
オール1/600 イデオンwithイデオン・ガン! 銀河を散らすこの布陣!
今回の番外編で紹介していくのは、シミルボンでもその流れで『伝説巨神イデオン』の作品紹介をするので、その『イデオン』に登場した、主人公ロボットイデオンの様々な立体を中心に、敵役の重機動メカ等も含めてイデオンの立体物歴史を俯瞰していきます。
さてさて。
「ガンプラ」の名称を冠しながらも、ガンダムではないイデオンのプラモデルやフィギュアを紹介してきたこの番外編も今回がクライマックス。
今回は、1981年にアオシマから発売された、1/600 合体版イデオンプラモデルと、2016年にバンダイから発売された、スーパーミニプラ版イデオンとの、合体、変形、各形態の徹底比較を検証してみて、最終的には、各メーカーからこの37年で出揃った、4つの「1/600 イデオン」を、イデオン・ガンと共に並べてみたいと思います!

両腕から放たれる、イデオン・ソードの驚異的な威力!
ずらりと並んだ1/600 イデオンの全種。1981年11月に発売された、1/600統一スケール・イデプラシリーズの第一弾から、2016年に発売された、バンダイスーパーミニプラ版イデオンまで。歴史を感じるとともに、ガンダムとも違う、普遍の魅力をこの並びから感じることも出来る。
今回まずはその中でも、アオシマとバンダイの、2つの合体版イデオンを並べて、新旧3種3段変形合体の再現を、細部に渡るまで比較してみることにした。
アオシマ 1/600 合体版イデオン VS バンダイ 1/600 スーパーミニプラ版イデオン
さてさて。この2つの「3機3種変形合体可能なイデオンプラモ」の比較になるのだが。
実はこの2つ、その基本コンセプトは同一なのだが、それを成立させるプライオリティとアプローチが、全く異なっているのだ。
一言で言えば、アオシマ版は「アニメの変形、合体のプロセスに従い、再現困難な部分を、換装や差し替えで再現する」なのに対して、バンダイ版は「3機3種の、個々の形態の再現をメインとし、個別のメカ同士の合体プロセスは、一部ギミックを除いて、完全に換装と差し替えで、メカ単位の再現に拘り尽くす」という詳細コンセプトで商品が成り立っている。
今回は、2つのイデオンの変形合体プロセスを細かく因数分解しながら、その違いを明確にしていきたいと思う。
まずAメカ。
Aメカの車両形態、ソル・アンバーは、デザイン段階では「自衛隊の戦車」がモチーフだった。

アニメ設定のソル・アンバー
実際は、昭和のゴジラ映画等に登場する自衛隊の、ロケットランチャー車両辺りがデザインベースに見えるが、2連装の四角い巨大な砲塔と、キャタピラが特徴。
シンプルな構造なので、ここはアオシマ版もバンダイ版も、無難に立体化……といいたいところだが。

