
「機動戦士ガンダム』クライマックスの、巨大宇宙要塞ア・バオア・クーが、実は数㎝?
今回は、2016年にバンダイキャンディトイ事業部が展開した、ガンダム世界の様々なメカを、ミニサイズで、過去に立体化すらされていないような珍品も含めて発売した、狙い過ぎなシリーズ、「2分で作るガンダム名鑑ガム」の紹介です!
「2分で作るガンダム名鑑ガム」2016年6月 270円

シリーズ初弾のパッケージは、オーソドックスに初代ガンダム!
「2分で作るガンダム名鑑ガム2」2016年9月 270円

となれば、次弾はもちろん、Zガンダムで決まり!
「2分で作るガンダム名鑑ガム3」2016年12月 270円

そうなればもちろん第3弾は! ……えっと、これ、何ガンダム?
『機動戦士ガンダム』(1979年)ブームがピークの頃、製菓メーカーの森永が、ガンダムチョコスナックやガンダムキャラメルというヒット商品を発売していて、それは今でも伝説になっている。
何がどの辺が伝説かというと、森永ガンダムキャラメルには、ミニプラモデルがオマケでついてきていたのだが、そのラインナップが良い意味で狂っていて(笑)、普通のモビル・スーツから始まって、サポートメカやサブメカ、果てはフライ・マンタやルッグン、パプア、シーランス等という、背景雑魚メカまで商品化して、他では絶対に立体化されていないメカが、このシリーズだけにはあるとまでされてきていたのだが。
今回紹介する「2分で作るガンダム名鑑ガム」は、明確に当時の森永の路線を「狙った」バンダイキャンディトイ事業部が、2016年に3弾に分けて発売展開した食玩のシリーズであった。
そのコンセプトは、一応表向きは以下のようにアナウンスされていた。

公式webサイトでの商品説明。一見すると正統派ガンプラのミニチュア食玩に見えるのだが……

初弾のラインナップ。まともなのは、ガンダム、ザクⅡ、バルバトスぐらいまでで、Hi-νガンダムとナイチンゲールとか、いきなりやりすぎ(笑)
なるほど、ラインナップは、確かにガンダムやザク、歴代のメジャーなモビル・スーツがまずは選ばれるのだが、しかしそこは、往年の森永と同じく、低コストでブラインドという、ローリスクな商品であるからか、かつてのガンダムキャラメルでも商品化されなかったような、建造物や巨大な宇宙要塞群などが、これみよがしに各弾に含まれていた。

問題の第2弾(笑) ZガンダムやガンダムF91はともかく……。マンダラガンダムなんて、このサイズでこのチョイスで完全変形する(笑)
筆者のような「目的は再現」からすると、背景としての宇宙要塞や建造物はたとえサイズが小さくても、立体物があるだけ僥倖であり、HGUC辺りでも買えそうなモビル・スーツはこの際放置で、徹底的に「『機動戦士ガンダムを読む!』の再現で使えそうな立体」を、選りすぐって集める方向で飛びついた。

『機動戦士Vガンダム』推しな第3弾。アドラステアやザンネックは今回入手しなかったが、ブルッケングはタイヤが完全変形する
それぞれ、サイズといい、「2分で作れる」という謳い文句といい、出来としては細部が甘かったり、大味なところも目立つのだが、いやエンジェル・ハイロゥだの、ズムシティだのの立体が、ガレージキットの一日版権以外で手に入ることは二度とないだろうというのもあって、買い集めてしまったわけだが。
これがまた、シンプルなパーツ分割にも拘わらず、トリッキーに考慮されていて、出来が思ったほどにはチープになっていない。
むしろ、モビル・スーツ商品の方が、後ろ姿の肉抜き穴などが目立ってチープなんじゃと思うくらい、実はイロモノアイテムの方が「当たり」が多いという結果があったので、今回は『ガンダムを読む!』で使用するアイテムに限って、紹介していきたいと思う。
まずは『機動戦士ガンダム』のアイテムから。
ア・バオア・クー

『機動戦士ガンダム』クライマックス。立ちはだかる宇宙要塞ア・バオア・クー!
禍々しささえ感じさせる、ジオンの最終防衛ラインの宇宙要塞ア・バオア・クーは初弾のアイテム。

アニメ劇中より。魔王の城とでもいうべき風格
富野由悠季監督の小説版では「傘のよう」とも描かれているとおり、特徴的なシルエットをしている。

完成品を俯瞰からとらえた写真
パーツ数は、傘上、傘下、軸、アンテナ(?)と少ないが、それでも宇宙要塞の特徴を充分とらえた完成品に仕上がっている。
塗装は、全体をメタルブラックで塗装してから、表面を焼鉄色でドライブラシをした。一番上のアンテナ(?)だけシルバーのみの塗装である。

