撃墜破壊された百式。この画で『機動戦士Zガンダム』は幕を閉じるのだが、百式のコクピットハッチは開いた状態であった……
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、シリーズ冒頭で「赤いドム」の永野護版に乗って登場したシャアが、早くも第8話から、やはり永野護氏デザインで金色に輝く専用モビル・スーツとして乗り込むことになる、百式の1/144 旧キットです!
百式 1/144 20 1985年9月 600円(機動戦士Zガンダム)
1stやMSVに負けず劣らず、『Zガンダム』でも名作ボックスアートは多い。百式のボックスアートはその代表格とも言われている
『機動戦士Zガンダム』という世界観において、百式というモビル・スーツが抱えた物。もたらした物は、現代にはじめて百式のデザインやガンプラ、フィギュアに出会う人からは想像がつかないほどに大きなものがあった。
まずは、百式が前年度の同枠番組『重戦機エルガイム』(1984年)で鮮烈にアニメメカデザイナーとしての才能を開花させた永野護氏による「新世紀モビル・スーツ」の決定版であるということ。
その際に、天才・永野護氏のイメージソースが、明確に「永野版ガンダム」であったこと(ちなみに同じ意味でリック・ディアスは「永野版リック・ドム」である)。
そして、明確に永野メカ、永野ロボットである前提がありつつも、しっかりと「ガンダムのモビル・スーツであるべき」のべき論を踏まえていること。
さらにそこから、永野氏が『エルガイム』のオージェ等で取り組み始め、後の『ファイブスター物語』のナイト・オブ・ゴールドでも再チャレンジしている「全身黄金に輝くロボット」のガンダム版であること。
それらは、今では歴史の教科書の一項目程度の価値しかないのかもしれないが、当時のメカオタクにとっては、重要なターニングポイントであり、そしてそれを象徴するメカデザインこそが、この百式であった。
パーツ状態から。この時期のフォーマットに従って、ランナーは2色3枚。そしてAとBのポリキャップで構成されている
新作ガンダムの重要な主人公側モビル・スーツでありながらガンダムではなく、しかし裏設定ではガンダムであったという事実と、それに乗るのがアムロでも新主人公でもなく、裏設定では主役になるはずのシャアであったという事実(『Zガンダム』当初のサブタイトルが『逆襲のシャア』)が重なりあい、しかもリック・ディアスという(かつての小説版シャア専用リック・ドムを踏まえたかのような)「赤い」「ドム系」に乗せて登場させたシャアが、次に乗ったモビル・スーツが「肩に漢字が書かれた黄金色」というのは、『Zガンダム』という「新時代の続編の在り方」を象徴しているようでもあった。
完成した百式。プロポーションは悪くない。今風ではないがアニメ設定には忠実である
そんな「『Zガンダム』のシャアの愛機」である百式のガンプラは、アニメ本編では初期から登場していたものの、商品化は遅く、1/144が9月にNo.20として、1/100が10月にNo.23として発売された。
そのことからも、ある角度から見ればこの百式というモビル・スーツが、バンダイのビジネスビジョンやプランニングから生まれたのではなく、永野護氏という一人の天才を触媒にして産み落とされた「新時代ガンダムの象徴」だったと言いきれるのではないだろうか。
シミルボンでの再現画像用に収集しているガンプラの掲載連載で、なぜ今回このキットを使うかに至ったのかというと。
最初は至ってシンプルで、たまたま部屋の片隅にこのキットが眠っていた。
それは、とあるパーツ取りに必要で別な企画用に買って、パーツだけ取って放置しておいたものだったのだが、シミルボンの再現画像企画を始めてフッとアイディアを思い立った。
この後述べるが、このキット、時代性もあり、決してイマドキのガンプラと比較して、可動などが良いとは言えない出来に終始している。
しかし、筆者がシミルボンの連載で『Zガンダム』を扱うことに決めて、ラストシーンを構想し始めたとたん、この「余り物」が生きる、と判断したのである。
サイドビュー。両翼のバインダーが肩回転と干渉しそうに見えるが、絶妙のタイミングで肩の回転を殺さず成立している
『Zガンダム』テレビ版を最後まで観た方であれば必ず印象に残っているラストシーン。
シロッコのジ・Oとハマーンのキュベレイにいたぶられた挙句、両手両足を失った百式が、四肢を失った死体のように、宇宙を漂うラストカット。
