
吹き荒れる「ガザの嵐」が、ジュドーのZガンダムを襲う!
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、前作『Zガンダム』のガザCの立ち位置とシルエットを受け継いだ、『ガンダムZZ』の、ネオジオンの量産型可変モビル・スーツ、ガザDの旧キットの紹介です!
ガザD 1/144 1 1986年5月 600円(機動戦士ガンダムZZ)

キットのボックスアートには、後半キーキャラになるグレミーを含めた、ガザの嵐の三人組が描かれている
『機動戦士Zガンダム』(1985年)直接の続編になる『機動戦士ガンダムZZ』(1986年)は、前年のガンプラの好成績を受けて初動から積極的にキット化が展開された。
No.1のガザD、No.2のガルスJがまず共に、番組開始2か月後の5月から、ZZブランドのガンプラシリーズ第一弾として発売された。
翌6月には、やはり初動ネオジオンのモビル・スーツのズサと共に、主役のZZガンダムが1/144で発売される順序になった。

完成したガザD
『機動戦士Zガンダム』のガンプラ商品ラインナップ数が43種で、『機動戦士ガンダムZZ』のラインナップが19と、ダブルスコア並みに商品点数が減っているが、1/144だけに絞り込んで比較すると、『Zガンダム』の1/144は23個なのに比べて、『ガンダムZZ』は1/100 ZZガンダム以外は全て1/144なので、メイン主力商品層で比較すると、それほど差がついているわけでもない。
しかし「『Zガンダム』の非1/144キットのうち、1/300 2種のサイコガンダムや、1/220 メッサーラ、キュベレイ、アッシマーなどは、元のサイズが巨大なため、事実上の商品サイズは1/144並みである」ということと、『ZZガンダム』キットでも、ドワッジ、ディザート・ザク、ザク・マリナー、ガズR、リゲルグ、アイザック、など、1986年の8月、9月に発売された物は、どれもMSV時代や『Zガンダム』キットのリデコや新規パーツ付属、もしくはパッケージ替えだけのバリエーションキットでしかないという前提で改めて2シリーズの商品展開規模を比較すると、この1986年辺りでは、既にビジネスとしてのガンプラが、息切れを起こし始めていたことが窺い知れる。

ランナー状態。オレンジピンクとパープルブルー、そしてポリキャップという構成
そんな「『ガンダムZZ』ガンプラ第1段」となるのが、前作でアクシズを名乗っていたネオジオンのモビル・スーツ、ガザDとガルスJである。
共にデザインは、出渕裕氏がラフを描いて、伸童舎がクリンナップを担当するという形で、そのシステムはその後も続き(バウだけは出渕氏がクリンナップまで手掛けた)、ネオジオンの初動のメカニックイメージは、その両者に寄るものが大きいといえる。

ガザDの正面。やはりガザCを意図的に踏襲している
特に、ガルスJとガザDは、『ガンダムZZ』というコンテンツと、ガンプラの両面でのビジネスモデルのプレゼンを、明確に果たしていたメカだといえる。
『ガンダムZZ』の物語世界は、前作と直接つながり展開するのだが、世界観は変えなくてもジャンルを変えることはできるとばかりに、特に初期は徹底的にコメディタッチで描かれるのであるが、そういったコンセプトが変わった概念も、メカデザインというのは象徴する必然性を担う。
いや、この場合は、何もシリアスだった『Zガンダム』からコメディに代わったからといって、いきなりネオジオンのモビル・スーツが、びっくりどっきりメカになるという意味ではない(大河原邦男氏であればやってしまいそうではあるが)。

ガザDのサイドビュー。バズーカ型のナックルバスターのボリュームが分かりやすい
作品が、武装戦力同士の混沌を背景舞台に置いた前作と違い、本作では(表層上は)勧善懲悪の「主人公サイドのガンダム系」VS「悪のジオン系」を明確に打ち出さなければならない。
そうなると「ジオン的なるモビル・スーツとは、どんなアイコンなのか」が再検証されなければならなくなったのだ。

