
謎の生首メカ! これもイデの成せる技なのか!?
今回の番外編で紹介していくのは、シミルボンでもその流れで『伝説巨神イデオン』の作品紹介をするので、その『イデオン』に登場した、主人公ロボットイデオンの様々な立体を中心に、敵役の重機動メカ等も含めてイデオンの立体物歴史を俯瞰してきた番外編も、ついに今回で最終回です!
ガンプラの名を冠した連載で、長々2か月も続いたイデオンプラモ紹介。
そこではアオシマというメーカーが、児童向けからティーンズ向けへとイデプラを進化させていく過程が伺えて、それはアオシマの技術革新とも重なり、ガンプラとはまた違う“物語”を、そこで味わうことが出来た……とか言ってる場合じゃない!
いやね。本当にね。「イデオンのアオシマプラモ」を語るなら、コレを紹介しなきゃ意味も価値もねぇだろうっていう、超ド級のトンデモイデオンプラモをまだ、紹介し忘れておりましたよ、市川大河一生の不覚!
今回紹介するアオシマのイデプラは、ある意味作品コンセプトもテーマも、全て粉砕するビッグバンみたいな破壊力がありながらも、ある意味でアオシマというメーカーにしかない「テレビ漫画のロボットのプラモデルとは、子どもの遊び心を創造する依り代としての玩具なのだ」という、そういう深遠な企業姿勢まで垣間見えちゃう、これを見たあなたが、アオシマとイデオンという存在に、幻滅するか、魅惑に取りつかれるか。キャラクタープラモデル界のリトマス試験紙みたいな、もうそういう屁理屈とかどうでもいい! とにかくすごいキットを今回は紹介だ!
イデオンスペシャルデラックス 1981年1月 1000円

パッケージは一見まともだ……が?
今回の“すごいキット”は、『イデオン』(打ち切り)放映終了も目前に迫った時期の商品。まず1980年11月に「ポケットパワー Xメカイデオン」と「ポケットパワー ソロシップイデオン」がそれぞれ500円で発売されたのだが、ここでもイデオンそのものは共通素体で、それらでの2種のオプションパーツを全て含んだトータル商品が、今回紹介する「イデオン スペシャルデラックス」となる。
まずは、このシリーズの冠「ポケットパワー」の解説からしなければならない。
ポケットパワーシリーズとは、アオシマのロボットプラモデルシリーズの、児童層向けのシリーズで、そこでは二つの特徴がある。
・一つは、同じロボットで3種のキットプラスアルファが展開されること。具体的には、一つ目はロボット単体で、あとの2つは、多くはアニメ設定準拠で、設定内でのそれぞれの変形メカに形を変えられる、付属のパーツがついて、それぞれが独立した商品になる。そして、素体としてのロボットと、2種の変形パーツ付きが全部セットになった豪華賞品(今回の場合は「スペシャルデラックス」)が発売される。この辺の構成は「合体ロボットシリーズ」と商品展開が近い。
・二つ目は、このシリーズのロボット達には、ベンダーカプセルとしてのギミックが付いているということ。70年代等に流行ったのだが、ベンダーカプセル筐体として、等身大のウルトラマンや仮面ライダーの立像があり、コインを入れるとひざ元辺りから、玩具入りのカプセルを射出してくれる販売機が当時実際にあった。ポケットパワーシリーズは、その機能を手のひらサイズの上で再現してしまおうというコンセプトがあるのか、シリーズ全てのロボットに、直系数㎝レベルのカプセル球体を、仕込む入口(たいてい頭部を展開して入れる)と、カプセルを押しだすレバーと、射出口が設けてあり、中から出てくる球体カプセルには、様々なシュールで謎なアイテムが入っている仕様であった(後述)。
この時期、アオシマのロボットプラモデルには『伝説巨神イデオン』オンリーの1/600 シリーズの他に、「アニメスケール」「合体ロボット」「ポケットパワー」「おやこマシン」等のラインナップを抱えており、それら全てのシリーズに皆勤賞なのはイデオンだけで、アオシマは児童層から思春期層まで広く視野に入れて商品を展開していた。

