将棋界の七不思議 とは
将棋界の七不思議を追う 「井上慶太九段の謎」 - Middle Edge(ミドルエッジ)
プロ将棋の代名詞《名人》
将棋で《名人》と言えばえらい昔から存在する称号でして、その起源は遡ること500年、織田信長に任命されたされなかったという説が出ていたりします。
その後、江戸幕府のもとで世襲制の名人制度が始まり、昭和10年には大会優勝者が名人を名乗る《実力制名人》に変更――という知っている人にはおなじみのドラマがあったりして現在に至っている模様。

名人位の転換に大きな役割を果たした関根金次郎十三世名人
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そんなわけで将棋界で一番古いタイトル、まさに将棋の代名詞と呼べる存在は《名人》となっていますが、さてじゃあひとつ《名人》になってやろうかと思うとこれがめちゃくちゃ大変なわけです。
前提としてまず〝プロの将棋指しになるのが異常に大変〟という問題があるのですが脱線が過ぎるので今回は割愛。
この変の物語は大崎善生「将棋の子」などに詳しく描かれているので興味がある方はどうぞ。

大崎善生「将棋の子」
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プロの将棋指しである《棋士》になると、いくつかの大会(公式戦)への参加が義務付けられます。
そのうちひとつが《順位戦》。これは全棋士を文字通り順位付けする大会です。
流石に棋士全員でリーグ戦をするとかかる時間がとんでもないことになるので、いくつかのブロックに分かれてリーグ戦を行います。
ブロックは下から《C級2組》《C級1組》《B級2組》《B級1組》《A級》の5つ。
それから《A級》リーグ戦において最優秀成績を取る(優勝する)ことで初めて《名人》への挑戦権が発生します。
ブロックの昇降級は年に1回行われます。だいたい上位2名――すなわち優勝者、準優勝者あたり――が昇級し、下位2名が降級します。
まあ当たり前のことなんですが〝皆さん本気でやっていらっしゃる〟のと、今年の結果が来年さ来年の自分に影響を与える事情、さらには順位戦何組に属しているかが給与が変わるとかいう話まであります。
いずれも大事な公式戦ではあるものの、なかでも重要視されているのが順位戦であるとか。
名人戦・順位戦 |棋戦|日本将棋連盟
さて年1回の機会に対して《A級》になるまでに必要な昇級回数は4回。最初にC級2組で1年指すのを加味すると、まあ5年あれば名人になれるわけです。理論上は。
で、じゃあストレートで勝ち続けてデビューから止まることなく《名人》になった人がいるのかと言えば、実力制名人戦制度が始まって以降、いまだ現れておりません。
惜しいところまで行った人は結構いて、
・デビューから《A級》までノンストップだった二上達也九段
・デビューから《A級》までノンストップ、1年ほど残留して翌年《名人》に挑戦。
・C級2組からA級、名人挑戦と〝奪取〟を達成した谷川浩司十七世名人。
などがおられますが、二上九段は名人位を手にすることなく1990年に引退、加藤一二三九段は名人〝獲得〟に約20年かかり、谷川名人は最初の1年だけC級2組で昇級を逃しています。
現在の注目株としては将棋界の記録を破竹の勢いで更新している藤井聡太七段がいらっしゃいますが、ノンストップ名人獲得の実績を解除するにはあと4年くらい必要となっています。
あしたは どっちだ
もっと手っ取り早く棋界のトップに立ちたいあなたに
竜王戦
さて本日ご紹介いたしますのはこちら。《竜王戦》でございます。
竜王戦というのはとてもわかりやすくスピーディなシステムを採用したタイトル戦でございまして、《予選突破》《本戦トーナメント優勝》《番勝負に勝利》の3つの条件を満たせば約1年で序列1位タイトル《竜王》を獲得できるとうスグレモノ。
長丁場は得意じゃないけど爆発力には自信があるあなたに――
アマチュアだけどプロと勝負してトップを狙いたいというあなたに――
優勝賞金は〝4320万〟(らしい) 《竜王戦》はいかがでしょうか。
竜王戦 |棋戦|日本将棋連盟
竜王戦・棋王戦にだけ存在する参加枠。アマチュアがタイトル戦に参加する方法とは?|将棋コラム|日本将棋連盟
まあ実際は初参加から挑戦まで最短数年かかる名人戦が特殊なだけで、竜王戦はもちろんのこと叡王戦、王位戦、王座戦、棋王戦、王将戦、棋聖戦の〝どれもが初参加であっても勝ち続ければタイトルホルダーになれる〟 はずなわけですが。
――というわけでやっと本題に入れます。今回は竜王戦にまつわる《不思議》をご紹介いたしましょう。
「竜王戦の謎」
1組優勝者のジンクス
こちらです。
竜王戦予選というのは下から6組、5組、4組、そしてトップが1組という具合になっておりますので《竜王戦1組》というのは同大会における強豪集団になるわけであります。
だと言うのに、〝予選1組で優勝した人が挑戦者になったことがない〟 これです。
これですよ。蒼天航路で言うところの「至弱を以て至強を制する」に通じるアツさがあります。刃牙で言うなら〝本部が強くて何が悪い〟
〝不思議〟の実情
竜王戦の各組の優勝者が誰で、どういうスコアでタイトル戦が終わったか――ということについては以下のページにまとめられていたりします。
竜王戦 - Wikipedia
《各組での予選→予選通過者による決勝トーナメント→挑戦者決定戦→番勝負》という流れを採用している竜王戦。
〝不思議〟にある《1組優勝者が挑戦者になったことが無い》というのは事実なのですが、その前段階であるはずの〝挑戦者決定戦にすら顔をださない〟という一面があったりします。
1組優勝者が挑戦者決定戦に絡んでくるのは第18期、19期、20期、22期、24期、27期とこんなもの。
今でこそ振り返ってみればそこそこの登場回数になっているものの、本来は〝タイトル挑戦大本命であるはずの1組優勝者〟が〝大会開始18年連続で本戦決勝に姿を現さない〟というのは競争の激しさを物語っている気がします。
……ところで前回の「将棋界の七不思議を追う」では謎の理由のひとつとして《55年組》をピックアップしましたが、今回そういうのは〝特にありません〟
竜王戦ドリーム
というのも寂しいので、せっかく竜王戦の話題になったことだし《竜王戦ドリーム》についてご紹介したいと思います。
《竜王戦ドリーム》はどういうものかと申しますと、
というもの。ドリームチャンスとか言うと急に宝くじっぽくなる。
で、実際に若手が優勝して竜王位に就位することが多いのですが、なかなか個性的なメンバーで構成されていたりします。
島朗の場合
予選3組2位から出てきた挑戦者。
鳴り物入りの《初代竜王》。伝説の始まりと言っても過言ではないこの人は〝棋界の伝説的研究会 島研〟の主催者であったりもします。