バックビュー。背面には多くのバーニアが見られるが、変形するとさらにこれらが同じ方向を向いて集まる
『Zガンダム』は、カオスのピークの「80年代アニメメカデザイナー『俺のモビル・スーツ』デザイン博」を意図的に展開させたが、今回は「その続き」で「その逆」をやらなければいけなかったという背景を汲み取ってみよう。
そうなった時、メカデザイナーの出渕氏のセンスと“読み取り”に、ある種の作品の方向性と指針が任されたとも言える。
そして出渕氏は、特に初動では、その要請とプレッシャーに対して、ガルスJとガザDというデザインで回答をまず提示したのだ。

ガザCと同じ、ドーム状でグリーンのモノアイと、両肩の大型バインダーが特徴的なモビル・スーツである
ガルスJは、ある意味後の「出渕ザク」ことザクFZやギラ・ドーガに繋がっていく源流が見てとれ、旧作『機動戦士ガンダム』(1979年)から出渕氏自身がイメージを抽出した意匠が散りばめられている。
それらはザク、グフ、ドム、ゲルググの印象的な部分をハイブリッドさせた「旧ジオン的なる記号の集合体」でありつつ、そこに出渕式時代のセンスを盛り込むことによってデザインが完成していた。
演出的にも、第1話から登場し、コメディタッチの中で、美形の敵キャラ・マシュマーが乗り込み、新主人公のジュドーが乗るZガンダムと戦い合うメインゲストメカとして印象を残す。

それでいて、ナックルバスターはガザCからは一転して、SFアニメメカの王道的デザインに変更されている
一方でガザDは、むしろ旧ガンダムのジオンとは一切のデザイン的関与を否定した、直前の『Zガンダム』で、ハマーンのキュベレイ以外で唯一の「ジオンのモビル・スーツ」だったガザCを、巧みに換骨奪胎した機体であったりする。
いわば出渕デザインは、ガルスJとガザDで「『ガンダム』のジオン」「『Zガンダム』のジオン」の、直系をそれぞれ、エンドユーザーに提示してみせて、逆算的にハマーン率いるネオジオンが、ザビ家が統括していた旧ジオンと地続きであることを画的に表して見せたのだ。

肩の可動は変形と関わるために癖があるが、ポージングする上では大きな障害にはならない
その流れの中で、ほぼ同時のガンプラ発売展開とはいえ、『ZZガンダム』商品化第1号にガザDを選び、2号にガルスJを回したバンダイの判断は正しかった。
市場的には、前作の『Zガンダム』ガンプラのリリースラインを引き継ぐ上では、やはりまず前作のデザイン概念の延長上にあるガザDを、その後のZZデザインライン商品とのジョイントに用いるべく、先にナンバリングしておくというのは手堅いビジネスである。

股間の開脚性は、変形にも拘わる部分なので非常に優秀である
その上で、これはこのガンプラキットそのものに対する言及にもなるのだが、アクシズの呪われたジオンの怨念の象徴として『Zガンダム』後半、大挙して登場して印象を刻み込んだ異形のモビル・スーツ、ガザCは、人気も高かったが、当時はなぜかキット化されなかった。
それは『Zガンダム』後半のモビル・スーツが、殆どがキット化されなかったからでもあるが、その理由はむしろ「続編(『ガンダムZZ』)の制作が決まり、商品展開も新作へ移行するから」であったわけでもあり、そしてその「移行した新作の第1号」がガザDであったことまで含めて考えると、やはり本来はガザCキット化は視野に入っていたのだと思われる。

脚部の前後への可動もイマドキのHGUC並み。膝関節の曲がりが少し浅いか
しかし、小林誠氏がデザインしたガザCの変形機構とシステムは(当時としては)複雑で、2006年のHGUCで初めてバンダイ製ガンプラでは実現できたほどであったのだ。
既にこれまでに書いてきたように、『Zガンダム』の可変モビル・スーツの変形機構は複雑化の一途をたどっており、ガザCも、仮に当時キット化されていたとしても、無変形仕様で立体化されることが精一杯であっただろう。