アオシマ版ソル・アンバー

バンダイ版ソル・アンバー
これは贔屓目でなく言い切ってしまうのだが、このソル・アンバー形態では圧倒的にアオシマ版の方がアニメ設定画に近いのではないだろうか?
まず、車体全体のディテールや情報量はバンダイ版の方がリアルで緻密だが、大きな違いとして砲塔(イデオン時の前腕部)の細部がバンダイ版は違和感が多い。バンダイ版は出来る範囲で色分けどおりにパーツ分けしているが、袖口のスリット(イデオンソード発射口)が、設定とアオシマ版では8つあるべきなのに、バンダイ版では4辺に一つずつしか開けられていない。
また、アニメの合体変形時では謎の移動をする、袖の白いダクトパーツは、アオシマ版ではアニメ設定どおり、ソル・アンバーでは機体後部上部に乗せられているが(文章通り、本当に「乗せている」だけではあるが)、バンダイ版では袖口に固定になっている。そのため、そのパーツが干渉するので、バンダイ版は砲塔部を、ボディに密着させて折りたたむことができない。
また、キャタピラ部分はともに車体から左右に張り出しているが、アオシマ版がアニメどおりの引き出し式なのに対して、バンダイ版は差し替え式。しかもディテールはアオシマ版の方がアニメに準じている。
機体の印象でさらにシルエットを左右する、Aメカ、ソル・アンバー時の「謎の機体前部のスロープ」だが、バンダイ版は肩上部ブロックを独立させて、腕ブロックへの差し替え位置を変えることで、そのスロープ部分の段差だけを再現するに留まっているが、アオシマ版はそのスロープ部分を別パーツで用意。左右に別れるAメカを繋げるジョイントの役目も兼ねて、シルエットの再現性に努めている。
あと、個人的にはバンダイ版では、手首が接続されるスリット板が、別パーツで再現されているが、Aメカ時はひっくり返して、手首接続穴が見えないようにしている点は大いに評価できるアイディアなのだが、なぜかひっくり返した時も、肉抜き用のためなのか、無用な四角い穴が開いているのは野暮だと思った。
アオシマ版ではここは、手首の一枚装甲を丸ごと差し替えることで、シャッターがしっかり閉じた状態を再現しているところもポイントは高い。
アオシマ版は、この形態ではディテールも適度にパネルラインを再現していて、大きさは両者間で異なるものの、どちらが、より正しいソル・アンバーの設定画に近いかと問われるのであれば、この時点では確実にアオシマ版の方が正解に近い出来を誇っている。
さて、今度はAメカの、イデオ・デルタへの変形過程。
まずは、両方とも畳んでいた前腕を伸ばすところから始める。腕の畳み角度はアオシマ版、バンダイ版ともに180度近くは確保されていて、これがイデオン時の腕の可動範囲を兼ねることになる。

アオシマ版 袖口のダクトパーツを外してキャタピラを収容し、上腕部のカバーを用意する

バンダイ版 Aメカボディを一度三分割。上腕部のカバーがない代わりに、キャタピラを外して、小さいサイズのキャタピラパーツと交換する
この時、それぞれ「機体前部のスロープ」の処理が異なる。

アオシマ版 スロープパーツを外す

バンダイ版 肩部を一度外して、上腕部への差し込み口を変えて刺し直す
ここから、アオシマ版は金属シャフトを軸にして、前腕部分がアニメ変形どおりに回転スライドし、空いた部分にイデオ・デルタのバーニアノズルパーツを差し込む構造なのだが、バンダイ版はそのプロセスを丸ごと差し替えにしてみせた。

バンダイ版 前腕パーツを本体から外して、変形展開用のパーツに差し替え直しす
バンダイ版の左右主翼は、この段階で別パーツ差し替えで取り付けておくが、アオシマ版の方は、これもアニメ設定どおりに、主翼は前腕内部に収納されているものを展開して開く方式をとっている。アニメ設定には二次元の嘘が混じっているので、どうしてもアオシマ版の主翼は小さくなってしまうが、この二つのやり方で「アニメに近い大きさの主翼」と「アニメに準じた変形で展開する主翼」の、どちらを評価するかはユーザー次第だろう。

アオシマ版 機首、垂直尾翼、インテークダクトが別パーツ

バンダイ版 同じく機首と垂直尾翼が別パーツ。インテークダクトは丸ごと差し替えた後部パーツに含まれている
イデオ・デルタへの最終換装はお互い殆ど同じ構造。バンダイ版の場合、機首の紺と、2つの四角いウィンドウはシール処理だが、垂直尾翼の赤等は要塗装。アオシマ版はもちろん全塗装が前提。

アニメ設定のイデオ・デルタ

アオシマ版イデオ・デルタ

バンダイ版イデオ・デルタ

両者を並べた写真
両者の比較では、完成状態ではもちろんバンダイ版の方が、戦闘機としてのシルエットやアニメ設定に忠実なスタイリングを再現しているのではあるが、それは殆どの差し替えがもたらした恩恵であり、バンダイ版で「変形した箇所」は「折りたたんであった肘を伸ばす」以外に一か所もない。
37年も前で、可能な限りアニメどおりの変形に拘りつつ、この戦闘機完成形までたどり着いた、アオシマ版の革新性は現代でも評価できる。
その上で、Aメカの最後の形態、「イデオン合体状態」を比較してみよう。