当時のアオシマロボットプラモの箱内チラシより
これを見ると、全てのシリーズでイデオンがラインナップされていて、当時のアオシマ的にもイデオンがイチオシだったということが見て取れる。
しかし、世の中何事も「魔が差す」という言葉があるように(笑)アオシマご自慢の「ポケットパワー」と「イデオン」の組み合わせだけは、絶対に「やってはいけない組み合わせ」であったのだ。
考えてみよう。
ポケットパワーシリーズにラインナップされたのは、アニメ版権ロボットの、ダイターン3、トライダーG7、そしてアオシマオリジナルのロボット、シャイアードやジェロード、グレートワゴンなどだ(註・この3つはどれも、下半身は同じ金型から作られている同一のロボット)。
その上で、ポケットパワーシリーズは、今上で書いたように「ロボット形態と、変形形態が他に2種類、その上で、計3種を全て揃えた『スペシャルデラックス』という商品展開」なのだ。イデオンは、3機に分離合体してその3機が3段変形はするが、イデオン自身は他のロボットとは違って、独自変形はしない仕様だ。

当時のアオシマポケットパワーシリーズの箱内チラシ
このチラシを見ると「オリジナルロボットの展開などの関係上、当時アオシマは小学館と深い関係にあった(後ろの書籍が全て小学館関係)」「シリーズ第1段はトライダーG7で、そこからアオシマオリジナルロボットが連なり、イデオンを経てダイターン3へと繋がる流れである」ことの、二つが見てとれる。
この場合、トライダーG7もダイターン3も、アニメ劇中で多段変形をおこなうロボットなので、それを模した商品が成立するのだが……。イデオンにはそんな設定はない。アオシマ、なぜこの枠でイデオンを商品化した(笑)
「そこ」については後半で語っていくのだが。
まずは、この記事を読んだ正統派ガンプラファンの皆さんが、このページをそっ閉じしないように、ゆっくり順序立ててこのキットを紹介していかねばなるまい。

「イデオンスペシャルデラックス」の箱の中
「イデオンスペシャルデラックス」は、同社の合体ロボットシリーズ同様、2種のキットの混合版で成立しているので、ランナーも、赤、白、黄色とそこそこ派手なビジュアルで成り立っている。

完成したイデオン
トンデモキットと聞いていたものだから、どれだけイデオンに見えないロボットになるのかと思いきや、意外としっかりイデオンに見える。股関節の処理が大胆過ぎるが、これは後に紹介する変形のためであり、逆をいえばこの股関節アレンジのおかげで、このキットは当時のイデプラの中でも、かなり足が前後に可動するように出来ている。
色分けも、この時代にしては優秀。

付属のシール
イデオンのゴーグルアイや、Bメカ機首のウィンドウの一部などは、シールで補えるのも点数は高い。

イデオン頭部
多少下膨れな顔つきのイデオンになったが、イデオンは目の部分がゴーグルなので、造形の違いがあまり大きな印象差を生まない。

イデオンの腕の袖
ソル・アンバーの突起物も、イデオンソードのインテークダクトの数も正確。意外と侮ってはならないのかも?

イデオン脚部
ここは、後述するギミックや変形にも拘わってくるが、全身がはめ殺し構造の、今で言うスナップフィットなので、膝などのダボやピンが目立つ。一方で、意外と脛後ろなどで、湖川ラインを意識した再現がしっかりされている辺りなどは高ポイントだろう。

ポケットパワーイデオンの可動範囲
上でも書いた、変形機構の影響もあり、可動範囲はまずまず。肩の脇が左右に開かないのは残念だが、その他は範囲が狭い部分もあるが、可動箇所は90年代ぐらいのガンプラには匹敵する。接地性はともかく、足首が動くのも当時としてはまだ珍しいレベル。こうして改めて色分けを見ても、シール補完だけで充分イデオンに見える。
こうして「ポケットパワー イデオン」は、ロボットのプラモデル単体としても、そこそこの(幼児向け廉価版としては)リアリズムと出来栄えを誇っていたのだが。
ではなぜ、このキットが「アオシマトンデモ伝説」の金字塔となってしまったのか?
偉大なるポケットパワー! 恐れるな瞳こらせよ、今、産卵の時!
さぁここからが本番です!(なんの?)
先に書いたように、このポケットパワーシリーズは、完成したロボット自体がミニチュアカプセルの筐体になって、懐かしのガチャポン感覚でカプセルを排出する機構がついています。そしてそのカプセルの中からは、「人類を守る戦士(カタログより)」に必要なアイテムが次々に現れる!……はず。
さて、ちょっとここらで頭を冷静にして、その「カプセルが出てくる仕組み」と「カプセルの中に入るアイテム」を確認してみましょう。
まずは、このイデオンを使った「ポケットパワー」のシステムから!

