
ラストシューティング!
今回は、前回に引き続き、ガンプラブームを体験した世代であれば、誰もが技術のレベルはともかく、手を出したことがある、ダメージモデル、クラッシュモデルの作例を紹介していく特集です!

TV版での、スレッガー中尉の最期
前回は、ザクやジムなどの量産型のクラッシュモデルや、ダメージモデルの簡単製造法(?)等を紹介したが、今回は『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)のクライマックス、シャアとアムロの決戦を彩った、シャア専用ゲルググ、ジオング、そして、ガンダムのダメージパーツと、ラストシューティング&半壊横たわりの、2つのガンダムの固定ポーズモデル。そして、『ガンダム』のラストを飾る、半壊したコア・ファイターの作例などを、紹介していこうと思う。

これも、旧1/144 GアーマーのAパーツを、ルーターで切り刻んでクラッシュモデルにした
ここから先は、当時のロボットアニメではあまり過去には描かれなかった演出として、アムロとシャアとの決戦では、ゲルググ、ジオング、そしてガンダムが、徐々に互いの各パーツを破壊しあって失っていくビジュアルが、演出的には必須。

シャアのゲルググが、ガンダムのサーベルによって、ライフルを一刀両断されてしまうカット

なので、ライフルだけを別個に用意して、それをアニメ演出通りに二つに切る

それを、HGUC ゲルググに持たせて撮影して、フォトショップで効果を描きいれる
次に、シャア専用ゲルググのクラッシュシーンといえば、やはり外せないのが、妹・セイラの乱入により集中力が途切れたシャアが、ナギナタごと右腕を、肩からバッサリとガンダムに斬り落とされる演出。

ガンダム対グフといい、時代劇の殺陣的な演出が多彩な『ガンダム』
ここは1カットではないので、もう一つ用意したシャア専用ゲルググのHGUCキットから、必要最小限の右肩を構成するパーツを固定製作して、それをルーターでカットする。

実際のクラッシュモデルパーツ部分はこれだけ

右腕を切り落とされるゲルググのパーツ構成
ボディ側から突き出ている、右肩接続のためのピンだけは残すしかなかったが、完成した再現画像では、ほとんど気にならない程度で済んでいるのでそのままにした。

上で引用した、右肩を斬られる瞬間の再現画像
そして、印象的なもう1カット。

右肩を破壊されたゲルググを押し退けて、ガンダムの刃の前に我が身をさらすララァのエルメス!

その再現画像では、ゲルググのストロボ効果が上手く切断面を誤魔化してくれている
そして運命の最終決戦。
シャアのジオング対アムロのガンダム。
まずはジオングからだが、ジオングは、大きく分けて、左肘上、右前腕、腹部、頭部の順番に破壊されていく。
そのプロセスをアニメ画像でチェックしてみよう。

『めぐりあい宇宙編』本編より。まずは左肘上をゼロ距離射撃のビームライフルで破壊される

その後、有線サイコミュだった右前腕も撃ち抜かれる。

そして、本来はコクピットがあると誰もが思った腹部が正確に撃ち抜かれたあと……

真にコクピットがあった頭部も、右側面に直撃を受けてジオングは退場した
この、破壊への流れを、もう一つのジオングをクラッシュ状態で組み立てることで、一気に揃えてみせようというのがこのクラッシュモデルだ。

クラッシュジオング。全体
このクラッシュジオング。可動部や底面ディテールなどは、あえて作ってはいない。

ガンダムのライフルで破壊される左肘上も、それらしくジャンクパーツでデコレート

精密射撃で撃ち抜かれる右前腕も、アニメの作画を忠実になぞってダメージを入れる

この、腹部に空いたビームの穴だけは、ルーターではなくハンダゴテを突き刺して空けた。
ある意味アナログだが、こういうダメージ表現にハンダゴテは有効。丸く開いた穴の周囲のプラスチックの溶け具合が、ビームで焼かれたジオングの装甲描写に近い。

