
サイコガンダムMK-Ⅱに乗ったロザミアの狂気が、ビームの雨となって戦場に降り注いだ!
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、『Zガンダム』『ガンダムZZ』で、それぞれ悲劇のヒロインが乗り込む、悪鬼の巨大モビル・スーツ、サイコガンダムMK-Ⅱの1/300当時キットのご紹介です!
サイコガンダムMK-Ⅱ 1/300 43 1986年4月 600円(機動戦士Zガンダム)

煽りポーズで巨大さを表現しているボックスアート。しかし背後にいる、黄色と緑のバウンド・ドッグは何者?(ゲーツの機体はモノトーンのはず)
『機動戦士Zガンダム』(1985年)のガンプラは、あくまで1/144と1/100をメインストリームにしつつ、登場モビル・スーツの大型化と商品の高額化から、あらたに廉価版ともいうべき1/220シリーズを生んだことは前回記した。
しかし1/220でもキット化不可能なモビル・スーツが、作中中盤に登場してしまった。
それがサイコガンダムである。
サイコガンダムは、『Zガンダム』メインスポンサーのバンダイで「天皇」と呼ばれ、歴代、旧ポピーがメインスポンサーになるロボットアニメや特撮で、自ら筆を執り各ロボット群をデザインしてきた村上克司氏によるデザインである。
だとすれば、ガンダムという大コンテンツを支えるスポンサーという神様から頂いた、ご信託のようなデザインを、現場が無碍にするわけにもいかない。
しかし、村上氏の筆によるサイコガンダムのデザインは、「ガンダム状態は、どこからどう見ても昔のガンダムそのままなのに、まるで『大鉄人17』(1977年 デザインは村上氏)のような変形で、箱型メカになる」という理念で構築されていた。

完成したサイコガンダムMK-Ⅱ。プロポーション、ディテール共に悪くない
これには現場サイドも言葉を失う。
神様からのご信託が「時代遅れのデザインのままのガンダムが、ただ箱型になるだけ」では、ロボットアニメ群雄割拠最前線でトップを走りぬかなければならない『Zガンダム』においては、余りにも「世界観的にもデザイン的にも時代遅れ」の代物でしかなかったからである。
しかし、だからといって「デザインはありがたかったのですが、本編に出すわけにはいきませんので……」と断ることなどありえない企業間の関係概念の中で、富野由悠季総監督が出した答えは、かつて『伝説巨神イデオン』(1980年)で、企画冒頭から「自衛隊の戦車と、タンクローリーと、幼稚園バスが合体してロボットになって悪と戦う」という前提で提示されていたメカデザインに対して、「とりあえず、そんな発想が吹き飛ぶほどでかくする」というレスポンスだったのだが、富野監督はこの「村上ガンダム」に対しても、ほぼ同じアプローチで対策を立てた。

ランナー状態。2色成型ということは、バンダイ的にはこのキットは1/144と同等の扱いだったことが分かる
主役としてデザインされた存在を、サイコガンダムという、『Zガンダム』世界でもっとも禍々しい機械に置き換え、そのサイズを「マジンガーZサイズ(18m)」から「ウルトラマンサイズ(40m)」へと馬鹿らしくなるほど大きくさせることで、元のデザインが持っていた稚拙さや時代遅れ感を薙ぎ払い、存在感そのものが不条理なまでの「正義の味方だったはずのガンダムが、姿だけそのままに巨大になって、悪鬼のようなオーラを醸し出しながら四角い形で浮遊し、街を粉砕する」という図式を成立させてしまったのだ。
あまつさえ富野監督は、その「デザインの使い方」がスポンサー様相手の嫌がらせに見えないように、そのコクピットに、シリーズを通した悲劇のメインヒロインになるフォウ・ムラサメを配置して、シリーズ最高潮の悲恋ドラマを展開させることで、違和感のあるメカデザインを見事に世界観に溶け込ませた。
しかし、それはあくまでアニメ制作サイドの必死の模索と折衷案であり、商品化する側のバンダイは、自分たちの組織のトップのしでかした顛末の果てに困らされることになった。
40m級のサイコガンダムでは、1/144サイズでも30㎝級のキットになってしまい、いくらシリーズでカミーユとフォウの悲恋が一番ドラマ的に盛り上がったといっても、「それ」が売れる物にならないというのは、天皇陛下の顔色をうかがうまでもなく自明の理。
大型モビル・スーツの商品展開用に1/220スケールカテゴリも立ち上げてはいたが、それでもサイコガンダムの大きさだと、通常のガンプラの1/100程度のボリュームにはなってしまう。