アオシマ版

バンダイ版
両者とも、腕を繋ぐバーの、段差やバーニアまで再現されていることは、バンダイ版では当たり前でも、アオシマ版では当時の水準でもかなりの拘りの産物である。
ここで問題にすべきは「バーの色」であろう。バンダイ版では、前回も解説を加えたが、メインの赤や白、黄色やクリアパーツ以外は、コストの問題か全て「濃いグレー」で統一されているので、このバーもその色で成型されている。
しかし「そもそも」の、アニメ版ではどのような色だったのかは、検証してみないと分からない。

アニメ『伝説巨神イデオン』より

アニメ『伝説巨神イデオン』より
影の関係や、当時の彩色のミスの多さで明確には断言できないが、見ようによってはバー自体が、イデオンの頭部と同じ白にも見えるし、一段階明度が下がったグレーにも見える。しかし、そこでは確実に、バンダイ版ほど濃いグレーではなかったことは断言できる。
イマドキのリアリズムから言えば、このバーはバンダイ版の成型色的な解釈が正解なのだろうが、筆者は今回は、あえてアオシマ版は白く塗った。
バンダイ版のバーもこの後白く塗装し、第一話の再現で使用している。

再現画像。今、合体する伝説の巨神!
続いてBメカ。
デザイン時点でのBメカの車両形態、ソル・バニアは、そのモチーフは「タンクローリー車」であった。最終的な完成形でも「言われればそう見える」程度の名残はある。

アニメ設定のソル・バニア
ソル・コンバーにも通じるが、前部のヘッドライトが「働く車メカ」の痕跡として目立っている。また、イデオン時に腹部になる部分が、ただの箱型ではなく、角を落とした八角形になっているのも、タンクローリーのタンク部分からきている所以であろう。

アオシマ版ソル・バニア

バンダイ版ソル・バニア
前部から胸部への角度付け等、バンダイ版がよりアニメ版へ近づいた面取りをしているが、この2体、大きさは解釈の差でかなり違うが、基本的な立体構造再現には大きな違いはない。機体前部が前のめりになって、車体底面が地面に接地してしまうのも共通している。
ソル・バニアからイデオ・ノバへの変形。
まずは、アオシマ版とバンダイ版の、差し替えパーツを含む構成パーツを比較してみよう。

アオシマ版
アオシマ版は、腹部ボディの両開きこそ再現していないが、腹部左右のカバーの開閉展開はする。取り外すパーツは、イデオ・ノバの武装に合せて、腹部のイデゲージシャッター。機体前部の隆起の違いは、隆起部分だけを差し替える手法。そして、機体前部の下部カバーを展開差し替えすると、前部の2輪キャタピラパーツが現れて装着できる。
そこへ、グレンキャノンとアンテナの、イデオ・ノバの象徴とも言える武装パーツを「乗せ」て完成。

バンダイ版
アオシマ版との一番の違いは、まず「機体前部の違いを、隆起部分だけでなく、左右のカバーパーツまで含めて交換する」が挙げられる。
これには合理的な理由付けがあり、これらのパーツを外した状態で、合体状態のAメカを挟み込める仕様であって、その際、首脇を覆う黄色のパーツは、独立してイデオン状態用に別個に用意されている。アニメ版での合体直後のシャッターの再現であるともいえる。
もう一つの大きな違いは、バンダイ版では、イデオ・ノバへの変形に当たって、腹部パーツが、グレンキャノンカバーも腹部幅広左右展開もせず「いきなり、腹部全体を、イデオ・ノバ用のパーツに換装する」で済ませているところ。
実際は、そこにさらに、グレンキャノンやアンテナ等の装着は必要なのであるが、やはりこれも、イデオ・デルタの後部パーツ差し替え同様、形態単位での見栄えの整合性は取れるが、そのプロセスにアニメの変形の名残は一切ない。
ちなみに、アオシマ版とバンダイ版に共通しているギミックは、肩脇ブロックのどんでん返し変形と、車輪、キャタピラのひっくり返し変形の部分である。

アニメ設定のイデオ・ノバ

アオシマ版イデオ・ノバ

バンダイ版イデオ・ノバ
グレンキャノンのディテールではさすがにバンダイ版のクオリティが勝るが、アンテナと6連装ランチャーは、ディテールや形状再現でアオシマはバンダイに退けをとっていない。