メイン武装がボディに固定のナックルバスターなので、武器握り手の代わりにそれを支える平手が付いてくる辺りは嬉しい配慮
それを踏まえてガザDの今回のキットを見直すと、この時期出渕氏に何が求められていたのかが分かってくる。
ガザCとガザDは、一見するとただの色替えかと思うほどにデザインが似通っている。
メカに詳しくない人がみれば、前作のアクシズ量産機がそのまま色替えだけで継続登場しているかと見間違うほどであるし、実際に出渕氏とガンプラは、それを狙ったのだろうと思える。

オプションは、ビーム・サーベルが2本と、サーベル握り手を兼ねた右手の握り拳
よくみれば、ナックルバスターの形状やバインダーの腕部への付け方など、ほぼ全ての部位のデザインは変更されているのだが、やはりパッと見はガザCに見える。
これは何を意味するのか。

ネオジオンの宿敵、Zガンダムを倒すために集まった、3機のガザD。これが「ガザの嵐」だ!
要するにバンダイと出渕氏は「実際のガンプラで変形できる(しかも耐久性とコスト的にハードルが低い)ガザC」を推しだすことを、ZZガンプラ初動でビジネスの任務に置いたのだ。
だからこそ、ガンプラのナンバリングはガザDが1でガルスJが2であるのだが、実際の出番はガルスJが第1話からであるのに対し、ガザDはガンプラでは後発商品メカのズサよりさらに後の、第7話が初登場なのである。

まだまだモビル・スーツの操縦に慣れていないとはいえ、ジュドーのZガンダムをギリギリまで追い詰めてみせた
また、「出渕氏ほどの人」が、仮に監督や制作サイドから単純に「ガザCの後継モビル・スーツを」とオーダーされて、ここまで酷似した(実は細かくは全く似ていないというオチまでついた)ガザDを提出するだろうか? むしろ、それを良しとして監督やバンダイが受け取るだろうか?(その証拠に、出渕氏は「ガザシリーズの発展形」としては、しっかりガザCとはシルエットの違うガ・ゾウムを直後にデザインしている)

ここからは、モビル・アーマー形態への変形プロセスを解説していこう。形はガラリと変わるが、変形システムは驚くほどシンプルだ
実際、劇中でガザDは、まさにガザCと同じようなモビル・アーマー形態に変形して、そこもやはり「だったらガザCのままでよかったじゃないか」と素人には思わせるのだが、実はその変形機構は、この当時品ガンプラを作ってみると分かるのだが、複雑怪奇な変形を行ったガザCと比較して、驚くほどシンプルで、しかも劇的にシルエットが変化する可変システムを持っているのだ。

まずはナックルバスターごと、両胸のブロックが90度上へ向けて回転する
ガンプラとしても、無可変機のガンプラとの違いを見ても、腕部の肩基部取り付けに、若干のトリッキーさがあるだけで、このキットはポリキャップの使用数もパーツの数も、平均的なガンプラの範囲で構成されている。

モビル・スーツ時は肩関節として機能していた可動軸が、後方へ回転する機能になるので、両肩のバインダーが背中のスラスターを両脇から囲む形になる
その上、ガザCとやはりそっくりなMA形態に変形できるのだから、ガザCの変形とは一体なんであったのかレベルで、さすが出渕氏の、「アニメとクリエイターとデザイナーと商品化」というバランスの中では一日の長があった風格を、ガザDは体現してみせているのである。

上の状態を斜め後方から見た状態。手首を外して、これで上半身の変形は完了
もちろん、そのメタ的なデザイン上の進化は、作品に入れ込む上でも「ネオジオンの実戦配備モビル・スーツの、さらなる効率化、高性能化」と受け止めればよいだけの話であり、それも含めてすべてが出渕氏の計算(氏だけではないとは思うが)であったとするならば、同時進行で『超新星フラッシュマン』(1986年)の怪人を毎週デザインしながらの並行作業としては、さすがと唸るしかない。