ランナーに塗装した状態。今回は全塗装で組んだので、ランナーの色と、今回組んだ色との違いが分かってもらいやすい
この時期のガンプラは、正直ピークを過ぎてはいたので、『Zガンダム』の売り上げが好調だったので、続編の『機動戦士ガンダムZZ』(1986年)はシリーズ半ばで決定したとはいえ、それはバンダイサイドの右肩下がりのガンプラビジネスへの、決死のレスポンスの数々があってこその「売り上げ好調」という結果論なのであった。
その英断の一つが「大型モビル・スーツは、スケールをダウンサイジングして、1st時代の300円近辺の価格帯に落とす」であり、サイコガンダムでそれをやるには、スケールをさらに独立させて、1/300という数字で売り出すしか当時は策はなかった。
しかし、村上天皇デザインは、箱の積み重ねなどと揶揄されつつも、いざ立体化した時に、変形や合体が再現設計しやすく、デザインが予め配慮されているものが戦隊ロボやアニメメカには多く、このサイコガンダムも1/300のキットながら、最小限の差し替えでしっかりモビル・フォートレス形態に変形することが可能な好キットであった。
さて。長い前置きになったが、ここからが本キット、1/300 サイコガンダムMK-Ⅱの紹介である。
そういった諸々の、作中的、メタ的事情を抱えながら、悲劇の背景を彩ったサイコガンダムであったが、劇中世界観的には、サイコガンダム「だけ」を孤立させるわけにはいかなくなっていた。
それは、ガンダム空白の時期を埋め尽くしたモビル・スーツ・バリエーション(MSV)のように、ガンダム世界では全てのメカが、それぞれなんらかの技術発展の流れの中から派生してくる背景を持っておらねばならず、むしろ『Zガンダム』はサイコガンダムという「ガンダムの姿そのままのだいだらぼっち」を生み出してしまったカウンターとロンダリングを、自己責任で行っておくべき責務を抱いたのだ。
それが、サイコガンダムMK-Ⅱなるメカであったというメタ的考証は、概ね当たっていると思う。

組立途中経過。デザイン画から忠実に抽出された面取りは、今の目で見ても通用する
サイコガンダムMK-Ⅱは、『Zガンダム』では第48話『ロザミアの中で』一話だけに登場。
それはまさに、先に登場したサイコガンダムのロンダリングが目的であったかのように、『Zガンダム』シリーズ「二人目の悲劇ヒロイン」ロザミア・バダムをキーキャラ&パイロットにして、シールドも装備していない未完成状態のまま出撃し、朽ち果てていったという顛末を辿るのである。
サイコガンダムMK-Ⅱのデザインは、こちらは『Zガンダム』でいくつものデザインや、他のデザイナーのラフのクリンナップを行ってきた藤田一巳氏が行っており、基本構造や変形機構などはサイコガンダムを踏襲しつつも、悪鬼のような顔や、人の憎悪をビジュアル化したような、全身紫とイエローの狂気のカラーリングなど、よりサイコガンダムというメカを、アフターフォローで「そういうメカであったのだ」を提示し、ガンダムメカ史に位置づけする存在として高度に機能した。

完成頭部のアップ。目をどうするべきか。本当に最後まで悩み続けた
そしてこのデザインは、さらなるロンダリングを重ねるために、次作『ガンダムZZ』後半でも登場し、悲劇のヒロイン同士の運命を位置づけるメカであることをさらに強調されるのであるが(この時、ようやくサイコガンダムMK-Ⅱはシールド装備で登場し、モビル・フォートレス形態に変形した)、そんな「演出意図の発展形」としてのサイコガンダムMK-Ⅱと、キュベレイがハイブリッドされたのが、クイン・マンサという流れも一方ではある。
さて、1/300 サイコガンダムMK-Ⅱのキットではあるが。
今までに書いてきたように、『Zガンダム』キットで2つしかない1/300スケールのサイコガンダムのキットであるが(というか歴代ガンプラの中でもこのスケールはほぼ皆無)実際に手を出してみると、意外と佳作のキットであることがすぐ分かる。
『Zガンダム』放映当時は、1/220キットはどれも食玩のような仕様であり、サイコガンダム2種はさらにスケールが小さいので侮っていたが、30年経過して初めて手にした今回は、その作りの丁寧さに驚かされた。

身体中のマーキングが、水転写デカールで付属してくるので、色の情報量はキットの大きさよりも豊富に彩る
元々のサイコガンダムMK-Ⅱが40m級だっただけに、1/300でも「ランナーは2色」「ポリキャップ装備」と、通常Zガンプラの1/144仕様。
組立も分かりやすく、パーツ分割も明確だ。