頭部右側面は、ビームで焼かれた状態を再現
ビームで焼かれた独特のダメージを再現するために、先に回転ノコギリで薄くカットしておいて、その切断面をハンダゴテの熱で荒らすという二段構え手法。
これらのパーツを、段階に分けて通常状態のジオングのパーツと交換して、徐々にダメージが深まっていく演出を狙う。
続いてガンダムだが。
こちらは破壊プロセスはいたってシンプルだ。

まず、左腕とシールドが、ビーム攻撃で吹き飛ばされる
このカットの再現でも、クラッシュシールドは有効に演出に一役買ってくれている。

「まだだ! たかがメインカメラをやられただけだ!」
アムロの名台詞と共にインパクトが大きかった「主役ロボの頭が吹っ飛ぶ」という二段階のクラッシュを経る。
『ガンダムを読む!』での、『めぐりあい宇宙編』再現画像のガンダムは、殆どHGUC 191 REVIVE版ガンダムを使用しているので、同じキットをもう一つ用意。
肩とボディで、こちらも段階的にダメージの進行がパーツ組み換えで再現できるので、上半身と左肩だけ組み立てて、後のパーツは完品状態のパーツを使うことにする。

HGUC 191 REVIVE版ガンダム。最終決戦ダメージ用パーツ

演出の都合上、首だけ外して誤魔化すということはしたくなかったので、上半身ごと差し替え

左肩のアーマー内にも、一応上腕のパーツを接着してからクラッシュさせている
首はともかく、左肩のアーマーのダメージ状態は、アニメ本編でもカットごとに破壊状態に差があるが、一応いくつかのカットを比較して、最大公約数的なダメージを施してみた。
ジオングとガンダムの最終決戦の激闘の再現は、是非シミルボン『機動戦士ガンダムを読む!』でご確認いただきたい。
さて、そこで『めぐりあい宇宙編』のラストを飾るクラッシュモデルが、ここから3つ必要になる。
一つは、今回冒頭で紹介した「ラストシューティング」ガンダムだ。
ガンプラマニアであれば、一度は作ってみたいクラッシュモデルだが、いざ実在するガンプラで、カッコよくこのポーズに固定しようと頑張ってみても、実はこのポーズ自体が二次元の嘘にまみれているために、なかなかうまくいかないのだ。
それでも、HGUC 191 REVIVE版ガンダムの解説の時に語ったように、このキットでは、新規格のポリキャップ、PC002が、まるでラストシューティングポーズを狙ったかのように「肩アーマーが上に上がる方向」へと設置されているのだ。
しかし、それでも、狙い過ぎのポリキャップの可動範囲を得ても、HGUC 191 REVIVE版ガンダムの可動スペックをフルに発揮させても、あの名シーンのポーズの完全再現には一歩及ばない。
股関節の開き角度と、スリッパの接地性。腰の捻り具合と、肩が垂直に上がって、ライフルを掲げた右腕が、正確に二等辺三角形の中心線にならなければいけないからだ。
なので、ここは一世一代の見せ場と解釈して、HGUC 191 REVIVE版ガンダムを新たにもう一つ用意して、キットの可動領域を越えて、各関節のボールジョイントの可動範囲をギリギリ越えた角度や位置で固定して、ラストシューティング固定ポーズのガンダムを用意した。

HGUC 191 REVIVE版ガンダム ラストシューティング固定ポーズ版
その上で、シャアとの決着もつき、仲間の皆を誘導したアムロが、一人取り残されて死を覚悟した時に、まだ絶望してはいけないと、半壊して横たわっていたガンダムを見つける名シーンも必須なのだが、こちらのガンダムも固定ポーズで、徹底的に再現することに。

