされていない敵モビル・スーツの当時キットの紹介シリーズ第2弾は、実質上の第1話『シャングリラの少年』から登場した、『ガンダムZZ』世界では一番最初に登場した敵モビル・スーツ、ガルスJの1/144キットの紹介である。

完成したガルスJ(シャングリラバージョン)
ガルスJは、前回も語ったが、出渕氏がまず画面に登場する敵が、“あのジオンの末裔”であることを端的に示すために、ガルスJには随所に過去のジオン系モビル・スーツの特徴や意匠が配置されていて、むしろ前年の『機動戦士Zガンダム』(1985年)初期のモビル・スーツに、ハッタリと遊びを利かせたデザインのように見せている。
ナルシストのマシュマーいわく「バラのように力強さの中にも優美さと気品を失わない良い機体」だそうだ。

キットのランナー状態。2色3枚のランナーに、ポリキャップというお約束フォーマット
実際は、ドムの体形にゲルググのシルエットに、ザクの無個性さとグフの特殊な左腕をハイブリッドして成り立っているデザインだが、前腕にはしっかりと「出渕穴」が開いている辺りは、そろそろこの時期、出渕氏がしっかりとブランドとして大御所になりつつあった機運を感じさせてもらえる。

正面から見たショット。力強いフォルムが再現されている
彩色指定まで出渕氏がどこまで関与したかは定かではないが、ザク特有の濃淡2色のグリーンの中に、真っ赤なコクピットハッチがある辺りは、後に出渕氏が「新解釈のザク」としてデザインした『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(1989年)で、最終的に「ザクFZ」と機体名を付けられたデザインの原点ともいえよう。

サイドビューとバックビュー。流れる曲線の中でのメリハリの付き方が、さすがブチメカ!
そういった意味で王道復古、原点回帰、温故知新の「いかにもなジオンらしさ」と、シリーズ初動でドタバタギャグを繰り広げるツールとしてのギミックを兼ね備えた機体がこのガルスJなのであるが、『ガンダムZZ』1/144 ガンプラシリーズのNo.1の座は、その後登場してくるガザDに譲ったという話も前回にしたので、今回は早々とキットの話に移ることにしよう。

デッキの中で出撃し始めるガルスJ。顔の立体的な構造や、胸部のディテールなどが分かりやすい再現画像の一枚
ざっくりまとめて書いてしまうと、『ガンダムZZ』序盤、特に出渕氏と伸童舎でデザインがあげられた、ネオジオン初期のモビル・スーツの1/144キットは、基本的にどれもこれも、どこかに致命的な弱点を抱えていて、評価以前の問題として、量産に当たって練り込まれていない物が多すぎた。

同時登場のZガンダムと対を成すために、ガルスJのコクピットハッチも開いた状態で固定モデル化した。ちなみにこちらにはマシュマーは乗せていない
それは「肩がいっさい動かないRジャジャ」「腕をスプリングで再現しようとして、全く活かせなかったハンマ・ハンマ」「合体変形をするが、精度が練られておらずまったく安定性に欠けるバウ」といった迷走を生むのだが、一方でガザDやガ・ゾウム、ズサなどの傑作キットもある中で、なぜそこまで個体差が激しくクオリティが上下したのか、その中でガルスJはどのあたりの位置にいるのか、等を考察してみたい。

オプション。エネルギーガンはガルスJ固有の個性的な武器で付属してくるものだが、劇中頻繁に使用していたビーム・サーベルはキットには付属してこないので、1/144 Zガンダムの余ったサーベルを塗りなおしている
その前提として。
これは数年前までは予想できなかったが、『ガンダムZZ』初動のネオジオンモビル・スーツの多くが、デザインリファインされ『機動戦士ガンダムUC』(2010年)に登場している。ガンプラ的には、デザイン的にも動かしたり再現するのも難しい、今となってはマイナーの『ガンダムZZ』MS群よりも、今っぽくアレンジされてガンプラ化しやすい方が良いと踏んだのか、ハンマ・ハンマがローゼン・ズールとして、RジャジャがRギャギャとして、ズサはほぼそのままに、このガルスJはシュツルム・ガルスとしてリファインされ、それぞれガンプラではHGUCで華々しく売られている。