上のアニメ劇中シーンの再現画像
実際の再現画像では、スケール感こそ一歩足りないものの、ロングでは充分にそのシルエットの特徴が表せていて、存在感を発揮して、クライマックスを彩ってくれている。
コンペイトウ(ソロモン)

ドズルのビグ・ザムが死守しようとしたソロモン。連邦軍に占領されてからはコンペイトウという名前に代わる
完全星型の小惑星型要塞。確かに見た目はコンペイトウであるが、やはりソロモンと呼んだ方がしっくりくる。作りはこれもトリッキーなパーツ分割であるが、ソロモンの明確な星形をストレートに形にしている。

アニメ劇中より。激戦のソロモン!
ア・バオア・クーと共に、最初の『機動戦士ガンダム』最終決戦を象徴するジオンの拠点。
初弾では、ア・バオア・クーと共に「拠点枠」でラインナップしたのがアクシズだったからか、ソロモンがコンペイトウ名義でラインナップ入りしたのは第3弾。
このことからも、バンダイ側は少なくとも第3弾まで、もしくは、まずは第3弾までの展開は、決定していたものと思われる。

完成したコンペイトウを俯瞰構図から
しかし、ソロモン名義ではなく、コンペイトウ名義とはまたマニアックな商品名(笑)

先ほどのアニメ劇中の再現
しっかり星形の小惑星ながら、ディテールを目立たせれば質感はかなり良いものになる。
パブリク突撃艇

複雑な形状を、換骨奪胎して見事に再現!
第2弾で発売されたパブリク突撃艇は、かつて森永キャラメルでも商品化された、懐かしいラインナップではある。
また、他のガンダムミニフィギュアでも商品化されるなど、マイナー枠の中では比較的商品化に恵まれたメカでもある。

アニメ劇中より。抱えたミサイルを発射する一撃離脱戦法のみの兵器!
今回の商品化では、パーツ分割を最低限度に抑えるために、多少デザインがアニメ版とは変えられているが、ガンダムのメカのデザインがアニメ劇中と変わるという現象には慣れてしまっているので(笑)特に問題はない。

ミサイルはこうして脱着可能
むしろ、パーツ分割の問題で、ミサイル発射後の形状にも出来たり、プレイバリューも広い傑作に仕上がっている。
肉抜き穴は多めだが、モビル・スーツ系ほどには目立たない。

アニメ劇中を再現
このシリーズは、クリアバージョンはプラ製だが、メタルブラックバージョンはABS樹脂製なので、塗装して完成したい人はクリアバージョンを狙うか、塗装前にPPプライマー等でコーティングしておこう。
ズム・シティ

顔の宮殿(笑)を見事に再現
このシリーズをニッチファン層に、一気に知らしめたフラッグシップな逸品(笑)
『ガンダム』という作品が、70年代ロボット漫画からの地続きであることを、実感できるデザインセンスだ。

アニメ劇中より。うん、顔だ。しかも「怒ってる悪い顔」だ(笑)
このズム・シティはシリーズ第2弾で登場。
その商品化そのものにインパクトがあっただけではなく、パーツが2個、前後の貼り合わせだけという豪快仕様。
それこそ、塗装せずに作るだけなら、2分どころか20秒で完了する(笑)

大宮殿に見えて、横から見ると案外中は狭いぞ、ズム・シティ(笑)
しかし、アニメ劇中どおりに塗装をしようと思うと、意外と色数が多くて手間がかかる。
加えて、70年代のアニメだけあって、細かいディテールなどが、数少ない登場カットごとに違っていたりするので、どの色をどこに置くのかで結構悩まされる

アニメ劇中の再現
しかし、とうとうガンプラも、建造物まで商品化してしまうようになったかと、これにはまいった、まいった(笑)
きっと、往年の森永キャラメルのラインナップをなぞっても話題性に欠けるから、どこから攻めるかという商品展開戦略で、要塞系や建造物が選ばれたのだろう。
アクシズ

まずは完全完成形のアクシズ状態から
ハマーン・カーンの要塞、アクシズは、『機動戦士Zガンダム』(1985年)『機動戦士ガンダムZZ』(1986年)『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)と、3作続けて登場した、昭和ガンダムシリーズの象徴のような存在なのだが、最初はこの完全体で登場するも、『ガンダムZZ』後半で、丸い付属物の「モウサ」が破壊され、『逆襲のシャア』中盤では、ブライト・ノアの捨て身の爆破作戦で、前後に真っ二つに割れるという風に、徐々に姿を変えて最後は消滅していった。