しかし、百式のコクピットハッチは開かれたままで、中にいたシャアはしっかり逃げ延びたのだと視聴者には分かるように作画が計算されている。
「その画」を作りたいと思った時、むしろこのキットが一番、その画に見合うのではないかと思ったのだ。
ラストカット1コマだけで用意するのであれば、腕も脚も付け根で失っているのだから、可動性など必要がなく、むしろ線や面取りなどがアニメ版に近ければそれで良く、余計なディテールもいらない。
最初からクラッシュモデルであることを着地点として考えれば、コスト的にもお手軽カスタムの手法的にも、イマドキのHGUCよりは、当時のキットである方がベターであるという回答に達するのに、さほど時間はかからなかった(……などと言いつつ、再現画像では「キュベレイに右腕を斬りさかれた瞬間」等の演出もあり、結局HGUC版はもう一つ用意しなければいけないというオチが待っていたのだが(笑))。
バックビュー。リアスカートにサーベルの柄を装着させておくことも可能な辺り、芸が細かい
もっとも、パーツを取ってジャンクになってた百式を使うこと自体はリーズナブルだしリサイクルでちょうど良かったのだが、いざこのミドルエッジで紹介するに当たっては、さすがにクラッシュモデル状態だけの紹介ではどうかという意見も出ると思ったので、『Zガンダム』旧キットは再販もよくかかっていて相場は安いというのもあり、新たにもう一個買って組み、此方で紹介することにした。
いつもは説明書通りに組んだキットを塗装するが、今回は『Zガンダム』ラストVerのほうをしっかり塗装はしたが、紹介するキットの方はあえて未塗装で組むことにした。
そこにも一応目的というか意義はあって。
この百式、数あるモビル・スーツの中でも、当時は初めてだった「黄金色」という設定があった。
皆さんご存知のように、アニメで金色を表現することは、少なくとも当時は事実上不可能であり、なのでアニメのセル画では、黄色をベースに、本来は一段階明度を落とした影を入れる部分に、逆に白やオレンジでハイライトを入れるなどして、疑似的に黄金色の機体色を再現してみせたのである。
この手法は既に、前年の『重戦機エルガイム』のオージェ等で取り入れられていて、どちらも永野メカというのもあってファンには受け入れられたが、さてそこで悩んだのはモデラー諸氏である。
三次元に実物があって、それが金で出来たものであれば、その模型であればそのまま金で塗ればいい。
しかし、金色であるという設定で、一度アニメの二次元に落とし込まれて、さらにそれを模型という三次元に落とし直した、しかもスケールダウンしたミニチュアとしてのガンプラで、そのままゴールドを塗るモデラーはそうそういなかった。
その解釈の一つは後に披露するとして、ここではまず、キットを純粋にレビューしていきたい。
ランナーは、この時期特有の2色仕様で、百式の場合は当然のようにイエローと紺色。
Zガンダムと違って、今回は的確な色配置で3枚にパーツが分けられており、金色の装甲は黄色のフレームに、武器や脚部のムーバル・フレームやバックパックなどは紺のランナーにと、ここは無駄がない。
完成した状態は、多少腕が太くて長いような気もするが、イマドキのガンプラ体形を見慣れ過ぎているからという前提で考えれば、永野メカのトリッキーな面取りを律儀に曲面と直線を活かして再現しているとも言える。
手首手前や腿の裏のパイプが別パーツなのも律義さゆえだろうか。
背中のバインダーは、1/100だと肩アーマーが干渉して肩が動かせなくなるという本末転倒な現象を生んだが、先に設計されたはずの1/144では、ギリギリのクリアランスが絶妙で、肩の可動を妨げないようになっている。
背部バインダーはしっかり可動する
バインダー自体も可動はするが、『Zガンダム』ガンプラから基本仕様になった「肩のスウィング」が上手く作用しているという見方もある。
しかし、相変わらず可動の方は残念ポイントが多数見られる。
肩の開きは、Zガンダムほどひどくはないが、もう少し広がりそうな肩アーマーのデザインながら、両サイドに精一杯広げて45度といったところか。
腕を普通に下げた状態
目一杯、肩を広げた状態
肘関節の曲がりはさらに残念で、こちらは60度といったところ。
ここはZガンダムが優秀だっただけに、少しがっかり感は大きい。
肘を普通に伸ばした状態
肘を、関節枠最大まで前に向けて曲げた状態