「世界で一番美しい病気」とは。
「恋」が、「世界で一番美しい病気」であると書いた中島らも。
この繊細な文章力、なんという才能。
「言葉を紡ぐ」とは、彼のためにある言葉ではないかと思います。
思わず「ううむ」とうなってしまいます。
そんな彼がポップな世界に残した「置き土産」明るい悩み相談室。
1984年から朝日新聞日曜版で連載していたこのコーナーをまとめた単行本がありますので、そこからご紹介します。
この本から、いくつか「悩み」に対する「回答」をご紹介します。
夫と娘のおそろしい商談。

「おっぱいさわらせて」という夫。
それは妻にではなく、なんと小学校5年生の長女に向けての言葉とのこと。
それに対し娘はなんと「五百円くれたら」と。
夫は「二百円にまけて」と値切る。すると娘は「もう一声!!」。
恐ろしい会話です(笑)。
中島らもさんはこのように回答。

「激しい怒りを感じます。」と回答。
そりゃそうだ。児童虐待になりかねません。いくら自分の子供とはいえ。
・・・と思ったら、
「娘は金なんか取るべきではない。タダでさせなさい」とアドバイス。
娘がそのおっぱいを身につけることが出来たのは、親が今まで娘に「設備投資」してきた結果であり、その「投資の成果」に対して金を取るとは何事か、と。
お嬢さんが産まれた年からの家計簿を全部引っ張り出して来て、今までにかかったミルク代、食費などの累計額をはじいて見せてあげましょう、と。
むしろおっぱいを触るというのは、「ボインになるための営業協力費」として娘に逆請求してもよかろう、と。
そして、「いつか「乳離れ」(父離れ)の日がくると思うと、少し寂しい気もしますね」と結んでいます。
確かに子供を育てるのはお金がかかりますからね・・・。思わず納得してしまいます。
なんて子供だ!親から金を取るとは(笑)。
19歳、マキさんの悩み。
19歳。そろそろ恋愛が本格化し、数年後には結婚を夢見る乙女、「真紀」さん。
しかし、真紀さんは悩んでいます。
「ハラマキにはなりたくないんだ」。
つまり、「原」さんと結婚すると、名前が「はらまき」になってしまうのです。
このため、真紀さんは大ファンである原辰徳との結婚をあきらめてしまいました(笑)。
「たつ」でも「のり」でもダメじゃないか!と、悩みはさらに深まります。
さらに、「郷ひろみと岩崎宏美が結婚したらどちらも郷ひろみになってしまうのか。」という他人の心配までし始めてしまいます。

中島らもさんの回答は??。
「かりにもしここに二人の人間がいて、まったく同程度の技量を持っているとすると、この二人の命運をわかつのは名前ではないかと思うのです。」
「一度聞いたら忘れられないような名前とか、言いやすい書きやすい呼びやすい名前の人は非常に得なのです。」と回答。
回答者である中島らもさんの「らも」も、覚えてもらいやすいからと「らも」にしたらしいですし、野球選手も確かに「原一郎」選手よりも「原辰徳」のほうがなんか強そう。
さらに、「鈴木選手」では何十人いるかわかりませんが、「イチロー」という表記は、確実にネーミングによって彼に親しみを持ってもらうには「この名前しかない!」と思わせるものがあります。
名前で悩むより、それを活かす方向に考えなさい、ということですね。

小学6年生のやすくんの恋の悩み。
思春期の始まり。
6年生のやすくんに、好きな人ができました。
しかし、「やすの好きな人は〇〇なんだよー」と友達に言われることが不安で仕方ないようです。
恋って・・・。
中島らもさんは、ここで名台詞を書いています。
これは名台詞。
いい恋愛ができるか否かが、子供と大人を分けるということなのですね。
中島らもさんは、その子に対して、自分に気を引くために、「いじめて」しまったそうです。そして本当に嫌われてしまった。子供がよくやる失敗であると述べています。
そしてこのやすくんに対するアンサーがまた泣かせます。
好かれなくてもかまわないから、相手の子が喜ぶことをすればよかったのです。そして相手の喜びを自分の喜びである、と考えるようにすればよかったのだ、と今は思っています。
朝日新聞出版「中島らもの置き土産明るい悩み相談室」165ページより引用。
これは仕事にも通じることかもしれません。
一時期仕事(商売)がうまくいっても、それが長続きしない、というのは、このマインドがあるかないか、つまり「精神的に大人であるか子供であるか」が、影響してくるのかな、と思います。
4歳のベジタリアンの悩み。

4歳の息子さんの悩み。
「魚や肉や卵はなんで死んだの?焼いたから?煮たから?」と母親に聞き困らせます。
ベジタリアンは殺生を嫌い、野菜しか食べませんが、野菜とて生き物。
生き物を殺して食べたくないベジタリアンはどうすればいい?。
明快な一言で解決。
単純明快な回答です。
輪廻転生など、難しい言葉を並べても子供はわかりませんが、こう説明すればOKですね。
まとめ。
誰もが子どもの頃に悩んで、大人になるうちに自分で勝手に折り合いをつけて無理やり納得していることって、ありがちではないかと思います。
小学5年生の娘の胸をもむってのはちょっと危ないですが、それも含めて、「明るい悩み」を中島らもさんが明快に回答していたこの「明るい悩み相談室」。
小難しい心理用語を並べる心理カウンセラーよりも、本当に必要なのは、中島らもさんのような、「言葉を巧みに紡いで、悩みを笑いに昇華させる」技術のある人なのかもしれません。