アップル×バンダイのタッグでも“世界一売れなかったゲーム機”ピピンアットマークとは?

アップル×バンダイのタッグでも“世界一売れなかったゲーム機”ピピンアットマークとは?

世界を変えるヒット商品を数多く生み出してきたアップル社。同社の発明品の一つで、ライセンス供給先のバンダイから発売されたゲーム機が、『ピピンアットマーク』です。栄光の歴史を歩むアップル×バンダイがタッグを組んだにも関わらず、まったく売れず、“世界一売れなかったゲーム機”なる称号まで獲得してしまった、この悲劇のゲーム機について今回紹介していきます。


輝かしいアップルの歴史に刻まれる伝説的失敗作…

「このまま一生砂糖水を売り続けるのか、それとも私と一緒に世界を変えたくないか?」

これは、1980年代前半、アップルの創業者・スティーブ・ジョブズが、当時ペプシコーラの事業担当社長だったジョン・スカリーをヘッドハンティングするために言い放ったという有名な口説き文句。事実、その後のアップルは、Macintosh、iMac、iPodにiPhoneと、世界的ヒット商品を次々と生み出したわけですから、まさしく有言実行。ジョブズのカリスマ性を示すエピソードと言えます。しかし、こうした栄光につつまれたアップルの製品開発史は、光に照らされた、いわば陽の部分。その裏側でひっそりと闇に葬られた影、つまり“失敗作”も数多く存在するということも記憶に留めておく必要があるでしょう。

今回紹介する『Pippin』も、そんな“アップル正史”にも、そしてゲーム正史にも載らない負の遺産。特に、ライセンスを買い取って『ピピンアットマーク』として販売した挙句に、多額の赤字を背負い込んだバンダイにとっては、大がつくほどの失敗作であり、思い出したくもないはずです。

ピピンアットマーク

ピピンアットマーク - Wikipedia

「インターネットはテレビで見よう!」とCMで宣伝していた

Pippinは、『PowerPC』搭載『Mac』をベースにして開発された、簡易版『Mac OS』が走るマルチメディア・プラットフォーム。アップルはこのPippinを、3DO社が開発したゲーム機の規格『3DO』と同様に、ライセンスビジネスとして展開。結果、唯一その製造・販売権を買い取った会社が、日本が誇るおもちゃメーカーバンダイだったというわけです。

バンダイはPippinを『ピピンアットマーク』として、1996年3月から、日本およびアメリカ合衆国にて発売しました。同機種の特徴は、ピピンアットマーク用ゲームとMacintosh用ゲームが遊べるゲーム機でありながら、ダイヤルアップ接続でインターネットに接続できるという点。同じく、インターネット接続が出来るとして喧伝されたドリームキャストの発売が、1998年11月だったことを考えると、ものすごい時代を先取りしています。

ピピンアットマーク ちらし

YS1436 Pippin atmark ピピンアットマーク ちら... - ヤフオク!

実際、バンダイサイドもゲーム機としてより、インターネット接続が可能なマルチメディア機としての特性こそセールスポイントだと考えていたようで、発売当時のテレビCMでは、「インターネットはテレビで見よう!」と宣伝していました。初見では、この新商品でゲームが出来るとは誰も思わなかったことでしょう。この当時としては斬新ながらも、イマイチ分かりにくい「インターネット接続可能なプラットフォームとゲーム機のあいのこ」という立ち位置が、『ピピンアットマーク』普及の妨げになったことは言うまでもありません。

お値段は、64800円!

『ピピンアットマーク』のインターネット接続サービスは、バンダイ・デジタル・エンタテインメント運営の「アットマークチャネル」に入会すると利用できました。基本料金は2000円。

「最近のWi-fiより安いじゃん!」と驚かれるかも知れませんが、しかし、10時間を超えると1分10円かかるという落とし穴も。1997年10月に15時間、2000円で利用できるようになったものの、モデム同梱の特別ネットワークセットが64800円(単品版が49800円)という事実を踏まえると、子供のおもちゃにしては割高です。

伝説のバグソフト『たまごっち CD-ROM』など、迷作揃い…

では、ゲームはどうだったかというと、これまた微妙格闘ゲームでもアドベンチャーゲームでもなく、ドラゴンボールのキャラをお絵かきするという異色のソフト『アニメデザイナードラゴンボールZ』や、ウルトラマンパワードとピグモンを司会にしたクイズゲーム『ウルトラマンクイズ王』など、あまりワクワクしないタイトルのオンパレードでした。

ピピンソフト アニメデザイナー ドラゴンボールZ

ピピンソフト アニメデザイナー ドラゴンボールZ | 中古 | その他ソフト | 通販ショップの駿河屋

特にひどかったのが、当時一大旋風を巻き起こしていたバンダイの看板商品「たまごっち」のピピン版『たまごっち CD-ROM』です。Macintosh版も同時発売されたこちらのタイトルは、「育成4日目に入る瞬間に、キャラが高確率で死ぬ」というどうしようもないバグが存在しており、プレイヤーを困惑させました。

これに対応するため、希望者に「内服薬」というアップデート用フロッピーが配られたものの、ピピン版はフロッピーのアップデートが不可能だったため、意味をなさず。これでは、ユーザーにソッポを向かれてもしょうがありません。

たまごっち CD-ROM

たまごっち CD-ROM | 中古 | Winodws95 CDソフト | 通販ショップの駿河屋

結局、プレステやセガサターンが激しい競争を繰り広げる中、ピピンは蚊帳の外で、売上を伸ばすことが出来ず、1997年3月期には65億円の赤字を生み、1997年5月12日をもって製造中止となります。

最終的な出荷台数は4万2000台で、在庫は5万台。マルチメディア端末ではなく、ゲームハードとしてみると「世界一売れなかったゲーム機」となり、現代までその名を残すこととなったのでした。

(こじへい)

関連する投稿


「パックマン」45周年スペシャルモデル!Xboxなどに対応した「ワイヤレスコントローラー」が登場!!

