
連邦軍の攻撃で破壊されるザク! 今回のテーマは「破壊の表現」
今回の特集テーマは、ガンプラブームを体験した世代であれば、誰もが技術のレベルはともかく、手を出したことがある、ダメージモデル、クラッシュモデルの作例を、次々に紹介していく特集の前編です!

『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)ガンダム最後の一撃のカット

1st世代のガンプラモデラーであれば、誰もが一度は挑戦した! ガンダムのラストシューティング!
ミドルエッジ世代のリアルガンプラブームを経験した童貞(当時)諸君!
君は、『月刊ホビージャパン』や『HOW TO BUILD GUNDAM』や、バンダイの『模型情報』などのガンプラ作例を眺めながら、そこでプロモデラー諸兄による輝かしい作例にため息をつきながら憧れつつ、いつか自分もこういう改造をやってみたいと思ったことはないか?
しかし、当時のガンプラのプロポーション改修や可動領域拡大改造などは、とてもではないが(技術的にも、マテリアル的にも)ぽっと出のガンプラユーザーには敷居が高すぎた。
しかし、必要最小限の技術で、時としては最大の効果をもたらす改造方法が一つだけ残されていた。
ダメージモデル。クラッシュモデル。
読んで字のごとく、作品の劇中や、戦場を想定したシチュエーションで、兵器が半壊したり破損した状態を模型で再現することは、ガンプラブームに火をつけたスケールモデル界隈では、常識的な改造法で、主に戦場ジオラマなどで重要な演出効果を生むが、それをガンプラブームは取り込んだのだ。
先に断っておくが、「クラッシュモデル」とは「計算されたダメージやクラッシュ状態を再現すること」であって、適当に作ったガンプラに、爆竹を詰めて公園で破壊する遊びのことではない!
もっとも、このダメージ、クラッシュ演出は、そもそも実在兵器のプラモデルで始まった改造演出なので、本来であれば「ただ壊せばよい」ものではなく、それこそ実機の破損部分の素材や機器類や構造などによって、非常に高度な解釈と再現が要求される手法なのではあるが……。
まぁ、上で例として挙げた「ガンダムの首と左腕がないラストシューティング」も、80年代初頭には、最初の1/144 ガンダムを使って、ニッパーとカッターで必死に「なんちゃって再現」をした、当時のガンプラファンも少なくはなかったのではないだろうか。
そんな筆者の、今回の再現画像も、ざっくり言ってしまえば「なんちゃってクラッシュモデル」である。
今回紹介する数々のダメージモデル、クラッシュモデルも、そのほとんどが「パーツを切り飛ばして、切断面に軽くジャンクパーツを接着して、艶消し黒で塗装しただけ」の物が殆どである。
例えば、ガンダムファンであれば印象深いクラッシュシーンを、幾つか原作アニメ画像と、再現画像と、クラッシュモデル現物写真でご紹介しよう。

『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編』名場面の一つ
ランバ・ラルのグフと斬り合い、グフの両手を切り飛ばすガンダム!

それを、HGUCのガンダムとグフで再現

グフの交換用両腕パーツ
実際は、グフの両腕をもう1セット別に用意して、「両手でサーベルを握らせた状態で、肘辺りで切断したパーツ」と差し替えて撮影しただけ
さらに、こんなシーンも再現してみた。

『ガンダム』第1話。ジーンのザクを、背中から一撃で切り裂くガンダム!

そのカットの再現
アニメ独自のパースまでは再現しきれなかったが、ザクは劇中どおりにクラッシュさせた上で、固定ポーズで作成してある。

クラッシュザクの完成状態
両手首だけは平手などをアフターパーツから流用してみた。切り裂かれたボディ内部のメカもジャンクパーツで再現
確かにこの作業。
言うは易しだが、いざ実際にプラスチック素材(場合によってはABS樹脂パーツも含み)を、思い通りに切り刻むのは、意外と骨が折れる作業になることは、これを読んでいる皆さんはご存知のはず。
しかし、今は80年代のガンプラブームと違い、いろいろ便利なツールが揃っていて、それらをうまく組み合わせて使えば、まるで「魔法の道具」のように、サクサクとクラッシュモデル、ダメージモデルが作れてしまうのだ!
それがこれ、いわゆる「モーターツール」いわゆる「ルーター」である。

プロクソン(PROXXON) ミニルーター No.28400
基本的にはモーターツール(別名・ルーター)は、電動で先端を素早く回転させるツールであり、その先端には「ビット」と呼ばれる(ララァもエルメスも関係なし!)様々なモジュールを交換することで、多種多様な、模型作りだけにとどまらないDIYの便利ツールとして、広く使われているハンディ電動工具である。
プラモデル制作では、主に先端に紙やすりのビットを付けて、盛った状態のパテを素早く初動で、イメージする形の近くまで削っていく時や、ピンパイスのドリルのようなビットを付けて、小さい穴のモールドや弾痕、真鍮線の接続穴を開けたりするときに重宝されているのだが。
実は、このモーターツールのメインメーカーのプロクソン社からは、こんな素敵ビットも出ているのである。

プロクソン(PROXXON) 小径丸のこ刃 3種セット No.28830
まだ、商品パッケージ状態だけでは、何に使って、どれだけ便利か把握できない人も、このビットをモーターツールの先端に装着してみればおのずと理解できる!