『めぐりあい宇宙編』ラスト近く、希望を失いかけたアムロの前に、横たわる傷ついたガンダムが……
ここでのクラッシュガンダムも、往年のガンプラファンが何度もチャレンジしてきた素材である。
ここでのガンダムは、ただクラッシュしているだけではなく、腰をかがめて胎児のように横たわっている“演技”をさせなければいけない。
なので、あえてこのシーンではHGUC版を使わずに、ポーズ改造がしやすい、HGUCクラスの解像度が見えるパーツは残っていない等の理由で、旧キット1/144 Gアーマーに付属していたガンダムを素材に、演技付けとクラッシュ部分のディテール追加、全身の汚し塗装と、3つのテーマに絞ってワンオフのモデルを作って撮影に用いた。

戦いを終えた、静かに眠り横たわる機動戦士の固定ポーズモデル
そして、ラスト。
アムロは半壊したガンダムから、こちらも半壊したコア・ファイターを射出させ、カツ、レツ、キッカの誘導でア・バオア・クーを脱出し、感動のラストシーンを迎えるのだが、ここでも重要なのが「クラッシュしたコア・ファイター」なのだ。

ア・バオア・クーを脱出したコア・ファイター

3つの翼が全て半壊し、コクピットキャノピーも消失している
ここでも、カットによって主翼や垂直尾翼の壊れ具合が異なるのだが、むしろ大事なことは、キャノピーが壊れて、コクピット内部が丸見えになっていること。
最初は、以前紹介したU.C. HARD GRAPHシリーズの1/35 コア・ファイターを、もう一つ買って、それを徹底的にダメージモデルにするかとも悩んだが、経済的にも(笑)手間暇や制作期間的にも無理だということが判明。
ここは安易に、HGUC 021版ガンダム付属か、旧キット1/144 コア・ブースター付属のコア・ファイターを適度にクラッシュさせるかと妥協しようとしていたところ、手元に1/144 旧キットGアーマーの、コア・ファイターが残っていたことを思い出す。
そうなのだ。Gアーマー版コア・ファイターは、多少ノーズが長すぎることを除けば、むしろ1/72スケールに等しく、であれば適当な1/72スケールの戦闘機プラモデルを購入して、コクピット部分だけコア・ファイターの中に詰め込んでしまえばいいのだ。

ハセガワ 1/72 タイガーシャーク
そこで、「ハセガワ 1/72 タイガーシャーク」を用意。この戦闘機はコクピットが小型で単座でちょうど良い。このキットのコクピット部分だけを、キャノピー部分(このキットのもう一つの弱点だった「直線的すぎるキャノピー」でもあった)を、切り飛ばしたコア・ファイターのコクピット部に移植する。
その上で、ついでに長すぎるノーズも1/3ほどカットし、断面にコトブキヤの角バーニアを貼ったら、サイズがちょうどぴったりで、ほどよいノーズの長さと、精密なコクピットを備えるコア・ファイターが出来上がった。
後は、3枚の翼を適度に切断し、切断面をハンダゴテで「溶けた感」を出すためにならす。
その上で、3枚の翼の断面近くは艶消し黒で焼け焦げた感を塗装で出して、後は全体に墨入れを派手めに施して、感動のラストメカの完成である。

完成したダメージ・コア・ファイター。感動のラストシーンをイメージしてモデリング

コクピットには、1/72スケールの戦闘機のシートと計器類がピッタリマッチした

汚しすぎぐらいが、ちょうどいい感じに仕上がっている
以上、今回は2回に渡って、クラッシュモデル、ダメージモデルの作例記事をお送りしたのだが、こうしたカスタムをしてみたい人は、ぜひルーターを購入することをお勧めする。
プロクソンのミニルーターは、Amazonでも1万円ほどして、ちょっとしたレベルの高いエアブラシには匹敵するお値段ではあるのだが。
ぶっちゃけ、大河さんは模型作りに、エアブラシを買わないで、こちらを選んだ人だから。
今回紹介したクラッシュモデル、ダメージモデル達の、再現画像での活躍は、ぜひ『ガンダムを読む!』本編でご確認いただきたい。
市川大河公式サイト