ポケットパワー イデオン パッケージ
イデオン単品で売られていた状態でのボックスアート。ここからイデオンを組み立てて、ミニチュアカプセルも用意して……。

これが、このポケットパワーシリーズの地雷爆心地……いや、プレイバリューのカギとなるミニチュアカプセル。中身は後述するとして、まずこれを用意。

まずは、襟元ごとパカッとイデオンの頭部を開いてその大きな肩口から、ミニチュアカプセルを放り込む。

この時、忘れちゃならないのは、スプリングギミックでこの背中のレバーを引いておくこと。そうすると、イデオン体内にカプセルが入った状態でこのレバーを押せば……

イデオンのふんどし部分、Cメカのハッチが開いて、カプセルがコロンと転がり出て来ます。それだけ。カタログには「カッコいいミニチュアカプセルが、ポンポン発射!」と書いてあるけど、発射ってほどじゃない……。

カプセルの中からは……?
なんじゃこりゃ。後でまとめて要検証。
その上で、このモデル、ポケットパワーのシステムがもう一か所あって。

脛の裏。一部だけ白い板
あからさまに、怪しい部分の白い板。ここがパカッと開くので……。

開いた穴にカプセルを投下

なぜか足の裏の板が外れやすい
いや、本当に外れやすいんだってこの板。ちょっとイデオンを持ち上げるとすぐポロっと落ちるレベルで。で、多少の引っ掛かりはあるゆえに、そこをスライドして開いてみると……。

ポケットパワーぁああっ!
「ポケットパワーぁああっ!」じゃねぇえええ!
なんだよこれ! 「入れたら落ちた」だけの話じゃねぇか! これがシステムなのか? これが「ポンポン発射」なのか? むしろこれ、ただの重力だよね!? それともこれが「イデの導き」なのか!?

パッケージで表現されたポケットパワーのいりょくだ!
「かっこいいミニチュアがとびだす」じゃねぇよ! ミニチュアがカッコいいかどうか以前の問題で、カプセルを排出してるイデオン、お前がまず、どう見ても爬虫類かなんかの産卵の図じゃねぇか! どう見ても産卵期に卵産んでる謎の生物じゃねぇか! 怖ぇよ! カッコよくも微塵もねぇよ! 怖い以外で言うなら「キモイ」だよ! なに、その、スーパーロボット!
……というわけで、これがこの商品のメインギミック「ポケットパワー」の実態なのだが。問題はこれからである。
このポケットパワーの中身のミニチュア。イデオンの大きさから察して頂けるとお判りいただけると思うが、一つ全長数㎜ほどである。そしてそのミニチュアが9種類ある。

ポケットパワーミニチュアパーツ一覧
うん、ランナー状態を見ただけでは、何が何だかわからない(『デスノート』L風)。
ここは一つ一つ検証していく必要性をひしひしと感じる。
まずは、パッケージや組立説明書でもアピールされている、イデオンのA、B、Cメカの三種類

上から、Aメカ、Bメカ、Cメカ
……うん……。まぁ……。その……。努力は認めるし……。それぞれABCメカに見えない「こともない」って感じ?
どうせ大きさが数㎜だしっていう感じで、雰囲気だけは出てます。ソル・アンバーのダクト突起や、ソル・バニアの肩脇ブロックもモールドで表現してるし。
けどこれ、事前に「イデオンのABCメカです」って言われないと、イデオン知ってる人でも、これが何か思いつかない人の方が多いと思うの……。

え……これ、なに? ボケじゃなく、素でこれ、なんですか?

双眼鏡かよぉおおおおっっ!
え、何、イデオンが索敵に使うの? 「どれどれ、バッフ・クランは……ほほう、あそこか」って!? レーダー使えよ! っていうかこの双眼鏡、小さすぎてイデオンが使えないだろうがぁっ!
しかし、こんなのはまだまだ序の口。

え……これは? いや、このディテールは見覚えが……しかしまさか……

カセットテープかよぉおおっぉおっ!
なにそれ! イデオンが戦闘中に音楽とか聴くの? リラクゼーション!? 「こんな甲斐のない人生なんぞ認めんぞ」とか言っておきながらENYA(微妙に古い)とか聞きながら、ストレスを鎮めるの? しかもカセットで!? こんなもん出すために、イデオンどんだけ体内のスペースリソース割いてんだよ! すげぇな無限力!
って、このテープは結局MAXELなの? AXIAなの? メタルテープなの!?