ミニルーターに、小径丸のこ刃ビットを装着した状態
なんか絵面的に、いきなり猟奇的な代物に早代わり!
昭和のスパイ物やヒーロードラマなどでさんざん見た覚えがある、いわゆる「回転ノコギリ」の、いきなり登場である!
なんか、この回転ノコギリ。こんな手をした怪獣や怪人が、『帰ってきたウルトラマン』(1971年)とか『仮面ライダーV3』(1973年)とかに出ていたような気がするけれど、きっと気のせいだから説明を急ごう!
この状態でミニルーターのスイッチを入れると、一気に勇ましい電動音と共に、回転ノコギリがそのまんま高速で回転し始めて、処刑台に縛られた状態の美女の悲鳴が聞こえてきそうではある。

『機動戦士ガンダムF91』クラッシュした主人公ガンダムのF91
というわけで、今回の特集のために、改めてクラッシュモデルを作るために引き出してきたシチュエーションがこちら。『機動戦士ガンダムF91』(1991年)ラスト近く、最終決戦でボロボロになったガンダムF91の再現ということで。
ここでは分かりやすく、試しに左腕のダメージを再現してみよう。
アニメ画でも分かると思うが、F91はクライマックス、ラスボスの触手で左手首手前をスパッと切られてしまっている。この状態への交換パーツを作ってみる。

本体とは別個に用意した、1/144 HGUC ガンダムF91の左腕
この左腕の手首上を、アニメのダメージどおりにルーターの回転ノコギリで切り刻んでいく。

気分はもう、美女の体を切断する、初代引田天功?
冗談言ってる場合ではなく、ここはやり直しがきかないので、なるべく慎重に、イメージどおりにルーターを操ってパーツをカットしていこう。

想定通りに切断された、F91の左腕パーツ
たったこれだけの工程でも、カットソーや模型用ノコギリ、アートナイフやカッターを使っていては、結構体力も使う上に、奇麗な切断面を作ることは難しい。
しかし、このミニルーター&回転ノコギリビットを使えば、たったの数秒でこの状態になる。
最後は、艶消し黒で塗装をして仕上げ。

1/1441の腕なので、ジャンクパーツを仕込む隙間もないので、切断際を多少ジャンクっぽく処理しただけで艶消し黒の塗装で完成
基本的に、今回紹介するダメージモデル、クラッシュモデルの殆どは、この作業で作られている。なんともまぁ、ルーター様様、中学生のころ、クラッシュモデルを作ろうと、必死にPカッターやニッパーでキットと格闘していた時代に思いを馳せれば、隔世の感があるし、感慨深い。
それでは、ここからは筆者が、シミルボン『機動戦士ガンダムを読む!』での、再現画像を作るにあたって制作した、ダメージモデル、クラッシュモデルの数々を紹介していこう。

『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)から。連邦のジムが撃破されるカット

HGUCのジムを、このカットのためだけに上半身を切り刻み、ジャンクパーツを仕込んで黒く塗ります

後は、撮影してフォトショップで爆発や宇宙と合成すれば出来上がり
同じ要領で。

やはり『めぐりあい宇宙編』から、ザクが破壊されるカット

このカットも、また専用のクラッシュザクを一つ作る。
なので、『ガンダムを読む!』再現全体で用意したHGUC ザクの数は、実は3つや5つじゃなかったりする。

完成した再現画像。見事に吹っ飛んでる感が出ている
1カットだけの目的ではなく、汎用性のあるクラッシュモデルも必然的に作る。

そういやぁ、ガンダムのシールドって、結構頻繁に切り裂かれたり、破壊されたりしたよね
この、ルーターで2つに切ったシールドが

迫撃! トリプルドムが迫る!
こんなカットや

ランバ・ラルのグフが切り裂いたシールドの向こうに、ガンダムはいなかった!
こんな演出に活かせる。
また、第28話『大西洋、血に染めて』でガンダムは、水中用モビル・アーマーのグラブロに、右脚を切断されてしまうのだが。

アニメ演出通りに、切断された右脚だけを再現
これをこのまま、右脚だけ交換したHGUC 021版ガンダムで撮影をした。

グラブロの巨大な爪が、ガンダムの脚をちぎり切った!

逆に掴まれていた右脚を失ったことで、自由に動けて反撃のチャンスを得るガンダム!
また、『めぐりあい宇宙編』での、シャアとの決戦では、ゲルググ、ジオング、そしてガンダムが、徐々に各パーツを破壊しあって失っていくビジュアルが、演出的には必須。
そして、感動のラストを飾るに至るまでには、ガンダムファンであれば当然思いつく「あんなクラッシュモデル」や「こんなダメージモデル」が必須!
次回、後編では、シャアとアムロの決戦プロセスを彩った、様々なクラッシュモデル、ダメージモデル達を紹介します!
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