『Zガンダム』で、最初に登場した時のアニメ劇中のアクシズ
シリーズ初弾で登場したこの商品は、パーツを最小限度に抑えながらも、それら変化していくアクシズの形態を、全て再現できるという、驚きの270円アイテムなのである。

『ガンダムZZ』終盤。モウサを失ったアクシズのアニメ劇中
もっとも、モウサに関しては、丸い部分だけが独立パーツなので、『ガンダムZZ』終盤版を正しく再現するために、モウサ保持部分もカットしたいので、今回はアクシズを2個用意して、片方をモウサの保持部分ごとカットして完成させた。

モウサの保持部分ごとカットした、いわゆる「『ガンダムZZ』後半版アクシズ」
そして、この商品の粋なところは、どうせパーツ分割されるアクシズのメインボディを、『逆襲のシャア』劇中で分断されるラインを再現して分割したところであろう。

『逆襲のシャア』劇中後半。地球に向かって落下していくアクシズの後方部分
これがあるだけで、『Zガンダム』から『逆襲のシャア』まで、クライマックスの背景の小道具としてとても便利なアイテムとして、本当にありがたかった。

商品の分割状態。ダボと刺し穴が目立つが、そんなことは些細なことである
アクシズの印象的な、後方部の推進用巨大ノズルとバーニアもしっかり再現されていて、手にしているだけで、榊原良子さんのハマーンの声が聞こえてきそうな出来栄えである。
とりあえず、昭和ガンダムシリーズのマニアであれば、必携のアイテムであると言い切れる。
アウドムラ

パッと見には、レトロな戦闘機にしか見えないデザインのアウドムラ
『機動戦士Zガンダム』で、ハヤト・コバヤシがリーダーを務める、地球上での反連邦軍組織・カラバの移動拠点、母艦ともいえる、全長317m、全幅524mの超大型輸送機が、数㎝のミニサイズで初立体化。

アニメ劇中でのアウドムラ
そのシルエットも、じっと見ているだけでも味わい深いが、これを塗装しようとしていて気付かされたのだけれども、アウドムラの機体のピンクと赤って、実はまんま、最初の『ガンダム』のシャア専用ザクの色組み合わせ、そのままなんだよね。

機体後方から見たアウドムラ
『ガンダム』のホワイトベースと違って、『Zガンダム』の母艦・アーガマは、大気圏と注入能力を持っていないという、リアリズムの進化か、劇中テクノロジーの退化か、地球へ降下したカミーユやクワトロ達の母艦として、シリーズ中盤の地球編を描くにはもってこいのチョイス。
ディテールも意外と細かく、UPで撮影すれば案外巨大感が出るアイテムだと評価できる。第2弾での発売になったが、パッケージのZガンダム推しの、一つの象徴になった。
ラフレシア

『機動戦士ガンダムF91』の、ラスボスがミニサイズで登場!
F91推しの第2弾でまず驚かされたのは、このラフレシアの商品化であっただろう。
既にラフレシアの1/100の「一部」は、精密モデルで『ガンダムF91』のマスターグレードモデルの台座として立体化しているが、アレはあくまで台座としての気分の問題であって、ラフレシアというモビル・アーマーがまるごとリアルタイプで立体化されたのは、この商品が初めてだったのであろう。

アニメ作画設定の、メカデザインのラフレシア
ラフレシアは『ガンダムF91』のラスボスであると同時に、歴代ガンダムモビル・アーマーの中でも、異彩を放った「食虫植物と花弁」というデザインモチーフゆえか、ファンには人気があるのだが、『ガンダムF91』が興行成績的に振るわなかったのと、とにかく巨大すぎて、なかなかキット化されないという現実があって、これまで立体化に恵まれてこなかった。

俯瞰からのUP。パーツ数はそこそこ(花弁の数だけ別パーツ)多い
ミニサイズながらキットのディテールは感心するほど細かい。
なので塗装も、あえてここはメタリックレッドを全体に吹いて、そこにMSパープルやニュートラルグレー、デイトナグリーンなどの細かい色を塗って、この禍々しいモビル・アーマーを再現してみた。
これがあるだけで、『F91』のクライマックスシーンが再現できる。立体化を待ちわびていたファンも多かったのではないだろうか?
まさに「今、森永キャラメルがあれば」絶対に商品化されているガンダムメカの一つだろう。
バグ

まるで、『ウルトラセブン』の「宇宙人の円盤」のようでもある
『機動戦士ガンダムF91』クライマックスで登場した、無人の殺戮兵器。人工知能搭載で、人間だけを狙って殺す、円盤型ギロチン兵器・バグは、シリーズ第2弾で、ラフレシアと共に商品化された。