「パックマン」45周年スペシャルモデル!Xboxなどに対応した「ワイヤレスコントローラー」が登場!!

アコ・ブランズ・ジャパンより、アメリカのゲーミングアクセサリーブランド「PowerA(TM)」(パワーエー)の「パックマン」45周年スペシャルモデルの新商品『ワイヤレスコントローラー for Xbox Series X|S - パックマンSE』が発売されます。


60年代~90年代の初期家庭用パソコン100機を徹底解説!書籍『ホームコンピューター』が発売決定!!

60年代~90年代の初期家庭用パソコン100機を徹底解説!書籍『ホームコンピューター』が発売決定!!

グラフィック社より、書籍『ホームコンピューター デジタル時代を決定づけた100の名機』の発売が決定しました。価格は3960円(税込)、発売予定日は2025年1月8日。


仮面ライダーのバイクアクションが楽しめる!新仕様のガシャポン®『@CTION RIDE 仮面ライダー』が登場!!

仮面ライダーのバイクアクションが楽しめる!新仕様のガシャポン®『@CTION RIDE 仮面ライダー』が登場!!

バンダイ ベンダー事業部より、仮面ライダーのコレクションフィギュア『@CTION RIDE(アクションライド)仮面ライダー』(1回500円・税10%込、全4種)が発売されます。


昔はゲーム機が色々あった!今はなきハード機たち

昔はゲーム機が色々あった!今はなきハード機たち

最近は、スマホゲームが普及していることもあるのか、ゲームのハード機の種類はかなり絞られていますよね。ですが昔は色々ありました。イマイチ普及しなかったものから一世風靡したものまで90年代までに発売された昔のハード機を集めました。


【1996年】PUFFY! SPEED! dos! 日本レコード大賞新人賞の受賞曲は!?受賞者は今!?

【1996年】PUFFY! SPEED! dos! 日本レコード大賞新人賞の受賞曲は!?受賞者は今!?

昔は大晦日の夜といえば、テレビの前で一家団欒。『日本レコード大賞』と『紅白歌合戦』をはしごして視聴した方が多かったことでしょう。中でもドキドキするのが、日本レコード大賞の「大賞」と「最優秀新人賞」の発表の瞬間。今回は、日本レコード大賞の「新人賞」にフォーカスし、受賞曲と受賞者の今についてご紹介します。


最新の投稿


プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

新日本プロレスの“100年に一人の逸材”棚橋弘至氏による著書『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』が2025年12月18日にKADOKAWAより発売されます。引退が迫る棚橋氏が、26年の現役生活で培った視点から、プロレスの魅力、技の奥義、名勝負の裏側を徹底解説。ビギナーの素朴な疑問にも明快に答え、プロレス観戦をさらに面白くする「令和の観戦バイブル」です。


ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

小学館クリエイティブは、ウルトラマンシリーズ60周年、『小学一年生』100周年の節目に『学年誌 ウルトラふろく大全』を11月28日に発売しました。『ウルトラQ』から『ウルトラマン80』までの学年誌・幼児誌のウルトラふろく200点以上を網羅的に掲載。組み立て済み写真や当時の記事も収録し、ふろく全盛時代の熱気を再現します。特典として、1970年の人気ふろく「ウルトラかいじゅう大パノラマ」を復刻し同梱。


伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体『UWF(ユニバーサル・レスリング・フェデレーション)』が、設立40周年を記念し、特別イベント「無限大記念日」を書泉ブックタワー(東京・秋葉原)にて開催します(2025年12月24日~2026年1月12日)。第1次UWFの貴重な試合映像や控室、オフショットなど、4,000枚以上のアーカイブから厳選された写真が展示されます。復刻グッズや開催記念商品も販売され、当時の熱狂が蘇ります。


グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

株式会社グラニフは、TVアニメ『幽☆遊☆白書』との初コラボレーションアイテム全21種類を、2025年12月2日(火)より国内店舗および公式オンラインストアで販売開始します。主人公の浦飯幽助をはじめ、桑原、蔵馬、飛影のメインキャラクターに加え、戸愚呂、コエンマなど欠かせないキャラクターをデザイン。11月26日より先行予約も開始され、ファン必見のラインナップです。


全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

アシェット・コレクションズ・ジャパンは、隔週刊『1/18 エクストラスケール 国産名車コレクション』を2026年1月7日に創刊します。全長約20cm、1/18スケールのダイキャスト製で、日本の自動車史を彩る名車を精巧に再現。ボディラインやエンジンルーム、インパネなどの細部ディテールにこだわった「エクストラ」なコレクション体験を提供し、マガジンでは名車の開発秘話や技術を深掘りします。