両者を並べた写真
その上で、アオシマ版が全塗装必須なのは仕方がないにしても、バンダイ版は、イデオン形態に関しては、肩脇ブロックのグレーのフィンや、胸の白いラインまで別パーツにするなどの拘りを見せているが、こと分離メカ状態に関してはシール処理もおざなりで、イデオ・ノバでもシール処理はアンテナのフィンのグレーだけ。後はキャラクターレッドとMSライトブルーと、MSファントムグレー、キャラクターレッドとキャラクターイエローで追加塗装を徹底的に施した。
イデオ・ノバに関しても、完成状態で設定画に近いのはバンダイ版、アニメ演出での変形を少しでも再現しようと最後まで努力したのはアオシマ版、という差別化が見られた。
しかし、アオシマ版はバンダイ版の倍近いボリュームがあり、とても同じスケールのメカ同士とは思えない対比に仕上がった。
そしてCメカ。
Cメカの車両形態、ソル・コンバーは、元々は「幼稚園バス」が変形合体するという設定であった。車両形態からSFメカ形態への変形は、Cメカが一番劇的で、驚きの「ミラクルチェンジ」であったとも言える。

アニメ設定のソル・コンバー
バスと言われればバスに見える(かもしれない)最終デザイン形態。
これだけ見ると、箱型の4tトラックあたりにも見えないこともない。

アオシマ版ソル・コンバー

バンダイ版ソル・コンバー
この角度で見る限りでは、両者に大きな違いはない。
箱型バスの意匠を残しつつ、上手くコンパクトにシルエットをまとめている。
では、ここからイデオ・バスタへの変形を見ていこう。
ソル・コンバーからイデオ・バスタへの変形では、2つのどんでん返し的立体ギミックがカギとなっている。
一つは「箱型だった操縦ブロックが、くるりと回転して戦闘機的機首ノーズへと変形」であり、もう一つが「ソル・コンバーでは一体化していた両脚が、それぞれ外側へ向けて半回転すると同時にパネル展開して開いたパネルが主翼になる」だ。
ここは、読んで字のごとくの変形を、放映当時のトミーの「奇跡合体」や、近年のバンダイの「超合金魂」が、そのままやってみせたが、アニメ設定は二次元の嘘の塊であるので「努力は認めるが完成形は……うーん」の域を出られない代物であったことは間違いない。
では、80年代のアオシマと2016年のバンダイは、このミラクルチェンジにどう対応したのか?
それを検証してみよう。

イデオ・バスタへの変形に向けて、外すべきパーツを外したアオシマ版
ここでのポイントは、ソル・コンバーは6輪バスなのだが、アオシマ版ではそれらタイヤが全て、保持板と共に裏返しにしてまた装着することで、タイヤが付いていた箇所をふさいで、装甲を補完する仕様であるということ。

アオシマ版ソル・コンバー、前輪収容状態

アオシマ版ソル・コンバー、後輪収容状態
アオシマ版の場合、この状態から脚を半回転させて膝を伸ばせば、そのままイデオンの下半身になるのだが、今はとりあえず、イデオ・バスタに変形させるプロセスを追うことにする。
一方のバンダイ版は。

イデオ・バスタへの変形に向けて、外すべきパーツを外したバンダイ版
バンダイ版があえて機首を差し替えで再現したこと自体は賢明な判断であっただろう。
しかも、アオシマ版のような「機種の追加」にとどまらず、アニメ設定では前転変形する腰前部パーツも、一括で差し替えにすることで、イデオ・バスタ時のスタイルが、ぐっとアニメ版に近い完成形を得ることが出来た。
惜しむらくは、後述する「差し替えのカナード翼」だが、逆に悩まされるのは、前方2輪、後方4輪で構成された6輪の車輪パーツを、完全な独立外付けパーツとして、左右1個ずつにまとめてしまった大味さであろう。

アオシマ版イデオ・バスタ用パーツ

バンダイ版イデオ・バスタ用パーツ
差し替えパーツをパッと見ただけだと、両者にそれほどの構造的違いは見受けられないが、脚の伸縮方法など、アオシマ版とはまったく異なった差し替え変形を行ってイデオ・バスタになる。