え? いや待って。ボケる余裕もないわ。なんすか?これ?

トランシーバーかよぉおおおっ!
いやまてよ! イデオンがあの激戦中に「チェックメイトキングツー。こちらホワイトロック」とか、戦場ごっこやってたら、いろいろ危機過ぎるだろうがぁああ!
っていうか、イデオン普通にソロ・シップと無線でやり取りしてたよね!? こんなスケール比数mのトランシーバーとかいらないよね!?

あ……。あぁこれは……。ようやく兵器メカっぽくもありえるアイテムが……でも……。

ヘリコプター……。ヘリコプターって、あの激闘の戦場でなんか役に立つっけ?
っていうか『伝説巨神イデオン』って、ほぼ9割がた宇宙での話で……。空力抵抗で飛行するヘリコプターに出番は……って……もはやそういう問題じゃないんだろうなって、そろそろ思い始めてる大河さん。

え? ただの球体? カプセルの中にカプセル? マトリョーシカ?
しかしこの球体、よーく見るとなんかモールド、ディテールがあるぞ。もうちょっとしっかり観察してみよう。こ……これは!

野球のボールかよぉおおおっ!
しかも硬球! いや、どっちでもいいけど! どっちも宇宙での戦争には関係ないよね! もうね、さすがの大河さんも「あぁこのカプセルの中身って、なんでもいいんだ」って理解はしてきてるけど、けど、野球のボールって……。
分かった! イデの正体は番場蛮で、このボールで大回転ハイジャンプ魔球で、ガンド・ロワを一撃で破壊するんだ!(もうヤケ)

するってぇとこりゃ……

独楽だあああああああ!
分かったぞ! 分かったぞこの意味が! アオシマは、富野監督の『伝説巨神イデオン』のプラモを使って、硬球で魔球を投げた『侍ジャイアンツ』や、スーパーロボットが超電磁ゴマを駆使して戦った『超電磁マシーンボルテスV』などの、長浜忠夫監督作品をリスペクトしているんだ! 富野監督との終生ライバルだった長浜監督をこんな形でリスペクトとは、やるな、アオシマ!(クワトロ・バジーナ調)。
いや……落ち着け。落ち着こう自分。そもそもこのミニチュアは和独楽の形であって、超電磁ゴマは和独楽じゃないし……。でも……。だって。アオシマが……。
ねぇみんな! おかしいのは俺じゃないよな!? この当時のこのプラモデルのミニチュアの選択基準だよね!?

え……いや、一度冷静になるけど、ナニコレ? 二回言うけど、ナニコレ?
この形状はなんだ? いくら考えても分からない。こんな形状の代物、どこかで見たことあるけど、まさか……ねぇ?

いやいやいやいや。さすがにこれはないわ
写真で提示したのは、初心者用プラモデル塗装用簡易缶付きエアブラシの、オリンポス ピースコンだけど、さすがにこれはありえないわ。
SF巨大ロボットが、たとえ双眼鏡や野球のボールを持っていたとしても、ピースコン持って、プラモデルの塗装とかはしねーだろ、普通。
……となると? 考えられるのは?

昔懐かしい『007』でお馴染みのワルサーPPK
確信は持てないけど、パーツの上半分を見る限り、これ……なんじゃないかなぁ?
で、下のぶっとい円柱は、これきっと、多分イデオンに持たせるために、イデオンの拳の穴に合せて太く造形してあるんだよ!
このカプセルミニチュアアイテムの中で、初めてイデオンとリンクさせたアイテムなんだよ!(巨大ロボットが小型拳銃なんて持てない、とか言わない)
そうだ、きっとそうなんだ。よし、そうと決まったら、早速イデオンにこれを構えさせてみようじゃないか!

グリップが太すぎて、拳の穴にはまりません
どうすんだよぉおおお! 違っちゃったじゃねぇかああああ!
どうすんだよ! 今更「ピースコンでも拳銃でもありませんでした」なんて言えるかよ! じゃあなんだよ結局これはって話になるだろぉおお!
……えっと……。これは……「オーパーツ」です!
そもそもイデオン自身が第六文明人の遺産、オーパーツだったんだから、そこから出てくるカプセルの中に、オーパーツが一つぐらい混ざってても不思議はない!
オーパーツだ! 決めた、今決めた!
……というわけで、紹介してまいりました9種の「謎アイテム」ですが、それらとは別個に、このポケットパワーイデオンには、付属のスプリングガン発射機能付きの大型銃がついてきていて、おそらく分割商品の2つに、それぞれ一個ずつついてた物と推測されるが、なかなかどうして、劇中に登場するイデオン・ガンとは似ても似つかない、ロングバレルの重機関銃と散弾銃みたいな代物に仕上がっている(こちらはイデオンはしっかりと握れる)。