アニメ設定のバグ
まぁこの勝因単体を見て「ガンダムのメカの商品」と分かる人がガンダムオタク以外にいるはずもなく、むしろガンダムファンでも、これがバグだと理解して、欲しがる人は稀なのではないだろうか。

正円に、人を切り刻む刃物がチェーンソーのように並ぶ殺戮兵器
だが『F91』の根強いファンも多く、デザイン的に作りが単純というのもあって、過去のワンダーフェスティバル等のガレージキットイベント等では、一日版権で商品化したディーラーは少なくないが、バンダイが公式で商品化させたのは初めてであろう。

劇中で印象深かった、ビルギットのヘビーガンにとどめを刺したバグの脅威
本来はこの商品、大型の「親バグ」と共に、狭い場所に隠れた人をも追い詰めて殺す小型の「子バグ」もワンセットで付いてくるのだが、今回は親バグだけ制作した。
塗装は、MSパープル、ファントムグレー、クールホワイトの三色。
ラフレシアとバグ。『F91』を象徴する、クロスボーン・バンガードの貴族主義とは乖離した、禍々しい兵器が2つ、このシリーズで手に入ったことで、ビジュアル面でも『F91』のテーマ面が表現できるというのは嬉しい商品である。
エンジェル・ハイロゥ

奇跡の天使の輪か? 狂気の人類抹殺兵器か?
『機動戦士Vガンダム』(1993年)シリーズクライマックスで、サイキッカ―達を集めて、人類の思考とメンタルを破壊しようとしたザンスカール帝国の精神攻撃要塞。それがエンジェル・ハイロゥである。

アニメ劇中でのエンジェル・ハイロゥ
『Vガンダム』の商品化は、このエンジェル・ハイロゥを含んで第3弾で集中している。
『Vガンダム』は、個性的なメカや、話題性のあるインパクト大きなメカが多く登場したが、放映当時は商品化には恵まれていなかった。

リングの多層構造の複雑な立体を、見事に形にしている。
その、当時流行ったカルト宗教の本尊的な神々しさと禍々しさの融合の非攻撃型要塞を、最小のパーツ構成でしっかり立体にしている。
今回は、このキットの中心部分だけマルーンで塗装して、後はツヤ有りのゴールド一色で塗装した。
ブルッケング

ザンスカール帝国の終盤のモビル・スーツでもあるブルッケング
『Vガンダム』のアイテムは、この第3弾で、他にも戦艦アドラステアと、モビルスーツ・ザンネックがラインナップに入っていたが、今回はエンジェル・ハイロゥとこのブルッケングを選択した。

アニメ設定のブルッケング
このブルッケング。一見すると普通のモビル・スーツだが、ザンスカール帝国の戦艦やモビル・スーツ、果てはエンジェル・ハイロゥにも通ずるトータルコンセプトの「タイヤ」を、背中に背負っているギミックがこのアイテムの肝なのである。

背中に背負ったタイヤが変形して、タイヤ攻撃モードになる。
このキットもやはり、最小のパーツ構成で、背中のバックパックがタイヤに変形して、見事タイヤ進撃攻撃態勢へと変形が可能なのだ。
この一点を以てしても、このキットがこのシリーズの、他のモビル・スーツ商品とは一線を画す出来なのが理解できる。
塗装は、黄色はイエロー、ブルーはインディブルー、グレーはRLM02グレー、タイヤは艶消しブラックで塗装した。
ディテールは細かくなく、塗装も(筆者レベルなので)下手だが、ブルッケングの特徴的なタイヤのインパクトは、充分に醸し出せたと思っている。

シミルボン『機動戦士ガンダムを読む!』再現で使用する、「2分で作るガンダム名鑑」シリーズ商品の勢ぞろい
こうして、今回集めた全商品を並べてみても、それほど広いスペースはとらない。
一個あたり税込み270円(それでも、最初の1/144 ガンダムとほぼ変わらない価格にいろいろ感慨深い)の食玩という意義は大きく、かつての森永ガンダムキャラメルがそうであったように、安価でブラインドだからこそ、博打みたいな「一般的にはハズレ枠。でも絶対に待望していた人もいるアイテム枠」も作れるという商業の常識の恩恵である。
残念ながら、売り上げの問題か、当初からの予定か、このシリーズはたった半年で第3弾まで展開しておきながら、嵐のように消え去ってしまったが、出来ることであれば、TINコッドやビッグ・トレー、ルナツー等を加えた新ラインナップで、再開してほしい商品ではある。
市川大河公式サイト