シャングリラのジャンク地帯に降り立ったガルスJ!
ガンプラファンであれば当然そこで、それらの金型の流用での、ガルスJやRジャジャやハンマ・ハンマの発売を期待したのだが、UC版リファインデザインネオジオン系モビル・スーツHGUCは、ランナー状態では流用を意識したパーツ配置をしてはいるが、売り上げの方が期待値ほどにはあがらなかったからか、2018年春の段階では、ズサが(袖口のパーツを交換するだけで)『ガンダムZZ』Verとして、プレミアムバンダイ限定で売られるにとどまっている。

コクピットハッチの壊れたモビル・スーツ同士、ビーム・サーベルで斬り結ぶ!
さて、このキットの解説に戻るが、このキットはこの時期定番の「2色ランナー」「ポリキャップA、B装備」方式で構築されているが、ガルスJの場合、メインカラーが濃淡のグリーンなので、ランナーもそれに倣って適度な色に落ち着いた結果、塗装をせずに組み立てると、単色に見えてしまうという欠点を持っている。
だが、1/144 ガルスJは、出渕式ともいえる「70年代からの系譜の“可動しそうで、実際には動かせない”デザインを、ある程度の強硬手段で、かなりポージングが自在になっている佳作キットである。

両肩と開脚の可動範囲。両肩のシルエットを壊す軸可動が、好みによって評価が別れるかもしれない
全体のシルエットは、いわゆるブチメカっぽさ全開のデザインを、破綻なく的確に立体に落とし込んでいる。このブチメカの落とし穴は「肩が開かない構造」と「手首が回転させられない構造」の2点に罠が仕掛けられていたが、前者は肩と胴体を繋ぐ軸を限界まで伸ばすことで、アニメのシルエット的には矛盾する形ではあるが、両肩を脇に開くことを可能にした。

エネルギーガンを構えるガルスJ。手首が回転可動しないので、どうしてもこの角度で構えるのが正解になってしまう
多分この辺、イマドキのHGUCであれば、簡単に肩アーマーの独立可動をキープしたまま、その内側で上腕が外側に開く可動を仕込むなどは序の口なのだろうが、むしろ『ガンダムZZ』のこの時代で、この可動を仕込む英断さは、同時期のRジャジャ辺りの苦心の跡を見ていると改めて実感させられる。
全身の立体情報量もなかなかのもので、特に頭部は、ジオンらし過ぎる「モノアイとパイプチューブ」を、それぞれ独立したパーツで再現するなど力が入っている。
その、チューブ収納の囲いやら、後頭部のスリットなど、デザインの細部の再現にぬかりはない。さすが「実質の商品化第1号キット」だけのことはある。

エネルギーガンを縦に構えれば、ポーズが引き締まって見えるようにはなる
脚部は、膝は関節パーツが独立していて、腿と脛で二重関節になっていたり、バックパックのバーニア・スラスターがポリキャップで回転可動したり、股関節ブロックが独立してボディとポリキャップ接続になっているため、腰自体は回転しないが、腰内部で股関節の回転可動が出来るので、ポージングに幅が出たり、リアスカートだけ軸を通じてポリキャップ可動する、スリッパは左右にポリキャップ可動でスウィングできるなど、時代を考慮に入れても、かなりのポテンシャルを有している良作キットである。

腕の肘可動は90度前後。両手共に肘から先が伸縮するようになっている
腕は両腕とも、後に出渕氏がメカデザインを手掛ける『機動警察パトレイバー The Movie』(1989年)のレイバー、零式のように、手刀がシャフトで伸びるギミックが付いていて、両腕ともそれを再現。しかも、前腕にはしっかり5つの「出渕穴」が刻み込まれていて、うんうんと頷かされる抜群のブチメカさじ加減。