イデオン、2丁重拳銃!
組立説明書にも箱にもネーミングがないので、面倒なのでここでは、左手に構えた銃器を「イデオン黒岩ガン」、右手に構えた奴を「イデオン大門ガン」と命名することにする(時代的にもまぁいいかと)。

イデオン黒岩ガンを構えるイデオン!

イデオン大門ガンの迫力!
当時のプラモデルにはありがちだった「オリジナル武装」も、今見るとなかなか味があって悪くない。

どっからでも、かかってきやがれ! このイデオン様が相手になってやるぜ!
まぁ確実に、愛と勇気の巨大ロボットが、半端なく物騒な兵器と化しますが……。
ポケットパワーが生み出した、(悪)夢のスーパーメカ!
Xメカ イデオン

Xメカ イデオンのパッケージ
上でも書いたが、ポケットパワーシリーズは、ロボット単体とは別個に、2種の「ロボット変形メカ」のキットを出すことが方向性として打ち立てられた。
ダイターン3やトライダーG7、後のアオシマオリジナルロボット群は、その仕様での商品化に問題はなかったが、もとよりロボット形態単独での変形の設定をもたないイデオンは、そもそもこのカテゴリに沿っていなかったのだが、当時のアオシマは、イデオンをオリジナルメカに変形させることで、商品化の道を切り開いた。
美談のように今文章書いてるけど、決してこれが美談じゃないって、これ読んでるあなたも、このあとすぐに分かるからね。
というわけで、アオシマによるポケットパワーイデオンのオリジナル変形メカ「Xメカ イデオン」であるが、とりあえず立体物の写真を使って、キットの説明書通りに再現していこう。「本当はこうなる予定だった」完成イラスト等を見て愕然とするのは、それからでも遅くはない。
あ、先に述べておくが。
当時のアオシマのロボット合体プラモシリーズに慣れ親しんだ人であれば常識だが、アオシマがこのような形でオリジナルで合体や変形をさせる時の、重要なキーワードは「生首」であり、それはこのポケットパワーイデオンでも健在だったりする。
パッケージ画でネタバレしている感も半端ないが、とりあえず手元の完成品をXメカ イデオンに変形させていくことにする。

変形準備
まずは、イデオン本体から両腕とバックパックを外す

変形開始
そして、仰向けに寝かせて膝を立てさせておく。なんか際どい性教育の画みたいだが、これが正式。その上で、両腕を入れ替えるという謎の作業がここで加わる。完成形を見れば分かる通り、左右の腕の入れ違いなんて、もはや些細な問題でしかなくなるのだが、まぁここは、入れ替えろと命令されれば従うしかない。

追加パーツが付いたバックパック
ガンダムと比較してシンプルなデザインのバックパックだが、そこにとがった垂直尾翼2枚と、謎のミサイル砲2門が追加されることで、いきなりスパルタンな物体に変化する。

合体変形した下半身
武装追加のバックパックを脛に付け、その裏にはコロ走行できるタイヤを仕込んだ支柱を差し込み、これで下半身は変形完了。

上半身の追加パーツ
どこから湧いて出てきたのか、武装力満点の追加パーツ。フロントデザインには、当時の流行だったスーパーカーの影響もみられる。

追加パーツを全て付けた状態
これがXメカ イデオンの9割完成状態。これだけ見ると、ちょっとSFチックな、武装戦闘宇宙空母といった趣きがあるが、どっこい、ここで終わらせない、終わらせてたまるものか、が「アオシマ流」である。

イデオンの生首!
これだけだと、ガンプラなどの組立最中でも見慣れている図ではあるのだが……。

イデオン生首、ここに参る!
いきなり空母の先端ど真ん中に位置して、ぶっ刺さるイデオン生首!