アニメ設定のイデオ・バスタ

アオシマ版イデオ・バスタ

バンダイ版イデオ・バスタ
実はアオシマ版のイデオ・バスタは、機首部分のディテール、具体的にはコクピットウィンドウのモールドが明らかに間違っているのだが(アニメ設定では左右2窓だが、アオシマ版は上下左右で4窓がモールドされている)、ここはとりあえず、今回は塗装で誤魔化した。

両者を並べた写真
こうして並べた時に、バンダイ版の方がアニメ設定により近くてリアルなのは当たり前で、むしろ差し替えとはいえ、この超絶トンデモ変形メカを、37年前のアオシマの技術でここまで再現した功績は、かように比較することで、より明確になってくる。
37年の歳月と、ガンプラで技術と経験値を蓄積し続けてきたはずのバンダイという前提で検証してみると、実はアオシマ版もバンダイ版も、イデオ・バスタの主翼の塗り分け、もしくはそのためのモールドが、アニメ設定とはかけ離れているという点ではどっちもどっちなのが、また趣深い。
今回は、どちらもモールド無視で、必死にマスキングでアニメ塗り分けを再現したが、バンダイはたまに、こういうところで画竜点睛を欠くので油断ができない(笑)

伝説の巨神の力、復活の時!
そして、連結する形で3つのメカが合体してイデオンになるのだが。

完成したイデオン。左がアオシマ版、右がバンダイ版
こうして完成形を比較してみた時、アオシマ版が、赤いプラ素材で構成されているにも拘わらず、最新のバンダイ版よりも重厚に屹立している巨神のイメージを保っていることが分かる。
確かにアニメ設定や作画と比較すると、アオシマ版はプロポーション的に、腕部が大きく長く(しかし拳だけは小さく)、脚部(特に腿)が短いという欠点は目立ってしまう。

バンダイ版を使用した再現の一幕。腕から無限ミサイル発射!
しかし、何度も同じことの繰り返しになってしまうが、考えてもみてほしい。
3機のメカの、3段変形と合体、そしてロボット。
いかにロボットアニメ全盛期の80年代とはいえ、当時の模型技術でこの複雑怪奇な立体パズルを、差し替えやパーツ交換を多用しながらも、80年代初頭の技術で、3種3機のスタイルとロボット形態を、それなりに設定画に似せて再現できた時点で、同時期のバンダイのガンプラと同等か、それ以上の熱意と努力を、アオシマ版からは感じられる。
それはある意味で、アオシマ版から35年以上の時を経てなお、ガンプラ最前線のバンダイが改めて挑んだときでも、イデオンのこの3機3種変形合体を成立させるには、差し替えとパーツ交換を(ある意味アオシマ版よりも多く)取り入れなければ商品が成立しなかったという現実を踏まえても理解できる。
その上で、時代と技術。確かに全ての点で、バンダイ版はアオシマ版よりも優れていることは認める。
各形態メカ時のシルエットやディテール、パーツの色分けやモールド、イデオン時の可動やプロポーション、確かにどれをとっても、バンダイ版は究極の出来とも言える。
贔屓目に何を正当化しても、それらの要素で35年以上前のアオシマ版が勝てる要素は一つもない。
しかし、ここまでの連載で皆さんもお分かりのように、当時のアオシマは児童向け模型から一転してイデプラに向かった時に、むしろバンダイよりも愚直なまでに、アニメの中のイデオンや各メカの再現に拘っていた。
そして、現代のバンダイがばっさり切り捨てた部分においては、かつてアオシマが拘って再現していたギミックが、淘汰されてしまった部分も少なくないのだ。
ここからは少し、「バンダイ版が切り捨てて、アオシマ版では活かされていたギミック」を挙げていこう。
まず一つ目は「イデオンの角の伸縮ギミック」である。

アオシマ版頭部。向かって左のアンテナが収容されていることが分かる
イデオンはそもそも、Aメカが左右に分離した両腕の中から頭部が出てくるギミックがあるが、これはアオシマ、バンダイともに再現は出来ていないが、出てきた頭部から、さらにアンテナが伸びる演出でイデオンの合体は完了するのだ。
こういった「頭部の角が伸びて合体完了」というスーパーロボット演出は当時から多く、ガンダム前の富野由悠季監督作品『無敵超人ザンボット3』(1977年)『無敵鋼人ダイターン3』(1978年)等では定番の演出だった。
バンダイ版は、部品の扱いや素材の強度などの問題からだろう、アンテナを頭部に固定した状態での差し替えになっているが、アオシマ版ではちゃんと頭部の2本の角が伸縮収納されるギミックが再現されていたのである。
そして二つ目は、同じくAメカの「トリッキーに可動可変する肘関節」が挙げられる。