島朗九段
島朗 - Wikipedia
当時の島さんはわりあいヤンチャ(?)で、着物での対局が多かったタイトル戦において〝アルマーニのスーツ〟を用いたオシャレさん。
これには対局者の米長邦雄氏も思うところがあったのか「俺もアルマーニで対局したいよ」と言ったとか言っていないとか。
他にも、
〝対局中断後にホテルのプールで遊ぶ〟
〝竜王戦前夜祭で花束をくれた女性と結婚〟
〝賞金はファッションと車に消えた〟
〝(翌年同大会も)対局中断後に対戦相手とモノポリーで遊ぶ〟
など伝説多数。
〝竜王戦勝者としての存在感〟として右に出る者はいないという気がします。
シンデレラボーイという異名があったとかなかったとか。
羽生善治の場合
3組優勝からの参戦。
今なお覇者として君臨する彼の、タイトル戦初登場がこちら第2期竜王戦。1990年のこと。
研究会の師匠格であるところの島竜王を破り、彼の呼び名は挑戦者《羽生六段》から《羽生竜王》へと変化します。
それから現在に至るまでの28年間、〝常にタイトルを持っていたので《羽生n段》と段位呼びされることが無かった〟という状態になります。まさしく伝説の始まり。たまげたなあ。
なお対局中断後に島竜王とモノポリーで遊んでいたのは彼です。
佐藤康光の場合
同じく羽生世代より。1組2位からの参戦。1993年のこと。

佐藤康光
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現在は連盟会長でもある彼のタイトル獲得も《竜王》からのようです。竜王戦初登場にもかかわらずあっさり奪取。しかも相手は羽生さん。こちらもなかなかのドリーム力。
羽生さんというのはタイトル獲得期数もすごいんですが、〝連覇の鬼〟という一面も持っていまして、王座戦に至っては〝19連覇〟とかいうちょっとよくわからないスコアを叩き出したりしています。
のですが、竜王戦とは相性があまり良くなかった様子。
最も佐藤さんも竜王獲得自体は1期のみ(他のタイトルはいくつか取っている)なので相性良しと言えるかは謎です。
藤井猛の場合
4組優勝からの参戦。1998年のこと。
自身の代名詞でもある《藤井システム》を武器に、
〝決定戦で羽生善治を破って挑戦者に〟
〝番勝負では谷川竜王に4連勝のストレート勝ち〟
〝そのまま3連覇〟
というドリーム力を発揮してくれました。
色々とネタ的な話題の尽きない藤井先生ですが、
・同じ振飛車党の強豪・鈴木大介からの挑戦に対して〝振飛車を封印して防衛成功〟
・〝竜王在位中に新人王戦で優勝〟
・ついでのように〝早指し将棋選手権でも優勝〟
・羽生さんの挑戦を受けて竜王戦七番勝負を展開。一方で自身も挑戦者として羽生王座相手に王座戦五番勝負に登場。季節が重なっていたので実質〝12番勝負〟を展開(結果は両者防衛)。
と実力者としての話題も豊富。

藤井猛
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渡辺明の場合
4組優勝からの参戦。
中学生棋士としてプロ入り後、竜王戦で初タイトルを獲得。
・そのまま手放すことなく〝5連覇〟し、〝初代永世竜王位〟を獲得。
・しかもこの時の相手は《通算7期獲得》の条件によって〝同じく初代永世竜王位を狙う羽生さん〟
・さらに〝将棋タイトル戦史上初、3連敗からの4連勝で防衛〟
・そのまま手放すことなく〝9連覇〟まで記録をのばす。
という強豪。

将棋の渡辺くん
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近頃の竜王戦
渡辺竜王の連覇によって若手の竜王獲得は一時期阻まれていたものの、2014年度には糸谷竜王が誕生している。
直近の注目株はなんと言っても藤井聡太であろう。
デビュー後約1年で五段への昇段を果たした彼は、棋戦優勝の条件を満たし半月後には六段となり、2018年5月には竜王戦5組優勝により七段になっている。
どの昇段も最年少記録である。
現在、タイトル挑戦最年少記録、タイトル獲得最年少記録はともに屋敷伸之九段のものとなっている。
藤井七段がこれらの記録を更新する可能性はまだ十分に残っている。
その舞台が竜王戦であれば《竜王戦ドリーム》にまたひとつ大きな話題を提供することになるのだろう。