Xメカ イデオン 完成形態
確かに横から見たら「Xメカ」というネーミングも間違ってはないけど……『スターウォーズ』のXウィングとはかけ離れた代物が完成した感が否めない……。

正面から見た時の「こっちを向いて睨んでる」目力、半端ねーっす

斜め後方から見たXメカ イデオン。もうなにがなんだか……
そして、最後のポケットパワーイデオンシリーズの究極系
ソロシップイデオン

カッコよくイラストで仕上げてるけど、既にヤバい物体にしか見えていない謎のオブジェ!
まずこのキットで特筆すべきは、いずれアオシマからも1/2600スケールでリアルキット化された、イデオンの主役戦艦ソロ・シップが、ディフォルメチックな造形ながらも、この時期この段階で、しかもポケットパワーシリーズに組み込まれる形でキット化されていたということである。
つまり文字通り「ソロシップイデオン」とは、ソロ・シップとイデオンの組み合わせから成り立っている商品なのである。

完成したソロシップ

商品の対象年齢上、ディフォルメシルエットなのは仕方がない

正面から見ると、パーツ構成は意外と正確なのが見てとれる

実は、このソロシップにも、トンデモギミックが隠されている……
この時点ではまだアニメスケールのソロ・シップは発売されていなかったので、アオシマ唯一の立体化ということで価値はあった。

完成したイデオンとソロ・シップの対比
さて、ここから驚愕の合体(?)変形が始まるのであるが。
まずは、イデオンの臀部から脚部の後ろに、コロ走行用の補助パーツと車輪を付ける。

補助パーツが両脚を固定する役目も果たす

コロ走行用の車輪を付けた状態
そのままイデオンの、両脚を前方に投げ出すようにして腰で据わらせる。
ここではまるで、イデオンはリラックスしてくつろいでいるように見える。
首がない状態だが……。

ここから悲劇、惨劇がはじまる
一方、今回も外したバックパックに、物騒なミサイル砲2門が接地される。
しかし、そこにはなぜか、イデオンの生首が……?

もう、ナチュラルに「猟奇」ってニュアンスしか伝わってこないセンス
しかも、その生首付きバックパックを、くつろいでいたイデオンのお膝に装着する!

もう、なんだよこれ……。解説も書けねぇよもう
なぜ生首がお膝に? 首なんだから、首がある位置にあればいいだろう! もう許してやってくれないか! 誰もが、誰に誰の許しを請うのか自我崩壊したところで、先ほど完成させておいたソロ・シップがおごそかに飛んできて、イデオンの、本来首が乗るはずの、頭部部分に合体した!

スケール換算とか、どうしたぁああああッ!?
もうなにもいうまい。語れることは何もない。もちろん、筆者への文句も受け付けないし、現在企業体として頑張っているアオシマも、苦情や質問は一切受け付けないだろう、これが「ソロシップイデオン」の完成形なのだ!
これで完成なのだ!

シュールって言うか、猟奇って言うか。とりあえず、これ喜ぶ子どもがまずおらんわ!
もうね、この「主役ロボットの頭部に、そのロボットが収納されるべき主役戦艦が、まんま乗っかってます」感は、バンダイや他メーカーでは絶対に出てこない着想!
だって仮に「ホワイトベースが頭の代わりに乗っかっているガンダム」のプラモとか出されても、プラモ狂四郎もストリームベースも、なすすべがないはずだ!
オマケに、この脱力戦意喪失感にとどめを刺すかのように!

ソロ・シップの上部ハッチからでも、カプセルが入れられますよー
うん……分かった。分かったから。
どうだったであろうか?
アオシマ究極の、狂気と狂喜とエネルギーが封じ込められたかのような、おそるべしイデプラの、ある意味でのエヴォリューション、ある意味でのインフィニティ。

オプションを抜かすだけで、とても普通のプラモに見える
普段はどこにでもいるサラリーマンが、街の風景の中に溶け込むような地味な青年が、空を闇が覆う夜になった瞬間、隠していた牙をむき出し、己の本性と正体を現し、見る者や社会を恐怖に陥れる、まるで大藪晴彦文学のヒーローのような、アオシマのイデプラの境地!
今回の『ガンプラり歩き旅』でのイデプラの紹介はこのトンデモ弩級キットで終了するが、あの時代、プラモデル屋や文房具屋、駄菓子屋の店先を賑わした「大人にとって謎の箱の中身」は、決してガンプラのような優等生だけではなかったことを、今回の番外編を通じてお伝え出来たのであれば成功である。
最後に、こんな「ガンプラでイデプラの連載」にお付き合いいただいた、ミドルエッジ編集部と読者の皆様に感謝して、イデプラ編を終了したいと思います。
いや、次回からもまだちょっと、番外編が続きますが。
(取材協力 青島文化教材社)
市川大河公式サイト