イデオンAメカの多軸構造による変形
Aメカ肘部分は、ソル・アンバーからイデオン合体形態に変形する際に、肘関節に当たる部分が180度折れ曲がることでメカのシルエットを変えている。
しかし、樋口雄一氏のデザインの匠はそれだけでは足らず、そこから飛行メカ、イデオ・デルタに変形する際、肘関節の四角の一角だけを軸にして外側へ回転するギミックが設けられているのだ。
バンダイ版では、この変形は大胆に差し替えで再現されたが、アオシマ版では軸に金属シャフトを用いることで、複雑故に脆弱になりがちなAメカの2通りの変形を、見事に両立させて立体化していた。
そして三つ目。今度はBメカだが、ソル・バニアからイデオ・ノバへの変形は、アオシマとバンダイで一長一短とも言えた。

アオシマ版のBメカ変形ギミック
確かに上でも書いたが、アオシマ版はBメカ変形ギミックの中でも重要な「腹部に当たるボディが、ソル・バニア時に左右にスライドして広がる」プロセスをオミットしている。もっとも、バンダイの再現アプローチは、そこでもやはり「パーツ丸ごと差し替え」ではあるのだが。
しかし、双方ともイデオ・ノバ時の左右のグレンキャノンの収容こそ再現できなかったものの、アオシマ製ではまだ「両側腹部にある、グレンキャノン収容ハッチが開閉する」というギミックだけは残してある。加えるなら、Bメカがイデオン胸・腹部に変形する際も、バンダイ版はこれもまたまた大胆に「胸下はパーツごと換装」だが、両肩脇ブロックがどんでん返し変形(これは、アオシマ版もバンダイ版も再現)した後に、腹部が縮むギミックは、やはりアオシマ版では再現されている。
そして四つ目は、拘る人は拘るであろう「Bメカの後部」

Bメカ後部がフラットなアオシマ版(左)と、ボールジョイントの受けを仕込んだバンダイ版(右)
これは、個々の商品での3機分離状態を、個別の独立したメカニックと捉えるか、それとも「一つのイデオンというロボットを、三分割したメカ」とあくまで捉えるかの違いからきているのだが。
アオシマ版のBメカ後部は、アニメ設定どおりにフラットな板状で出来ていて、アニメ設定どおりイエローの塗装も可能なパーツ形状をしている。それは逆をいえばイデオン合体時には、あくまでBメカとCメカは、パーツ同士の摩擦でしか連結していないということでもあるのだが、現代ガンプラの設計や、可動範囲の需要に長けたバンダイは、BメカとCメカを、ボールジョイントで繋ぐ形で合体させることで、合体時の保持力とボールジョイントによる自由な腰の可動を両立させた。
しかし、それはあくまで「イデオンというロボットを構成するパーツ」としての話で、Bメカ単体で見た時は、バンダイ版はこの「後部に空いた丸い穴」に対しては、なんのフォローもしていない。ある意味「関節ジョイント部丸出し仕様」なのである。
単純にBメカを単体で見た時には、後部の穴は無粋であり、アオシマ版の方が設定に忠実と言えるのかもしれない。
五つ目からはCメカの話に入る。

アオシマ版の、折り畳まれたCメカのカナード翼
イデオ・バスタのカナード翼は、単純な一軸ギミックで腰に折り畳まれる変形をするのだが、バンダイ版では腰の斜め前半分を、丸ごと別パーツに差し替え換装で再現したからか、このカナード翼パーツも、一度ボディから引っこ抜いてから、もう一度違う角度でCメカパーツに刺すという無粋な手間を経なければならない。
アオシマ版では、素直にアニメの変形どおりに、普通にカナード翼は折り畳まれて収納される。