後は、股関節軸を両サイドぎりぎりまで伸ばしてから、両足を目一杯開いて前方に伸ばす。足の爪も、クローになるように内側に向けて曲げれば完成
さて、そこでようやくキットの解説だが。
もっともここまでのガザD論で、キットの解説も概ね完結していると言っても過言ではない。
前作のガザCの意匠を色濃く残しつつ、ナックルバスターなどを、より「イマドキ(当時)の流行風」へとアレンジしながら、通常ガンプラのフォーマットと構造から特別ハードルを高くせずに、ガザC的な変形を完全に再現できる傑作キットとなっている。

斜め後方から見たモビル・アーマー形態。背部や股間にあったバーニアが、見事に後方に向けて並んでいる
『Zガンダム』以降のガンプラで、ガンプラが劇中の変形をそのまま再現できるのは、1/300 サイコガンダムMK-Ⅱ、1/144ではハンブラビ以降初であり、この辺りに、前作で受けた「変形モビル・スーツ」要素を、今作でも引き続き推し出していく姿勢をしっかりバンダイが表明しているとも言えた。
キットの方は、この時期統一フォーマットだった「成型色2色」「ポリキャップはA、B、2種類の規格を各所に設けて可動させる」を踏襲しつつの完全変形。
パーツ配置は、デザインではブルーの部分の方が多い割には、ピンクの部分がブルーのランナーに配置されていたり、残念なパーツ配置仕様なので、まぁ塗装は必須か。
足の爪の組立に多少難易度が上がる部分はあり、さらにその足の爪の固定はプラ素材オンリー、また構造上、腕とバインダーが常に並行した角度でしかポージングできないなどの短所はあるが、Z、ZZ全体を見渡しても完成度の高いキットであることは間違いない。
一方でガザCがあり、一方でこのキットがあるから、現代でこの機体はHGUC化されないのかもしれない。

正面下方から見たモビル・アーマー形態。印象の変化が良く分かる。足の爪はガザCやバウンド・ドッグ同様、格闘戦でのクローとして機能する
変形は、そもそものモビル・スーツ時の可動領域をトリッキーに利用して完全変形(手首のみ取り外しなのはお約束)。
MA形態にするときには、両足の股間軸をギリギリまで伸ばしてから開脚する必要があるが、組立説明書には書いていないので、若いモデラーの中には気づかない人もいるらしい。
オプションは、砲撃武装が本体と一体化しているため、ビーム・サーベルが2本ついてくる。手首もサーベル握り手を兼ねた拳状の物が左右つく他、ナックルバスターを抱える右手の平手がつく辺りは、なにげにポイントがたかいところ。
今回は、塗装は迷ったのだが、これを作る直前にサイコガンダムMK-Ⅱを作っており、全塗装用の準備も手間も気力がなかったので、むしろ「成型色と全く同じ青とピンク」を作ることで、部分塗装に徹することにした。
青は一応、解説書どおりにコバルトブルーをベースにしつつ、白とMSライトブルー、MSパープルなどを混ぜていってランナーの色を再現した。
ピンクは、ガンダムカラーのシャアピンクにオレンジとモンザレッドを混ぜつつ成型色に近づけた。
作業がサイコガンダムMK-Ⅱの直後だったので、ちょうど紫色だったナックルバスターは、余ったサイコガンダムMK-Ⅱのボディ色で塗ってある。
他は、関節や指などにニュートラルグレー、バーニア内部を一通りモンザレッド、バックパックなどにMSファントムグレー、パイプ類にルマングリーンを使用した。
モノアイ部分だけは、パイプ類と印象を変えた方が良いと、ガイアカラーのエメラルドグリーンを用いたが、正直あまり見た目は変わらず(笑)
ビーム・サーベルは、同じくガイアカラーのストーングリーン(初音ミクの髪の色)で塗装した。
あと、MA形態時のモノアイを、H-EYESでパーツとして追加してある。
『ガンダムZZ』本編では、ピンクメインのガザCカラーで登場したり、逆にガザCがこっちのパープルカラーで登場したり、実はアニメ制作の現場でも区別がつかなかったのではないだろうかと邪推してしまうのだが(笑)『ガンダムZZ』前半のネオジオンの猛攻を再現するには、必須のモビル・スーツであることは確かである。
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