バックビュー。変形機構もしっかり再現されているためディテールも細かい
ただ一番の問題は、差し替えながらサイコガンダム同様に、このサイコガンダムMK-Ⅱもモビル・フォートレス状態へ変形するのだが、その際に肩のアーマーが大小2つに別れて差し替えになるので、その結果モビル・スーツ時は肩アーマーが一切可動せず、せっかく肩軸にポリキャップが仕込まれているのだが、かなり狭い、肩アーマーの隙間の範囲でしか、腕を前後に振れないというところがとにかく惜しい。この制限のせいで、ハッタリの効くポージングがいきなりほぼ不可能なのだ。
他の関節、肘の曲がりや開脚、股関節の開きや膝の曲がり具合や足首などは、1/144キットレベルで優秀でありつつ、変形を兼ねているだけに、ここだけがなんとも残念だった。

劇中、ゲーツのバウンド・ドッグの指示に従い、操られるロザミアのガンダムMK-Ⅱ
それだけではない。今も書いたようにこのキットの肩アーマーは、大小2つに分割されてモビル・フォートレス形態に差し替えられるのだが、元々の設計ミスか、30年経過しての金型の劣化か、肩アーマーの小サイズのパーツが殆ど肩フレームの差し込みピンに固定できず、何度差し込んでもポロポロ落ちてしまうこと、RGガンダムの指のごとしなので、今回は思い切って、モビル・スーツ形態固定で制作。
腕の可動範囲を広げるカスタムも出来なかったが、代わりにキット入手前から考案していた「手首」をカスタムすることにした。

そしてカミーユの苦渋のビームが、ロザミアを狂気のガンダムごと焼き尽くした
『Zガンダム』放映時から、サイコガンダム2種の1/300ガンプラには、食わず嫌い的な酷評が多かった。
サイコガンダム2種は、ここまで書いてきた通り、演出上の都合から、ライフルやサーベルを握りしめてスパルタンにスピーディに戦うのではなく、巨大な魔神のような姿から、やはり巨大な指が広げられて掴みかかってくるイメージが強い。
にも拘わらず、1/300キットの手首は、どちらも凡庸な握り拳が1種類付いているだけで、これだけで劇中の印象と違って見えてしまうという逆マジックで、手を出さなかったモデラーもいた(というか、大河さんがその一人)。

キット付属の手首。なんの芸もない握り拳というあたりが少し残念
しかし時代が変わり。
今のご時世であれば、ガンプラの手首であればいくらでも、個別で商品化されていたり、アフターパーツとして自由な選択肢の中から選べる時代。
なので今回は、バンダイがイマドキのガンプラのオプション用にと発売している「ガンプラビルドファイターズ ビルドナックルズ(丸)」を購入して、そのLサイズをまず用意した。

これが、バンダイがアフターパーツとして発売している「ガンプラビルドファイターズ ビルドナックルズ(丸)」
その上で、キットの拳を一度作り、そこから握られた指の部分をモーターツールでカットしていく。

今回選択したのはそのLサイズ。
そして(つまり、袖口のポリキャップに接続する手首のピンと、手甲は残した状態で)ビルドナックルズの丸指Lサイズの平手を接着した。
サイコガンダム系は、指先がビーム砲で平らになっているので、一応指先も平面になるように削ってある。

キットの拳と比較すると、ちょうど差し替えにピッタリなサイズと判明

組み合わせて塗装して完成した「開き手首」
組み合わせてみると、細部まで一致というわけにはいかないが、それなりに表情豊かな開き手が完成した。肩アーマーが動かない分、これでポージングに表情がつく。

襲い来る魔神のように、幽鬼的なポーズが可能に!
続けて塗装。
惜しいかな、キットの2色のランナー色は、どちらもアニメ本編の色設定とはかけ離れているので、今回はメインの2色を調合で作成した。
メインの紫は、Mrカラーのパープルとインディブルーとホワイトと、ガンダムカラーのMSパープルで調色。
フレームのブルーグレーは、ミディアムブルーをベースに、そこにインディブルーとモンザレッドを足して再現してみた。

肩が可動しないが、肘が90度以上曲がるので、前方へ腕を差し出す感は再現できる
他の部分は、イエロー、モンザレッド、ニュートラルグレーで、それはそれで構わないのだが。
問題だったのが「目の色」。
サイコガンダムMK-Ⅱは、もともと釣り目が細すぎて、劇中でもバストショット以上のアングルだと描かれないことが多いばかりか、逆にアップになったり、当時や後の関連イラストを見ると、目の色がイエローだったり赤だったり、イラストやカット単位で変わっている。

脚部の前後開脚可動範囲。変形システムと並行しながら、そこそこ可動範囲は広い
迷っても仕方ないので、今回は小スケールのキットから、最大限の禍々しさを引き出すべく「赤」を選択してみた。
それほど色分けは多くはないが、小サイズゆえ塗り分けはかなり面倒だった。
しかし、細かい色の模様は、付属した水転写デカールでほとんどがカバーできるので、今の目で見ても優秀なキットであると言えるのではないだろうか。
カスタムした手首も含めて、少しでもサイコガンダムMK-Ⅱの悪魔的な印象が伝われば幸いである。
市川大河公式サイト