アオシマ版のCメカの脚は、ちゃんと設定どおり「伸縮」して変形する
当時の合体ロボットの変形システムなどでは、戦隊物のロボット等でも多かった「腕や脚が伸び縮みして形を変える」がイデオンでも採用されている。
肘や膝の可動を考えなくてよかった時代の合金トイであれば、腕や脚にスライドギミックを付け足すだけで再現可能であったのだが、イマドキのロボットフィギュアはプラモデルでもアクションフィギュアとしての完成度も求められる。
そこで、バンダイ版は、腿と脛の接続を、開閉できる脛の内側にある「ジョイントの差し込み口」を縮んだ状態と伸びた状態の2種類を設けて、形態ごとにジョイントを差し込む穴を変えることで、腿の伸び縮みを再現していた。
これはこれで、立案者を誉めるべきアイディアではあるのだが、一方80年代初頭のアオシマは、プラモデルの補助パーツとしては当時現役だった「スプリング」=バネを膝関節保持ピンに仕込むことによって、イデオン形態、Cメカ形態、どちらでもスプリングの力でカチッとパーツがハマった上で、イデオン時にはちゃんと膝関節が可動するという仕様を成し遂げていた。

アオシマ版Cメカの爪先部分のパーツ差し替え
写真では分かりづらいかもしれないが、Cメカの爪先部分は、ソル・コンバー、イデオ・バスタ状態ではバーニアが露出していて、イデオン合体時にシャッターが降りる演出があった。つまりCメカ単体時は、ここはバーニアが露出していなければいけないわけだが、バンダイ版ではここはシャッターのディテールしか用意されていない。
細かい拘りかもしれないが、ここも差し替えにする辺りに、当時のアオシマの「熱さ」のようなものが感じられる。
ここまで書いてきた、アオシマ版とバンダイ版の細かい差異。
バンダイ版は、劇中での変形合体プロセスの再現を殆ど切り捨て、各形態ごとでの完成度が、より高くなる方向へコンセプトを割り切った。
しかし、劇中の再現という意味合いで言うのであれば、変形合体する際に、曲がるべきところが曲がり、開くべきところが開くギミックがあるのが「本来のあるべき姿」ではないだろうか?
バンダイ版の割り切りは、評価されるべき英断ではあるかもしれないが、「ここにあったパーツがこう動いて、こういう形になる」という変形の醍醐味を完全に捨て去ったところで商品化が進められたと見受けられる(逆に、なんとしてでもこのトンデモ変形合体を、全て再現してやる、という気概が執念になって昇華したのが、超合金魂版イデオンであったともいえるわけで)。
暴論を承知で言い切ってしまえば、バンダイ版に関しては、その変形合体の殆どが差し替え、換装で変形ギミックが再現されているのだから、むしろ最初から変形や合体を前提にせず、ノンギミックでプロポーション再現や可動に特化させて、全てのメカを単体で独立させた商品にした方が早かったのではないかとさえ思えてしまうのである。
そういった点でも、アオシマ版はあの時代、あの頃の技術力で「どこまでが限界だったか」への、果敢な挑戦の記録と、輝かしい栄光として、今の時代でも評価すべきイデオンのプラモデルだと言い切ってもよいのではないだろうか?

左から、アオシマ合体版、アオシマプロポーションタイプ、やまと、バンダイの、4つの1/600 イデオン
今回の連載のメインで紹介してきた、時代、時代の「4つの1/600 イデオン」であるが、作品の時点で既に、100人の受け手が入れば100の解釈があるように、同じスケールの同じロボットの立体化であっても、100人のユーザーがいれば100の正解があってもおかしくはないはずだ。
『機動戦士ガンダム』は、あくまでガンダムを主役メカとしながらも、数多のモビルスーツが対等に向き合う「ロボットの群像劇」であったが、『伝説巨神イデオン』は、イデオンという“一人”の巨神の行く末と振る舞いが、小さな生き物・人間の魂が、億以上集まったエゴの渦を、突き進んでいく作品であった。
だからこそ、「イデオンの立体物の正解」は、万人が共有する必要はないと言える。

4体のイデオンに、それぞれ専用の(やまと版では確信犯的にマッチさせられたアオシマ版の)イデオン・ガンを構えさせた究極の図
さて、イデオン、イデプラのクライマックスはここまで。
次回は『ガンプラり歩き旅』イデオン編最終回として、とっておきのトンデモプラモのイデオンをご紹介します!
(取材協力 青島文化教材社)
市川大河公式サイト