右腕も同じく。拳の回転がないのは残念だが、肘の「出渕穴」に、ファンならニヤリ
もっとも、上でも書いたように、腕の伸縮を再現したために、さすがに手首は角度が固定になってしまっていて、左手のグフっぽい、指先がマシンガンになっている平手はそれでもよいのだが、エネルギーガンやサーベルを握る右手の方は、少し残念な仕様になってしまっている。
それこそ、鋭利な指先で敵を切り裂く左手はともかく、メイン武装を持つ右手は抜き手にしなくてもよかったのではないかと思ってみたり。
シルエット的には、若干ボディの幅が広いようにも思えるが、ただでさえ『Zガンダム』後期から『ガンダムZZ』時期は、異形の非人間形態のモビル・スーツが多いので、これもまた「そういう体形なのだ」と思えばどうということはない。

ビーム・サーベルを構えるガルスJ。バランスのとれたブチメカテイスト
とりあえず、右手の拳が肘の曲がり角度に対して内側に向いて取り付けてあるので、付属のエネルギーガンを握らせたとき、肘を曲げずに正面へ向かって伸ばすか、拳をさかさまにして握らせる対応をしないとポーズが決まらないのは少し困った。
まぁ「ブチメカモビル・スーツで、関節が内側にしか曲がらないガンプラを作っちゃったのでファンが困り果てた」という逸話は、このあと『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)のジェガンやヤクト・ドーガ、サザビーなどで続出する大問題点なのだが、今にして思えばこのガルスJがその大騒動の布石になっていたのかもしれない。
また、マシュマー機は劇中ではビーム・サーベルを使用していたが、出渕裕氏のデザインやガンプラには、ビーム・サーベルの設定やパーツは残されていない。
なので、今回は余っていたクリアイエローのビーム・サーベルパーツSB6(HGUC ハンブラビの物)を、HGUC 203 Zガンダムの柄に付けて“なんちゃってガルスJビーム・サーベル”をでっち上げてみた。
こういうチグハグさは他のガンプラでも見られるが、この辺り、『ガンダムZZ』初動のゴタゴタの影響が垣間見られる。
上半身のディテールはほぼ完璧。
横幅の広い上半身から、ザクらしく腰が狭まったラインを経て、スカートが綺麗に広がるシルエットを忠実に再現。おかげでキットの方も開脚性が良く、両脚の股間軸の回転ギミックもあって、膝があまり曲がらない割には、ポーズがダイナミックにとれるようになっている。

サーベルを構えたガルスJをサイドから。横顔などを今見返してみると「硬質なオーラ・バトラー」という趣きにも見える
個人的にはこの機体は大好きなので、いっそのことHGのシュツルム・ガルスを購入して、そこにこのガルスJの装甲を被せてしまって、ニコイチでHGUC風ガルスJを作ってしまおうかとも考えたが、それをやると、Rギャギャを使ったRジャジャも作りたくなってしまうし、なにより時間がない。その上でこのミドルエッジの連載は、大河さんのようなへっぽこモデラーの改修記事よりも、当時品をそのまま掲載して、皆さんに当時の思い出に浸ってもらおうという主旨が強いので、今回は素組のままいくことにした。
ただし、旧キット版Zガンダムと対になるように、このキットも『ガンダムZZ』序盤を象徴させるため、コクピットハッチは開いたままの状態を再現することにした。
今回の工作は至ってシンプルで、赤のコクピットハッチをモーターツールのカッターで切り取り、90度角度を付けて接着し直すだけであった。
また、キットにはビーム・サーベルが付属していないので、Zガンダムのサーベルを1本拝借して、ビーム部分をイエローに塗装して握らせている。
その他の組立は素組。
塗装は、2色のグリーンを、濃い方を濃緑色で、薄い方をデイトナグリーンとガンダムカラーのザクグリーンを混ぜて調色。
バーニアやスラスター部分はエアスペリオリティブルー、エネルギーガンやパイプなどはニュートラルグレー。赤はキャラクターレッド。モノアイはピンクで、全体に艶消しスプレーを吹いて完成させた。
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